調査レポート

概略

概略

  • XRは、夢の技術としてもてはやされた時期を経て現実的なものとなり、経済や社会のあらゆる場面で価値の創造に役立てられるようになりつつある。
  • しかし、こうしたテクノロジーのパワーや親しみやすさが、個人や社会にとって重大なリスクをもたらす危険性があることは、まだ十分には理解されていない。
  • 今こそ、没入型技術やビジネスモデルに「責任」を組み込み、信頼性を確保して持続的な成長を推進すべき。
  • XR(Extended Reality):仮想現実(Virtual Reality/VR)や拡張現実(Augmented Reality/AR)、そのほかの没入型ツールなどを含めた総称。


没入型技術の急速な成長

VRやAR、さらにさまざまな分野に広がる没入型ツールも含めた没入型技術はもはや、単に話題としてもてはやされるだけではなく、日常生活の一部になろうとしています。物理世界と仮想世界の境界があいまいになり、そこに巨大な市場が新たに開かれようとしています。

XRは消費者やゲーマーにワクワクするような現実をもたらしているだけではなく、具体的な変化が市場の至るところで起こりつつあります。実際に、ARやVRに関連した企業支出はすでに消費者市場における支出を上回っており、今後3年で今の3倍の規模になると予想されています。

AR/VR関連の特許出願数は、2014年以降爆発的に増加。2014年から2016年の間に約5倍近く増加しています。

拡張現実の現状

私たちの持つ自然な感覚と周辺世界をより直感的につなぐことのできるイノベーションのおかげで、XRはARやVRといったこれまでの​枠をはるかに超えて広がっています。こうした代替現実に触覚や味覚、嗅覚といった五感を取り入れてさらに強化しようと、さまざまなスタートアップ企業が実証実験を進めています。

このような動きは私たちをポストデジタル時代へと向かわせ、私たちはテクノロジーとこれまで以上に直感的に関わるようになり、企業間競争のあり方も変えてしまうでしょう。企業は、もっと価値があり、満足感の得られる新しい体験に顧客や従業員をいざなうだけで競争に勝ち抜くことができるでしょう。すでに私たちのすぐ身近でこのような抜本的な変化が起こりつつあります。

  • 仕事の生産性:XRを利用して仕事をすることで、あらゆる業界のあらゆる業務において生産性の向上が見込めます。
    • 大手自動車メーカーのフォルクスワーゲンでは、XRを活用しデザイナーが自ら仮想世界に入り込んで業務を行っています。3D空間の中で外観や感触や走行性能を実感しながら、自動車をより臨場感を持ってデザインできます。
  • トレーニング:IDCによると、AR/VRを使ったトレーニングへの支出は2018年から2023年までの間に46%の年間平均成長率(CAGR)で増加し、2023年までには80億米ドル規模に達すると予想されます。
    • イギリスのエネルギー関連企業であるBPでは、作業員にVRを活用しバーチャルで海底油田の掘削作業をシミュレーションさせています。当初予算より40%少ないコストで、4カ月早く習得が可能になりました。
  • カスタマー・エクスペリエンス:ARレンズやフィルターを使ったSNSマーケティング、VRを活用した新しい購買体験などが普及しつつあります。
    • 米国の住宅リフォーム会社Lowe’sの店内VR「Holoroom」では、実際の購入前に、顧客が家庭用品を試すことができます。
  • 社会分野:教育現場において子どもたちをまだ見たことのない場所に連れて行く、身体や精神に障害を持つ子どもたちのセラピーを提供する、医療従事者の新たなスキル習得に利用するなど、XRの活用領域が広がっています。
    • アクセンチュアは、ケースワーカーが相談援助において、相手の様々な兆候や児童虐待のサインを認知、理解して、正しい対処ができるようにするVRによる体験型学習を開発しました。

アクセンチュアの分析によれば、XRは労働者が現在行っている仕事を増強することによって、労働者の価値を高め、生産性を大幅に向上させることが明らかになっています。平均で就業時間の21%はXRの利用で増強できる可能性があり、医療関係者や社会サービス、製造業、建設業の場合はその比率が30%以上に高まります。
※仕事の増強とは、XRツールを使い職務を遂行することで生産性が向上することを意味します。

新たなリスクの予感

新しいテクノロジーには必ずリスクがつきものです。没入型ツールの威力や親しみやすさが、壊滅的なレベルの危険やリスクをもたらす可能性もあります。壊滅的なレベルまで達する要因として、下記3つが挙げられます。

