デジタル人材の獲得や育成が急務となり、AI研修や資格取得の強化、人事制度の刷新に取り組むものの思うような効果を上げられていない企業が少なくありません。従業員のデジタル化へ向けた研修を多数実施している企業であっても、目立った成果が出ていないのはなぜでしょうか。本論考では、その真因を日本企業の構造や仕組みの中に探りつつ、陥りがちな失敗を「6つの罠」として定義します。その上で、効果的な取り組みとしてアクセンチュア自身の経験・知見を体系化し、柔軟な変化と継続的進化を特徴とする“リビングプログラム”の人材育成サービス「DX University」について解説します。

要約

  • デジタル人材育成は、全社規模のデジタル変革と一体的に取り組むべきテーマです。事業と切り離された研修では、実際のビジネスへの成果はほとんど期待できません。
  • 調査結果から、日本企業の従業員の多くは新たなデジタル技術を身に付けたい、業務で実践したいと考えています。これらのニーズへの対応を阻害する要因は企業自身の中にあります。
  • デジタル人材育成においては、研修、ON&OFF、モチベーション、カルチャー、キャリア、データの6領域で陥りがちな罠があります。アクセンチュアのDX Universityは「4Dサイクル」のアプローチでこれらの課題解決をご支援します。
  • DX Universityは、アクセンチュア自身によるグローバル規模でのデジタル人材育成の経験やノウハウを体系化したものであり、成果創出への最短距離といえる実践的プログラムです。

貴社のデジタル人材育成が期待通りにいかない理由

企業や組織における経営資源の3要素、ヒト・モノ・カネのうち「人材」は今、かつてなく大きい変革期にあります。そのテーマこそ「いかに今後必要となるデジタル人材を定義し、育成し、活躍してもらうか」。企業がデジタル変革を推進するうえで従業員のスキル・マインドの変革は避けて通れないテーマでありながら、経営者や人事部門の責任者の多くがその変革に苦労しているのが現状です。

まずはデジタル人材育成に係る課題について整理し、現状を俯瞰してみましょう。

1:経営サイドの課題認識

新聞報道などでも「デジタル人材育成」のフレーズを目にすることが多い昨今、デジタル人材の育成について何も取り組んでいない企業は皆無といってよく、多くの企業で何らかの投資や、様々な取り組みが実施されています。

一方、経営者や人事責任者でデジタル人材育成の効果を実感している方は少ないと感じています。実施した取り組みの多くは効果を定量的にも定性的にも把握しにくく、またいろいろな施策を有機的に結び付けるのが難しいのが実情です。そのため、経営サイドの課題認識としては、次のような声が多く聞かれます。

  • 各種研修を提供しているが、実際にどの程度スキルがついたか判断できない
  • デジタル人材を育成すると条件がいい会社に転職してしまう、リテンションが難しい
  • なかなか全社横断の取り組みとして広がらず、変化が一部分に留まっている

2:従業員サイドの課題認識

大企業の従業員をヒアリングすると、たしかに研修やトレーニングプログラムは実施されているものの変化を実感できないという声が多数集まります。下記はその一例です。

  • AI講座などを受講したが、業務で実践する機会がない
  • 上司から、研修も重要だが仕事を抜けられるのは困ると言われ、研修への参加を躊躇している
  • 上司にデジタル技術の知識がなく技術的な相談がしづらい上、自分のパフォーマンスが適切に評価されるのかも不安
  • こうした声がある一方で、「もっと学びたい」「変わらなければならない」といった、成長に対して強い意志や意欲、期待を持っている実態も見えてきます。

    従業員からの期待

    85%

    新たなスキルの習得に時間を投資したい

    84%

    デジタルがもたらす自身の業務変化に期待している

    71%

    積極的に新たなスキルの習得に取り組んでいる

    経営層の対応

    54%

    ビジネスリーダーは、AIと人間の共働が自社の成長戦略に寄与すると信じている。ただし、、、

    3%

    従業員の新たなスキル獲得に向けた投資を大幅に増やす計画をしている経営層はわずか3%

    出典:2016以降のTech Vision、Press Releaseにおいてアクセンチュアが実施したクライアント企業の従業員と経営層へのアンケート

    日本企業の仕組みに起因する構造的問題と「陥りがちな6つの罠」

    経営層や従業員が抱いている期待と思惑は、なぜ実践においてうまく噛み合わないのでしょうか。アクセンチュアの検証では、現在の日本企業には、従業員の要望に応える仕組みや制度が社内に存在しない構造的問題と、そうした変革を推進するモチベーションを維持できない企業カルチャーの問題というハードとソフト、両面の問題が浮かび上がってきます。

    更なる検証を進める中で、デジタル人材の育成やデジタル組織の創出において、以下に示す6つの「陥りがちな罠」に日本企業の多くがはまり込んでしまっていることが明確となりました。これらの罠は相互に関連性を持っている点も特徴です。

