Skip to main content Skip to Footer

LATEST THINKING


デジタル時代におけるイノベーションプロセス

Utility3.0に向けての変革ドライバーの一つをなす「デジタル化」。電力・ガス業界が目指すべき、デジタルを活用したイノベーション創出のプロセスを考察します。

従来大手企業を揺るがすデジタル革命

伊藤  剛

アクセンチュア株式会社
戦略コンサルティング本部
素材・エネルギーグループ 統括マネジング・ディレクター
伊藤 剛

デジタルによる産業構造の変化、非連続な成長、ビジネスモデルの破壊的創造(ディスラプション)などについて声高に語られるようになった昨今、弊社へのコンサルティング支援要請においても、デジタル戦略、最先端技術(Emerging Technology)の活用方針検討、ベンチャー投資やオープン・イノベーションに関わる新組織の立ち上げなどのニーズが顕在化しています。

この背景には、デジタルの力と莫大な資本力を武器に、業界の垣根を超えた新たな市場参入者であるDisruptors(図 1)の存在があります。多くの業界において、既存市場に参入してきたディスラプターが仕掛けたゲームチェンジに対して、旧態依然とした従来の大手企業はなすすべなく敗れ、市場を取り戻すことなく、今もマーケットから消えているのです。

図 1:Disruptors – AGNA FITS

図 1:Disruptors – AGNA FITS


2016年4月、2017年4月に全面自由化を実現した我が国の電力産業、都市ガス産業においても、ディスラプターが大手企業を脅かす世界は間近だと予想されています。筆者も執筆者の一人である「エネルギー産業の2050年 Utility3.0へのゲームチェンジ」(日本経済新聞社, 2017年)では、Utility3.0(新たな電力・ガスシステム)への変革ドライバーである5Ds(図2, 3)の一つとして「デジタリゼーション」を挙げています。電力・ガス産業におけるデジタルへの備え、そのためのイノベーションプロセスの必要性は、すでに日本の電力・ガス事業者が向き合わなければならない経営課題になっていると言えます。

図 2:日本の電力業界を変革する5つのドライバー(5Ds)

図 2:日本の電力業界を変革する5つのドライバー(5Ds)



図 3:5Dsを踏まえた新たな電力・ガスシステムの世界観(一案)

図 3:5Dsを踏まえた新たな電力・ガスシステムの世界観(一案)

海外の電力・ガス事業者のデジタルへの備え(オープン・イノベーション)

大手電力・ガス事業者の中でも、自らデジタリゼーションに取り組んでいる企業もあります。電力・ガスの供給で世界2位の売上高をもつフランスの”engie (エンジ―)”は、デジタルやドローン、ロボティクス、人工知能に代表される最先端技術が企業の成長や企業価値向上に不可欠だと考え、全社のイノベーション戦略の策定と協業パートナー(主にベンチャー)の獲得を専門とする組織”engie Innovation”を立ち上げました。変化の速いデジタル関連への追随を進めるべく、自社に不足する機能・技術・人材の補完を実現しています。

この組織の特徴は、単なるベンチャー投資ビークルとして機能するだけではなく、主管部と連携しイノベーションアイディアを創出し、既存事業を強化、新事業の創出まで一気通貫で実施する点にあります。実際に、2016年時点で560以上のイノベーションアイディアが発案され、44件のイノベーションプロジェクトが立ち上がり、そのうち20件がインキュベーション段階まで到達しています。何より、この取り組みの礎となる投資予算が€115百万(約150億円 為替131¥/€)確保されており、デジタルやベンチャーを起点としたオープン・イノベーションへの意気込みが伺えます。

国内電力・ガス事業者の新たなイノベーションプロセスへの取り組み

国内の電力・ガス事業者も、デジタル時代における新たなイノベーションプロセスの構築・定着を弊社とともに開始しました。イノベーションプロセスの根幹を、「顧客中心(UX)」x「不確実性」とし、前者に対しては従来のグループインタビューに留まることなく、デザインアプローチに基づくエスノグラフィ調査などを実施し、顧客の徹底的な理解を目指しています。また、後者の不確実性への対応としては、スパイラルアップの発想をもとに、顧客体験を向上する複数の仮説の「プロトタイピング→検証→学習」の短サイクル化を実現するオペレーティングモデルの構築に挑戦しています。


図 4:スパイラルアップでのサービス開発イメージ

図 4:スパイラルアップでのサービス開発イメージ


上記達成に向けた大きなチャレンジのひとつがヒトの育成・意識改革です。従来、電力・ガス事業者は公共インフラという、社会基盤を担ってきたが所に、スピードよりも確実性を重視してきました。事業の社会的影響の大きさを踏まえるとそれ自体は必然であったとは言え、デジタル時代のイノベーションという観点では足かせになりかねません。

そこで、事業部門トップの強いリーダーシップの下でイノベーションを専門に実施するチームを作り、そのチーム内に前述のオペレーティングモデルを構築することを第一歩としました。既存部門の若手社員や中堅社員をチームメンバーとすることで、チームメンバーがもとのグループに戻ったときに新しいオペレーティングモデルのやり方・考え方を同僚に伝える伝道師として活躍することを期待しています。実際に若手人材ほどこの取り組みに感銘を受けて、仕事の仕方や考え方を大きく変え、生き生きと業務に取り組んでいるという成果が出始めています。

このように足元は事業部門が中心になってイノベーションの取り組みを推進していますが、最終的には全社的なイノベーション実現の仕組みづくりが必要です。確かに、顧客中心主義および現場の巻き込みという観点から、まずは事業部にイノベーションエンジンを設置するという方針は正しいものです。今後、事業部門のイノベーションエンジンから業務改善と新ビジネスモデルのアイデアが数多創出されることでしょう。

一方で、各事業部門は既存ビジネスに基づき財務目標やKPIを有しており、それらの指標達成と相反する取り組みは事業部門から出にくいという面もあります。

全社視点でイノベーションのチャンスを掴むためには、M&A等の外部資源活用も視野に入れながら、コーポレートが事業部門と切り離してイノベーション創出に取り組む必要があります。イノベーションプロセスにおいて、コーポレートと事業部門がそれぞれの役割を果たすことが、新しいエネルギー産業における新たな市場ポジションの獲得につながるはずです。

素材・エネルギー本部
採用情報


お問い合わせ

お問い合わせは、下記リンク先のフォームよりご連絡ください。

関連コンテンツ