クラウドは提供するサービスによっていくつかに分類されるが、今回は、デジタル化に対応する際の技術基盤として最も基本的なサービスである、インターネット経由でインフラが提供されるIaaS(Infrastructure as a Service)に焦点を当て、その効果を俊敏性、柔軟性、コスト削減の観点から考えたい。
IaaSの効果としてまず初めに挙げられるのが俊敏性の向上である。従来、自社独自でICT インフラを構築した場合、製品の発注、各種機器の搬入・設置、設定・テストなど、製品を調達してから半年程度の時間が必要であった。一方で、IaaSを利用した場合、クラウド上に予め用意された機器を利用して即座に設定・テストを行えるため、半分程度の期間で新たなインフラを構築できるようになる。そのため、従来と比べ、新たなサービスを提供するまでのリードタイムを飛躍的に短縮することが可能となる。
次に挙げられるのが柔軟性の向上である。本連載2017 年2 月号でも紹介したとおり、これからの行政サービスは利用者視点でデザインしていくことが求められる。サービス提供者視点で解を見つけられたこれまでと異なり、今後は、多様化した利用者のニーズに対して最適な解を模索しながらサービスを提供していかなければならない。このような場合、小さく始め、利用者のニーズに合わせて試行錯誤を繰り返し、大きく育てていくといったアプローチが有効である。この場合、IaaSを利用すると、サーバの増強や追加といったインフラの変更を容易に実現できるため、サービスの発展に合わせて柔軟な対応が可能となる。
最後に挙げられるのがコスト削減である。従来は、ピーク時の業務量を処理可能なインフラを構築していたため、システム資源が過剰となり余分なコストが発生しがちであった。IaaSを利用した場合、ピークに合わせてシステム資源を保有する必要はなく、使用した分だけ支払えば良いため、余分なコストを抑えることが可能となる。
例えば、ニューヨーク市のNYC311(*6)では、クラウドサービスを活用して2009年より311オンラインというサービスを開始し、ウェブサイト、フェイスブック、ツイッターなど、様々なチャネルからの問い合わせを可能としている。また、このサービスでは、依頼内容に関する対応状況の確認や駐車場の空き状況などの情報を入手することも可能となっている。ニューヨーク市は、クラウドを活用することで、画一的なサービス提供から住民ニーズに応じたサービス提供にシフトし、さらに住民満足度の向上やセルフサービス化によるコスト削減を実現している。
また、アメリカでは、利用者ニーズの高かった電子申請への対応や使い勝手の向上など、既存のポータルサイトの改善を図っている省庁もある。クラウドを活用することで、電子申請数の増加に合わせたシステムの増強や新サービス提供のリードタイム短縮(従来の数か月から数週間へ)を実現しているのだ。
このように、クラウドはコスト削減だけでなく、インフラの俊敏性や柔軟性を向上し、デジタル化を加速する効果も見込めるのである。