概略

概略

  • 現代の食に関わる産業は、消費者ニーズの変化の影響を強く受けています。食のプラットフォーム化やフードテックベンチャーの台頭、フードイノベーションの興隆はその一例です。
  • 生産現場においてはアグリテックの実践が進んでいます。センサー技術・通信技術の活用、データ分析の実践、ドローンなど新しいデジタルツールの活用といったデジタルイノベーション革新にはそれまでの農業のあり方を根本から刷新しています。
  • 食品メーカー企業は責任ある調達や透明性・安全性を担保した商品・サービスの提供など、社会的役割がますます高まっています。パーパスに基づく自社と社会の関係性の再定義など、経営の根幹に立ち返っての議論が求められています。


本論考の前半では「4つの環境変化」として、日本の食に関する事象とその分析結果を紹介しました。後編(本記事)では、そうした変化の先にある「未来の食のモデルや仕組みづくり」は何かを検討します。歴史的経緯を振り返り、海外における食とデジタルイノベーションの先進事例から得られる示唆を検証していきます。

食の発展史と現代社会 〜農耕からフードテックまで

現代の日本社会では、前編で紹介した4つの環境変化が現在進行形で起こっています。こうした現代社会へ至るまでに、世界の「食の歴史」はどのような変遷を辿ってきたのでしょうか。後編ではまず、人類史の中から食に関する部分を取り出して発展のプロセスを俯瞰します。未来へつながる新たな気づきを得るには、過去の変化を知ることが第一歩として有効です。

農耕の始まりと食の商工業化

食は人の生存に不可欠な要素であり、農耕は食料の安定供給を人類にもたらしました。これを契機して起こった食の工業化・商業化が産業や経済の発展と常に寄り添うように進歩してきたことは歴史的事実です。一例として、7世紀頃の日本や中国では米が税として納められたこと、食料の長期保存を実現する香辛料は高価値で取引され、大航海時代には欧州諸国による香辛料の獲得競争が激化したことなどがよく知られています。

転換点となったのは産業革命です。第2次エンクロージャー(資本主義的農場経営のための開放農地の囲い込み)を通して、資本主義的農場経営が進み、食料を大量生産する社会体制へと段階的に移行していきました。また、冷蔵・冷凍といった貯蔵技術の進歩、鉄道に代表される交通革命によって農産物の貿易は国境や大陸を超えて加速したのもこの時期の特徴です。

現代における食のニーズ

さらに時代が進み、20世紀後半には食品添加物の危険性認知、集団食中毒事件などの社会問題化によって「食の安全性」という言葉が登場しました。生存のための栄養補給手段であった食は、ウェルネスのための食へという転換と市民の健康意識の高まりが進んだといえます。人間の生活水準は食の発展とともに向上してきており、現代の食の価値観の多様化は、現代社会を特徴づける事象の1つです。

昨今では食を通したウェルネスを考える消費者の増加と、そうした消費者のニーズに応えるプレイヤー企業による市場開拓や商品・サービスの提供が進んでいるなど、サステイナブルな食糧供給の実現に向けて、食のプラットフォーム化の取り組みが加速しています。特に、デジタルテクノロジーを活用するフードテックベンチャーの登場により、食品業界で各種のイノベーションが起きていることはご承知の通りです。

日本の食と農水産業の未来 〜新しい仕組みづくり

今、日本の食に関わるプレイヤーは、前編で示した4つの外部環境の変化と、歴史の連続性の先にある現代社会をとらまえたうえで、食とその基盤である農水産業の未来像を具体化する時期に来ていると言えます。

新しい仕組みづくりへのニーズの高まり

農水業や食品メーカーにとって、食品廃棄物問題への取り組みは喫緊の課題である一方、消費者の視点では「生産者の個性・存在を感じられる仕組み」への要望が高まっています。日本では食材通販にインターネットを利用する新しいEC形態がサービス化されており、より質の高い健康を実現するための食のニーズに応えるビジネスが普及しつつあります。

生産現場のデジタル化は言うまでもありません。また、農作物を口に入れる消費者の家庭(調理現場)においても、先端テクノロジーの活用(デジタル家電など)は新しいライフスタイルの提供を実現しています。

コロナ禍前の調査においても外食の割合は微増でした。一方、2035年には調理食品の活用が1.7倍近くに増加*¹するなど、自宅にいながら簡単に調理が済ませられる食品のマーケットは拡大していくものと見られます。これまでの食に関わるバリューチェーンの刷新を前提とした、新しい仕組み作りが必要であるといえるでしょう。

