調査レポート

要約

要約

  • 多くの製造業企業は、業績向上やレリバンスの構築、製品/サービスの開発など、幅広い目的でデジタル技術を活用している。
  • デジタルイノベーションのPoC(概念実証)を効果的に拡大、本格化し、成長の促進に成功している企業を、「優秀企業(Champion)」企業と称し、その特徴と成功要因を検証。
    現在、こうした優秀企業の数は、大手企業の内、わずか22%にとどまっている。
  • 優秀企業は、イノベーション拡大に向けた取り組みの効果を最大化するために、4つの対策を講じ、最大9.9%のデジタル投資収益率(Return on Digital Investment/RODI)を達成している。
  • どの企業も優秀企業になる可能性を秘めている。本レポートでは、イノベーションに伴う課題について検討し、取り組みを効果的に拡大していくことで、収益を向上し続ける方法について説明する。


デジタルイノベーションで成長を促進

企業のリーダーは例外なく、成功するにはイノベーションをビジネスの中核に据える必要があることを理解しています。しかし、製品やサービスの開発/製造方法を大規模に見直すことは、容易なことではありません。

例えば、ある靴メーカーでは、ハイパー・パーソナライゼーションの需要の高まりを受けて、経営幹部が大きな課題に直面していました。それは、履き心地が良く、耐久性に優れ、迅速な納期をグローバルで実現できる、カスタムスニーカーを開発すること。同社はこの課題に対応するため、ロボティクス、機械学習、3Dプリンティングによるオートメーションを採り入れた生産設備を導入しました。

しかし、新技術を導入するだけでは十分ではありませんでした。完全に自動化された生産ラインの立ち上げに時間がかかり、オートメーションシステムにオペレーションを適応させることもできませんでした。その結果、大きな損失が生じ、プロジェクト開始から3年で生産は終了。もともと優れた企業なのですが、利益をもたらす方法でイノベーションを拡大することができなかったのです。

実際、このような企業は少なくありません。

現在、産業界の大手企業に求められているのは、幅広い目的でデジタル技術を採用することです。競合他社と差をつけるには、既存/新規のオペレーションのみならず、開発する製品やサービスにもイノベーションを適用しなければなりません。

しかし、デジタル投資から期待どおりの収益を得ている企業は、ごく一部です。

その理由を特定するため、アクセンチュアは、革新的な大手企業における重要な移行段階に焦点を当て検証しました。つまり、企業がいつ、どのように、デジタル関連のPoCの成功から、試験的なプロジェクトの拡大へと移行し、成長と収益を実現させているかということです。

優秀企業はデジタル投資から期待以上の収益を得ています

イノベーションを拡大し収益を上げる「優秀企業」

主要な産業分野の企業の経営幹部1,350人を対象としたグローバル調査によると、特に業務効率化から、顧客への新たな価値の創出への移行が難しく、これに成功している企業はごくわずか。大半は苦戦し、完全に失敗する企業もあることが判明しました。

調査対象企業が2016~2018年に、新たな体験や効率化の促進のため、デジタルイノベーションの拡大のために投じた費用は1,000億ドル以上ですが、企業の78%は期待どおりの利益を得ていませんでした。

期待を上回るRODIを達成していたのは、調査対象企業の内、わずか22%でした。デジタル変革を成功させ、他の企業を凌駕する成果を上げているこの少数の優れた企業を、アクセンチュアでは「優秀企業」と称しています。

また調査結果によると、優秀企業のイノベーションに関する組織的課題へのアプローチは、その他の企業とは大きく異なることがわかりました。優秀企業は、より戦略的に達成したい価値を見極め、イノベーションの取り組みが組織に及ぼす影響を正しく認識しています。彼らはより多くの試験的プロジェクトの拡大に成功していますが、重要なのは数ではなく、より効果的にイノベーションを拡大し、利益向上につなげている点です。

