プラットフォームとしての行政を巡る潮流

民間企業では、デジタル技術を活用したサービスを通じてデータを収集し、そのデータを分析・活用することで更なる価値創 出を図る「プラットフォーマー」の活躍が目立ちます。こうした動きに対し、行政機関におけるプラットフォームの構築、運用による行政サービスの高度化が注目されています。
アクセンチュアは、こうした行政サービスによるプラットフォーム化の動きを、「プラットフォームとしての行政(Government-as-a-platform;GaaP)」と定義(GaaPについてはこちらをご参照頂きたい)し、その構想やアプローチを研究しています。

アクセンチュアが2016年時点で行った調査(日本を含む11か国にて実施)においても、世界各国の行政機関の幹部 の89%が、「プラットフォームベースのビジネスモデルを採用することが重要である」と考えていることが明らかにされています1
行政サービスを受ける市民にも変化の兆候が見られます。「パーソナライズされた行政サービスを受けるために、自ら積極的に行動してもよい」と考える全世界の市民の割合は、60%に達しています2。また、「行政機関が市民、企業、NGOと協力して複雑な課題に取り組む必要がある」と回答した市民はグローバルで3/4に及びます3

一方で、世界を見渡しても、行政が自らプラットフォームとなり、自らの行政サービスの高度化を果たしているケースは限られます。
デジタル・エコシステムに加わるために積極的に対策を講じていると回答した、行政サービスのマネジメント層は、わずか27%に留まります4

GaaP実現に向けた準備状況

こうした状況を踏まえて、アクセンチュアではGaaPの実現に向けて、必要な要素を特定するとともに、それらの観点で世界10ヶ国の行政機関が現在、どの段階にあるか、調査致しました。

このグローバル調査によれば、日本は総合スコアで10ヶ国中8位となり、相対的に下位層に位置づけられることが明らかになっています。

図 1 GaaP Readinessスコアの比較

図 1 GaaP Readinessスコアの比較

GaaP実現に向けた柱

スコアは、GaaPの実現とそれによる成果享受のための4つのブロックで構成されています。

基盤の構築

- GaaP実現にあたっての基盤となるICTインフラ、規制、人材等を指します。これらの基盤が整っているかどうかは、GaaP実現の1つ目の柱となります。
- このブロックについて、日本は調査対象国中7位に留まりますが、スコアは必ずしも低いものではありません。「デジタルにおける経験、信頼」のスコアは対象国中、3位にあります。

行政サービスにおけるイノベーション

- 整備された基盤を活用して、いかに行政「サービス」にイノベーションをもたらせるか、がGaaP実現のための2つ目の柱です。
- 日本はこのブロックでは対象国の最下位に位置づけられています。「行政機関におけるディスラプション(創造的破壊)」、「市民中心のアプローチ」、「行政サービスの提供者からエコシステムのモデレーターへ」といったブロックを構成する要素が、いずれも高い評価を得られていません。

変化・イノベーションへのマインドセットの醸成

- 市民、民間企業、NPO等、行政サービスの受け手となるステークホルダーが、変化やイノベーションに対して、積極的な姿勢を持つことがGaaP実現に向けた3つ目の柱です。
- このブロックについても日本は下位の評価(9位)となっています。「イノベーションが牽引するビジネス」等のスコアが高い一方で、「起業家精神にあふれた社会」のスコアが低いことがこの背景にあります。

経済成長の実現

- 最後に、GaaPを実現することにより経済成長を果たせるかどうか、すなわちGaaP実現への動機づけがあるかどうかが4つ目の柱です。
- このブロックについて、日本の評価は対象国で7位ですが、スコア自身は低いものではありません。「リソースとしての行政データ」のスコアは、対象国中5位と評価されています。

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これらの点を総括すると、日本はGaaPの実現に向けた基盤(基盤の構築)も潜在的な動機 (経済成長の実現)も一定水準あるにも関わらず、行政サービスの担い手、そして行政サービスの受け 手となる市民・民間企業等のマインドセット、ケイパビリティがより深刻な課題になっているということができるでしょう。

他国の評価に見るGaaP実現へのアプローチ

ここまでに見てきた日本のスコアと比べて、他国のスコアを見るとどうなるでしょう。

総合スコアが1位のシンガポールや6位のデンマークは、「基盤の構築」に関するスコアが高く、強力な行政インフラを梃子に、GaaPに向けた着実な準備を進めていることが評価されています。
主要なICT先進国を対象とする早稲田大学「世界電子政府進捗度ランキング調査2018」では、デンマークが首位に、シ ンガポールが2位につけており、こうした国々の政策動向をベンチマークとしていくことは、更なるインフラの整備に役立つものと 期待されます。

総合スコアが2位の英国、3位の米国はともに、「経済成長の実現」に関するスコアが突出し、次いで「基盤の構築」のスコアが高いですが、残りのブロックに目を向けると、英国は「行政サービスにおけるイノベーション」の、米国は「変化・イノベーションへのマインドセットの醸成」のスコアがそれぞれ高く、GaaPに向けたドライバーになっている様子が読み取れます。
すなわち、英国は行政機関主導でGaaP実現に向けた準備が進む一方で、米国は民間、社会の受容性が高く、民間主導でGaaP実現への機運が高まっていると言えるでしょう。

上述の通り、日本はこの官民のマインドセット、ケイパビリティの変化が課題となっており、こうした違いに注目して、アプローチを検討することに意義があると考えられます。
より顕著な国として、サウジアラビアは全体的にスコアが低いものの、4つの柱の中では「行政サービスにおけるイノベーション」のスコアが高く、行政機関の積極的なリーダーシップによりGaaPに向かう姿勢がうかがえます。