扱われるデータのプライバシー

XRでは個人アイデンティティ、プライベートな行為や思考と深く結びついたデータが利用されます。

メンタルへの影響への低い認識

XRは、精神的能力と現実認識との直接的な結びつきを伴うという点がまだ十分理解されていません。

取り返しがつかない

現代のデジタルツールが持つ強いパワーやスピード感、分散するという特性から、一旦間違いが拡散してしまうとそれを覆すことは非常に困難です。

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本レポートでは、ビジネスリーダーや政策立案者が早急に対処すべき6つのリスクを明らかにしました。これらにうまく対処しなければ、メンタルヘルスに打撃を与え、社会的一体性を危うくしかねません。企業にとっては従業員や顧客の信頼や評判、将来の見通しを損なう可能性があります。

個人情報の悪用:個人情報やソーシャルメディア上の行動履歴だけでなく、人の感情や行為、判断までもがサイバー犯罪によって盗まれたり、改ざんされたりするリスクをもたらす可能性があります。

フェイク体験:没入型の体験を通じて得たニュースや情報は、事実とフィクションを切り離すことが困難になり、事実ではない体験が人の行動や意見、意思決定に大きな影響を与えやすくなります。

サイバーセキュリティ:サイバー上の分身であるアバターを使ってIDに関連した新たな形態の犯罪が生み出される可能性があるだけでなく、例えば外科手術などのように、没入型技術への依存度が大きく、かつ人命に関わる重要な業務が、外部からの攻撃や恐喝の対象になり得るというリスクもあります。

テクノロジー依存症:過度の依存は現実と自分が思い描く生活とのギャップを拡大することになり、メンタルヘルスや健康に重大な影響を及ぼしかねません。今、ビデオゲームやSNSでこうした傾向が見られます。

反社会的行為:アバターを使った仮想世界では、ソーシャルメディア上での言葉による脅しから、実際の身体的脅迫まで、さまざまな反社会的行為が生まれる可能性があります。また、仮想環境で常態化した反社会的行為が現実社会の行為にまで紛れ込む可能性もあります。

デジタルデバイド:新たな教育体験や仕事体験などの没入型技術の活用機会の格差は社会の分裂を増幅させます。また、仮想世界で過ごす時間が増加すると、現実世界の社会問題との関わりを絶つようになる可能性があります。

責任の新たな意味

企業は現在のテクノロジーが抱えるさまざまな課題から、遡及的責任はコストを伴うことをすでに理解しています。没入型体験に伴うそうしたリスクはあまりに高く、大規模なビジネスモデルが商業的に利益を生み出すまで待っている余裕はありません。

XRを適切に活用していくために、企業には以下のような行動が求められます。

独自の早期警戒システムを構築

ビジネスリーダーは急速なイノベーションのもとですぐに陳腐化するようなルール作りではなく、倫理的視点を日常業務や重要な意思決定に習慣的に組み入れるといった、いわゆる「責任意識のある文化」を醸成すべきです。

責任あるデザインのために多様なエキスパートを動員

企業は、神経科学やメンタルヘルスの専門家、社会学者、行動理論の専門家などの領域を含めたエコシステムを組織化し、XRツールの責任ある設計や利用を強化しなければなりません。

従業員の能力の強化に投資

従業員の生産性向上やトレーニング、創造性にターゲットを定めてXRへの投資を行わなければなりません。自動化の波に最もさらされている職種こそ、没入型技術によって拡張できる場合が多く、「消滅の危機に瀕した職種」を「未来の職種」に転換することが可能です。

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責任あるXRの成長を推進するため、本レポートでは政策立案者に対しても下記3つの提言をしています。

誰でも手頃な費用でアクセスできるようにする

5Gネットワークのような新しく強力なインフラを拡大し、XR体験を適切な料金で幅広く利用できるようにする必要があります。これは特に、健康や教育や社会サービスの提供において重要な要素です。

地域のイノベーターや起業家を奨励する

中小企業でもXRツールやXR体験を活用できるようにするだけではなく、開発フェーズから参画できる環境を整え、地域密着型のソリューションを生み出していくことが重要です。

研究や議論を促進する

さまざまな業界や領域からエキスパートを結集させ、XRが適切なセーフガードを維持しながらイノベーションを生み出せるよう、必要な共通理解や指針の構築に取り組むことが必要です。

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槇 隆広

デジタルコンサルティング本部
マネジング・ディレクター


廣澤 篤

デジタルコンサルティング本部
プリンシパル・ディレクター

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