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ICT二流国への転落の回避 後編

ICT二流国への転落の回避、後編。5つの観点で企業ITの課題と解決の方向性を示しながら、そのIT改革において経営者が果たすべき3つの役割について、アクセンチュア代表取締役社長 程近智が解説します。

~今、ITに求められる5つの観点とは?~

ITジャパン2012 程 近智講演記録

今、企業のITに求められることは、ますます高度化しています。

その背景には、ビジネストレンドの変化があります。注目されるのはモノとサービスの連携、顧客参加型の製品・サービスの開発といった動きです。また、アナリティクスの分野に目を向けると、先進企業は過去の分析だけでなく、未来の予測を実現しようとしています。さらに、所有から利用へというトレンドも見逃せません。

このような動きを受けて、ITに求められることは大きく5つ。商品のIT化、顧客経験価値の向上、データ重視のリ・インテグレーション、レガシー構造改革、エンタープライズIT人材の転換です(図表参照)。以下、順番に説明します。

今、企業ITに求められていること(クリックすると拡大画像が開きます)

第1に、商品のIT化。典型的な成功例はアップルでしょう。iPodを起点にモノとITを融合することで、アップルは鮮やかにスマートなエコシステムをつくり上げました。ITでエコシステムを形成して付加価値サービスを提供する。そんな取り組みは、トヨタ自動車がSNSを活用して展開している「トヨタフレンド」にも見られます。

また、多くのメーカーが競って「モノ+IT」の商品開発を進めています。この動きはスマート家電だけでなく、カーナビや文具などさまざまな分野に広がっています。

ITを活用した新サービスの開発もあります。例えば、GMはクルマと運転の診断を組み合わせて、安全運転のドライバーには損害保険料を割引するというサービスを提供しています。ITによるサービスを既存事業に付加することで、新しい価値を提供しようという考え方です。

第2に、顧客経験価値の向上です。そのベースにあるのが、前編で述べたコンテクストに応じたITサービス。背景情報と組み合わせて顧客をより深く理解することで、「一人十色」のサービス、絶妙のタイミングでのサービスが可能になります。One to Oneマーケティングという言葉は以前からありますが、それが本当の意味で実現しつつあるといえるでしょう。

■リ・インテグレーションとレガシー構造改革

目の前の顧客に最適なサービスを提供するためには、それを支える強固な仕組みが欠かせません。そこで、第3にデータ重視のリ・インテグレーションが求められます。

企業内には多様かつ膨大なデータが存在しますが、それらは必要に応じてすぐに利用できる環境にあるでしょうか。事業や部門ごと、あるいは顧客や製品ごとに分断されているケースが多いのが実情です。これでは、データを活用し尽くすことはできません。これからの時代、手持ちのデータを縦横斜めに活用するための基盤、読み解ける分析の基盤が欠かせません。

社内データだけでなく、外部のデータをいかに取り込むか、あるいは捨てるかという視点も重要です。また、データそのものはもちろんですが、そのデータを「誰が、いつ、どこで作成したか」といったメタデータにも注目すべきです。さらに、こうしたデータを外出先も含めて利用したいときに、セキュアに利用できる環境も求められます。そのためには、多様なデバイスへの対応を意識する必要があります。

第4に、レガシー構造改革です。大企業は数百、あるいはそれ以上のアプリケーションを運用しています。メインフレームで動いている重厚なシステムや作りこんだERPもあれば、周辺業務用のシステムや部門単位で開発された簡易なツールもあります。前者は基幹IT、後者はロングテールITといえるでしょう。

基幹ITは導入コスト、運用コストともに高価です。100億円で導入したシステムなら、おそらく保守だけで年間30億円程度かかっているでしょう。更新までの期間は長く、平均で13年も使われています。ここにリストラのメスを入れる必要があります。

大規模で複雑、かつ高コストの基幹ITを今後10年にわたって利用するのではなく、10年分の保守費の半分を投資し、複雑性をできる限り排除して刷新する。そんな思い切った施策が求められています。

一方のロングテールITは小規模システムが多いので、1つ1つの保守費は目立ちません。しかし、すべてを合わせれば年間数十億円に達するという企業も少なくありません。この分野では汎用サービスの活用、他社との共有などの選択肢を検討すべきでしょう。もちろん、クラウドは有力な候補になるはずです。

■エンタープライズITの最適化に向けた経営者の役割

最後に、5点目のエンタープライズ人材の転換です。レガシー構造改革やクラウドの導入などに伴い、IT部門も変化を迫られています。これまで社内システム開発や運用などに携わっていた人材の再配置、そしてスキルやマインドセットの転換を促す必要があります。

企業として顧客に価値を提供するために、IT人材はどうあるべきか。そんな視点でエンタープライズIT人材を捉え直すと、いくつかの課題、不足するスキルが浮かび上がってきます。

例えば、グローバルな業務に対応できるIT人材、コンシューマITをてこにエンタープライズITを変革するIT人材、データの整備や分析のスキルを持つIT人材など。今後は、こうした能力を持つIT人材の育成が急務です。一方で、既存システムについては標準化やアウトソーシングを進めて身軽な体制に移行するなど、メリハリのある人材活用が求められています。

以上、5つの観点で企業ITの課題と解決の方向性について述べました。では、経営者はそのIT改革にどのように向き合うべきでしょうか。ここでは3点を指摘したいと思います。

第1に、経営者には仮説・検証型組織への大改革をリードする役割があります。従来の仮説・検証でしばしば見られるのは、部門ごと、事業ごとに閉じたループを回しているケースです。PDCAを実践しているといってもその効果は限定的で、ともすれば部門最適化の方向に流れてしまいます。

目指すべき方向は「顧客のため」の全体最適化です。部門ごとのループを回す一方で、部門横断の仮説・検証ループを構築する。その基盤として、分析の仕組みは欠かせません。

第2に、IT部門の戦略的な位置づけの再考。コアと位置づける場合、ビジネスモデルの強化、商品力強化といった戦略的役割を担うIT部門の機能を拡充する必要があります。組織面、あるいは予算や権限の面を含めて考えるべきでしょう。また、ノンコアと位置づける場合の方向性は、徹底的な効率化と外部ベンダーの活用です。

このように、コアかノンコアかを明確にした上で、「自社のIT部門は何で勝負するのか」を示すのです。それは先端ノウハウかもしれませんし、組織のスケール、あるいはスピードかもしれません。すべての要素で世界レベルを目指すのは難しいので、絞り込んだ強みに注力する必要があります。

第3に、以上の2点を踏まえて経営者自身の役割を再確認することです。IT部門に任せておけばいいという時代は終わりました。ITに関わる組織や人材の変革が求められる今、エンタープライズITの最適化に向けて、経営者には大きな役割が求められています。

ITジャパン2012 程 近智講演「ICT二流国への転落の回避」に関するお問い合わせは、お問い合わせフォームをご利用ください。

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