国内の電力・ガス事業者も、デジタル時代における新たなイノベーションプロセスの構築・定着を弊社とともに開始しました。イノベーションプロセスの根幹を、「顧客中心(UX)」x「不確実性」とし、前者に対しては従来のグループインタビューに留まることなく、デザインアプローチに基づくエスノグラフィ調査などを実施し、顧客の徹底的な理解を目指しています。また、後者の不確実性への対応としては、スパイラルアップの発想をもとに、顧客体験を向上する複数の仮説の「プロトタイピング→検証→学習」の短サイクル化を実現するオペレーティングモデルの構築に挑戦しています。
図 4:スパイラルアップでのサービス開発イメージ
上記達成に向けた大きなチャレンジのひとつがヒトの育成・意識改革です。従来、電力・ガス事業者は公共インフラという、社会基盤を担ってきたが所に、スピードよりも確実性を重視してきました。事業の社会的影響の大きさを踏まえるとそれ自体は必然であったとは言え、デジタル時代のイノベーションという観点では足かせになりかねません。
そこで、事業部門トップの強いリーダーシップの下でイノベーションを専門に実施するチームを作り、そのチーム内に前述のオペレーティングモデルを構築することを第一歩としました。既存部門の若手社員や中堅社員をチームメンバーとすることで、チームメンバーがもとのグループに戻ったときに新しいオペレーティングモデルのやり方・考え方を同僚に伝える伝道師として活躍することを期待しています。実際に若手人材ほどこの取り組みに感銘を受けて、仕事の仕方や考え方を大きく変え、生き生きと業務に取り組んでいるという成果が出始めています。
このように足元は事業部門が中心になってイノベーションの取り組みを推進していますが、最終的には全社的なイノベーション実現の仕組みづくりが必要です。確かに、顧客中心主義および現場の巻き込みという観点から、まずは事業部にイノベーションエンジンを設置するという方針は正しいものです。今後、事業部門のイノベーションエンジンから業務改善と新ビジネスモデルのアイデアが数多創出されることでしょう。
一方で、各事業部門は既存ビジネスに基づき財務目標やKPIを有しており、それらの指標達成と相反する取り組みは事業部門から出にくいという面もあります。
全社視点でイノベーションのチャンスを掴むためには、M&A等の外部資源活用も視野に入れながら、コーポレートが事業部門と切り離してイノベーション創出に取り組む必要があります。イノベーションプロセスにおいて、コーポレートと事業部門がそれぞれの役割を果たすことが、新しいエネルギー産業における新たな市場ポジションの獲得につながるはずです。