こうした取り組みを進める上で、「データ」「人材」「行政府の仕組み」の3つの壁を意識することが肝要だ。1つ目の「データ」は、民間企業とも協業しながらテクノロジーを活用することが重要になる。予め、データの取得源になるセンサーを必要なところに整備し、誰もがセンサー情報を活用できる環境を整えておくことが有効だ。当初は特区などエリアを限定して費用を抑え、投資対効果を検証しながら、対象地域・領域を拡大していくことも検討できよう。収集したデータの扱いにも注意が必要である。日本では2017 年5月に改正個人情報保護法が施行され、個人情報の定義が明確になるとともに、情報利用のルールが整備された。一定の条件の下、データの第三者提供も可能になり、今後データを利活用した取り組みも進んでいくと考えられるが、特に公共サービスにおける活用では情報を提供することによるメリットをきちんと市民に理解してもらうことや情報を提供する側に不利益がないようなデータ活用のルールづくりなど、引き続き検討が必要であろう。
2つ目の「人材」については、冒頭でふれたような英国の取り組みのように、専門人材の確保を図ることが必要だ。ここでも民間企業との協業が有効となるだろう。
これらの要件に加えて、「行政府の仕組み」の壁にも注目する必要がある。例えば、会計サイクルについて、事業期間内に効果検証を行うためには、単年度会計よりも複数年度会計が適切かもしれない。同様に、概算払いであっても入札時点の金額が(ほぼ)固定的な調達契約の形態よりも、成果連動型の契約形態などの方がEBPMの発想と相性が良い可能性がある。こうした行政の基本的な仕組みについてもEBPMの推進とセットで議論が必要だ。
EBPMのポイントは、費用対効果の分析に留まらず、その結果を通じて政策見直しを図ることにある。そのためには、従来のように事前評価、事後評価を行うだけでなく、上記のケースのようにテクノロジーや民間企業の力を活用しながら、政策実施期間においてリアルタイムで情報把握と分析を行い、走りながら政策展開を見直していくことが重要ではないか。
*1 独立行政法人経済産業研究所(2017) 日本においてエビデンスに基づく政策をどう進めていくべきか
「日本におけるエビデンスに基づく政策の推進」プロジェクト中間経過報告
*2 Office of Management and Budget. (2013). 2013 Draft Report to Congress on the Benefits and Costs of Federal Regulations and Agency Compliance with the Unfunded Mandates Reform Act, pp.63
https://obamawhitehouse.archives.gov/sites/default/files/omb/inforeg/2013_cb/draft_2013_cost_benefit_report.pdf
*3 Sidewalk Labs Toronto
https://sidewalktoronto.ca/
*4 Mastercard ""Mastercard and Dublin City Council partner to use data to improve city intelligence and performance
https://newsroom.mastercard.com/eu/press-releases/mastercard-and-dublin-city-council-partner-to-use-data-to-improve-city-intelligence-and-performance/
*5 佐賀県 データ分析に基づく政策立案手法の導入
http://www.pref.saga.lg.jp/kiji00351634/3_51634_29166_up_wavaqbgh.pdf