優秀企業のメリット

優秀企業は他企業と比べて大きな価値を実現し、業績への高い期待を継続して上回っています。

  • 優秀企業はRODI目標の達成に注力し、業界平均の投下資本収益率(ROIC)やRODIよりも高いRODIを獲得しています。また、50%を上回るデジタルPoCを拡大しています。
  • 優秀企業に該当しなかった78%の企業は、共通の課題に直面し、苦戦しています。
  • 優秀企業とほぼ同数のPoCを本格化したものの、RODIが目標を下回った企業(第2群企業)は、調査対象の約65%であり、7.1%のRODIという目標に対し、実際は6.4%しか達成できず、業界平均のRODIを下回りました。
  • 本格化したPoCの数が半数未満で、RODIが目標を下回った企業(第3群企業)は、11.4%の目標に対し、実際は9.7%しか達成できませんでした。

アクセンチュアは、6つのカテゴリーにわたる23の組織的課題についてデータを収集し、計量経済学モデルによって、組織的課題の重大度とRODIの相関関係を推計しました。

この分析により、さまざまな業界において、こうした課題を克服することで増大できる価値が明らかになりました。さらに、個別の部品から製品を組み立てる組み立て製造と、製品全体を形成するプロセス製造に対する影響を比較しました。

RODIの増加の表
業界別のRODIの増加の表

マネジメント層の連携や技術基盤構築に関する課題を克服することで、企業は最大の価値を引き出し、RODIをほぼ倍増する機会を手に入れることができます。

続いて、デジタルスキル育成やパートナーシップ管理という課題の克服が重要ということがわかります。また、企業文化の育成によっても、かなりの価値を得られることが分かります。

優秀企業を含むすべての企業が共通の課題に直面していますが、得られるメリットの規模は異なります。優秀企業は、高いRODIを達成していることからも分かるように、重要な課題の一部をすでに克服しています。それでも、さらにRODIを3.5%伸ばすことができます。優秀企業に該当しない企業にとっては、伸ばし損なっているRODIははるかに大きく、約3倍の9.9%に上っています。

優良企業とその他の企業の潜在的なRODIの増加の表

イノベーション拡大にむけて:4つの課題

コロンビア・ビジネス・スクールのビジネス学部助教授であるホルヘ・グーズマン(Jorge Guzman)氏は次のように述べています。「イノベーションが影響を及ぼすのは、導入対象である製品の直接的な利益だけではないことが分かっています。イノベーションは、特定の製品やサービスの純利益に加え、企業が未来に立ち向かう能力を変化させ、リスクはあっても潜在的収益性の高い新しいアイデアに挑戦できるよう後押しします」

企業が新しいイノベーションを成功させるには、働き方を見直し、オペレーションのデジタル変革を実現すると伴に、進化し続ける顧客のニーズの先を読み、それを上回っていくことが求められます。これらの実現にあたっては、様々な課題が伴います。

組み立て製造企業およびプロセス製造企業の経営幹部は、PoCの成功を拡大させてく際の主な障壁として、4つの課題を挙げています。

1. トップダウンでデジタル価値を定義

顧客体験の改善や製品の刷新など、デジタル価値を高める意味は、人それぞれに異なる場合があります。しかし、提供したい顧客体験に関して企業のトップの意見が合わなければ、こうした衝突が連鎖的に組織に影響を与え、大きな問題となる可能性があります。

2. 中間管理職との連携

経営陣は、中間管理職がいかに試験的プロジェクトを構築、実行、拡張して効率的にイノベーションを進めるべきか、明確なビジョンを持っていなければなりません。時間や予算に厳しい制限がある中で、中間管理職同士、あるいは中間管理職と経営陣の間に軋轢が存在するなら、企業は掲げた目標に到達することはできないでしょう。

3. IT資産と人材プールの同期

多く産業機器メーカーは、従来型のITツールやソリューションの扱いに苦労しています。デジタルの専門家の多くは、企業や顧客向けのデジタル製品の設計、開発、拡張にはこれら従来型のツールは不適切で扱いにくいことに気が付いています。一方で、中間管理職や経営陣は必ずしも、新しいITやデジタルテクノロジーを活用できるわけではありません。

河野 真一郎

ビジネス コンサルティング本部 インダストリーXグループ日本統括 アクセンチュア・イノベーション・ハブ東京共同統括 マネジング・ディレクター

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Delivering Digital Dividends - image

