7月10日、アクセンチュアは東洋経済新報社と共催カンファレンス「「Mobility 3.0」時代の覇権シナリオ」を開催しました。

広義の自動車産業はいま、変革の時を迎えています。「モビリティ」は単なる移動手段から、社会全体の変容における中心事項の1つとなりました。本記事では、現在のビジネスの転換点を象徴するキーワード「CASE」を軸とする講演やパネルの模様を紹介します。

後編では「CASEがもたらすビジネスチャンス」と題して5名のゲストの方々のショートスピーチと、それに続くパネルディスカッションをご紹介します。(前編はこちら

モビリティサービスの新たな展望

講演中の上谷内祐二氏

オリックス自動車株式会社 代表取締役社長
上谷内祐二氏

45年以上にわたってリースやレンタカーの事業を手がけ、日本でいち早くカーシェアリングのサービスを発足させたオリックス自動車は、CASEが提唱される以前からモビリティアセットマネジメントを展開してきた企業です。オリックス自動車は金融発祥の企業であり、全国に広がる自社ネットワークと各地域パートナー企業によるエコシステムで、“クルマを作る”以外の自動車に関わる幅広いサービスを展開してきました。

「 “所有から利用へ”という時代の変化や幅広い顧客ニーズに対応してきたことが、オリックスグループのサービス多角化の歴史です。オリックス自動車ではクルマの購入から売却までといったライフサイクルもマネジメントしており、クルマを作ること以外において、新しいビジネスモデルを率先して市場に展開してきました」と上谷内氏は語ります。

「ゆくゆくはカーシェアモデルが主流となるでしょう。当社は今後もデジタルプラットフォームとの提携を進めていきます」と上谷内氏は語り、走行データに基づくリスクマネジメントにより、事故低減や防止に通信事業者と取り組んでいることを紹介しました。

オリックスはグループとしてさまざまな事業を手掛けています。今後はエネルギーやIT技術、ファイナンス、環境ビジネスなどを組み合わせてモビリティ関連サービスとの融合を進めていく方針です。「ユーザーのデマンドに耳を傾けながら、社会が求めるより良いユーザービリティを提供していきます」と上谷内祐二氏は展望を語りました。

AIによるモビリティの再定義

講演中の菅野 圭吾 氏

DiDiモビリティジャパン株式会社 取締役副社長
ソフトバンク株式会社 常務執行役員 モバイル事業推進本部 本部長 兼 新規事業開発室 室長
菅野 圭吾 氏

DiDiは世界最大級の交通プラットフォーム運営企業です。中国、ブラジル、オーストラリアなどですでにドライバー数3,100万人以上、ダウンロード数ベースでユーザーは5.5億人、年間乗車件数100億回、1日の総走行距離2億km(地球から火星までの距離に匹敵する)、1日の移動軌跡データ100TB/日という数字がそれを証明しています。日本では6月末時点で大阪をはじめとする6都市でサービスを実施しており、順次拡大中と菅野氏は説明します。

「DiDiは『More than a Journey=今までにない移動体験を』を掲げ、モビリティの再定義をミッションとしています。従来のタクシー配車アプリは裏側で人がオペレーションを担当していることが多いのですが、DiDiはまったく人を介さずにAIが最適なタクシーとユーザーを結びつけます」(菅野氏)

DiDiはドライバーの高齢化や収益増、実車率改善といった、タクシー業界に関する社会課題をテクノロジーで改善に取り組んでいます。すでに大阪では、走行距離は従来と同じでありながら実車率5%増、営業収益+10%増を達成しています。データによる需給や走行状態の可視化がその成果を下支えしています。

「ユーザーは時間を今まで以上に有効活用でき、快適な支払いも実現するサービスです。タクシー乗車体験そのものを再定義していることはもちろん、タクシー業界の発展にも貢献しています。海外ではバスや自電車、デリバリーなども1つのプラットフォーム上で提供されています。日本においては、さらなるマインドシェア拡大を目指していきます」(菅野氏)

エネルギーとモビリティの将来像

講演中の岡本 浩 氏

東京電力パワーグリッド株式会社 取締役副社長
岡本 浩 氏

2015年に東京電力を分社化し、発電・ネットワーク・小売の3社に別れたうち、ネットワークを担当するのが東京電力パワーグリッドです。「電力は現在、5D(自由化、人口減少、脱炭素、分散化、デジタル化)が進行中であり、まったく新しいモデル『Utility 3.0』の時代に突入しています」と岡本氏は話します。

