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エネルギー業界
に影響を与える
人工知能(AI)

近藤 英之

素材・エネルギー本部
マネジング・ディレクター
近藤 英之

昨今、あらゆる産業でデジタル技術を活用したビジネスの改革の重要性が叫ばれています。しかし、特にここ2年ほどで急に(技術者・研究者以外の)一般に知られた感のあるAI (Artificial Intelligence: 人工知能)については、一体何者で、何を可能にする技術で、それによって人々の暮らしや産業はどう変わるのか、特にエネルギー業界にどの様なインパクトがあるのか、見えにくい所があるかと思います。

そこで本稿では、そもそもAIとは何で、特に産業で活用が期待されているAIの実態や、それらを活用した際にエネルギー業界にどの様なインパクトが有りうるのかについて、紐解いていきたいと思います。

AIとはそもそも何か

さて、AIとはそもそも何なのでしょうか?

毎日のように紙面には「AI」という単語が踊っており、どこそこのIT製品がAIを採用した、等とうたわれている事も少なくありませんがが、実はAIという総合的な技術は存在しません

皆さんは「AI」と聞くと、「鉄腕アトム」や「ドラえもん」、「ターミネーター」等の、「知能を持って人間のように考え・振る舞うことが出来る機械」を想像するのではないかと思います。これはAIの研究では「強いAI (Strong AI)」と呼ばれています。AI研究の究極の目的は「強いAI」ですが、容易に想像頂ける様に、その実現は非常に難しいのです。

実は、現在のAI研究の対象は、殆ど「弱いAI (Weak AI)」と呼ばれるもので、これは人間の知的な活動の一部と同じような機能を提供するソフトウェアのことです。そして、弱いAIとひと口に言っても色々な種類があり、簡単に分類すると下記の様に分かれると考えられます。

[弱いAIの分類]

  1. 人間の能力の一部を模倣するもの(図中の「知覚」、「情報処理」、「データ活用」、「表現」の部分)
  2. 特定の領域で人間のように問題解決を実施するもの(同「応用」)
  3. 上記を実現するための基盤となる技術(同「ベースとなる技術」)

図1 代表的なAI関連の研究テーマ*1 とその分類

図1 代表的なAI関連の研究テーマ*1 とその分類


実は、昨今のAIブームを牽引しているのはディープラーニングで、昨今のビジネスでのコンテキストでは、「AI=ディープラーニング」と言って差し支えない状況です。その為、本稿では以降特に断りのない限り「AI=ディープラーニング」として話を進めます。

AIは何に役立つのか

さて、前項の分類ではディープラーニングは「ベースとなる技術」の1つに過ぎないことが分かりましたが、そんな1つの技術が何故それ程盛り上がるのか、そこに込められた高い期待は何でしょうか。

ディープラーニングは「ベースとなる技術」なので、その応用の仕方によって色々なことが出来ます。以下では、その例として顔認識、画像認識、音声認識、機械翻訳、等について触れます。

実は、ディープラーニングは一部の領域で人間にも勝る能力を発揮しています。例えば、Facebookの顔認識エンジン「DeepFace*2」では、人間と同程度の認識精度(97.35%)を実現する事に成功しています。
その他にAIが人間に匹敵する能力を発揮している分野としては、画像認識や予測分析が挙げられていますし、音声認識やテキスト翻訳(機械翻訳)についても、実用的なレベルに達してきています。


図2 AI技術の水準と過去3年の進化の度合い

図2 AI技術の水準と過去3年の進化の度合い

音声認識については、お手持ちのスマホに搭載されているSiri (iPhone)やGoogle Now (Android)、また昨今日本でも発売が始まったAI搭載スピーカーのAmazon Echo、Google Homeといった製品からも、その発展がおなじみだと思われます。音声認識自体は非常に歴史の長い研究分野ですが、近年ディープラーニングの活用によって、性能が大きく向上しました。

機械翻訳についても、2016年11月のアップデートでGoogle翻訳がディープラーニングを採用*3し、その精度がグッと上がりました(勿論、人間の翻訳に比べるとまだまだですが、過去の機械翻訳に比べると雲泥の差という印象です)。ディープラーニングによる機械翻訳は、「対訳コーパス」といって同じ文章を翻訳したい2つの言語(例えば日本語と英語)で大量に用意し、それを学習するというアプローチを取りますので、用意できる対訳コーパスの量が翻訳精度を左右します。その点で、日英・英日翻訳は中々の精度ですが、日本語と他の言語の翻訳については、若干精度が落ちる印象です。


