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10年後を見据えた日本半導体メーカーの競争戦略

企業変革全般プロジェクト支援、各国の半導体産業の将来に視座を提供するための研究活動を継続的に行うアクセンチュアのグローバル「セミコンダクター・グループ」東京事務所の研究活動ご紹介。

<はじめに>
アクセンチュアのグローバル「セミコンダクター・グループ」は、グローバル売上上位20社のうち18社とのビジネス実績を保有し、事業戦略、経営管理、SCM、CRM、R&D戦略といった企業変革全般のプロジェクトを支援するとともに、各国の半導体産業の将来に視座を提供するための様々な研究活動を継続的に行っている。本稿では、日本半導体業界の10年後をテーマにした東京事務所での研究活動の一部をご紹介する。

半導体業界を含めたエレクトロニクス業界の再編という言葉が新聞・雑誌を賑わせている。1980年代に世界をリードしていたわが国の半導体産業は、今や抜本的な事業構造改革が求められている状況にある。翻って社会生活を見てみると半導体産業の意義は大きい。パソコン、デジタルカメラ、ポータブルMP3プレーヤーといった、20年前の国民生活からは想像もできなかったような便利な製品を次々と生み出してきたのは言うまでもない。半導体産業が日本の社会生活を豊かにする為の中心的技術を担ってきた証である。

今後も半導体産業はネットワーク家電等の様々な革新的製品やそれに付随するサービスを生み出し続けることで社会生活に貢献していく事が期待され、国家戦略であるu-Japan戦略(e-Japan戦略の後継)で描かれているような「いつでも、どこでも、何でも、誰でも」ネットワークに簡単につながるユビキタス社会は、日本半導体産業の発展なくしては不可能とも言える。

そこで今回は日本半導体産業復活への大いなる期待をもとに、10年スパンという長期的視野に立ち、2015年に向けた日本半導体メーカーの基本戦略を一考してみたい。

いまだシリコンサイクルが存在しつつも、世界半導体市場はこれまで右肩上がりで成長を辿り、直近10年間で約2倍の規模に成長してきた。将来もさらなる成長が期待されており、今後10年間で現状の2300億ドル規模から4900億ドル規模へとさらに2倍の成長(年平均成長率=約8%)が見込まれている魅力的な市場と言える。

一方、対照的に日本半導体メーカーのシェアは1987年の50%近いシェアをピークに、現在は20%程度まで下降の一途を辿っている。今後も成長を続ける世界市場の中で日本半導体メーカーがそのポジションを回復していくためには、長期的視点で市場や競争環境の変化を的確に捉えた基本戦略の強化が必要と考える。

<10年後の半導体市場:3つの特徴>
10年後の半導体市場は単純に規模が拡大するだけでなく、質的にも変化する。我々は2015年における半導体市場には、(1)“Japan Passing”、(2)“新・異領域への広がり”、(3)“フラグメント化(細分化)”といった3つの特徴が見られると分析している。

(1)“Japan Passing” 【図2】

図2は半導体の最終消費地別、すなわち半導体を搭載した最終セット製品(アプリケーション)の消費地別での半導体市場動向を分析したものである。〔*半導体自体の消費地ではないことに注意〕

横軸が現状の市場規模、縦軸が今後10年間の市場成長率、円の大きさが2015年の市場規模を表している。これによると、今後の半導体市場の主役は「依然、規模の大きな欧米」と「成長著しいBRICs」であり、日本はこれまでのような第3極という位置づけでなくなってくることに着目して頂きたい。

つまり、半導体メーカーは欧米やBRICsで勝てるセットメーカー/アプリケーションプレーヤーと共に生きていかなければならず、日本以外で日本製半導体をいかに浸透させるかを考えなければならない。

(2)“新・異領域への広がり” 【図3】

図3はアプリケーション別に半導体市場を分析したものである。やはり10年後も既存の大市場であるコンピューティングや携帯・家電といった領域が相変わらず大きいものの、図の右上にイメージ円で表したように、我々は今後これらのアプリケーション同士が融合し新たな市場が生まれると考えている。市場の規模や立ち上がり時期にはまだ不確定要素が残っているが、10年というスパンで考えた場合、「デジタルホーム」(注)サービスや「固定-携帯通信融合」サービス等の市場は高い確度で創出されるものと想定できる。

また、図中左側 赤い点線枠で囲ったような「自動車」や「医療」など、これまでのエレクトロニクス分野とは異なる領域の市場も急進してくる。これは顧客特性や競合なども異なる市場である為、攻略の切り口も異なってくるものと思われる。

(3)“フラグメント化(細分化)”

同じくアプリケーション別に市場を見た場合、もう1つの特徴は「細分化」である。例えば50億ドル以上の市場規模を持つアプリケーション分類(セグメント)の数をカウントすると、2005年には10しかないものが2015年には26に増え、合計で市場全体の7割以上を占めると予測されている。つまり、これまで多くの半導体メーカーがみな同じ主戦場で競合してきた状態から、将来は各プレーヤーが自社のテリトリーを見つけ、棲み分けながら戦うという余地が生まれると想定される。従って、事業ドメイン選択に対する戦略的発想とポートフォリオマネジメントが重要になると言える。

