クラウド・バイ・デフォルト時代の到来

2020年第三四半期に本番運用が予定されている政府情報システムのプライベートクラウド基盤「政府共通プラットフォーム」(通称「霞ヶ関クラウド」)の、第二期整備計画におけるクラウドサービスのメリットを活用した更改など、昨今は官公庁のシステムや行政サービスにおけるクラウド活用の議論が、かつてないほどに活性化しています。

政府が打ち出している方針「クラウド・バイ・デフォルト(Cloud by default)」は、クラウドサービスの利用を第1候補とすること(※1)を明記しています。近年は厚生労働省のヘルスケア領域における積極的なクラウドの活用や、経済産業省のクラウド活用を含めたデジタルトランスフォーメーション(DX)の促進の提唱など、官公庁でも行政サービスにクラウドを取り入れる事例が増加しています。

※1 内閣官房IT総合戦略室「政府情報システムにおける クラウドサービスの利用に係る基本方針(案) 概要」

旧来のオンプレミス環境から、 “グラデーション的”にクラウド環境へと順次移行が進んでいくのでしょうか? 現実的には、単純にそうとは言い切れないようです。たしかにクラウドに移行することで、「コスト削減」に代表されるメリットを期待できます。しかし、その期待に十分に応える環境を構築するには、「調達仕様書のあり方」や「調達までの準備」、あるいは「調達の仕方そのもの」に、まだまだ改善の余地があると私たちは考えています。

本論考では、官公庁のシステムをクラウドへ移行するにあたって「陥りやすい落とし穴」を、具体的なケースを交えてご説明します。どのように調達することで、システムを最適化し、クラウドのメリットを最大化できるのか。そうした検討の一助となれば幸いです。

クラウド移行における「4つの落とし穴」

官公庁が手がける行政サービスのシステム基盤をクラウドへ移行するうえで、「陥りがちな落とし穴」を整理すると、次の4種類に集約できます。

  • (1)クラウド移行が目的化
  • (2)旧態然の調達・契約
  • (3)名ばかりクラウドの選択
  • (4)想定通りにコストが下がらない

具体的に見てみましょう。

(1)クラウド移行が目的化
「コストが下がるらしい」「他の官庁もすでにやっているらしい」「政府方針に従わなければ」といった動機でクラウドへ移行するといった、手段が目的化しているケースも見受けられます。マーケット状況や技術革新の動向、自組織の現有資産の状況を考慮せずに移行することになるため、結果的にメリットが出ない、場合によってはコスト増が起こったり、業務に支障をきたしたりする場合があります。

対策:取り組みのゴールは、「コスト削減」や「行政サービスのデジタルトランスフォーメーションの実現」などと明確にし、クラウド移行自体の目的化を回避する必要があります。「移行自体の目的化」を防ぐには、計画段階で自組織に必要な要件は何であるかを正確に把握することが重要です。そのために有効なステップは「既存資産の棚卸し」です。そのうえで、精緻な移行計画を策定することが重要といえます。

(2)旧態然の調達・契約
現在は、オンプレミスからクラウドへの移行の「過渡期」です。調達におけるノウハウ蓄積が十分ではなく、結果的に過去の調達仕様書を基に「クラウドサービスの利用も許可する」といった程度の仕様の改変で調達を実施している官公庁が多いのが実情です。そのため、オンプレミスを想定した過去の調達仕様書を若干改変したものが大半となっており、行政のクラウドについても、「クラウドも許可するが、この条件を満たすように」といった追記で済ませているケースが目につきます。これは良い結果を生まないでしょう。

なぜならオンプレミスを提案するベンダーと、クラウドを提案するベンダーとの勝負では、オンプレミスのベンダーの切り札である「設計・開発を安価で請け負い、後続の製品調達や運用・保守費用で回収する」ビジネスモデルが調達の場面では優位に立ちやすいからです。しかし現代は、状況が目まぐるしく変化する時代です。そのままでは将来の技術革新を追従できず、テクノロジーの進化によるメリットを享受できません。

対策:サービスの利用を前提とした調達仕様書に見直すなど、内容をコンパクトにするべきです。たとえば、オンプレミスは「構築」を前提としています。一方でクラウドは、行政でも利活用可能な多数の汎用的なサービスとしてあらかじめ用意(提供)されており、汎用的なサービスの利活用を前提とすることで、構築が必要となる部分を最小化できます。

調達仕様書に「構築」という項目があることで、「構築が必要。ゆえにオンプレミスでなければ仕様に合致しない」などの解釈を生んでしまいます。そこをしっかりと選別する必要があります。そもそも、オンプレミスとクラウドでは、費用体系が異なります。契約自体や支払いモデルそのものを、As-a-Serviceに対応する形へ変化させなければいけません。

クラウドサービスを採用する際も、特定のサービスに依存・限定するような仕様を盛り込んでしまうと、結果的に競争原理が働かず、コスト削減やメリットを享受できない場合があります。複数のサービスを調達可能な「マルチクラウドに対応可能な仕様」になっていなければ、将来、適材適所のクラウドサービス選定に支障をきたす場合があります。将来の自由度・柔軟性を担保した仕様書であるべきです。

ある官公庁では、行政サービスの将来のマルチクラウド環境を想定したグランドデザインを行い、設計に落とし込んで調達しています。このように特定のベンダーに依存せず、システム全体のポータビリティを意識することが重要です。

組み合わせて利用するマルチクラウド化を前提として調達・構築することで、適材適所の利用が可能となります。このような調達仕様の最適化を経て、初めて真に自組織の業務やシステム特性に適したクラウドの利用が実現するのです。

