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デジタル変革に向けたモバイルサービス開発の考え方



デジタルコンサルティング本部
モビリティ・グループ
シニア・プリンシパル
樋口 陽介
「モバイルファースト」という言葉に代表されるように、今日ますますデジタル変革におけるモバイルの重要性が増してきている。テクノロジーの進化に伴い激しく変化する環境の中で、企業は自社のビジネスにおいてモバイルサービスをどう位置づけ、活用していけばいいのか。ユーザー・エクスペリエンスの意義、デジタル化の潮流の中で生まれつつある新しいトレンド、さらに先進企業の取り組みも紹介しながら、企業が今後備えるべきポイントを示す。

モバイルファーストの意味

2015年頃に日本でも人々がインターネットを利用する端末がPCからモバイルにシフトした。
App Annieの調査1によると、国内ユーザーは平均100個のアプリをモバイルにインストールしている。そのうち1カ月に1度の頻度で利用されるアプリは平均30個、毎日利用されるアプリは10個とのことだ。
1App Annie『消費者のアプリ利用状況 Part 1』
https://www.appannie.com/jp/insights/market-data/new-app-usage-report-how-many-apps-do-users-install-a-month/


「モバイルファースト」という言葉がある。2009年に元・米国Yahooのチーフデザインアーキテクトだったルーク・ウロブルスキー(Luke Wroblewski)氏が提唱した概念で、米国で一気に広まった。顧客接点がモバイルにシフトする、ということなのだが、大事なのは「モバイル対応を最優先」ということではなく、モバイルを一番と考えると、ユーザーとの付き合い方も変わるため、これまでの考え方をごろりと変えなければならない点にある。
モバイルファーストの実践により「ユーザーが本当に必要とすることにフォーカスすること」で、「これまでにできなかった方法でのイノベーションが可能になる」という。

すべてユーザー・エクスペリエンスによって決まる

モバイルによって何がどのように変わるのか。まず、モバイルでサービスを利用してもらうには、アプリを提供するか、モバイルWebを提供するかの二つの方法がある。日本でも2008年にiPhone3Gが発売されてから「ネイティブアプリか、モバイルWebか」という議論が延々と続いてきた(今もある)。曰く、アプリはWebに比べてできることが多いので、技術的にはアプリのほうが望ましい。あるいは汎用性のある技術を利用でき、提供者の望むタイミングで更新メンテナンスができるためWebのほうが望ましいといったように。

しかし、現在では技術的問題は概ね解消され、ネイティブアプリでできることはWebでもほぼ実現できるようになった。アプリかWebかという議論は「どちらがユーザー・エクスペリエンス(利用体験)を考えて最適か」で決まる。そう、ようやく「モバイルファースト」の本然に辿り着いた。

ニールセンの調査『Digital Trends 2016』2では、面白い2つのメッセージが読み取れる。1つ目はいったん「手の平の上の一等地」をアプリで確保できれば非常に強力なつながりを持てるということ。2つ目は、必ずしもアプリ優位とは言えず、アプリとWebの利用実態は提供サービスによっては今でもくっきりと分かれているということだ。

例を見てみよう。ここに2つのモバイルバンキングサービスがある。1つはA社のネイティブアプリとして提供されている。もう1つはB社のモバイルWebサービスとして提供されている。

A社のアプリでは、どこでもサッと残高が見られて振込を簡単できる工夫が詰め込まれている。しかし全てのサービスをアプリで利用できるわけではない(これは基幹システムなどの仕組みなどに依存する)。一部のサービスを利用する際にはアプリでは完結せず、iPhoneならばSafariなどのブラウザが起動されてWebに切り替わり、そこで一度操作が切れる。些細なことに思えるかも知れないが、たとえば投資信託などの金融商品を買う際にこのような事象が起こるため、預金残高から金融商品の検索や購入までのユーザー・エクスペリエンスに切れ目ができてしまい、全体がつながらない。

特定の操作でアプリからWebへの切り替えが行われるならば、最初からWebで完結できるほうがよいという考え方もある。それがB社のモバイルWebだ。見た目や操作性はアプリと遜色はない。すべての操作を切れ目なく行いたいユーザーにとってはユーザー・エクスペリエンスの向上につながるだろう。

2アプリとブラウザを使い分けるスマートフォンユーザー~ニールセン 2016年の動向をまとめた「Digital Trends 2016」を公開~
http://www.netratings.co.jp/news_release/2017/03/Newsrelease20170309.html

サービスの届け方、おもてなし方(ユーザー・エクスペリエンス)の勝負に

このように、モバイルアプリ開発の現場は技術や機能本位ではなく、ユーザーの目線でサービス全体と細部に目配りしてどれだけストレスなく気軽に高頻度で使ってもらうかというユーザー・エクスペリエンス、つまりサービスの届け方やもてなし方本位の勝負になってきている。

【図1】はアプリを作る際に大事なUI、機能、ユーザー・エクスペリエンスの関係を模式的に示した図である。モバイルサービスを作る際は、モックアップやプロトタイプという「完成予想イメージ」を叩き台に議論して精度を高めていくやり方を取ることが多い。が、いざイメージを前にして議論を始めると③のUIで盛り上がってしまう。ボタンの配置はどうするか、色はどうかといったように…。これらのデザイン要素は、センスも要るが、実は認知心理学に基づく工学的なルールや定石がある。したがって、「不用意に素人が口を挟んでかき回さない方が良い」と私自身よく思うこともある。

