リテール企業と消費財ブランドは今、複雑化する市場の中でより効果的かつ効率的な事業運営が求められています。消費者間のネットワークは拡大の一途を辿り、彼らとのエンゲージメントを確立するためのチャネルも増え続けています。消費者にとって自由にショッピングできない状況はもはや論外であり、彼らは常に利便性と関連性、独自性に優れた体験を求めています。また、IoT(モノのインターネット)をはじめ、VR/ARなどの複合現実、AI搭載のパーソナルアシスタントといった技術の普及に伴い、購入する場所や手段はますます多様化しています。その結果、何を購入するにしても、すぐ手に入れられることは消費者が意思決定を行う上での最低限の条件となっています。リテール企業と消費財ブランドが競争優位性と消費者のロイヤルティを獲得できるかは、消費者の暮らしを支えるという事業目的を確実に果たしていけるかどうかにかかっています。

リテールおよび消費財業界では、多種多様な市場の力がサプライチェーンのデリバリー能力に影響をもたらしています。たとえば、パーソナライゼーションやスピードに対する消費者の期待、人件費の高騰と人材不足、可処分所得を持った都市部の人口増加、コスト圧力などです。こうした事情を背景に、あらゆるチャネルでサプライチェーンの俊敏性を高めることが不可欠となっています。幸い、俊敏性はオートメーションやアナリティクス、人工知能(AI)などの革新的な技術の活用、およびエコシステムのパートナーシップの下で独自のソーシングモデルを適用することで向上できます。俊敏性を身につければ、企業とブランドは市場投入時間の短縮や新たなデリバリーオプション、製品への即時アクセスのほか、個々の消費者セグメントへのカスタマイズされたサービス提供や、在庫管理の精度・即応性の改善を図れるようになります。では、収益性を維持しながらもこれらを実現するには、どうすればよいでしょうか。1つのチャネルのみに依存するのではなく、マルチチャネルでデリバリーを行いながらサービス提供コストも削減していくためには、どうすればよいでしょう?

オンライン売上の急増

現在、リテール企業の大半がオンラインチャネルの売上高で2桁の成長率を達成しています1。このことがサプライチェーンに及ぼす影響は甚大です。実店舗の年間売上高の成長率が3~4%というかつての一般的な成長率であれば、おおよその予測が可能で対処も難しくはありませんでした。しかし、オンラインチャネルの売上高の年平均成長率が10%、あるいは15%や20%といったレベルになれば、もはや話は別です。3年後のオンライン売上高は現在の50%増まで拡大するとみられており、さらに5年後には現在の2倍に達する見通しです2

しかも、この成長率は年々上昇傾向にあります。イギリス国家統計局が2006~2018年7月のオンライン売上高についてまとめたデータでも、このことが明確に示されています(図1を参照)3

リテール企業と消費財ブランドがこうした成長のペースに適応していくためには、サプライチェーンの能力とキャパシティを大きく拡大させる必要があります。通常、物理的なアセットとIT環境の双方の刷新には18~24カ月程度の時間を要し、なかにはそれ以上の時間が必要なケースもあります。また、倉庫のオートメーション化には3年、新たなプロジェクトの予算を確保するのにも6カ月以上時間を見ておく必要があります。大規模なITプロジェクトではさまざまな課題に直面すること、またオンライン売上の成長率のスピードを考えれば、悠長なスケジュールや意思決定のプロセスでは、もはや到底対処しきれないでしょう。

もう1つの問題は、オンライン売上高の伸びは、そのまま利益の拡大に直結するわけではないということです。通常、デジタルチャネル経由のサービス提供コストは、従来のリテールチャネルの3~6倍にも上ります4。こうしたコスト増によって生じる利益率の低下は、当然ながら容認できるものではありません。だからこそ、リテール企業と消費財ブランドでは、現在の複雑化した市場におけるサプライチェーンの変革が必須となっているのです。