事例に見る「新しい仕組み」

既存の商習慣や流通形態に固執せず、相互の信頼に基づいて民主的に商品価格を決定するコミュニティも生まれてきています。フランスの「C'est qui le patron?!(セキレパトロン:直訳「社長は誰?」)」は、消費者自身が価格や品質、生産者への報酬、家畜の生育方法などに関する決定権を持つ活動を展開している先進的なブランドです。農業と食の先進国であるフランスらしい取り組みであると感じられます。

一般的に食品業界では、価格こそがメーカーや小売店にとって競争力の源泉と位置付けられることが多いものです。生産者の利益の最大化、消費者の価値観に寄り添った商品の提供といった取り組みは発展途上にあるテーマであるため、「公正な価格決定」や「消費者が自ら生産者を選んで購入する」といった考え方は、これから日本で普及していくと考えられます。

特に、デジタルネイティブ世代では社会課題に共感できるかどうかでブランド(商品・サービスのみならず、企業そのもの)を決定したり、身近に感じられる生産者からの購入を選択したりする時代になっています。また、日本経済の将来予測では所得に関する不均衡が進んでいき、2040年頃になると社会階層ごとに異なる食への不安や懸念事項、課題が顕在化すると予測されています。行政機関や企業は、今まで以上に市民1人ひとりに寄り添った対応が求められます。

食の多様化・国際化による変化

食の多様化・国際化は日本国内でも進んでおり、そのキー要素といえるのが、外国人労働者数の増加です。労働者は日本に定着する家庭で家族を本国から呼び寄せ、生活しているケースが多くあります。結果として、日本の食材を使った母国の食文化の再現のほか、宗教上制約のある食品の精査などが進んでいます。

たとえば、ハラール認証は、イスラム教の戒律に則って調理・製造された食品を表す仕組みであり、ハラール認証を取得した食品を扱う店舗やレストランが大都市圏を中心に増加しています。ヒンズー教でも同様に、口にして良い食材・禁止されている食材、調理方法が明確に定められており、それぞれの宗教の伝統や文化を尊重する社会へと日本が転換している具体例であるといえます。

3歳児の食物アレルギー罹患経験率も1999年は7.9%、2009年は14.4%、2014年で17.1%、2019年は14.9%と増加傾向にあります*²。こうした状況を踏まえて食品メーカー各社ではアレルギー対応の商品を開発するなど、積極的な対応を推進しています。

農林水産政策研究所:「人口減少局面における食糧消費の将来推計」農林水産省・農業・農村政策審議会 企画部会(平成26年6月27日)20014年6月

東京都健康安全研究センター:「アレルギー疾患に関する3歳児全部調査 令和元年度 東京都福祉保健局」2020年10月

まとめ 〜デジタルイノベーション時代における食産業の未来

本論考では前後編を通して、食をめぐる日本と海外の現状比較のほか、4つの外部環境変化によって引き起こされる食の世界の変動予測を解説してきました。

特に食に関わる企業には、消費者のウェルネス向上、食体験に関するソリューション提供、デジタル技術の活用による社会課題解決では食のバリューチェーンを俯瞰した、新しいビジネスモデルの構築が求められているとも言えます。

これまで、食品は生産者、加工業者、流通業者、小売店、消費者のバリューチェーンの中で分断されていたといっても過言ではありません。これからはでジタルイノベーションやSDGsの社会的要請の中、食品メーカーを軸とする食のプラットフォームで消費者の体験価値を向上に向けた取り組みが重要となります。

特にメーカー企業には責任ある調達活動として、透明性・安全性の担保がバリューチェーンの中で役割として求められています。あらゆる業界の企業が、自社のパーパス(自社の存在意義や存在理由に立脚した価値観)に直接紐づく「なぜそうあるべきなのか」という原点から議論を深めている今、食品業界の企業においても社会と自社の関係性を再定義し、根幹となる経営理念に立ち戻るときに来ているといえます。

アクセンチュアが提唱する360°バリューは、お客様企業を全方位的かつバリューチェーンをエンド・ツー・エンドで支援するプラットフォームの提供を中心としたビジネス創造をご支援するものです。お客様企業から生活者まで、幅広い成功体験の共有が求められる現代において、アクセンチュアは食品業界の未来創造を伴走するパートナーとして変革をご支援してまいります。

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