【図1】

単にモバイル向けに作ればいいというものではない

また、②のコンテンツのところも紛争の種になる。(口を挟みやすいというのもあるが)とかく情報や機能を盛り込みたがる。優れたデザインのためには要素をどう削るかを見切ることも重要なのだが、決める側にその理解がなく決められないケースはよくある。結果「全部入り」が出来上がってしまう。

細部のこだわりや情報や機能の見切りの判断を決める上で最も重要なのは、①コンセプトや世界観といったコアとなるユーザー・エクスペリエンスだ。ここがブレなければ大失敗することは少なくなる。

そしてこのことは、実はスマートフォンのユーザーである私たちすべてが日々体験し熟知している。


何ができるのかわからないアプリを前に当惑し、
少しでも動作の「引っかかり」を感じると軽く舌打ちし、
あまりに酷いとアプリを即座に削除したり、
さらには怒りで星一つのマイナス評価を書き込むかも知れない。
アラート通知が多すぎるとアプリを削除したくなるし、
バラバラに不要な細かい情報がずらっと並んでいれば次第に見向きもしなくなる。
過剰に情報の入力を求められると止めたくなるし、位置情報は渡したくないかも知れない。


このように(私たち)ユーザーは繊細でわがままで、エクスペリエンスの神様は細部に宿っているのを知っている。したがって、優れたUI/UXデザイナーは、細大漏らさず適切な情報量を適切に配置し画面を遷移させることに心を配る。スルッ、シュッ、カチリ…という知覚・感覚のレベルまで踏み込んで。

しかし、UI/UXデザイナーに存分に腕を振るってもらうには、コンセプト/世界観、というユーザー・エクスペリエンスが核として必要になる。モバイルサービスを作る際にはそこを議論すべきだ。

UI/UXデザインがいわゆる見た目の美しさや分かり易さを追求するデザインと大きく異なるのはここにある。
たとえば、それは接客と同じだ。相手は誰で、求められているのは懇切丁寧なのか、すっきりスマートなのか。そのためにはどんな言葉遣い/服装/態度で臨むのか。
あるいは、建築や空間デザインと似た要素もある。どこにどんなサイン(指示標識)を設け、どのような順路で人に回遊してもらうか。それぞれの小部屋でどんな感じを味わって欲しいか。
最後に、手前味噌だが、私たちコンサルタントの得意技のひとつのプレゼンテーションにも近いところがある。どんなストーリーを提示し、どんな順番でテンポよく話を繰り出すか。
いずれも聞き手や受け手の心理を感じて想像しながら全体を決め細部を作り込んでいくことが重要だろう。

ユーザー・エクスペリエンスが高いアプリとは

よくできたアプリとはどのようなものか。日経BP社による、デジタルメディアを効果的に売り上げに結びつけている企業やブランドのランキング「デジタルマーケティング100」で1位に輝いた無印良品3の「MUJI passport」は、私自身も利用しているが、よくできていると感じる。同アプリは無印良品の商品を紹介して売るためのものというよりも、ユーザー同士やユーザーと店舗の交流に重きを置いたアプリだ。店舗/Eコマース含め、顧客とどういう付き合い方をしたいのか、どういう世界を共有したいのかという同社の思いを込めたアプリと言える。
3出典:MUJI passport (https://www.muji.com/jp/passport/


アプリのトレンドは常に動いている。モバイルアプリがリアル店舗で利用できるポイントカードのような機能だけでなく、2次元バーコードで決済ができるサービスも日本でも広がりつつある。また、最新のApple iOS11からは、ポケモンGoで知られるようになったAR(Augmented Reality:拡張現実)が導入し易くなる。そしてなにより、モバイルサービス/アプリはより一層ビジネスの要になってきている。

モバイルアプリはAIによって大きく変わる

最後に、これから注目すべきトレンドとして、人口知能(AI)、エコシステム(API)、IoTの3つを取り上げたい。

モバイルアプリはAIによって大きく変わる

1つ目のAIだが、Apple Siri、Google Assistant/Home、そしてAmazon Echoなど、ユーザーとモバイルの接点=UI(ユーザーインターフェース)に音声認識や言語処理などのAI(人工知能)が入ってきている。AIをモバイルサービスにどう組み込んでいくかの競争が始まっていると言っていい。

2つ目がエコシステム(API)だ。たとえばAmazon Echoの万を超える多数のサービス群はAPIを介してお茶の間に呼び出されるのを待っている。全てを自前のサービス/アプリでまかなわなくても、メッセンジャーやSNSなどのよく使われるアプリに出店(でみせ)を出すことで、有力サービスのエコシステムの一員になることもできるのだ。
日本の事例では、メッセンジャーアプリのLINEを介して宅配便の追跡やバイト探し、タクシーの配車依頼など、様々なサービスが利用できるようになっている。

3つ目のIoTとモバイルサービスの関係は、たとえばウェアラブルデバイスやスマート家電、コネクティッドカーなど、人の生活の中にセンサーが入り込むにつれて起こる変化だ。スマートフォンは様々なセンサーから情報を得て学習し、より高度に「あなたのための」サービスを提供してくれるようになるだろう。

まだしばらくの間、モバイルはポケットの中のスーパーコンピューターとして、ネットを操るリモコンとして、そして人間センサーとして、人とデジタルの仲を取持ち続けるだろう。
デジタル変革におけるモバイルの重要性は増すばかりだ。トレンドを見据えながら、自社の取り組みを進めて欲しい。

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