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Utility3.0を占う「エネルギー産業の2050年に向けた展望」セミナーレポート

講師
アクセンチュア株式会社
戦略コンサルティング本部
素材・エネルギーグループ
マネジング・ディレクター
伊藤 剛

デジタル化により、社会の重要なライフラインであるエネルギー業界にも変革の波が押し寄せつつあります。その変革の先には、どのような世界が待っているのか。Utility3.0に向けて世界中で起きていることを理解するため、「エネルギー産業の2050年に向けた展望」と銘打ったセミナー講演内容を紹介します。

アクセンチュア 戦略コンサルティング本部 素材・エネルギーグループ マネジング・ディレクターであり、書籍『エネルギー産業の2050年 Utility3.0へのゲームチェンジ』(日本経済新聞出版社)の執筆にも参加した伊藤剛が、2050年に向けたエネルギー業界の展望を語りました。(以下、伊藤の講演概要)

「5つのD」がエネルギー産業の変革ドライバーに。

Utility1.0はかつての垂直統合型の電気事業を指し、Utility2.0は発送電分離と電力市場の自由化を示しています。その先にあるUtility3.0を占うにあたり、エネルギー産業における変革ドライバーを「5つのD」として整理。

「人口減少(Depopulation)」、「脱炭素化(De-carbonization)」、「分散化(De-centlization)」、「制度改革(Deregulation)」、「デジタル化(Digitalization)」を「5つのD」として挙げました。

「従来の再生可能エネルギーは、“環境に優しいエネルギー”として消費者側への宣伝が意識されていました。ですが今は、そうしたブランディングとは別にESG投資(環境・社会・ガバナンスに配慮した企業への投資)の文脈で持続可能な電源への関心が高まっています。世界の機関投資家は、総資産額の25%超にあたる約2,500兆円をESG投資で運用しており、Appleのようなリーディングカンパニーはサプライヤーにも再生可能エネルギーの利用を推奨しています。この動きの大元にはリーマン・ショックがあり、短期的な財務成果を追い求めず、非財務指標にも目を向けようという反省があります」(伊藤)

ネガティブインパクトを排除できる投資を積極化していった結果、企業がバリューチェーンの中で再生可能エネルギーをどの程度利用しているかが評価の枠組みに入るようになったといいます。今や再生可能エネルギーは、ブランディングから重要な経営課題に変わりつつあります。

「もう一つ、再生可能エネルギーの導入が進んでいる裏側の理由としては価格の低減が挙げられます。日本においても3年前の政府の見通しをはるかに超えるスピードで価格の低減が進んでおり、工場などの非住宅の場合、太陽光パネルの価格はかつての3分の1程度にまで下がり、グローバルで調達できるモジュールと組み合わせると、キロワット時あたり8円を切るところまでコストが下がってきています」(伊藤)

人口減少と電化により、最終エネルギー消費量は大幅に低減

脱炭素社会を実現するためには、再生可能エネルギーによる電源の脱炭素化と、需要の徹底的な電化が考えられます。これらをセットで行うことで日本全体の脱炭素化を実現するのが、考えるシナリオです。

まず電化可能な領域で徹底的に電化を進めたと考えます。2013年の最終エネルギー消費量は12.0エスタジュールであり、そのうち電化部分は3.5エスタジュール。このまま人口減少が進むと最終エネルギー消費量も低減していきますが、さらに需要側を電化していくと、電化そのものも省エネルギーに寄与するようになり、2050年には6.4エスタジュールにまで低減します。(出所:東京電力ホールディングス経営技術戦略研究所) 「日本は2050年目にCO2排出量を80%削減する目標を掲げています。電源の脱炭素化を進めると、CO2排出量は2050年には2013年比で47%削減します。さらに電化を徹底すれば2050年に72%の削減も可能という試算です。80%削減は、決して無理な目標ではないでしょう」(伊藤)

海外では双方向のバリューチェーンが生まれつつある

電力をはじめとしたエネルギー全般は、品質自体で差別化できないコモディティ商材です。例えばスポーツメーカーのナイキの場合は、ランニングという顧客体験を提供してファンをつくり、ウェアなどの商品を提供するモデルですが、エネルギー産業において顧客経験を創出することは困難です。

しかし、消費者の財布の紐は固くなっているわけではありません。アクセンチュアの調査によれば、消費者は商材に価値を感じられれば追加料金を支払う意向があることが明らかになっています。