並行して、電柱の地中化によって設置されるボックスをデジタルサイネージにする案や充電ステーションとして利用できるようにする案など、東京電力パワーグリッドでは関連業界各社とのコラボレーションを活性化させ、新しい電力の未来を描き始めています。

遡ること19世紀末、ニューヨークで電力システムを事業化した人物こそトーマス・エジソン。そのモデルをUtility 1.0とするならば、現代の日本は2.0時代です。しかしパリ協定以後の脱炭素社会や再生可能エネルギーへの転換、電力小売自由化という「3.0」時代が本格化しつつあります。人口減少と省エネ化が相まって電力消費は下落傾向にありますが、岡本氏は電力消費は今後、緩やかに反転回復すると予想しています。

「運輸と熱分野が電気に代替するからです。電気自動車、ストレージ技術による安価な蓄電池の普及がその背景にあります。欧米では電化と脱炭素が一体で語られており、中国とも大容量充電技術の標準化の策定などに取り組んでいます。インフラ間の融合・連携が進むことで、送電ネットワークは今後、電動・電熱・電脳社会の「3電」によってsociety 5.0を支えるプラットフォームになるでしょう」(岡本氏)

変革するモビリティの挑戦

講演中の村瀬 恭通 氏

パナソニック株式会社 執行役員 モビリティソリューションズ担当
村瀬 恭通 氏

創業100年を迎え、パナソニックは自社を「くらしアップデート業」と定義し、BtoCとBtoB領域のバランスのとれた戦略を推進しています。
「私たちの組織はモビリティへの挑戦が使命です。世の中をどうしたいのか、CANよりもWillによるビジネス展開を加速していきます」と村瀬氏は語ります。

完全自動運転の実現を見据え、パナソニックではこれまで培ってきた住空間と車載システムの掛け合わせによるバリュークリエーションが行われます。「ヒューマンセントリックと空間・照明・映像・音響による『次世代キャビン』がその1つの姿です。また、最近はディスプレイのUIも進化しています。運転席はコックピットになり、パネル1枚で可能なことが飛躍的に増えました。画像処理や映像解析がADAS・自動運転に貢献し、電池・電源技術はEVに役立っています」(村瀬氏)

藤沢市や横浜市とスマートタウンの事業を展開しているパナソニックは「ミライのモビリティへの挑戦」として、地域の移動を支えるモビリティサービスを提案していきます。スマートタウンの開発・運営のノウハウと、自動運転や電動化などのシステムを活用。街は幹線道路と緑の路地に分けて整理され、小型のeモビリティが人中心の街角の移動手段となります。

「クルマへの依存度が高い社会から、人中心へ戻したい。それがパナソニックの考えです。道で人が会い、時間を過ごす。垂直統合された現在の交通を分業化しつつ、人々のコミュニティをより元気にする。そんな暮らしのあり方を思い描いています」(村瀬氏)

CASEに加えるべき要素“e”

講演中の岩田 和之氏

株式会社本田技術研究所 執行役員 ライフクリエーションセンター エネルギーマネジメント担当 先進技術研究所 研究戦略企画コミッティー
岩田 和之氏

「自動車メーカーの視点で考えると、CASEの中では特にE(Electrification)が喫緊の課題です。ElectrificationにおいてはWell to Wheelという言葉が重要で、最近ようやく浸透し始めています」と岩田氏は説明します。「電気自動車を運転しても、化石燃料を使った発電による電気を使っていては、CO2排出量においてハイブリッド車と大差がありません。再生可能エネルギーを使ってこそ真の意味での環境貢献です。ゆえにホンダは、エネルギーマネジメントを含めたCASE+“e”を提唱しています」

ホンダが掲げる「Honda eMaaS」はホンダが持つ多様な電動車両およびエネルギー製品群を連携させIT技術をを用いてそれぞれ製品単品ではなくEaaS(Energy asa a Service)とMaaSを融合させCO2フリーの社会を目指すための基本的な考え方です。太陽光発電や風力発電は確かに普及しつつありますが、その発電量は不規則です。「電力会社と議論すると、配電系統に戻さず、電気自動車の蓄電池に使って欲しいと言われます。実際、クルマは9割の時間止まっていますが、止まっている時に電動車両を蓄電池として機能させることができる可能性があります。また、災害時には家庭または避難所で騒音もなく排ガスもなくクリーンな電力を供給できます」(岩田氏)