31%

リテール企業の事業目的を高く評価した消費者は、低く評価した消費者よりも消費額が31%多い

30%

アパレル製品のオンライン販売の返品率は30%、これに対し店頭販売の返品率はわずか9%

新たなチャネルで生じる大きなコスト

リテール業界で最も急速に成長する購入場所は、「自宅」になりそうです。その理由は、コネクテッド冷蔵庫やアレクサのようなパーソナルアシスタントなど、さまざまなデジタルデバイスがブランドと消費者を直接つないでくれるからです。リテール企業と消費財ブランドは、今や消費者の自宅のキッチンからリビングルーム、ホームオフィス、ガレージまで、信頼のパートナーとして「存在する」ことができます。ただし、前述したようにリテール企業と消費財ブランドが消費者の信頼を勝ち取り、成功を収めるためには、ブランドプロミス通りの製品・サービスをコスト効率に優れた方法で提供する能力が不可欠となります。とはいえ、消費者の多くが自宅から製品を購入する状況は、サプライチェーンの観点からは大幅なコスト削減につながります。それは、消費者と直接つながる場所がバーチャル空間になるからです。

消費者が場所や時間を問わずに欲しいものを購入できるようになる一方、それを提供する側のリテール企業と消費財ブランドは増加するコストに悩まされています。無料の返品サービスが一般化した現在(リテール企業の96%が実施)、アパレル製品のオンライン販売では返品率が30%に達し、店頭販売の9%を大きく上回る状況となっています5。いわゆる「クリック&コレクト(オンライン購入した品を自宅以外の場所で受け取る)」サービスやオンライン購入品の店頭返品サービスも、事態を複雑化させる要因となっています。

サプライチェーンの変革:新たな分野への「賢明なピボット」

リテール業界にとって変革は急務であるものの、変革のペースや規模は現実的なものでなければなりません。利益率向上と中核事業の成長を可能にするサプライチェーンの変革アプローチを採用することで、そこから生まれた余剰コストを新たなサプライチェーンサービスや独自の顧客体験の構築に再投資し、未来の収益拡大を目指すのが現実的です。

アクセンチュアでは、このアプローチを「賢明なピボット(Wise Pivot)」と呼んでいます。図2で示す通り、これは短期的なイニシアチブではなく、永続的に推進されるイノベーションのプロセスです。デジタルを活用して中核事業のサプライチェーンプロセスを合理化/自動化することで、リテール企業と消費財ブランドはコストを最適化すると同時に、柔軟性の向上と迅速なフルフィルメントを実現できるようになります。また、KPIと中核業務にインテリジェンスを組み込むことで、顧客中心のアプローチを強化して、新たな成長分野と差別化のプロセスに注力することができます。その結果、高度にパーソナライズされた新しいサービスを生み出せるようになります。

変革に向けたジャーニーを開始する

1. 事業目的に沿ったサプライチェーン戦略の策定

リテール企業の事業目的を高く評価した消費者は、低く評価した消費者よりも消費額が31%多いという調査結果が示す通り、リテール企業と消費財ブランドはこの事実を踏まえて、自社の事業目的を明確化することが重要です。

事業目的に沿った戦略の策定に際しては、まず「自社はどんな会社か」「なぜこの事業をしているのか」について自問しなければなりません。これらの問いに対する答えをもとにサプライチェーンを見直し、複雑化した市場でマルチチャネルのアプローチを展開して利益を上げつつ、確実にその目的を達成していくことが重要で、その際にはサービス提供コストも削減します。リテール企業と消費財ブランドはこのプロセスの一環として、顧客基盤のマイクロセグメンテーションにフォーカスし、セグメントごとの具体的なニーズや、変化し続ける顧客の嗜好に応えていかなければなりません。

2. 中核事業の変革:「アセットライトな」エコシステムの構築

リテール企業と消費財ブランドにとって主要な目的の1つが、顧客基盤の各マイクロセグメントのニーズに応えていくことです。そのためには、サプライチェーンを「無数の人々を結びつけるネットワーク」として再構築する必要があります。

このようなネットワークの構築によって独自のソーシングモデルが生み出され、スピーディな市場投入を可能にする新たな方法を見いだすことができます。マイクロセグメント化した市場には単独で対処しようとするのではなく、エコシステムのパートナーと協働した方が、はるかに迅速かつ高いコスト効率で対処できます。また、全体的なデリバリーのスピードと柔軟性も向上します。ネットワークを構成する個々のパートナー企業は、高コストになりがちな付加的なサービスを提供するのではなく、自社の中核的な能力/事業を活かしたサービスを提供(さらには中核事業を強化)するのが適切なアプローチと言えます。