    1. 研修の罠

    実業務での実践的な応用が想像できず、自分事化もしにくい座学中心のコンテンツ

    2. ON&OFFの罠

    日常業務と研修との環境・前提・テンションが違いすぎるため、研修と業務が断絶

    3. モチベーションの罠

    自己の成長やキャリアとの紐付けができず、“やらされ感”で研修に参加するため、モチベーション維持が困難

    4. キャリアの罠

    スキル習得によって実現する具体的なキャリアや目標を会社側が提示できない、適切なポジションを用意できないといった現実との不一致

    5. カルチャーの罠

    正々堂々と学び合える企業カルチャーを醸成できておらず、外部講師に依存した研修を続けざるを得ないジレンマ

    6. データの罠

    人材育成状況や必要ポジションとのマッチング状況についてデータを活用して客観的に把握することができず、曖昧な感覚値での評価に終始

    全て見る

    これらの罠は、経営層から従業員まで全階層の足元に潜んでいます。特に多いケースとして挙げられるのが、個々人の成長や中長期のキャリアアップよりも目の前の業務の遂行について部下にプレッシャーを掛ける上司や、業務の遅延を恐れて研修等にメンバーを出したがらない中間管理者の存在です。本来ならば変革を率先すべき現場リーダー層の意識改革が喫緊の課題となっています。

    図:陥りがちな6つの罠

    真に効果的なデジタル人材育成プログラムの要諦

    デジタル人材の育成においては、デジタル技術そのものがリアルタイムで進化・発展しているテクノロジーであるという点も課題となっています。AIIoTといったデジタルに関する知見は、組織内でスピーディに共有・活用しながら随時アップデートしていくことで真価を発揮します。従業員の階級や所属部署に関わらず、従業員が主体的に獲得したスキルを自社の変革に活用するカルチャーを浸透させることが重要です。

    一方、こうした組織変革への貢献度は、既存の人事制度では評価が困難です。また、従来型の研修の延長線上でデジタル人材育成に取り組んだ結果、スピード感やニーズに対応できず失敗するケースも散見されます。

    アクセンチュアでは、6つの「陥りがちな罠」を検証しそれらを解消すべく、デジタル変革を担う人材・組織を創出するための30施策を定義しています。この30の施策は全てを一斉に、一律に実施するものではありません。逆に、1つ、2つをピックアップして実施すれば成果がでるというものでもありません。その組織の目指す姿や実態、従業員の状況や現行の人事制度を踏まえた上で最適に紐付けし、取捨選択を行い段階的に実施することが重要です。

    たとえば、最新のDX事例を解説する講義を行うことは容易です。しかしそれだけでは不十分であり、その改革の背景や狙いを理解した上で、自社ビジネスに置き換えて考察したり担当業務において類似の取り組みをするとした場合のアプローチや乗り越える壁をどれだけ描けるかが重要です。さらに、その改革に関わり推進することが自身の成長やキャリアアップ、組織のKPI達成にどのように貢献するのかといったストーリーを伝えることも必要ですし、それらを支える人事制度やプロセスを整備することも求められます。どんなに素晴らしいDX事例の紹介であっても、スポットで実施しても効果は薄く、むしろモチベーション低下などの弊害さえ招きかねません。取り組みを有機的に連携させ、真の価値を創出するには、デジタル時代に適合した人材育成の専門知識と実践経験が必要だといえるでしょう。

    デジタル人材育成には、全社DX戦略との一体的展開が必要

    ここまで、デジタル人材育成に関する経営層と現場従業員の課題に始まり、必要な取り組みの全体像を解説してきました。それでは具体的に、どのようなアクションが実効性を伴う取り組みだと言えるのでしょうか。

    アクセンチュアでは、自社のデジタル変革とデジタル人材育成に世界規模で取り組んできた経験や、あらゆる業界のお客様企業への支援実績を体系化したサービス「DX University」をご提供しています。DX Universityは単なるノウハウ集や教科書的アプローチではありません。前述のデジタル変革を担う人材・組織を創出するための30施策を有機的に連携した、効果検証済みのデジタル人材育成の方法論であり実践に裏付けられた具体的なプログラムです。

    旧来の人材育成プログラムの最大の問題は、拙速に研修を実施して従業員に知識やテクニックを詰め込もうとしがちな点にありました。一方、DX Universityは、その企業において、どのようなデジタル人材が今後必要なのかを明らかにしたうえで、デジタル人材をどのように選抜・評価するか、どう育てるのか、育成した人をいかに配置して活躍させるのか、といった全社DXと一体化した組織改革を伴うプログラムである点を最大の特徴としています。

    DX Universityを構成する「4Dサイクル」

    DX Universityでは、下図で示す「4Dサイクル」および戦略と効果測定のフィードバックのループによってデジタル人材育成を推進します。さらに昨今、4Dサイクルに加えて「データ」を第5のDとしてより強固な人材育成基盤として刷新しました。