図3 Google翻訳による英日自動翻訳の結果例

図3 Google翻訳による英日自動翻訳の結果例

更に、音声認識と機械翻訳を組み合わせて、いわゆる「ほんやくコンニャク*4」 を実現する取り組みもあります。例えば情報通信研究機構(NICT)の開発した音声翻訳アプリ「VoiceTra*5」は、音声入力→入力文章表示→機械翻訳→翻訳結果文章表示→音声出力という一連の流れを自動で実現しています(音声出力は一部の言語で可能)。

ディープラーニングは「ニューラルネットワーク」というAIの一種です。これは、少し難しい言い方になりますが、「人間の脳の仕組みを模して、入力情報と出力情報の非線形な関係性を自動的に学習しようとする仕組み」で、学習のためのデータを大量に集められれば集められるほど賢くなりますし、その内部の学習の仕組みにも日進月歩で色々な工夫が為されています。

内部の学習の仕組みとしては、画像認識で活用されるCNN (Convolutional Neural Network)や、自然言語処理(NLP)や時系列予測に活用されるRNN (Recursive/Recurrent Neural Network)、その発展系であるLSTM (Long Short Term Memory)等が知られています。これらはまさに研究途上の技術で、解決したい問題領域によっては更にこれらの改良型が用いられています。例えばNLPの領域では、RNNの改良型であるBRNN (Bidirectional RNN)等が使われます。


図4 NLP領域での先端研究の例

図4 NLP領域での先端研究の例

こうしてみると、データが揃えば揃うほどディープラーニングは賢くなりますし、またその学習の仕組みの研究も日進月歩で進んでいますので、今後は更に多くの分野で活用されることが期待出来ます。

産業に対するAIのインパクト

それでは、進化したAIは何でも出来る様になり、人間の仕事を取って代わっていくのでしょうか。答えはNoです。

現在のAIの流行を牽引しているディープラーニングは、前述の様に「ベースとなる技術」の1つであり、機械学習と呼ばれるものの一種です。そして、機械学習は本質的には「広大な解空間を効率良く探索し、局所解を求める手段」である、と筆者は考えています。もう少し平易な言葉に変えますと、「解き方があらかじめ分かっている問題に対して、大量のデータを効率良く高速に処理し、良さそうな結果を導き出す手段」ということです。

これはつまり、いかにAIと言えども、取り組むべき課題の「解き方」は人間が教えてあげる必要があるということです。また、局所解云々についてですが、これはAIが「それらしい答え」を効率良く速く導き出す事には適しているが、「正確な答え」を決定的に導き出してくれる事を期待すべきでは無い、ということです。その為、AIの用途は、「あくまで人間の情報収集・処理・判断のサポート」である、と言えます。

そうは言っても、AIは産業の役に立ちます。特に、知的作業において量・質の両面から人間を支援し、働き方を変えると共に生産性を上げることが可能だと考えています。1つ目は「知的タスクの肩代わり」で、比較的労働集約型ではあるものの知的で難易度が高かったタスク(例えば研究・開発における論文や特許の査読)をAIの力で自動化し、人間は本来時間を使うべき創造的な作業に取り組む、というものです。また、2つ目は「アウトプットの均質化」で、ベテランなど質の高いアウトプットを出せる人のノウハウをAIによって抽出し、それらを全体に適用することで個々人によるタスクのアウトプットの質を底上げする、というものです。後者は技能継承の観点からも有効と考えられます。


図 5 AIの産業への活用可能性

図 5 AIの産業への活用可能性

こういった適切なAIの活用を行うことで、知的作業の生産性を向上し、企業の競争力を強化することが出来ると考えられます。

AIの具体的な適用例

それでは、翻って我らがエネルギー業界におけるAIの活用にはどの様な可能性があるのでしょうか。他業界の先進事例も交えて、そのインパクトを考えていきます。なお、本章で「AIを活用」とうたっている部分は、基本的にディープラーニングを活用しているという意味です。