(3)名ばかりクラウドの選択
一口にクラウドサービスといっても、純然たるクラウドから、オンプレミスライクなサービスまで多種多様です。調達においては達成したいゴールや自らの業務・システム特性などを十分に考慮せずに、「クラウド」とは銘打っているが実態はオンプレミスライクな「名ばかりクラウド」を採用してしまうと、結果的に大量のサーバや、ピークに合わせたハイスペック環境が必要になるなどの影響で、コストが高止まりします。

対策:「自組織の計画に最も適しているクラウドサービスは何か」を十分に検討し、その結果を調達仕様書に落とし込みます。

(4)想定通りにコストが下がらない
上記の1、2、3で見てきたような項目に該当し、クラウド移行自体の目的化して自組織に適したクラウド環境を構築できていない場合や、旧態然とした調達仕様・契約内容なっていて長期的にコスト高になっている場合、また「名ばかりクラウド」に代表されるオンプレミスライクなサービスを採用してしまうと、「コスト構造」の内訳が入れ替わるだけで、支出の総額自体に変化がないという結末を迎えてしまう可能性があります。

一方、クラウドサービスを利用開始後にも、次のような要因によって期待されたコスト削減が実現しないケースがあります。

・サーバ構築が手軽なため、運用中に想定以上にサーバ数が増加する。

・当初の想定よりも業務量が増えず、サーバリソースに余裕がある状態が放置され、過剰なサーバで運用されている。

対策:達成したいゴールに基づいて移行による効果を見極め、トータルでのビジネスケースを描くことが必要です。このように全体最適を主眼において検討することが重要です。

仮に、コスト削減率がそれほど高くなくても、システムの俊敏性やセキュリティ向上などの目的がある場合、それらを目的とするシステム改修や最新テクノロジー導入などにフォーカスした移行計画を立てる必要があります。

クラウドによる効果を享受するには、ガバナンスを効かせた運用が不可欠です。幸いなことにクラウドは利用状況の把握が容易というメリットがありますので、運用中は無駄が生じないようにモニタリングを続け、最適化を繰り返すことで、期待した効果へと近づけることが可能です。

クラウド移行の「陥りがちな落とし穴」は、次の4種類に集約できます。

  • (1)クラウド移行が目的化
  • (2)旧態然の調達・契約
  • (3)名ばかりクラウドの選択
  • (4)想定通りにコストが下がらない

デジタルトランスフォーメーション計画を完遂するには

行政のデジタルトランスフォーメーションにおいて、クラウドは抜群の威力を発揮するツールです。調達仕様書もクラウドネイティブなものとしていくことで、確実なコスト効果を得ることができ、下がったコストを国民サービスの拡充や業務効率化にあてることが容易になります。

加えてクラウドは容易にサーバの追加・削除が可能となるため、アジャイル手法を取り入れるなどの場合でも、段階的な有効性の確認が容易になります。新たなサービスの導入を効果的に支援します。

また、SaaSの活用により、最新技術を適用したサービスを取り入れることができるため、技術革新の効果も享受できるようになる点もメリットです。

段階的なクラウド移行
官公庁が管理するシステムは多種多様かつ複雑です。そのため、一足飛びに全面クラウド化を実行するのは、ハードルが高い場合もあります。そうした状況においては段階的なクラウド移行が望ましいと言えるでしょう。

段階的な移行においても、「移行方法」や「移行後の環境管理」を踏まえた計画を立案し、実行することが重要です。オンプレミス環境からの単なるリプレースだと思い込むのではなく、クラウド化することで必要となる追加開発の有無や規模など、トータルに検討することが重要です。

適切なパートナーを選ぶための「見極め方法」
官公庁において行政サービスのクラウド移行は過渡期にあり、クラウド移行・運用の知見が十分に官公庁内に蓄積されているとはいえません。そうした状況を十分に理解したうえで、移行と運用の両方におけるノウハウを持っているパートナーを選び、共創していくことが重要です。

そのベンダーがクラウドネイティブに強いかどうか、また「パートナー」として適切かどうかを見極めるには、次の4点がチェックポイントです。

  • 実績
  • 人材
  • 研究開発力
  • クラウドサービスプロバイダとのアライアンス

実績

そのベンダーのクラウド移行・運用の実力を推し量るには、過去にどのようなプロジェクトを手がけたのか、実績の規模と内容を参考にします。

人材

どの程度の人数の「クラウド専門人材」がその組織に所属しているかは重要な指標です。そのベンダーのクラウド移行・運用の能力は、専門スキルを有するスタッフの人数にほぼ比例します。

研究開発力

クラウド関連テクノロジーのR&Dをどの程度自社で手がけているか、研究開発の量と質で、そのベンダーのクラウドに関する知見や経験値を把握できます。

クラウドサービスプロバイダとのアライアンス

大規模な行政システムのクラウド移行で浮き彫りになる様々な課題を効果的に解決するには、ベンダーがクラウドサービスプロバイダと深い関係性を持っていることが重要です。たとえば、アライアンスを組んでいて影響力・発言力がある場合は高く評価できるといえます。

また、最後に官公庁のクラウド移行のパートナーを見極めるうえで、中立的な第三者の評価機関(市場調査会社など)のレポートを参考にするのも有効です。そうしたマーケットレポートやベンダーの総合力評価を参考にすることも、適切なパートナーを見つける近道でしょう。


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土屋 純

アクセンチュア株式会社
公共サービス・医療健康本部
マネジング・ディレクター

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