ある上級管理職が語るように、その結果として、従来型のITに「デジタルという口紅」を塗っただけに終わってしまう場合が多々あります。

ブリュッセル自由大学ソルベイ・ブリュッセル経済経営学院のイノベーション&デジタルビジネス担当教授であるニコラス・ファン・ゼブロック(Nicolas van Zeebroeck)氏は次のように述べています。「新しい情報システムは常に、ビジネスプロセスに混乱をもたらすため、それを導入する企業には「組織変革」と「テクノロジー」の両方に投資することが求められます。現代のデジタル技術を活用するには、作業構造を新しく構築し、新たなビジネスモデルとイノベーション促進に向けた、迅速な調整が必要になります」

「新しい作業モデル、デリバリーモデル、ビジネスモデルを実現するには、スキル、文化、ガバナンスを新たに組み合わせ、組織を根本から変えていくことが必要です。組織改革への、こうした補完的な投資がなければ、テクノロジーによって目に見える成果を達成することはできません」

4. デジタルエコシステムでの成功に向けて、社内のイノベーションを位置付け

製造企業は、社内で設計されたイノベーションと、外部のアジャイルなデジタルエコシステムを連携させる必要があります。さもなければ、イノベーションをサポートする能力に不安を持つ中間管理職や従業員が、エコシステムのエンジニアやイノベーターに自身の仕事を奪われるのではないかと疑心暗鬼になってしまいます。

ゼブロック氏は次のように述べています。「EUの大手企業の多くは、デジタル化が進む未来に備えるため、ときとして取り憑かれたようにアジリティを追い求めます。多くの場合、最初のステップとして、新しいアイデアやソリューションを発案するアジャイルチームやデジタル部門を設立します。しかしその大半は、こうした取り組みを社内外で拡大することに非常に苦労しています。多くの企業において、アジリティは依然としてチームに適用すべき概念ですが、率先して取り入れるべき経営陣においても、完全には統合および適用されていません」

「新しい作業モデル、デリバリーモデル、ビジネスモデルの実現には、スキル、文化、ガバナンスを新たに組み合わせ、組織を根本から変えていくことが必要です」

優秀企業がイノベーション拡大のために講じている4つの対策

本調査により、優秀企業がイノベーションを拡大させ、他社よりも大きな成功を収めるために講じている4つの共通点も明らかになりました。

1:イノベーションを促す価値を定義

優秀企業は、成功させようという組織の意欲が伴わないデジタル関連の試験的プロジェクトは大概失敗に終わり、その一番の原因は目標が明確に定義されていないことにあることを理解しています。目の前にあるチャンスを見極めつつ、経営目線で追求したい市場機会を絞り込んでいます。その上で上級役職者が中間管理職と連携し、「トップダウンでの価値創出」および「創出の途中で起こるイノベーションの行き詰まり」という2つの重要な課題を解決しながら、イノベーションの取り組みを主導し、期待どおりの成果を生み出しています。

2:対外的な価値向上と内部変革の両立を重視

企業が顧客のために対応を試みる内容と、その取り組みを支えるテクノロジーとの間に、分断が見られるケースが多々あります。このギャップは、内部変更の遅延や急増を招く可能性があります。

組み立て製造とプロセス製造の分野の優秀企業は、組織変革とデジタル変革の取り組みを融合させ、「双面型」の組織を構築しています。管理職と従業員は、勾配がきつすぎる学習曲線にはすぐに対応できません。彼らは徐々に習熟を進めることで、次第に必要なコラボレーションと柔軟性に慣れていきます。

実際に、組み立て製造の優秀企業の62.2%は、この「双面型」組織の構築を全社レベルで採用する意欲を示しており、他の組み立て製造企業の52.9%にも同様の傾向が見られます。また、プロセス製造の優秀企業の63.5%は、「双面型」組織の構築を全社レベルで採用する意欲を示しており、他のプロセス製造企業の54.8%にも同様の傾向が見られます。

優秀企業は双面型のアプローチにより、急速に成熟するデジタル技術を継続的に使用し、その中核を成長させるとともに、新しいテクノロジーを活用して、新たな取り組みを開発し拡大できるようになります。