「たとえば、私の場合、自動車の所有をやめてカーシェアリングに切り替えたのですが、それによってガソリン代という項目が家計から消えました。私は移動というサービスを購入するようになり、エネルギーの料金は意識しなくなりました。カーシシェアリングの場合、顧客は予約のしやすさや車種などに満足できればお金を払います。これと同じように、ビジネスモデルを上手く組み替えていけば、もっとお金を払ってもいいという人は多いのです」(伊藤)

カーシェアリングの例のように、デジタル時代が到来すればエネルギーそのものを購入することはなくなり、エネルギーの先にある体験を購入するようになります。例えば洗濯機は「衣服を清潔に保つ」というサービスの購入に変わり、エアコンは「室内環境を快適に保つ」というサービスに、冷蔵庫は「必要な食材を即時入手できる」といったサービスに変わっていく可能性もあります。デジタル技術によって課金・計量コストも下がってきているため、現在の建物単位の電力契約から、将来的にはエアコンや冷蔵庫などの設備単位でエネルギーを契約する世界が来るでしょう。

そこで新たなバリューチェーンも生まれつつあります。今までエネルギーを購入していた消費者がプロシューマーとして電力会社側に役務を提供する、川下から川上へのビジネスモデルです。自家発電を行うユーザーや需要と供給を調整するモデルを提供するユーザーも登場しており、例えばアメリカのペンシルベニアでは、浄水場のポンプを可変速にして電力をコントロールするモデルもあります。

再生可能エネルギーは発電側での調整が難しいため、調整力の一部を需要側に求めるようになります。この需給調整市場の整備は、アメリカ、ドイツ、イギリスなどの国々が制度設計を急いでいるところです。日本においても、次世代のエネルギー産業をつくる上で参照され始めています。

Utility3.0に向け、世界はどう変わっていくか

Utility3.0は供給サイドと需要サイドの両方が牽引するものになり、既存の事業者は姿を消し、運輸業界などの外部の事業者と融合する新しい市場が立ち上がってくる可能性があります。今、世界の送配電業者の多くが10年以内に分散電源の上限に達すると予測しており、分散電源の統合を実現するための組織能力の向上が世界中で課題となっています。

「アメリカ・ニューヨークでは従来の配電会社の役割を大きく見直そうとしており、エネルギー需給システムの実現に寄与する取り組みにインセンティブを付与しています。電気自動車のオフピーク時間帯に充電するとインセンティブを受け取ることができるプログラムなどを行っています」(伊藤)

太陽光発電についても海外ではいろいろなビジネスモデルが生まれています。太陽光発電に必要な資金を多数の人から調達するプラットフォームや、建材一体型太陽電池といった新しいプロダクトも出てきています。また、地域で生産した電力をP2Pで取引できる地域エネルギー取引システムも世界中で議論中です。イギリスは特に顕著で、技術実証のプロジェクトが進行しているそうです。

また、分散エネルギー資源のマネジメントについては、ブロックチェーンの利用が活発化しています。特にヨーロッパにおいて動きが活発であり、ブロックチェーンの活用をめざして実証実験中の電力売買プラットフォームや、ユースケースの探索を行うコンソーシアムなどが立ち上がっているといいます。

あらゆる課題に共通する「デジタル」というキーワード

今まで説明してきた話に共通するのはデジタルというキーワードです。デジタル化への対応は単なる技術の適用に留まらず、新しいスキル開発やプロセス再設計、ガバナンスの変更など、デジタルに対応した組織の変革=「デジタル・トランスフォーメーション」が必要になります。

「デジタル・トランスフォーメーションに対して、経営のトップが主導して中長期的に取り組んでいかねばなりません。みなさんPoCには取り組んでいると思いますが、そこから先に進もうとして、組織の変革で躓いている会社が非常に多いのです。急がば回れで取り組む必要のある重要な課題です」(伊藤)

今まで競合と思っていなかった企業が競合になる時代。エネルギー事業者は、エネルギーをコモディティとして提供しているだけでは価格競争に巻き込まれてしまいます。消費者を起点に異業種との競合・協業を意識し、単一の商材を売るビジネスモデルから、消費者が求めるものをエンド・トゥ・エンドで提供するプラットフォーム型のモデルへと変化していきます。

まだ課題は数多くあるものの、着実にエネルギー業界には変革が訪れつつあり、デジタルの活用が不可欠なものになってきています。デジタルによってエネルギー産業がどう変わっていくのか。2050年の未来が垣間見えるセミナーとなりました。

素材・エネルギー本部
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