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Gove tech

デジタル時代の自治体イノベーション

【月刊ガバナンス12月号 P96-97転載】

はじめに

社会環境が大きく変わり、市民のライフスタイルが多様化している。自治体も少子高齢化、税収の減少、社会保障費の増加などといった課題に直面する中、今回は、改めて行政の主役である市民 に焦点をあて、限られた財源や人材、時間の中で、多様化する市民や地域のニーズに適切に対応 した公共サービスを検討・設計し、それを継続的かつ安定的に提供するためにはどうすれば良いのか、サービスデザインの手法と、それを実現するカギを紹介したい。

生活環境変化と市民の体験価値の変化

市民生活は、デジタル技術の導入で大きく変わった。モバイル機器からインターネットに接続することで、いつでもどこでも情報を入手でき、様々な形で人と会話できる。インターネット上で買い物をすれば、過去の購買・閲覧履歴をもとに商品が提案され、クリック一つで購入した商品が間もなく届くなど、デジタル技術を活用し、利用者中心に設計されたサービスを提供する民間企業が、日常生活における生活者の“体験価値”(利用経験を通じて得られる効果や感動、満足感等の心理的・感覚的な価値)への期待値を高めている。

こうした中、市民が公共サービスに求めるサービスの質への期待値も高まっているといえよう。アクセンチュアが昨年アメリカで行った調査(*1)によると、市民の85%は行政のデジタルサービスに、民間企業並みかそれ以上の質を期待していると回答しており、2014年の同調査結果(73%)と比べても、大幅に数値が伸びている。この調査自体は日本で行われたものではないが、日本の公共サービスのあり方にも示唆を与えるものであり、例えば、市役所に出向く行為、相談での待ち時間、webサイトから欲しい情報を探す手間などは、さらに快適な体験価値を実現する余地があるといえるのではないだろうか。

事実、日本においても、より市民視点に立った公共サービスデザインの関心が増しており、今年5月には国のIT総合戦略本部が「デジタル・ガバメント推進方針」を公表し(*2)、「これまでの提供者視点ではなく、利用者視点での行政サービスをデザインし、利用者中心のサービス提供を行っていく」ことが必要であるとして、「利用者中心の行政サービス改革」の推進に向けて、「サービスデザイン思考を取り入れる」と記している(第3章(1))。

利用者を中心に考えるサービスデザインとは

サービスデザインとは、利用者視点に立ち、“体験価値” に重きを置いたサービスの設計手法である。利用者がサービスを利用する工程、工程上の課題を可視化し、迅速に課題改善案を具現化、評価、改善する問題解決の考え方に基づく。利用者がサービスを利用する工程全ての接点と体験をデザインし、それを実現する事業モデル、システム・オペレーションをも視野にデザインする。

徹底した利用者中心主義は、アプローチから分かる。まず、サービス利用者の行動調査や訪問調査等を通して、実際にサービスを利用するシーンや環境、動作等を観察する。実際、利用者の家庭を訪問調査すると、生活空間に置かれた物などから、生活のパターンや導線など、従来のアンケート調査などでは発見しにくい、本質的な課題を見い出すことができる。

次に、調査結果をもとに、価値観や考え方なども含めて具体的に人物像を描き、その立場に立って、サービス利用工程や、体験上の課題を可視化する。絵やプロトタイプによって課題改善案を素早く具現化し、課題が解決されるかどうか、利用者に検証してもらいながら、評価・改善を短期間で繰り返し、サービスを作っていく。

こうしたプロセスを、サービス企画者だけでなく、システム開発者、運用者、デザイン・テクノロジー・経営の専門家等も含めた関係者が集まって、デザインワークショップという形式で進める点も、サービスデザインの特徴の一つだ。サービス利用者の体験をより良いものにする、という共通課題のもと、それぞれの立場からアイデアを出 し合い、評価、改善をしていく。

日本の行政の現場では、制度・政策ごとに最適化されているケースが多く、市民からみると一貫性が確保されていない、あるいは手続きが重複するケースがみられる。企画・政策、各サービス所管、情報システムといった異なる立場の関係者がサービスの設計段階から参画することで、市民にとって最適なサービスを実現するだけでなく、効率的な合意形成や、手戻りが減ることによる開発期間の短縮化、開発費の削減をも期待できる。

市民中心の公共サービス提供を実現するカギ

では、実際に利用者視点に立ったサービスをデザインした後、これを実現するにはどうしたら良いのか。サービスデザインのスキルに加え、システム、業務、アライアンスの設計・提供、これら全てを一気通貫して監督・推進する技術が求められる。さらに継続的にこれを実現するには、組織、規則・仕組み、人材のあり方の変革が求められる。組織横断的コラボレーションを推進する体制の構築や組織文化の見直し、業務プロセスやKPIの見直しと、評価改善プロセスの設計と構築、そして、利用者価値の最大化を実現する視点やスキルを持つ人材の育成が必要となる。

こうした変革は、一連の技術と人材を兼ね備えた民間の専門組織とも連携することでマネジメント課題、既存業務プロセスや組織構造などにも踏み込んでいくことが可能となる。例えば、福島県の会津若松市の行政と市民のコミュニケーションポータル「会津若松+(プラス)」(*3)は“10 分圏内” の情報が手に入るサービスとして、市民それぞれにパーソナライズされた情報を一つのプラットフォーム上で配信するサービスだが、その導 入にあたっては、企画・政策、情報政策、各サービス所管課のみならずアクセンチュアを含む民間の専門組織と連携してデジタルコミュニケーション基盤を構築した。さらに専門家による行政職員向け情報発信講座・意識改革などの包括的な人材変革の取り組みも実施している。また、会員登録数をKPIに設定し、市民からの評価・要望に基づくサービス改善をしており、マイナンバーカードを活用した母子健康情報や、登録住所近隣の除雪車のリアルタイム運行情報に加え、今秋には新たに市内の学校情報アプリ「あいづっこ+(プラス)」(*4)でクラスごとのお知らせを配信し、分けるなど、新たなデジタルサービスを提供し始めた。官民連携、オープンガバナンスで進める一気通貫したサービスこそ、市民中心の公共サービスにつながるカギと言える。


*1 アクセンチュア Digital Government: Your Digital Citizens are Ready, Willing … and Waiting
https://www.accenture.com/us-en/insight-digital-government-digital-citizens-ready-willing-waiting

*2 デジタル・ガバメント推進方針 
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/kettei/pdf/20170530/suisinhosin.pdf

*3 会津若松+ 
https://aizuwakamatsu.mylocal.jp/home

*4 あいづっこ+ 
http://www.city.aizuwakamatsu.fukushima.jp/docs/2017081600010/