電気自動車は長く走れば走るほど、ガソリン車よりもコストメリットが出てきます。電気自動車は業務で1日中走行するクルマなど、BtoBの自動車に最適なのです。公共の電気ステーションなどとも賢いエネルギーマネジメントを実践することで、系統用のバッテリーとのシェアも可能になるかもしれません。「電気自動車の本質は、エネルギー合わせたうえでの事業変革だと言えます」と岩田氏は強調します。

まだ無電化地域を多く抱える新興国では、EV車は「動く蓄電池」として機能し、特にホンダモバイルパワーパックは着脱可能なので様々な用途に応用が可能です。音も振動もない電力を提供することで子供達が夜間に勉強する機会を得られるほか、レジャーなどでキャンプの際にも夜間も電気が使えます。岩田氏は「エネルギーの事業変革は1社では不可能です。オープンイノベーションでCSV(クリエイティング・シェアード・バリュー)を生み出すための協業を進めたいと考えています」と話しました。

パネルディスカッション

パネルディスカッションではアクセンチュア 戦略コンサルティング本部 マネジング・ディレクターの北村昌英と矢野裕真がファシリテーションを務めました。

パネルディスカッション

(写真左から)アクセンチュア 北村、アクセンチュア 矢野、オリックス自動車 上谷内氏、DiDiモビリティジャパン/ソフトバンク菅野氏、東京電力パワーグリッド 岡本氏、パナソニック 村瀬氏、ホンダ技研 岩田氏

  1. 新たな事業モデル、新しい産業モデルを作るうえでのキーポイントは何か

    北村 ショートスピーチを拝聴すると、CASEやモビリティに関しては皆さまのマインドは、ベゾスの言葉で用いて表現すると「It's Still Day 1」であるかのように感じました。ITジャイアントが台頭しても、モビリティはフィジカル抜きには語れません。深く議論したいと思います。

    矢野 まず初めに、新たな事業モデルや産業モデルを作る上では、既に存在する製品やサービスと異なる価値や体験の提供が重要です。Mobility 3.0におけるキーポイントは何だと思われますか?

    岡本氏(東京電力パワーグリッド) 「お客様起点で変えていく」ことだと思います。自社のケイパビリティから乖離しているものは、その分野に強みを持つ他社と組むことです。しかしそれ以上に重要なのは「自社のDNAは何か」を今一度定義することでしょう。東京電力も創業当時は電球まで自社で保有して、照明をAs a Serviceとして届ける事業体でした。そうした「原点」をDNAとして、いまでもサービスを考えるヒントにしています。

    上谷内氏(オリックス自動車) 今日のサービスや製品のあり方は、サプライヤー目線では通用しないと考えています。時には「自社の自己否定」つまり、デマンド起点で、既存のビジネスを自らディスラプトするか決断が必要でしょう。またお客様がその製品・サービスを利用することで、お客様のやりたいことが実現できるか、という視点でビジネスを“コト化”していく必要があります。

    矢野 パナソニックさんからCANからWillへというお話しがありました。御社のような大企業がこれまでの製品基点の発想から、Will(意思)基点の発想へと変革するためのトリガーになるには、どのようなマインドセットや目標を持つことが必要でしょうか。

    村瀬氏(パナソニック) 弊社には業績低迷という直接的要因がありました。コマーシャルを動員して大量生産・大量消費を促す時代は過ぎ、今はお客様1人ひとりにちょうどいい「アップデート」の時代です。パナソニックではCNS社(コネクティッドソリューションズ)に樋口泰行(元 日本マイクロソフト会長)が来たことでガラっと変わりました。人を入れ替え、トップの意識を変え、多様性を出すことがトリガーになると思います。

    岩田氏(ホンダ技研) ただし、新しければ何でも良いわけではなく、事業をする上では「企業理念に合致」していないと頓挫すると思います。加えて、「自社のコア技術が転用できるかどうか」が判断のポイントではないでしょうか。

  2. 既存事業と並行して新規事業へ移行する際はチャレンジする際の推進方法とは

    北村 企業が新規事業をする上では常にチャレンジングポイントがあります。菅野さんは社内リソースの入れ替えや最適化などの取り組みを、どのように推進していますか?

