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「ハイパフォーマンスIT調査2013年版」から読み解く、伸びる企業のIT戦略

あらゆるビジネスにデジタル化の波が押し寄せています。IT戦略もテクノロジーの急激な進化に対応する必要があります。デジタルの力を味方につけるIT戦略とはどのようなものかを解説しています。

あらゆるビジネスにデジタル化の波が押し寄せています。企業の成長のためのIT戦略も、テクノロジーの急激な進化に伴う“変化”に対応する必要があります。アクセンチュアがグローバルの202社を対象に実施した「ハイパフォーマンスIT調査2013年版」の結果から、“デジタルの力”を味方につけるIT戦略とはどのようなものかを読み解いていきましょう。


デジタルの波はあらゆるビジネスに
まさに今、“デジタル”による第三次産業革命が訪れている――。アクセンチュアのテクノロジー・コンサルティング本部でIT戦略・インフラグループ統括 マネジング・ディレクターを務める立花良範はこう指摘します。

デジタル技術を活用することで、これまでに無かったビジネスモデルを掲げて市場に参入する新たなプレーヤーが後を絶ちません。たとえば、2013年の秋には、米国のテキサス州サンアントニオに、紙の書籍が一冊も無い図書館「BiblioTech」が開館しました。米Yahooは2013年3月、当時17歳だった英国のNick D’Aloisio氏が作成したiPhone向け記事要約アプリ「Summly」を3000万米ドル(約29億円)で買収したと発表しています。

こうした新たなプレーヤーが旧来のビジネスを瞬く間に駆逐してしまう事例も、次々に生まれています。そのようなデジタル化の波は、あらゆるビジネスに押し寄せており、どのような業界/業種であっても今後その影響から逃れることは困難です。

このような状況が生み出された背景には、コンピュータの性能や通信ネットワークの速度が想像を絶するスピードで進化していることが挙げられるでしょう。

例えば、HDD(ハードディスク装置)はこの30年で記録容量当たりの価格が100万分の1と劇的な進化を遂げています。また、1997年にチェス世界チャンピオンに勝利したIBMのスーパーコンピュータ「ディープ・ブルー」の演算性能は11.4GFLOPSでしたが、現在のスマートフォンiPhone 5はそれを2倍以上も上回る25.5GFLOPSの性能を備えています。さらに、2001年にNTTドコモが開始した第3世代(3G)モバイル通信サービスは最大受信速度が理論値で384kビット/秒でしたが、最新のLTEは326Mビット/秒と約850倍も高速化しました。これは赤ん坊のハイハイとジャンボジェット機の巡航速度の違いに匹敵します。


コンピュータの性能と通信ネットワークの速度は、想像を絶するスピードで驚異的な進化を遂げている。(画像をクリックすると拡大画像が開きます)

【コンピュータの性能と通信ネットワークの速度は、想像を絶するスピードで驚異的な進化を遂げている。出所:公知の情報を基にアクセンチュアが作成】

このような桁外れのデジタル技術の進展により、以前には考えられないほどの高いデジタル演算性能を、極めて低いコストで、誰もが利用できるようになりました。そうした環境が出現したことで、ありとあらゆる情報が――物理量のみならず人間の感情までも――デジタル化されたデータとして蓄積され、瞬時に処理できる新たな時代に突入したのです。

この変化は、あらゆるビジネスに影響を与えます。企業の成長のためには、デジタル化の波に対応した新たなIT戦略が欠かせなくなっているのです。アクセンチュアが今回実施した「ハイパフォーマンスIT調査2013年版」から、その“新たなIT戦略”の姿が見えてきました。以下に詳しく説明していきます。


ITに卓越するハイパフォーマーとは?
ハイパフォーマンスIT調査は、アクセンチュアが2005年からこれまでに合計4回にわたって実施している調査です。今回の調査は、2012年から2013年にかけて実施したもので、SMACS(ソーシャル:Social、モバイル:Mobile、アナリティクス:Analytics、クラウド:Cloud、センサー:Sensor)などのデジタル技術の活用傾向について、全世界の202社を対象に調査しました。

アクセンチュアは、調査対象とした企業の中でITへの取り組みが卓越した企業を「ハイパフォーマー」と呼んでいます。その定義は次の通りです。まず、IT実行力(Execution)、IT機敏性(Agility)、IT変革力(Innovation)という3つの要素について、各要素の平均スコアを算出し、平均よりも1標準偏差以上高いスコアを「リーダー」とします。3つの要素のすべてにおいて「リーダー」と認定できる企業が「ハイパフォーマー」です。

