半導体企業による新規事業創出の鍵
2019/01/10
2019/01/10
近年の半導体産業の特徴として、企業の収益成長率、すなわち単位投資当たりの収益の伸びが減少していることが明らかになっています。多くの半導体企業が研究開発への投資を増やしているにも関わらず、それに応じて得られるリターン、つまり収益が下がっているのです。収益低下が続くと、体力の乏しい企業は研究開発費の抑制を余儀なくされます。それに伴い、研究開発力の相対的な低下を招き、その結果更なる収益低下に陥ります。
これがまさに、「イノベーションにおける死のスパイラル」であり、各企業はこのスパイラルを回避しなければならず、すでにそのスパイラルに陥っている場合は、そこから早急に脱却しなければなりません。
投資に対する収益が下がっている原因の一つとして、半導体を巡る事業環境の変化が考えられます。これまで業界の成長を継続的にけん引してきたのは、モバイルやPCといった大規模需要が見込める特定アプリケーションであり、各社はこれらデバイス向け製品を大量に製造・出荷することで規模の経済を成立させてきました。しかし昨今、そういったアプリケーションの需要の伸びが鈍化し、それに代わって車載や産業用途で高い成長率が見込まれています。これら用途向け半導体は、適用先のアプリケーションや顧客ニーズが多岐に渡ることから、少量多品種への対応が必須となり、規模の経済を成立させるのが困難になっています。各半導体企業は、そういった用途向けに新製品の開発を進めながらも、少量多品種でも十分収益を上げられるよう、あらゆる業務の効率性を見直し、抜本的変革を行う必要性に迫られているのです。
各半導体企業は、現在の企業収益を担う既存事業の業務プロセスを合理化・スリム化させ、更なる成長を目指さなければなりません。それと同時に、前述したような事業環境の変化に対応しつつ、将来の収益基盤となるような新規事業を育てるといった難題に取り組まなければなりません。弊社ではこの既存事業から新規事業への転換を戦略的に可能にするための手法として”Wise Pivot”という概念を提唱し、それに必要な3つの要素を定義しています。
“Wise Pivot”を可能にする3つの要素とは、1. Transform the Core、2. Grow the Core、3. Scale the Newになります。半導体企業各社はこれら3つ要素に対してバランスよく取り組む必要があります。
弊社では、各企業の既存事業から新規事業への転換に対する取り組みを評価するため、「事業転換力」を定義し、それを構成する指標として「投資余力」と「投資ベクトル」を策定しました。「投資余力」は資金の流動性や調達力などから、「投資ベクトル」は投資の方向性や投資比率などから導き出します。この「事業転換力」をグローバルの半導体企業36社に対して調査を行ったところ、対象企業の約1/3のみが、「成長を加速するための投資を有効に行っている企業」であることが分かりました。つまりまだ多くの企業において、事業転換の取り組みを見直す余地があるのです。
また、イノベーションに対する投資の方向性に関しては、企業規模によってある一定の傾向が見られました。比較的規模の小さな企業は新規事業への投資を積極的に行い、戦略的な事業転換をより頻繁に繰り返しますが、規模の大きい企業は既存事業により多くの投資を行う傾向にあります。そして高い業績を維持している企業というのは、企業の規模に関係なく、既存事業と新規事業に対してバランス良く投資を行っていることも明らかになりました。さらに、これらの分析から、イノベーションに対する投資額と、それによって起こすことができたイノベーションによる収益率との間に何ら関連性がないことが分かりました。
つまり、各企業の規模やその投資の絶対額は、その企業の投資利益率(ROI)を高めることにも、イノベーションの実現を加速させることにもほとんど影響を与えていないのです。言い換えると、このダイナミックに変化し続ける半導体市場において、企業の大小に関わらず、あらゆる企業がマーケット・リーダーとして成功を収める可能性を持ち合わせていると言えるのです。そしてその成功の鍵は、やはり既存事業と新規事業に対するバランスの良い投資であり、それによって可能となる”Wise Pivot”になるのです。