3. 中核事業の変革:フルフィルメントへのフォーカス

あらゆるリテール企業と消費財ブランドは、中核事業の変革を通じてコストを大幅に削減し、利益率を高めながら独自のケイパビリティを提供する新たなサプライチェーンを構築しなければなりません。

在庫管理の最適化: リテール企業は在庫の可視性、精度、即応性を高める必要があります。また、適切な納入とサービスレベルを維持するためにマイクロセグメンテーションを行った場合には、プランニングがさらに複雑化するといった課題が生じます。在庫管理では、在庫切れによる販売機会の損失を回避しながら、在庫コストの削減を目指すことが大切です。

トランザクションコストの削減: オートメーションを導入することで、サプライチェーンネットワークの一部でサービス提供コストを削減できます。オートメーションは通常、導入から投資利益を回収するまでに少なくとも6年はかかりますが、これにより規模や処理量の拡大・スピード化といった付加的なメリットがもたらされます6。さらに、受注管理などの基本的なサプライチェーンのトランザクション業務の多くは、オートメーションやAIを大々的に活用するアプライド・インテリジェンスによって迅速に効率化できます。それだけではありません。これらのルーチンワークを行っていた人材は、プランニングや戦略の実践、イノベーションの推進に注力できるようになります。

リアルタイムの可視性と即応性の確立: リテール企業と消費財ブランドが複雑化した市場で成功を収めるには、適切な製品を適切な場所に、適切なタイミングと価格で提供することが不可欠です。従来の「指令塔」型のデリバリー管理を高度なアナリティクスで補完すれば、企業はサプライチェーンのパフォーマンスをリアルタイムに監視して、継続的に改善を推し進めることができます。

利益をもたらす「ラストワンマイル」配送を: ラストワンマイル配送は、リテール企業や消費財ブランドがサプライチェーンネットワークをいかに設計/構築/展開し、ショッピングやデリバリーに対する顧客の期待に応えているかを評価する上で非常に役立つ指標になりますが、複雑で高コストなアプローチになってしまうケースもあり、必ずしもショッピング体験の改善につながるわけではありません。競争力を維持していくためにも、ラストワンマイル配送の最適化は極めて重要です。

4. マイクロセグメントごとにカスタマイズされた製品・サービスの提供

リテール企業は長きにわたり、パートナー企業との協働を通じてサプライチェーンの一部として自身の役割を果たしてきましたが、今後はこうしたパートナーシップを多面的に活用して、サプライチェーンにおける他のさまざまな役割に対処することになるでしょう。

たとえば、テクノロジーを活用して複数のパートナーエコシステムを構築すれば、顧客へのブランドプロミスの一部をパートナーに担わせることができ、すべてを自力で達成する必要はなくなります。重要なのは、顧客に「ワンストップショップ」を提供することです。

上記のような具体的な変化を遂げられなければ、いずれリテール企業と消費財ブランドは利益の減少と、優位性の低下に直面することになるでしょう。事業と収益の大幅な拡大は、決して達成不可能な選択肢ではありません。「賢明なピボット」を実践して顧客中心のインテリジェントなサプライチェーンを構築すれば、競争力を大きく高められるようになるはずです。

1 Center for Retail Research

2 Worldwide Retail and Ecommerce Sales: eMarketer's Updated Forecast and New Mcommerce Estimates for 2016—2021

3 Retail sales, Great Britain: June 2018

4 E-commerce Product Return Statistics and Trends

5 Can intelligent fulfillment fix retail delivery woes?

6 Retail with Purpose

7 Do retailers need warehouse automation?

8 Instacart is now available to 70 percent of U.S. households

9 Aldi goes nationwide with Instacart

10 National Assembly Services = Solutions

James Morse

Senior Principal – Retail


Martin Brickell

Senior Manager – Retail


Will Treasure

Managing Director – Retail

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