3つの特徴から考えられることは、2015年の半導体市場は成長ポテンシャルと新たな変化が想定される非常に機会に満ち溢れた市場であると同時に、競争のルールが変わることで現状のポジションに関わらず今後の各社の動き方次第で勝者・敗者は変容する、ということである。

<競合環境>
一方、競合の動向を見てみると、現状の勝ち組プレーヤーは自社の強みに応じて集中と選択を実行しつつ、多くの資本を将来性あるデジタルホーム市場などへの参入準備にあて、将来の覇者を狙うべく既に動き出している。また、自動車・医療市場など異領域についても専門企業や注力企業が取り込みを狙っている。さらには今後BRICsなどの成長地域に根付いたローカルニーズを熟知し、かつ安価な労働力を活かしたローカルプレーヤーの登場も10年というスパンでは想定しうる。

例1) デジタルホームへの取り組み事例:

  • インテル: インテルキャピタルが重点投資対象分野としてデジタルホーム分野を掲げ、総額2億ドルの基金を10年以上にわたり様々な企業に投資。(近時、収益悪化に伴い事業整理を行うも、デジタルホームに関連する事業については整理対象とはしていない。)

  • サムスン: 重点分野に対し、今後5年間で5兆円規模の投資を実施。特にデジタルコンバージェンスに注力

  • クアルコム: 携帯を軸に家電との融合を可能とするチップセット/ソリューション開発に注力

  • テキサスインスツルメンツ: 「リビングルームコンセプト」を掲げ、ウェラブル(携帯)・オートモーティブ(自動車)・通常のリビングルーム(家電)を重点対象としている

例2) 自動車・医療市場など異領域への取り組み事例:

  • トヨタ: ハイブリッド車向けコア半導体自社開発

  • フィリップス: メディカル領域への注力(半導体としては別会社化され買収対象の可能性も)

従って、市場が魅力的である一方で、新旧競合プレーヤー間で激しい戦いが繰り広げられることが想定され、日本半導体メーカーが優位性を構築する為には戦略的なアプローチが不可欠であることは言うまでもない。

<日本半導体メーカーの取るべき基本戦略>
このような10年後の事業環境を見据えて、日本半導体メーカーが今後取るべき基本戦略はいかなるものか。日本半導体メーカーが持つ強み、例えばグローバルブランドを持つ総合エレクトロニクスメーカーが多いこと、先進性ある日本市場を足場としていること(特に光回線基盤・携帯・自動車・ICカードなど)、グローバル競争力の高い半導体材料・装置メーカーの存在(先端技術共同開発の余地)なども踏まえて、我々は以下の3つの戦略オプションを提唱したい。

(1)ヒットイノベーション戦略(垂直統合モデル)

松下・ソニー・シャープなどが既に志向している姿に近いが、自社セットブランドを活用し、世界で売れる製品開発を半導体部門側がイニシアティブをとりながら実現していく戦略である。つまり半導体部門から“世界で売れる”新たなコンセプト商品の提案や技術開発を牽引していくというものである。

この戦略を従来の垂直統合モデルと分けて考えるべきなのは、単にセット部門の要求に半導体部門が応えるという構図ではなく、現状の商品競争力や今後の商品開発戦略に応じては、半導体部門がセット部門に対してイニシアティブを取れる状況を作ることが重要である、という点である。

さらにこの戦略を取る際に課題となるのは、自社セット製品の差別化要素を握る半導体コア技術をブラックボックス化しつつ、いかにタイミングを見計らって外販につなげ利益を得るモデルを構築するかという点である。この点、日本が世界に誇る自動車産業におけるトヨタ・デンソーなどのセット側と部品側のつかず離れずのバランスを取った関係性が参考となろう。【図4】

(2)デファクトイノベーション戦略

日本の設計・プロセス技術力をテコに海外メーカーがマネできないデバイスを製造し、世界的にシェアを獲得しうる戦略パートナー(顧客企業)と密に連携しながら、主戦場におけるデファクトスタンダードを握る戦略である。ある意味、①の戦略を他社セット部門と組むパターンとも言える。

特に安全性などの面で高品質・高精度なデバイスが求められるアプリケーション分野で、かつ日本という地の利を活かした戦略実行が想定される。例えば、トヨタ・日産・ホンダなどの自動車メーカーをうまく戦略的パートナー顧客としながら世界市場でのデファクトを握ったり、ユビキタスの世界で先進性を持つ日本市場を実験場にしながら将来的に世界で勝てるプレーヤーを目利き・連携し、世界にチップをばら撒ける形にマイグレーションするパターンなどである。

