行政サービスを市民の視点で実現する「デジタル市民プラットフォーム」が、 デジタルのアプローチで、行政と市民の間の「対話」と「信頼」を創出する。

【はじめに】市民の「関心・期待」を行政サービス向上へとつなげる、デジタルの力

デジタルの普及によって、市民から行政への「期待」はかつてないほどに高まっています。

デジタルが登場したことで、旧来の方法では把握することさえ難しかった市民のニーズも細やかにキャッチアップできるようになったほか、従来では困難だったアプローチで革新的な行政サービスを提供することが可能になりました。

世界各国の共通認識として、行政サービスは「均一で全方位的」に設計され、提供されてきました。しかしこれではニーズが多様化する現代にとって、本質的な課題解決は不可能です。しかしデジタルならば、市民の1人ひとりに直接向き合えるサービスが可能になります。

現代は、市民から行政サービスへの「あきらめ」を「期待」へと転換し、市民の「無関心」を「より良くしていこうという積極的な関与」へと変化させられる最大の好機です。市民が行政サービスの効果を実感し、市民の主体的参加を促すことが可能な未来が手を伸ばせば届くところまで迫っています。

社会と市民と行政の三者が手を取り合う未来が、この「デジタル市民プラットフォーム」によって実現します。平成30年度総務大臣表彰を受賞した、会津若松市とアクセンチュアが取り組んでいるスマートシティプロジェクトにおける事例と合わせてご紹介いたします。

Digital Citizen Platform

【事例】会津若松市の「デジタル市民プラットフォーム」による市民サービス改革

平成30年度総務大臣表彰を受賞した、会津若松市とアクセンチュアが取り組んでいるスマートシティプロジェクトにおける「デジタル市民プラットフォーム」では、市民と行政のコミュニケーションの双方向化を実現し、市民のニーズを細かく拾い、対応を実現する場として、利用が拡大しています。

会津若松市のデジタル市民プラットフォームでは、医療分野などの施策も進んでいますが、本記事では市民とのコミュニケーションに焦点を絞って解説します。

● 課題認識と改革に向けたターゲットの設定
以前の会津若松市では、他の自治体と同様に「Webサイト(ホームページ)が使いづらい」との声がありました。そこでアクセンチュアと同市によるチームは、あらゆる層の市民に全方位的かつ一元的な施策を展開するのではなく、各サービスに応じてターゲット層を設定することを決めました。

● 子育て世代の女性はデジタルと親しんでいる
子育て中の女性は、予防接種や検診などで行政との接点が多いだけでなく、スマートフォンの利用率が非常に高い世代でもあります。そこで母子健康手帳をアプリにしたり、教育関連の情報をアプリで提供したりといった取り組みからスタートしました。

● 母子健康手帳のアプリ(パーソナルデータ活用事例)
母子健康手帳の情報は、マイナンバーの外部の認証システムと連携しています。市のサーバーには、子どもたちの検診のデータが蓄積されていますが、データは利用可能な形で開放されておらず、母親たちは紙の母子健康手帳で自己管理をしていました。

同市はデータを使って利便性を高める方法を検討し、マイナンバーカードによる認証でログインするなど、強固なセキュリティを確保しながら電子上で厳格な本人認証を行える仕組みを構築しました。これにより、利用者は市が把握している予防接種の受診日時などの記録や、次の受診タイミングのお知らせをアプリ等で受け取ることが可能になりました。

このアプリは非常に高い満足度を得ているだけでなく、「オープンデータ」の具体的な活用事例であると言えます。

● 教育関連アプリ
会津若松市の公立の小中学校は、各学校が独自にWebサイト(学校ホームページ)を開設していたほか、児童生徒と家庭との連絡には旧来型の「学校だより」のような連絡手段を取っていました。しかしこのアプリでは、自分の子どもの学校や学年などの情報を登録するだけで、学校側からのお知らせがプッシュ通知で届いたり、カレンダーアプリに行事の予定を登録できたりするなど、非常に利便性の高いアプリとなっています。

また、公立小中学校を1つの共通ポータルシステムで機能するように再構築したため、学校ごとにWebサイトの内容や品質、運用がバラバラであるという問題も解消されました。

