Skip to main content Skip to Footer

LATEST THINKING


デジタルテクノロジー活用で顧客体験を向上させる企業に共通する特徴とは

有力企業が実践する「4つの行動」がカギを握る


デジタルな世界での顧客体験が重要視されるなか、多くの企業が顧客体験のトランスフォーメーションに焦点を当て、商品やサービスを改革しようとしている。しかし、こうした試みはどこまで進んでいるのか、また実際に顧客の期待を満たしているのか、見極めにくいのが現状だ。ここでは、顧客体験向上に向けた各企業の取り組みの現状を解説するとともに、実際に顧客体験向上に成功した企業の事例を紹介する。


槇 隆広    アクセンチュア・インタラクティブ
マネジング・ディレクター
槇 隆広

まだ多くの企業が顧客体験の成功を実現できていない

顧客体験を向上させるには、顧客を分析し、カスタマージャーニーマップを作成するところから取り組みを開始する――。2016年10月に東京にて開催された「Adobe Digital Marketing Symposium 2016」に登壇した弊社の槇はこう訴える。だが、実際には多くの企業がこうした基本的な顧客体験を可視化するテクニックさえ、日々のビジネスに活かせていないという。

その背景として挙げられる仮説が、「顧客体験の向上については何度も話し合っているものの、実行には至っていないのではないか。また、企業は顧客中心の考え方・視点で調査・分析していることを主張するが、実際にはエスノグラフィー調査やデータサイエンスなどのテクニックを用いることもなく、顧客を巻き込んだ活動になっていないのではないか。さらには、測定しやすい指標ばかりにフォーカスしているのではないか」といったものだ。槇は「顧客体験の成功をきちんと評価できなければ、企業が顧客の期待に応えられず、顧客の期待値と企業の対応力のギャップが拡大してしまう」との懸念を示す。

ここで興味深い資料を紹介したい。アクセンチュア・インタラクティブとフォレスター・コンサルティングが共同で実施した「グローバル企業の顧客体験トランスフォーメーション」に関する調査結果では、顧客体験と顧客期待値に関する現状がわかる。 


Digital Marketing Symposium 2016


企業が直面するデジタルテクノロジー活用での「あるギャップ」


同調査は、14カ国、11の業界の企業で、顧客体験に関わる意志決定者となるCEOや幹部社員702人を対象に行われたものだ。調査対象の14カ国の中には日本も含まれている。

まず、「貴社が提供するデジタル・エクスペリエンスが、どの程度顧客の期待に応えていますか?」との問いに、「顧客の期待を上回る体験を提供している」と回答したのはわずか7%に過ぎなかった。これに、「顧客の期待を満たしている」と回答した67%を合わせた割合は74%で、前年比マイナス4%だ。この結果について槇は、「顧客のデジタル活用スピードに企業が追いついていない」と指摘。一方、「顧客の期待を満たしていないが、それで十分」との回答が25%を占めており、「誤った安心感を持っている企業も多い」と話す。

貴社が提供するデジタル・エクスペリエンスが、どの程度顧客の期待に応えていますか?

次に、「デジタル・カスタマーエクスペリエンス戦略について、実現できる準備はどの程度できていますか?」という問いには、テクノロジー面で69%、プロセス面で66%、組織面で59%が「準備ができている」と回答したが、これらはいずれもすべて前年比マイナスになっていることから、やはり、顧客体験戦略で「やりたいこと」と、実現に向けた「実行力」のギャップが拡大している。

デジタル・カスタマーエクスペリエンス戦略について、実現できる準備はどの程度できていますか?

また、「顧客体験を向上させるために何のアクションを取っていますか?」との問いのなかで、「ユーザー・顧客体験専任チームの設置」が重要だと考えている割合が98%であるにも関わらず、こうしたアクションを取っていると回答した割合は41%だった。

「エスノグラフィー・ヒューリスティック・ユーザビリティ調査の活用」が重要だと考えている割合も97%と高いが、実際にアクションを取っている割合は32%と大きな差がある。槇は「顧客体験において『やるべきこと』と、実際に『やっていること』の間にも大きなギャップがある」と指摘する。


ハイパフォーマンス企業は収益も拡大


こうした企業が大半を占める一方で、「お手本にしたい」ハイパフォーマンス企業も存在する。約2割のハイパフォーマンス企業では、「顧客体験の改善にデジタルテクノロジーを活用することにより、どの点で期待以上の成果を享受していますか?」との問いに対する回答で、「ブランド純粋想起の向上」という項目がその他の企業より21%高かったほか、「顧客ロイヤリティの向上」では17%、「投資対効果の向上」では14%、「収益の拡大」では11%、その他の企業より高いという結果が出ている。顧客体験に集中投資しているハイパフォーマンス企業は、他の企業よりデジタルテクノロジーの恩恵を多く享受している。

「業種に依存するが、フォレスターが顧客体験効果を測る指標としている『*CXインデックス』が1%向上すると、年間10億円から100億円以上の増収が見込まれるとされている。つまり、顧客体験に集中して取り組めば、大きなリターンを得ることができる」と槇は説明する。