    菅野氏(DiDiモビリティジャパン、ソフトバンク) チャレンジにおいては、成長戦略と構造改革の2つさえあれば、事業は後から付いてくると考えています。既存ビジネスと新規ビジネスはコンフリクトする場合があります。その場合は思い切ったリソースの転換も必要です。またオープンにしながら外部パートナーの力を借りて新しい知識やエネルギーを入れることで、壁をぶち破ることも大きなポイントだと思います。

    北村 続いては岡本さんに伺いたいと思います。エネルギー事業にはローカル特性が出やすく、規制も多い産業だと思います。海外の実証をどう見て日本に取り込んでいくのか、その方針を聞かせてください。

    岡本氏 海外だからこそ新しいパートナーと協働できる場合があります。我々も中部電力さんとジョイントベンチャーを作り、現地のパートナーと一緒にテスラのバッテリーも活用しながら東南アジアの未電化の地域を電化するマイクログリッドを建設中です。世界遺産に近い村で、観光地としてのバリューが上がり、顧客体験も向上することが期待されています。これは実証ではなくビジネスとしての取り組みです。実証事業だけでは疲れてしまう。スピーディに実地でやることが重要だと考えています。

    北村 イグジットクライテリアを定めておくなど、ゴールを決めておくことも重要な要素でしょうか。

    岡本氏 おっしゃる通りです。技術だけ立派なものができましたというのではなく、商業ベースでビジネスとして成立するかを見極めることが重要です。

    村瀬 たしかにPoCばかりになりがちです。一方で、日本は安全のための規制が厳格です。たとえば、海外では電動キックボードが走っていますが、日本ではナンバープレートやウインカーをつけなければいけません。原付扱いなのでヘルメットも必要です。安全のために必要とはいえ、気軽な乗り物にならない。皆さんと一緒に常識を覆し、法律も変えていかないといけない。

    岩田氏 日本はコンサバティブに見えますが、コンプライアンスやガバナンスがしっかりした国です。海外での事業で難しい点は、政治状況に左右されてしまうことではないでしょか。相手国の選挙の都合で、プロジェクトが止まってしまったこともあります。方針転換で政策が180度変わることもあります。電動キックボードの例では、確かにアメリカにいけば西海岸でたくさん走っています。とはいえ、事故が起こっているのもまた事実です。

  3. 覇権を握るITジャイアントと、どのように競争または協業していくのか

    矢野 GoogleやAmazonなどのプレイヤーとどのように対抗していくべきか、考えをお聞かせください。GAFAクラスの企業はデジタルを使い、グローバルにビジネススケールが効く領域を取り込んでいます。その様なデジタル×グローバル以外にも、ローカル企業が得意とするアナログ×ローカルという領域もあります。彼らと正面から対決するのか、それとも組むのか。色々な方法があると思いますが、いかがでしょうか。

    上谷内氏 私たちはモビリティアセットの稼働率をどうやって高めていくかを考えると、彼らのような事業者と組むことが必要です。コネクテッドのクルマが走ることで稼働状況や需給がわかり、ダイナミックプライシングにも繋がります。高い期待感を持っています。

    岩田氏 ホンダがプラットフォームを単独でやることは現実的ではありません。上谷内さんがおっしゃるとおり、コラボレーションを目指すべきだと思います。加えて我々は自動車製造のインフラ、つまり車体製造ラインを持っており、これは彼らにない強みです。

    菅野氏 私も競争よりも協業かと思います。ユーザーにとってよいものは自分も認め、相手も認める形の話し合いが常に起こっていると思います。ユーザー接点という意味では競合するかもしれませんが、「ユーザーに良いものを提供する」という観点では協業しかなく、互いに成長していくしかないと思います。

    村瀬氏 弊社はフィジカルな部分の差別化しかないと考えています。たとえばGoogleがWaymoブランドで安価なEVを提供できるかどうかというと、金型1つ作るのも大変ですから、おそらくどこからか安い車体を購入するでしょう。となると、パーツごとに協業する形になると思われます。我々はバッテリーなどで強みを発揮できるように思います。

    矢野 時間が迫ってまいりました。学びの多いディスカッションになったかと思います。ご来場の皆様にも、新しいビジネスを作る上で参考となったら幸いです。本日はありがとうございました。

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