    図:DX Universityの全体像

    第1のD ――「Define:人材定義」

    4Dサイクルでは、目的が不明確なままの研修実施を戒めています。まずは自社が求めるデジタル人材を定義し、必要となる人材の質・量を明確化します。このプロセスでは必ず自社の現状把握を伴うため、現実と理想の乖離状況も可視化します。

    つまり、自社のDX戦略のなかに、デジタル人材育成をどのように位置付けるのかという、経営戦略との一体化がプロセスの第1歩です。

    第2のD ――「Discover:評価・採用・選抜」

    自社に必要なデジタル人材を定義したら、その人材をどのように評価するのかといった人事制度との調整を実施します。従業員にはデジタルスキルの習得のモチベーションとなる新しい評価・報酬体系を提示する必要があり、かつインセンティブにもなるメリハリの効いた制度設計へと転換しなければなりません。

    新しい人材を獲得する場面でも、この新評価体系は効果を発揮します。特に個々人のデジタル人材としてのスキルアセスメントは、評価の客観性を担保する上で重要です。

    第3のD ――「Develop:人材育成」

    上記の2つのDを経て、ようやくどのような研修プログラムを実施するべきかの輪郭が明らかとなります。ただし、Developでは日常業務から離れた空間での研修だけでなく、日頃の業務を通じたスキル開発も重視しており、「実業務に活かす」ための施策であるべきと提唱しています。

    第4のD ――「Deploy:適正配置・モニタ」

    本論考の冒頭で、研修で学んだ知識や経験を活用する場がないといった従業員の声を紹介しました。育成した人材が自社に貢献するには、そのスキルを発揮できる場を経営層が提供する以外にありません。つまり、人材育成の仕上げとして適切なポジションで実践を重ねることが必須となります。

    これは単なる異動や組織改変ではなく、自社のDX戦略と同調した配置の適正化を意味します。また、人材が活躍し続けるためには、環境の継続的なモニタリング・改善も必須です。Deployは、組織全体のパフォーマンス最大化のための実行フェーズであるとも言い換えられます。

    第5のD ――「Data:データ・テクノロジー」

    4Dサイクルを支える基盤がデータです。人材の需給状況やスキルアップの実態を効果測定するだけでなく、自社の人材マネジメントモデルが適正に運用されているか、経営層の期待に則した改革がなされているかの判断には、テクノロジーが重要です。また、データを使って育成状況を可視化することは、従業員にとっても納得感の醸成、目指す姿とのギャップ把握、モチベーション強化に有効と言えます。

    リビングプログラムとしてのDX University

    人材育成を事業と切り離すことなく、事業成果や新規事業の創出と足並みを揃えた取り組みを実行するには、上記のような4Dサイクルを継続的に回していくことが重要です。

    DX Universityは固定化したパッケージとしてご提供するものではなく、標準的なベースは持ちつつも、お客様ごとに適応・成長させていくリビングプログラム(進化し続けるプログラム)です。受講生のスキル習得状況によっても調整しますし、何よりも変化の早いデジタル技術やトレンドに合わせて、より実践的・高度なプログラムへとシフトしていきます。あるいは、受講生の中から次年度の講師が登場するかもしれません。

    事業環境の変化や人材へのニーズを取り入れ、絶えずアップデートしながらより良い形へと変形させていく柔軟性やカスタマイズ性の高さがDX Universityの特色です。常に進化することで鮮度の高さを維持できるのもリビングプログラムであるDX Universityならではといえます。

    まとめ:経営層の役割――従業員の志を掘り起こす

    アクセンチュアのDX Universityは、企業のDXと人材のDXを一体化させて推進していくプログラムです。

    多くの日本企業で見られるのが、個々の従業員のポテンシャルは高く、すでに一定レベルの実務スキルを有しているにも関わらず、デジタル人材育成や活躍を阻害する要素が多過ぎるために、人材のDXが期待通りに進まないという事象です。

    たとえば、形骸化した商習慣への固執、煩雑で非効率な業務プロセスによる束縛、自組織の利益追求のための人材・情報の抱え込みが阻害要因の代表的な例です。これらの要因を打破し、全社横断のイニシアチブがデジタル人材育成には必要だといえます。それを言い換えるならば、経営層や管理者の役割は、デジタル人材へ成長したいという従業員の志を掘り起こすことにほかなりません。

    DX Universityは理論と実践に基づきつつ、アクセンチュア自身の変革経験によって裏付けられ、磨かれてきたデジタル人材育成プログラムの結晶です。アクセンチュアはDX Universityを通じて、日本企業の優秀な従業員の方々の新たなスキル獲得とさらなる活躍の場の創出を全方位的にご支援してまいります。

    本徳 亜矢子

    ビジネス コンサルティング本部 コンサルティンググループ 人材・組織 プラクティス マネジング・ディレクター

    関連コンテンツはこちら

    新しいリーダーシップを求めて
    ビジネスと従業員の成長を成し遂げるために

    ニュースレター
    最新コラム・調査をニュースレターで 最新コラム・調査をニュースレターで