調べてみると、ハイパフォーマーはITのみならず、事業の収益性、成長スピードなどのビジネス・パフォーマンスも高いことが分かりました。


ハイパフォーマーは、IT実行力(Execution)、IT機敏性(Agility)、IT変革力(Innovation)という3つの要素において卓越していなければならない。(画像をクリックすると拡大画像が開きます)

【ハイパフォーマーは、IT実行力(Execution)、IT機敏性(Agility)、IT変革力(Innovation)という3つの要素において卓越していなければならない。出所:アクセンチュア「ハイパフォーマンスIT調査2013年版」】

ハイパフォーマーのIT戦略を読み解く――5つのポイント
ここで、今回の調査結果が何を語っているのかを5つのポイントに簡潔にまとめます。

  • コストの先のステージへ
    ほとんどの企業がコスト削減と生産性向上を重点課題としているなか、ハイパフォーマーは次の段階に進んでいます。それは「顧客体験価値の向上」です。

  • 経営と一体化したIT
    ハイパフォーマーは、他の企業に比べ、IT投資が企業戦略により直接的に貢献しています。

  • ハイブリッドIT基盤
    ハイパフォーマーは、すでに基幹システムのアーキテクチャもプライベート・クラウドおよびパブリック・クラウドの双方に移行しており、「ハイブリッドなIT環境をいかに管理するか」を考えています。

  • BYODの積極的活用
    ハイパフォーマーは、社員個人が保有するデバイスをいつでもどこでも業務利用する仕組み(BYOD:Bring Your Own Device)を整えることで、業務のパフォーマンスを最大化させています。

  • アナリティクスによる競争優位性
    ハイパフォーマーは、リアルタイムな意思決定など、アナリティクス(データ分析)による意思決定の高度化を実現しています。


ハイパフォーマーのIT戦略を分析――インパクトが大きい10の取り組み
いったい、ハイパフォーマー企業はどのようなIT戦略を持っているのでしょうか。調査結果から次の10種類の取り組みを読み取ることができます。

  1. 顧客体験価値の向上に注力
    ハイパフォーマーは、投資の優先度をコスト削減や生産性向上よりも、顧客・ユーザー・取引先を含む「顧客とのインタラクション(対話)向上」に向けています。すなわち、戦略的なWebベースのシステムなど、顧客と結び付くシステムに積極的に投資しているのです。

  2. ビジネス目線のIT戦略策定
    ハイパフォーマーの50%が、IT戦略策定の際、今後の経済事情、社会情勢、地理的な事情などのビジネス・シナリオを常に意識しています。他の企業では10%にすぎません。

  3. 真の戦略的IT投資比率が拡大
    ハイパフォーマーのIT投資の半分以上は、経営戦略やビジネス・ニーズの直接的な具現化、他社との差別化機会の創出にあてられています。他の企業では、この比率は1/3程度にとどまります。

  4. クラウドの積極活用による基盤の柔軟性強化
    ハイパフォーマーの33%が「基幹システムをプライベート・クラウド/パブリック・クラウドに転換することで、企業のITアーキテクチャを発展させている」と回答しました。他の企業では4%にすぎません。ハイパフォーマーの15%は、ハイブリッドなインフラ環境において、仮想統合管理やリソースの動的なプロビジョニングを実現しています。その他の企業では1%にすぎません。このようなインフラの集中管理は今後より進むと予想されます。


  5. クラウドの積極活用による基盤の柔軟性強化(画像をクリックすると拡大画像が開きます)

    【ハイパフォーマーの33%は、ビジネス環境の変化に柔軟に対応すべく、すでに基幹システムを外部サービスの利用を組み合わせたクラウド基盤に転換している(左図)。またハイパフォーマーの15%はすでに、完全に仮想化/統合化され、かつ動的なプロビジョニングが可能なインフラの集中管理を実現している(右図)。出所:アクセンチュア「ハイパフォーマンスIT調査2013年版」】

  1. デジタル・テクノロジーの深耕
    ハイパフォーマーは、デジタル関連テクノロジーの平均適用レベルが他の企業よりも高いことが分かりました。また、モバイル・トランザクション(携帯電話などモバイルによる取引)に取り組んでいるハイパフォーマーは69%、企業モバイル・アプリ・ストアに取り組むハイパフォーマーは54%と、その他の企業を圧倒しています。