未来を予測する、というのは最もAIの活用が期待される領域の1つです。企業にとって予測が難しい顧客行動や市場動向に対しても、AIによる予測が始まっています。

独ハンブルグでアパレルや靴のオンライン販売を手がけるZalando*6 は、ディープラーニングの一種であるRNN (LSTM)を用いて、ウェブサイト上での顧客の行動(広告のクリック、製品の閲覧、ショッピングカートへの追加、等)を分析し、その後近い将来(7日間)の間に注文に結びつく確率を予測しています*7

エネルギー業界においては、市場自由化に伴い、膨大な数の顧客の理解をどうデジタル技術で推進するかが大きな課題となっていますが、こういった顧客行動把握の事例が役立つ可能性があります。

また、様々な参加者の意図が入る市場の動きを予測する事は非常に困難ですが、ディープラーニングは株価予測に有効であることが分かっています。例えばみずほ証券では、DPN (Deep Belief Network)という手法によって、30分後、1時間後の株価を予測し、自動的に株式売買を行うシステム開発し、一部の機関投資家向けに提供予定です*8

コモディティの市場予測にディープラーニングを適用する事例はまだ少数ですが、今後の適用可能性のある分野の1つと言えます。

AIの活用で購買コストを低減しよう、という取り組みもあります。

スイスのローザンヌ近郊にあるGenLots*9 は、スイス連邦工科大学チューリッヒ校の学内プロジェクトを起源とするベンチャー企業ですが、購買の意思決定に影響を与える要素(安全在庫、価格、取引条件、等)の過去データをディープラーニングで学習し、最適な購買条件を見出す手助けをします。彼らの技術を導入することで、購買コスト全体の5-10%削減する事が可能ということです。

工場など生産の現場では、設備の故障予測にAIの活用が期待されています。

例えばファナックは、AIを搭載し予知保全を行う電動射出成形機を開発しています*10。これは、射出成形機の消耗品である逆流防止弁の摩耗状態をディープラーニングで評価、予測し、消耗品が「壊れる前に知らせる」というものです。

また、ルネサスエレクトロニクスは、AIで学習した故障予測のアルゴリズムをマイコンに実装しています*11。これは、プリンタや複合機などのOA機器の故障予測をするために、OA機器に搭載したセンサー(加速度センサー、MEMSマイク、温度/湿度センサー、電流センサー、紙検出センサー)の情報とプリンタの故障モードとの相関について、GoogleのディープラーニングフレームワークであるTensorFlowを用い学習させたものです。

この様に、センサーの情報と故障状態の情報の相関をディープラーニングで学習させ故障予測や予知保全に役立てる、という取り組みは既に実用の域に入っており、エネルギー業界の現場でも活用が期待されます。

品質管理においても、AIは活用され始めています。

例えばキューピーは、ベビーフード製品に使われる原料の1つであるダイスポテト(さいの目状にカットされたジャガイモ)に対して、ディープラーニングフレームワークのTensorFlowによる画像認識を活用し、不良品を自動で検知するシステムを開発しました*12。この原料は小さく、また1日100万個以上も生産ラインを流れる為、画像認識に求められる精度とスピードは非常に高いものがあります。

こういった高速かつ高精度の画像認識技術は、例えば高速で飛行するドローンから撮影した画像をディープラーニングで高速処理し、設備の温度や錆の状況などを把握する事などにも応用可能で、実際にGE Venturesが設立したAvitas Systems*13 がサービスを提供しています*14

また三井化学では、ガス製品製造過程において、原料や炉の状態などのプロセスデータとガス製品の品質を示すXガス濃度との関係をディープラーニングでモデル化し、プロセスデータ収集時から20分後のガス製品の品質(Xガス濃度)を高精度で予測することに成功しています*15

営業&カスタマサービスの領域でもAIの活用が進んでいます。

既に実用段階に入っているのは、顧客インタフェースの領域です。例えば、オランダの航空会社であるKLM*16 では、米サン・フランシスコのDigital Genius社*17 のAIを活用し、顧客から問い合わせを受けるよくある一般的な質問について、サービス担当者の介入なく自動的に回答出来るようになりました*18

