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IoTによって実現する製造業の未来の姿

〜地産地消型のものづくり〜

世界中で500億のデバイスがネットワークにつながるIoT。顧客や従業員の動き、設備の状況、お金の流れなど消費や企業活動に関わるあらゆる情報をデータとして可視化、分析し、改善につなげていくデジタルの潮流が加速している。グローバル規模で実施したエグゼクティブ向け調査の結果でも、今後3年以内にIoTをビジネスに活用したいと考えている経営者は95%に達している。その影響は小売、通信、金融など数多くの産業に与えるが、中でも製造業におけるものづくりに与えるインパクトは大きい。IoTによって実現する製造業の未来の姿がスマートファクトリーだ。それは、何を目指し製造業の何を変えていくのだろうか。


Masahiko Niwa
アクセンチュア株式会社
デジタルコンサルティング本部
モビリティサービスグループ統括
マネジング・ディレクター
丹羽 雅彦

従来型ものづくりとの違い


IoTのコンセプトを初めて聞いたとき、従来から製造業で取り組んできたことと何ら変わらない、という印象を持った方も多いだろう。従来からメーカーは工場を中心にサプライヤーやその先のサプライヤー、物流、販売店をネットワークで接続し、完成品、材料・部品の情報を共有化することでマーケットのニーズに応えていた。その取り組みはIoTのコンセプトそのものである。しかしそれはメーカーが主導する参加企業を限定したクローズなネットワークに限られていた。企画、設計から調達、製造、物流、販売にいたる直線型のサプライチェーンを究極まで効率化することで、コストを最少化し変動するデマンドに対応してきた。その実現に向けてサプライチェーン参加企業間でデータフォーマットを取り決め、情報システムを接続することで緊密に情報を交換することにより実現してきたのである。

これに対しIoTでは変化が激化するマーケットに対応するため、自由参加型のオープンネットワークを志向する。細分化された消費者のニーズに対応し、次々と登場する新技術を活用した製品・サービスを供給するため、胴元となる企業はプラットフォームとよばれる場を提供する。プラットフォームを介して標準化されたデータ、プロセスなどの企業間のコミュニケーション手段が提供され、そのときどきに必要とされる技術、人的リソース、生産能力などを持つ企業が経営資源を提供し、ネットワーク型のサプライチェーンを形成する。動的に形成された企業連合により商品・サービスをマーケットに投入していくのだ。



このようなネットワーク型のものづくりの実現によって期待されることの一つに、地産地消型の生産スタイルがある。


地産地消型に向かう製造業


フードマイレージという言葉を聞かれたことはあるだろうか。食品の輸送に伴い排出されるCO2が地球環境に与える負荷を把握する指標で、食品の輸送量×輸送距離で測定される。多量の食料を海外など遠隔地から取り寄せると、それに要する輸送のエネルギーが増加してしまう。また輸送距離が増加することで食材が劣化し、それを防ぐための防腐剤の使用も増える。スーパーの野菜売り場で地産地消食材のコーナーが設けられているのは、地域経済活性化に役立つとともに、地球環境にも優しく、個人の健康にもつながるわけだ。余談になるがフードマイレージという言葉を知ってから、筆者も地元食材を意識して買い物をするようになった。簡単な指標でも明示されることで、消費者の行動様式を変えるのである。

同様に製造業においても地産地消の動きが始まっている。「国内回帰」というキーワードで語られることも多い。製造業はこれまで一極集中大量生産のスタイルを追求してきた。中国、ポストチャイナといわれるアジア各国など人件費コストが低い地域を探り工場を建設し、そこで生産された製品を全世界に一気に出荷するスタイルだ。この際、海上輸送の場合は数十日のリードタイムがかかり在庫コストが負担となる。また航空輸送の場合、リードタイムは短いが輸送コストや環境負荷も大きい。しかしそれを補って余りある製造コスト低減が、一極集中大量生産で得られていたのである。しかし仮に生産コストが地域や生産ボリュームによって変わらないとどうなるだろう。そのような環境下では、地産地消型で少量生産するメリットが非常に大きくなる。輸送に関わるコストが低減されることに加えて、地域ごとのニーズを細かく把握し、生産量を細かく調整することで在庫を極小化するとともに、地域の嗜好にあわせた独自製品を出荷することができるのである。