(3)ニッチトップ戦略

市場は細分化する為、ニッチトップ戦略も有効であると考えている。自社の技術的強みに徹底的に拘りながら、資本を集約し、狙うべき市場を絞る。できる限り競合が少ないホワイトスペースを狙ってトップの地位を確立し、収益性を確保できる市場を手に入れてからさらに一つひとつ事業ドメインを拡大していくという戦略である。既存メーカーだけでなく日本発のファブレスなどが取りうる戦略と言えよう。

<基本戦略実現に向けたアプローチ>
各社の取る戦略に応じてアプローチは異なるが、戦略実現の為には次のような変革が必要と考える。 【図5】

A)集中すべきコア領域の識別 と B)ノンコア領域の効率化

「事業ドメイン」と「機能(バリューチェーン)」の両面について、コアとする領域を識別しなければならない。 日本半導体メーカーの多くはこれまで、ほぼ同様の事業ドメイン(デバイス)で競争し、ビジネスモデルもIDM型がほとんどであった。近年、各社の戦略に少しずつ色が付き始めたとはいえ、個社別の差異をより明確にしていく必要があるのではないだろうか。

まず自社の強みを客観的に把握し、資源を集中すべき事業ドメインを明確化。さらには柔軟にポートフォリオマネジメントを可能とするケイパビリティを構築する必要があろう。バリューチェーン上における機能領域についても同様である。設計に資源を注力するのであればファブレス化をドラスティックに進め、富士通のように先端ファブを用いたファウンダリビジネスに取り組むことも考えられる。

バリューチェーン上で自社の強みに資源を集中するということは、それ以外の部分は積極的に他力(外部プレイヤー)を活用(支援・育成も含む)するということである。これまで自前主義中心のIDMモデルだったバリューチェーンの組み方を、他社との協業を前提とした「ネットワーク型IDM」とも言うべきモデルへと進化させていくことも求められるのではないか。

コア領域への集中は裏を返すとノンコア領域の効率化に取り組むということであり、事業売却をはじめ、アウトソーシング・オフショア活用などによるコスト削減を徹底的に推進することが求められる。 IT領域のアウトソーシングについてルネサステクノロジやエルピーダメモリが弊社と共に取り組みを開始しているのは、この流れに沿った動きと捉えることができよう。 今後このように各社が自発的にコア領域への集中を進めることによる、前向きな事業再編・効率化への取り組みが進展することを期待したい。

C)イノベーション創出の仕組み作り

いずれの戦略オプションにしろ、他社に追随されないイノベーションは不可欠であり、かつて資源のない日本メーカーが強みとしてきたケイパビリティである。しかし、国内の理系人口の減少や技術者の国外流出、中国・インドなどの技術力の向上と大量の技術者排出など日本半導体産業がイノベーションを創出する環境としては時代の流れは必ずしも容易ではない。半導体産業全体として日本流のファブレス・ベンチャー醸成の仕組み構築や技術者インセンティブ制度の拡充によるスター技術者の育成、さらにはインド・中国などの技術者活用などイノベーションを支える仕組みを構築していくことが求められている。

D)セット統合IDMとしてのグループ利益最大化(内/外販戦略策定)

基本戦略①を取る垂直統合型の場合は前述したように内外販戦略の構築が重要になってくるものと考えている。セット部門に対する技術営業の強化のみならず、将来的なチップの外販を見据えて、当初から汎用化までを考えられる優秀なエンジニアを配置したり、R&D予算や市場開拓/マーケティング予算を割り当てたりしておくことが必要であろう。営業面でも特に、従来の内販とは違う(御用聞きにならない)外販営業の育成が鍵を握る。

E)グローバル展開

基本戦略②や③を取る場合、自前で顧客開拓を行なう必要があり、将来市場を見る上では国内だけに目を向けていてはならず、グローバル展開力が重要である。単に海外進出すればよいというものではなく、どのような顧客を獲得することがグローバル展開に繋がるかというグローバル展開戦略に基づいて、自社に必要なグローバル展開力を構築する必要がある。

F)マーケティングケイパビリティ強化

市場が大きく変わる時代においては半導体メーカーは単にデバイスという範囲で物事を考えていてはいけない。常に市場のニーズ・アプリケーションの動向などの情報収集・分析できる仕組みを持ち、顧客の動きを読み取りながら、価格戦略やチャネルマネジメントなどマーケティングを実施することが求められるであろう。マーケットセンシング(情報収集)やプライシング戦略を構築するための仕組みをグローバルでは取り入れている半導体メーカーも存在しており、マーケティング力強化は日本半導体メーカーの課題と言えるかもしれない。

以上、基本戦略に従ったアプローチに半導体各社が取り組み、さらには官・学も一体となって日本半導体産業を下支えすることで、2015年 日本半導体産業の復活に向けて早急かつ着実に変革への第一歩を踏み出すことをあらためて提言したい。

※本研究は2005年 に実施したものです。

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