  2. デジタル関連テクノロジーの平均適用レベル

    【調査対象の企業に、8つのデジタル関連テクノロジーそれぞれについて現在の適用レベルを尋ねた。その結果、ハイパフォーマーはその他の企業に比べて、いずれにおいても適用レベルが高かった。出所:アクセンチュア「ハイパフォーマンスIT調査2013年版」】

  1. BYOD推進でコラボレーションを強化
    ハイパフォーマーの83%が、社員個人のモバイルデバイスの業務利用を許容しています。他の企業では40%にとどまります。社員が自らデバイスを購入し、仕事で利用することを許可するCIO(最高技術責任者)は調査対象全体の6%にとどまりますが、将来的には44%まで上昇するでしょう。また、組織の壁、社内外の壁を越えて、シームレスに対話、情報共有ができているかを調べたところ、ハイパフォーマーの71%が社員間の交流ができており、29%は顧客との交流が、31%は取引先との交流ができています。いずれも他の企業を上回ります。

  2. アナリティクス活用による競争優位性の獲得
    ハイパフォーマーの46%が、リアルタイム・アナリティクスを業務プロセスに組み込み、意思決定に活用しています。他の企業では2%にすぎません。


  3. 業務プロセス・システム・データを統合することで、得られたビジネス上の効果(画像をクリックすると拡大画像が開きます)

    【ハイパフォーマーの46%は、アナリティクスを業務プロセスに取り込み、リアルタイムな意思決定を実現できている。出所:アクセンチュア「ハイパフォーマンスIT調査2013年版」】

  1. アジャイルの適用による機動力の獲得
    ハイパフォーマーの73%がアジャイル開発手法をすでに利用しており、さらにハイパフォーマーの82%が将来活用すると答えています。他の企業ではアジャイル開発手法を利用しているのは51%にとどまります。

  2. 先進テクノロジー・スキルの早期活用
    ハイパフォーマーの85%が、新しいテクノロジーに関するスキル・知識を重要と考えています。他の企業では61%とより低い割合です。

  3. ビジネス・リスクにアラインしたセキュリティ対策
    ハイパフォーマーの約60%は、デジタル・ビジネス推進に伴うセキュリティのリスクを意識し、守備範囲を拡大しています。


「ハイパフォーマンスIT調査2013年版」の結果から導き出せるCIOの道しるべとなる3つの要素(画像をクリックすると拡大画像が開きます)

【「ハイパフォーマンスIT調査2013年版」の結果から導き出せるCIOの道しるべとなる3つの要素を示した。“デジタルの力”を“ビジネスの力”に変えるには、IT変革力とIT実行力、IT機敏性の3つの要素が必要である。】


ハイパフォーマーの特性とは――浮かび上がる4つの共通事項
ハイパフォーマーとその他を分けた条件は何だったのでしょうか。調査結果を精査し、それを追求しました。その分析を主導したアクセンチュア テクノロジー・コンサルティング本部 IT戦略グループ マネジング・ディレクターの黒川順一郎は、次の4つの主要特性が浮かび上がったと説明します。

1番目は「イノベーションの気風」です。業務のやり方、仕組みを“所与のもの”とせず、常に新たな工夫を発想し、そのような取り組みを経営陣自ら積極的に推奨しています。常に新しい工夫ができる企業文化がハイパフォーマーの特徴です。

2番目は「定量化/可視化の志向」です。経験のみに頼らず、数値化、KPI化による定量把握を志向し、それらのデータを経営/事業変革のために活用しています。

3番目は「ITは経営基盤の1つ」とする考え方です。ITを“コストはかかるが必要な業務支援ツール”として見るだけでなく、“顧客サービスや収益性向上の基盤”として位置付けており、その指揮者であるCIOの任期も長い傾向があります。

4番目は「エコシステムの活用」です。経営資源を自社の内部に限定して考えるのではなく、顧客、サプライヤー、ITベンダー、クラウドといったエコシステム全体を自社の経営資源ととらえ、アライアンスやパートナーシップを最大限に活用しています。

先に述べた通り、ITのハイパフォーマーは、ビジネスのハイパフォーマーでもあります。ハイパフォーマーが何を目指しているのかを読み取り、企業を成長に導くIT戦略に結び付けることが肝要だといえるでしょう。


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