スマートファクトリーでは、機器や人の動き、サプライヤー情報、市場情報がネットワークでつながれ、リアルタイムでデータ分析し計画が変更される。従来の週次計画などのバッチ型需給調整ではなく、高サイクルで市場に追従することを狙う。また生産はロボティクスを活用して自動化されることで、熟練工の確保に悩むことなく、幅広い地域で生産が可能となる。自動化は少量生産にも有効だ。従来の大規模なラインを持つ工場ではなく、小さな工場を志向する。場合によっては物流倉庫での生産も可能である。

米国で2007年に創業されたLOCAL MOTORS社はその好例だ。社名が示すとおり、一極集中ではなく世界各地に設立されたマイクロファクトリーで、自動車好きのユーザーとインターネットでつながりながら自動車を作ることに取り組んでいる。デザインはインターネットのコミュニティで、プロ・アマ問わず自動車作りに情熱を持つデザイナーがデザインし、コミュニティに登録された膨大なデザインから投票で製造される自動車が決定される。製造工程では共通化された車台の上に、コミュニティメンバーのニーズにあわせたデザイン、オプション仕様の部品を載せていく。マイクロファクトリーでは熟練工と共同でユーザー自らが車を組み立てることもできる。車の情報はオープンソース化されているため、コミュニティメンバーの手により、たゆまぬ改善がなされていく。さらに2015年には世界で初めての3Dプリンターで製造された市販車を発表。今後の展開として、この自動車の企画・デザイン・開発する仕組みが家電など他の製品領域にもプラットフォームとして公開され、オープンコミュニティを拡大させていくことを狙っている。個人向けの車製造で確立したクラウド型製造システムを、家電、アパレル、家具など様々な種類の商品の製造プラットフォームに成長させることで、自社、他社を問わず最適な組み合わせで生産が可能となる「ものづくりの民主化」に向かっているのだ。


究極の自律型エコノミー


IoTが進化していくと、究極には世の中のデマンドの動きにあわせてサプライが自動で決まる自律型エコノミーが登場する。これまでは市場の変化と供給可能量を加味して需給調整するプランナーが「計画」を立案し、生産、市場へ商品を供給してきた。しかしそこには人々の思惑や予測精度のブレなどにより、過剰な在庫や欠品、結果としての処分品を生み出した。しかしIoTにより世の中の動き、消費者の動きが捕捉され、また供給サイドにおいても各社の工場がつながり、リアルタイムで生産量を決め、少量生産できるようになると、「計画レス」の自律型エコノミーが可能となる。各家庭での消費状況、ソーシャルにおけるコミュニティ活動の動向、市況、天候などの世の中の動きが必要量を決める。それに追従する形で、小売業では各家庭に商品を自動補給する。メーカーおよび原材料メーカーは、発注が来る前に実需を補足し生産準備し、供給に備える。電力会社はそれら消費者の活動、企業活動をもとにエネルギー供給量を決定する。

ここでスマートファクトリーの果たす役割は大きい。自律型エコノミーでは単なる情報を媒介者や、個別の意図を追加するだけのプランナーは駆逐される。例えば家庭の日用品を例にとってみても、無数の発注行為、計画行為が発生している。家庭で日用品の補充の計画を作り買い物リストを作成する。小売店では商品補充計画と商品の発注。それをうけたディーラーからメーカーへの発注。メーカーでは生産計画に応じて部材の発注。さらに材料の発注とチェーンは続く。その間のリードタイムを埋めるべく在庫が備蓄される。自律型エコノミーでは家庭の消費状況などのニーズに応じてオンデマンドで自動補充がされるが、その実現に必要とされるモノ、お金、情報の流れのうちデジタル化できないものは、モノの流れである。お金、情報はリアルタイムに処理されるが、モノは生産、物流のための時間が必要だ。そのためモノのオンデマンドな供給をいかに実現できるかが自律型エコノミーのキーであり、マイクロファクトリー化された地産地消型のスマートファクトリーは実現の重要なインフラとなるのである。