また、デジタルマーケティングの分野にはマーケティング・オートメーションという取り組みがありますが、ディープラーニングの技術により、顧客データや属性情報から自動的に購買につながる特徴を学習し、購買しそうな顧客をセグメントとして抽出することが可能となっています。米カリフォルニア州サンマテオのMarianaIQ*19 は、そういった目的の為のディープラーニングエンジンを開発しており、ジュニパーネットワークスやシマンテックといった企業に利用されています。

コーポレート機能(人事、経理、法務、IT、等)でも、AIの活用は始まっています。

    人事領域
    人事領域においては、労働集約型になりがちな採用活動において、AIの活用が検討されています。

    例えば、学習によってレジュメのスクリーニングプロセスを自動化する、候補者が期待されるスキルを持っているか自動的に判別する、といったことがAIで可能です。

    加トロントのIdeal社*20 のバーチャルアシスタントは、既に過去の何百万という採用判断の実績を学習しており、すぐに顧客の採用プロセスに適用してレジュメのスクリーニングや有望な候補者の探索を行うことが出来ます。

    米サン・フランシスコのMya Systems社*21 は、候補者のプレ・スクリーニングをチャットボットで行う機能を提供しています。クライアントの候補者登録システムに登録した候補者に対し、チャットボットが自動的にフォローアップの質問を投げかけ、その候補者の過去の経験について掘り下げます。その会話の中で、候補者が募集しているポジションに必要なスキルを持っているか、等をAIが判断します。

    米サン・フランシスコのEntelo社*22 は、市場にいる(転職に興味はあるが積極的に活動はしていない)「潜在的候補者」を対象に、AIによって「3ヶ月以内に転職する可能性のある」候補者を見つけ出せる、と主張しています。

    経理領域
    経理領域でも、AIの活用が始まっています。

    例えば、経費精算でAIが活用されています。紙の証憑から支払情報を読み取る際には、OCR (Optical Character Recognition: 光学文字認識)が使われますが、その精度はAIによって格段に上がっています。米ワシントン州ベルビューのConcur社*23 は、レシートや航空券、携帯電話の請求書など、様々な証憑から情報を読み取り経費精算する事が出来るサービスを提供しています。

    更に進んで、会計処理全体を自動化する試みもあります。独ベルリン近郊にあるスタートアップのSMACC社*24 は、中小企業向けにAIで自動化された会計処理のサービスを提供しています。これは、紙ベースの資料(請求書など)を画像認識し自動的に仕訳を起こすだけでなく、過去のデータを学習する事で取引先への支払いなどの定常的な会計処理全体を自動化します。

    法務領域
    法務領域においても、AIが活用され始めています。

    イスラエルのLegalogic社は、企業法務業務での契約書チェックや修正を、AI(人工知能)が自動で行ってくれるサービス「Law Geex*25 」を運営しています。これにより、契約書レビューに掛かる時間が30分の1になるなどの効果が得られています。

    IT領域
    IT領域においても、例えばセキュリティの分野でAIが活用されています。

    米カリフォルニア州アーバインのCylance社*26 が提供するCylancePROTECT*27 は、マルウェアの学習にAIを使い、検知率を向上しつつ過検知を少なく抑えたエンドポイントセキュリティソリューションです。また、より巧妙になるサイバー攻撃に対し、ディープラーニングを使った侵入検知システム(IDS: Intrusion Detection System)の研究も進んでいます。

おわりに

現在のAIブームはディープラーニングによって牽引されており、その活用は産業全体に及んでいます。また、AIは日進月歩の技術であり、今後ますますAIによって可能となる事が増えるでしょう。

AIは第4次産業革命をもたらすと言われ、それは人々の働き方に大きな変化をもたらす事が予測されています。AIに人間の仕事が取られる、といったネガティブなイメージで語られることもありますが、AIの活用は時代の趨勢で、その活用の仕方によっては人々の働き方をより良く変革することが出来ると考えられます。

既に世の中で起こっている変化を認識し、業界や自社がAIを活用する未来の姿を想像し、それに対してアクションを起こす事が重要です。また、それをスピーディに行わなければなりません。

アクセンチュアには、エネルギー産業に対する知見と、他国、他業界を含め、最先端のAIを活用した実績・経験、そしてそれを実行する人材・ノウハウが有ります。是非、ご相談を頂ければ幸いです。


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