● 地域課題である「除雪」関連情報をアプリで通知
冬季の会津若松市における、市民の最大の関心事の1つが「雪」に関することです。市は民間業者に除雪車による除雪作業を委託していますが、除雪車の通過ルートは降雪状況によって日々変化し、事業者がその日ごとに最適なルートを選択します。そのため、市民は自宅前の道路をいつ除雪車が通るのかがわからず、通勤や日常生活に支障がでるケースが常態化していました。

同市では除雪車にGPSを搭載して除雪が完了したルートを開示し、市民はモバイル端末でその情報を確認できるようにしたところ、市民から厚く歓迎され、好意的に受け入れられました。

● 市民の声を受け止める仕組みを取り入れ、双方向コミュニケーションを実現
この「除雪車の位置情報」の機能における特徴は、市民が情報(コメント)を投稿できる機能を実装した点にあります。市民から、特に積雪が顕著な場所についての情報がピンポイントで市側に入るようになったほか、除雪作業への感謝が市民からダイレクトに届くようになりました。

これはかつてなかった効果です。過去にも、苦情を電話等で受けることはありましたが、こうした「市民からの情報提供」「感謝」といった前例はありませんでした。行政側にも市民の関心の濃度を直接感じる仕組みはなく、技術的に可能な場合でも、意図的に回避してきたきらいもあります。

会津若松市は、あえて市民からのコメント投稿を受け入れる方向へ舵を切り、市民との双方向コミュニケーションの実施に踏みこんだことで、市民と行政との間の信頼関係の強化に貢献する結果となりました。

前述のグローバルレポートの通り、市民の多数は「行政を良くしたい」「より良いサービスを受けられるように自ら積極的に働きかけたい」と考えています。会津若松市の除雪情報に関する施策は、まさにその市民の期待を行政が受け止めることに成功した事例であるといえるでしょう。

● 世界的にも先進的かつ成功したといえる事例
デジタルは、アプリ改修なども含めて、そのスピードの速さが特徴です。そのため、「改修は来期予算で行います」というような言い訳による先送りは不可能であり、ユーザーはリアルタイムに改善要望をどんどん寄せてきます。

行政の仕事は法律や条例によって施行され、ときにそれらのルールに束縛されます。しかし市民ニーズに応えるにはオペレーション変革のPDCAを、さらに高速に回転させていく必要があるのです。会津若松市の事例は、欧米でもここまで整備できた例はなく、世界的に目立った成功事例であるといえます。

欧米では主にインターフェースの使い勝手の良さを優先しますが、バックエンドのシステム自体は旧態然としているためフロントエンドと適切に噛み合っておらず、そのギャップを埋めるために多大な人件費を投じて解決させているケースが目立ちます。

また、リアルの窓口とデジタルの窓口の2つを用意しても、受け入れる行政側スタッフは共通という場合は、結果的に二重オペレーションとなってしまいます。こうした根本的な仕組みを改善しなければ、費用対効果を出すことは難しいといえるでしょう。アクセンチュアのデジタル市民プラットフォームは、市民満足度を高めるだけでなく、裏側のITシステムも含めた、抜本的な変革を実現するアプローチなのです。

このように、行政のオペレーションを根本から変革すべき時代になりました。たとえば、わざわざオンラインで受け付けた申請書をプリントアウトして紙ベースで処理し、ふたたびデータ入力を手作業しているようなオペレーションは、まだまだ日本で蔓延しています。

データ活用の恩恵を最大化するには、中間部のオペレーションもデジタル化しなければいけません。エンド・ツー・エンドでのデジタル化が必須です。

● テレビ ― デジタルを日常的に使用していない市民へのデジタルサービスの実現
市民の中にはスマートフォンやPCを利用していない人々も少なくありません。こうした方々へ情報を適切に届けるうえで、有力なチャンネルとして活用を模索しているのがテレビです。

テレビは世代を問わず日常的に広く利用されており、多くの家庭に存在します。日本では地上デジタル放送が行われており、デジタル情報の端末として機能させることが可能です。現在は、テレビでの表示に最適化させたコンテンツ配信の実証実験にも取り組んでいます。

とはいえ、デバイスとしてテレビ(スマートTV)が追加されるとしても、プラットフォームそのものやバックエンドのシステムを変更することはありません。いうなれば、情報の配布先が1つ追加されるに過ぎないのです。このように、システム全体を疎結合する仕組みでデザインしておくことの重要性がおわかりいただけるでしょう。