これらの国々のスコアを踏まえて、日本がGaaP実現を果たすためには、既に一定の評価を得ている柱については、更にスコアが高い国をベンチマークとして捉えて改善すること、そしてより重大な課題となっている行政サービスの担い手と受け手双方のマインドセット、ケイパビリティについては、強力なリーダーシップや巻き込みにより、変化を促していくことが求められます。

日本における変化の萌芽

しかしながら、日本においてもGaaP実現への萌芽は見られます。

中央政府では、既に導入・活用に向けた取組が先行するマイナンバー制度に加えて、2018年6月に各府省庁情報化統 括責任者(CIO)連絡会議にて発表された「クラウド・バイ・デフォルト原則」、2019年3月に閣議決定された「デジタルフ ァースト法案」等、デジタルガバメントの実現に向けて、一層注力する姿勢が伺えます。

また、同様に地方自治体においても、イノベーションの兆しが見られます。
特に、行政機関におけるトップのリーダーシップの発揮や市民の巻き込みを実現しやすい中小規模な地方自治体は、現在、GaaPの実装に向けた主たる壁となっている「サービスの担い手・受け手の変化」を促す上で、有利な条件を持っている、とも言うことができます。
その代表例として、福島県の会津若松市でのビッグデータ・アナリティクス産業創出を目的としたスマートシティの取組があげられます(会津若松市の取組については、こちらをご参照ください)。

同市のスマートシティ構想において特徴的なのは、デジタルサービス、およびデジタル化そのものに対する市民・行政職員の理解が重要と考え、様々な取組を進めていることです。
前述の4つの柱で言えば、「基盤の整備」だけを単独で推進するのではなく、4つの柱それぞれを確立するアプローチが、その 先進的な取組実現の背後にあると考えられます。

まず、「基盤の構築」についてです会津若松市においては、震災復興をきっかけにスマートシティに取組はじめ、総務省による HEMS実証を皮切りに、多くの実証を積み重ねながらIT基盤だけではなく、デジタルに取り組む人材・組織の構築、市民 や立地企業・行政・議会含めた文化の醸成を進めてきました。
その集大成として、オープンデータ基盤であるデータ・フォー・シチズン(D4C)およびデジタルサービス・データ活用基盤であるデジタル・シチズン・プラットフォームがあります。
新たなデジタルサービス展開時には、市民のニーズを踏まえつつ、様々な事業を通じて、この基盤上で構築していくことで基盤を進化させています。

次いで、「行政サービスにおけるイノベーション」についてです。
会津若松市の職員についても各部署からスマートシティ担当者を指名し、部署横断でスマートシティの推進体制を組むことで、企画部門・情報部門の担当者に限定されず、組織一丸となって理解の共有に取り組むことができています。

「変化・イノベーションへのマインドセットの醸成」については、独自のデジタルプラットフォームを活用した様々なサービスを展開することで、市民の変化に対する受容性を高めていったこと、これらのサービスを展開するにあたっても市民を巻き込んだアプローチを採用したこと、が指摘できます。
市民向けの新たなサービスの代表例が、デジタル・コミュニケーション・プラットフォーム「会津若松+(プラス)」です。
「会津若松+」では、IDを登録した市民の属性・嗜好情報を踏まえて、市役所や地域が発信する情報を自動的にリコメンドし、欲しい情報を提示することから始め、今では自宅中心の除雪車の位置がわかる除雪車ナビや、電子母子手帳、子どもの学校・学級の情報が個別に届く「あいづっこweb」など、多くの市民向けサービスを提供しています。
これらのサービスの開発にあたっては、市民とのコミュニケーションを通じてニーズをくみ取り、地元のベンチャー企業などとも連携することで、単に変化に対する受容性を高めるだけではなく、市民・民間企業の積極的な参加を促すことができています。

最後に、経済成長の実現です。
ここまでに述べた全ての要素に関連しますが、会津若松市にはICT専門大学である会津大学が立地しており、人材やデータの集積がしていることから、スマートシティの実現を通じて、経済成長を果たすための土壌が整っています。 こうした土壌も、GaaP実現には欠かせない要素です。
実際に、「会津若松市まち・ひと・しごと創生包括協議会」を通じて、地元企業から在京大手企業までが、会津若松の取組関与し、実のある連携を行うことで交流人口・企業の増加を実現できています。

このような取組を通じて、行政機関の現場担当者、市民におけるデジタルサービスの利用と理解を促進するとともに、従来、アナログの世界で実現できなかった行政機関と市民との接点構築も実現しており、まさにGaaPの目指す姿を体現しようとしているものと考えられます。

行政機関とステークホルダーの協業によるGaaP実現へ

これまでに見てきたように、GaaP実現に向けて、一番のハードルになっているのは、行政機関、市民を含むステークホルダー全体のマインドセット、ケイパビリティの変化です。これらの変化には時間を要します。
それぞれの地域、行政機関の抱える状況に応じて、展開のあり方は違いますが、まずは行政機関・市民等のステークホルダーが協業しながら、プラットフォーム時代における行政機関によるサービスの在り方、その実現に向けた道筋を描いていくことを通じ、デジタル変革の足掛かりを築くことが求められています。

お問い合わせ

1 アクセンチュア Government as a Platform: Coming soon to a government near you, 2016,

2 Ibid

3 What People Want, Accenture PS Citizen Survey February 2017, Government as a Platform

4 Accenture Tech Vision 2017, Question: “Where would you place your organization on each of the following scales?”

藤井 篤之

アクセンチュア株式会社 戦略コンサルティング本部 シニア・マネジャー


佐藤 平太郎

アクセンチュア株式会社 戦略コンサルティング本部 マネジャー

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