62.2%

組み立て製造の優秀企業の内、組織変革とデジタル変革の取り組みを巧みに融合したいと考えている割合

52.9%

優秀企業に該当しない組み立て製造企業の内、同様のことを達成したいと考えている割合

63.5%

プロセス製造の優秀企業の内、組織変革とデジタル変革の取り組みを巧みに融合したいと考えている割合

54.8%

優秀企業に該当しないプロセス製造企業の内、同様のことを達成したいと考えている割合

3:各事業部門でイノベーションを実現

成功した試験的プロジェクトを拡大・本格化していく際に、優秀企業は、急速に進化するテクノロジーを人材および資産とともに大規模な組織に再統合することの難しさを認識しています。優秀企業は組織の境界内で、新しいデジタルイノベーションの種をまき、有機的に育てます。

優秀企業は新たな人材を採用しながら、その過程で既存の人材も統合およびリスキルします。新しいグループを常に企業の損益と関連付け、説明責任を持たせることで、大規模な組織にPoCを拡大する影響を事前に確認することができます。

4:社内にイノベーション専門組織を創設

優秀企業は、業務オペレーションを支えるためのソフトウェアアプリケーションから、データを取得して分析するプラットフォームに至るまで、「実現要因」を機能させることができます。優秀企業に次ぐ第2、第3群企業の一部も、同じ種類の実現要因を適用し、イノベーションを促進していました。しかし、ニーズが最も高く、最も効果的な利用が見込まれる部門に支援をうまく割り当てることができているのは、優秀企業だけです。

例えば、優秀企業は、製品の設計から拡張に至るまで、必要とするデジタル人材を確実に利用できるよう、新たなパートナーの構築や既存の関係の再構築によって、エコシステムパートナーシップを再定義しています。清華大学経済管理学院の革新/創業/戦略担当助教授兼副議長であるツー・ヘンユアン(Zhu Hengyuan)氏によると、中国企業の多くは、こうした「反復的イノベーション」を得意だと言います。

優秀企業は、製品の設計から拡張に至るまで、必要とするデジタル人材を確実に利用できるよう、エコシステムパートナーシップを再定義しています。

ツー氏は次のように述べています。「優秀企業はまず、最小限の製品やサービスを小規模な市場に投入し、イノベーションのバリューチェーン内の顧客やパートナーからフィードバックを収集します。このフィードバックに基づき、エコシステムの関係者と何度も次回の製品イノベーションに取り組みます。この方法で、製品やサービスを非常に素早くかつ持続的に進化させます」。ツー氏によると、中国の企業は、製品やサービスが販売される状況を常に注視しています。

「中国の企業は、状況に応じて適切な製品やサービスを発表できるよう、素早いイノベーションを重視しています」とツー氏。それが製造環境やサプライチェーン環境など企業内部の状況であろうと、新規市場の登場など企業外部の状況であろうと、関係ありません。

Haierは、自社の運用モデルを「Ren Dan He Yi」(人単合一)と呼んでいます。Renは中国語で従業員を、Danはユーザーの価値を、He Yiは統合とシステム全体の認識を示しています。

優秀企業になるために

テクノロジー主導のイノベーションの時代において、産業界の多くの企業は依然として、デジタルへの移行に取り組んでいます。企業が生き残り、成功するためには、優秀企業に迅速に追い付く必要があり、組織のあらゆるレベルにおいてトップダウンで、適切なツールとチームに最大限の効果を発揮させることが求められます。

調査対象の優秀企業の大半は、何年も前に下した決断によって現在のポジションを獲得していますが、他の企業はこの軌道に便乗することができるというメリットがあります。むやみにイノベーションを開始したり、取り組みを拡大したりするのではなく、獲得したい価値分野を速やかに特定し、明確にすることが重要です。

成功した試験的プロジェクトの拡大・本格化を推進するためには、CXOの下でチームをつくり、自社が適切なプラットフォーム、テクノロジー、スキル、およびエコシステムパートナーを備えているかを評価することが重要です。企業は大規模なイノベーションの前に、待ったなしでデジタルギャップを埋める必要があります。そして、試行と拡大に全社一丸となって取り組まなければなりません。成功を収めるには、顧客のために革新的になろうと切望するのと同様に、自社内に対しても革新的な取り組みを進めることが重要です。

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