Use case -Aizu-

●Chatbot「マッシュくん」による地域ニーズの掘り下げ
会津若松市では、40代女性をメインターゲットとするChatbot「マッシュくん」をリリースし、一般的かつシンプルな回答を行うことで、行政サービスへの問い合わせの一部を自動化しています。

Chatbotを活用することで、市民の日常的な行政サービスへの要望や課題をヒアリングし、どのようなことに困っているのかといった潜在ニーズの掘り下げも可能なります。愛着をもてるキャラクターを用意することで利用が促進され、かつ「育てる」意識を醸成することで使い続けてもらえるサービスとして定着することが可能であることも証明されています。

チャットアプリでスタンプや絵文字といった情緒的な演出を愛用している方の多くが、実はAIやアプリに「完璧な回答」は期待していないことがわかりました。ChatbotはAIを継続的に学習させていくことが不可欠です。事務的な言い回しや硬直した表現では、「使えないツール」という烙印を押されてしまい普及しません。それよりも「楽しみながら長く使い続けられる」ことや「適度なゆるさ」「完璧でなくても応援したくなるような演出」といった、これまでの行政サービスにはない視点がデジタルサービスには重要です。

以上のような会津若松市の施策は他の自治体でも応用可能なモデルです。ぜひ地方自治体で参考にし、取り入れていただきたいと考えています。

Chatbot for Citizens

● さらなる住民ニーズの実現 ― エコシステムによるスピーディなサービスの実現
システムを疎結合にすることで、一部機能を民間業者へ切り出して委託することも容易になるため、アプリ層を地元のベンチャー企業でコンペして、より地域に根ざしたサービスを誕生させる機会にもなります。また、学生に開放してハッカソンを企画したり、シビックテックの実現を促したりといったことも可能でしょう。マイナンバーカードの仕組みを利用すれば、本人認証システムを単独の自治体で構築する必要もありません。

このように、疎結合することで、市民サービスを段階的や順次実装していくことが可能になります。市民サービスは、利用者を増やすことが最重要命題です。そのためにはソーシャルログインを活用するなど、利用開始のハードルを下げることが肝要です。会津若松市でもソーシャルログインを実装したことで、利用者が増加しました。

●窓口担当者のワークスタイル改革とマインドセット変革:窓口担当者は来訪した市民に対応し、助成や支援をするといった「手続き処理」が仕事です。そのため「対話」自体にはそれほど価値や重きを置いていませんでした。しかし、生活困窮者や悩みを抱えた方々は「話しをする」だけでも心が安らぎ、安心を得ることができます。このように「手続き」よりも「対話」を必要とする方々がいます。職員も、ときにはジャケットを脱いで、役所のカウンター越しでなく、個人として市民に面と向かって会話することが必要なのかもしれません。行政サービスのあり方を、市民の視点で転換することが必要な時期であるといえるでしょう。

 

行政サービスのデジタル化で、真に公平なサービスの実現へ

Okawara Hisako

市民と双方向にコミュニケーションすることは、市民のニーズを詳細に把握するだけでなく、逆に、まったく価値の無い情報がどれなのかを峻別できるデータ収集を可能にします。そのうえで、適切な根拠や情報をもって、次なる施策につなげて行くことが重要となります。

従来の市民サービスは、まんべんなく広く浅く、全方位に向けたものとして設計されていました。しかしデジタルを利用可能な市民層にはデジタルをコミュニケーション・チャネルとすることで、シンプルな情報提供が実現します。

資源を公平に分配していたことによる「結果的な不平等」から、多数派には厚く、少数派も漏らさない、より良い市民サービスへの転換が可能になります。これには、データ分析に基づいて科学的に行うことが重要です。「声の大きい人の意見が通りやすい」というような状況を改善し、データに基づいて市民1人ひとりによりそった、真に公平なサービスのアプローチが可能になるともいえます。

デジタルの普及によって、市民から行政への「期待」はより高まりました。従来の方法では応えられなかったニーズや、解決できなかった課題に対し、デジタルならではのアプローチで導かれるでしょう。

市民と行政が手を取りあい、よりよい社会を実現していく未来が、デジタル市民プラットフォームによって可能になるのです。

大河原 久子

アクセンチュア株式会社
公共サービス・医療健康本部
シニア・マネジャー

関連コンテンツはこちら


配信登録はこちら(グローバルページ)
Stay in the Know with Our Newsletter Stay in the Know with Our Newsletter