ハイパフォーマンス企業が他の企業と違う点として、槇は「4つの行動で差をつけている」と指摘する。その4つとは、「経営幹部による支援」「常に変化する流動的な状況への適応」「データをインサイトと行動につなげること」「パートナー企業との関係構築」だ。

まず1点目の「経営幹部による支援」について、ハイパフォーマンス企業では、経営幹部のサポートが受けられていると考えている割合が100%に達しているという。その他の企業では41%と、半分以下にとどまっている。ここで言う「サポート」とは、単に投資予算を認めてくれることではなく、経営幹部がデジタル変革を実行するプロジェクトに参画し、施策内容を確認・承認し、実行推進に関与することだ。

2点目の「流動的な状況への適応」については、デジタルを活用して顧客体験を継続的に刷新していると答えた比率が、ハイパフォーマンス企業ではその他の企業と比べて12~26%高いという。多くの企業がデジタル変革をプロジェクトとして実行し、3-4年もあれば完了するものと誤解している。プロジェクトやタスクフォースという方法でデジタル変革に着手するのは良いが、デジタル変革によってもたらされるサービスやその改善は、継続的な企業活動と捉え、運営組織やプロセスの整備が必要だ。

「データをインサイトと行動につなげること」については、ハイパフォーマンス企業では、データ駆動型の顧客体験を創出している割合が98%、顧客体験改善のためにデータ分析・活用をしている割合が91%となっている。これは、それぞれ他の企業より43%、25%も高いことがわかっている。単にデータを収集して蓄積するのではなく、データ分析によってインサイトを得て、顧客サービスの向上に取り組むことが重要だ。

「パートナー企業との関係構築」については、協力関係を築きたい企業を見極め、パートナーシップを結んでいるとするハイパフォーマンス企業の割合が81%で、その他の企業よりも30%以上高かったという。ここで言う「パートナー」とは、企業のノンコア業務を依頼する「ベンダー」ではなく、コア業務や戦略的取り組みを一緒に考え、実行する「パートナー」だという。つまり、リスクと成果を共有できる戦略的なパートナーシップが重要だ。

*CXインデックス:
Forresterが提供する顧客体験効果を測る指標。
該当ブランドの顧客の定量・定性調査を通じて、顧客のインサイトやロイヤリティへの影響、ビジネスインパクトを導き出している。


槇は講演の中で、実際に顧客体験向上を実現している数社の事例を紹介した。その中のいくつかを見てみよう。例えば、デジタルデバイスで顧客のショッピング体験とロイヤリティを改善したオーストラリアのスーパーマーケットチェーンColes Supermarketsだ。同社は、アクセンチュアと共同でWi-Fiデバイス「Hiku」を開発。消費者が自宅などで使用するこのデバイスは、音声認識やバーコードの読み取りで必要なものを手軽にWeb上のショッピングリストに追加し、オンラインや店頭でスムーズな購入を実現する。96%の顧客がHikuを使い続けたいと回答しており、顧客のロイヤリティも飛躍的に向上したという。 


Digital Marketing Symposium 2016


Coles Supermarketsでは、各部署のリーダーや経営幹部が、競争環境のなかで変革の重要性と顧客主導の考え方を理解し、組織面やコスト面を支援している。また、さまざまな知見と専門的なリソースを持ったパートナー企業を積極的に活用しているのだ。

また、スペインを中心としたヨーロッパのホテルチェーンMelia Hotelsの事例もある。同ホテルでは、各顧客にユニークな“デジタルDNA”を策定し、1人ひとりの顧客ニーズを深く理解することで、ブランド認知度と顧客のロイヤリティが向上したという。

新規顧客についてもプロファイルをマッチングし、適切なタイミングや方法でターゲティングを実行、コンテンツの表示もパーソナライズした。これにより、部屋の直販が25%増加したという。デジタルDNAの策定にあたっては、データ蓄積および分析のプラットフォームを活用し、そこからインサイトを抽出、提案力の向上につなげた。まさに、データをインサイトと行動につなげた事例だ。

これらを含めた数社事例から、「リーダー層が変革の重要性を理解し、組織・コスト・実行推進の面で支援する必要がある。また、自前にこだわることなく、知見や専門スキルを持った企業を積極的に活用すべき。顧客の変化とともに、機能ごとに流動的に進化し続けるコラボレーション体制も重要だ。さらには、統合プラットフォームでデータ蓄積や分析を行い、それを基に顧客を深く理解した上で提案していかなくてはならない」と槇は話す。

顧客の変化とともに自社で提供するサービスも変化が求められる。今後、流動的な状況に対応するという意味で「リキッド」というキーワードが注目されるようになると槇はみている。絶えず高くなる顧客の期待に応えるためには、このキーワードを念頭に、柔軟な取り組みを組織体制や業務オペレーションにも対応させ、継続的に顧客体験の高度化に取り組んで行くことが重要となってくるだろう。

関連コンテンツ:顧客の期待 vs. 企業の提供する体験: その良い点と悪い点、そしてチャンス