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Gove tech

デジタル時代の自治体イノベーション

【月刊ガバナンス9月号 P94-95転載】

データから得る示唆や洞察

本連載ではこれまで様々なテクノロジーの行政における活用やその可能性について述べてきた。
機械学習や自然言語処理などの人工知能(AI)技術は比較的新しく公共機関でも試行しながら始まっている領域であるが、アナリティクスは諸外国をはじめとする先進的な機関では既に本格的に活用されて成果を挙げているなど、技術的にも確立されてきた領域と言える。

アナリティクスとはつまり、統計的な手法やツールを用いてビッグデータを分析し、傾向把握・行動予測等の様々な示唆や洞察を通じて業務の効率化・高度化や、サービスの向上に活かしていく取り組みのことだ。データ分析によって得られた示唆や洞察をアルゴリズムとして実装することで、これまでは人がデータを見て理解したり判断したりしていたことを、アルゴリズムがダイレクトに示唆するようになる。

しかも人が見きれない膨大なデータを一括処理することで、これまで明らかになっていなかったような未知の傾向・特徴を炙りだすことができるのも大きな強みだ。本稿では国内外の先進事例を紹介するとともに、アナリティクス活用に必要な要素について解説したい。

アナリティクスの多様な活用領域

公共機関においてビッグデータ・アナリティクスを活用できる場面は機関によって異なるが、主に以下の4領域での活用が期待されている。

▷利用者傾向分析:市民やサービス利用者の属性に応じてそのニーズを分析し、パーソナライズされたサービスを提供

▷意思決定支援:未納の社会保険料や税金等に対する最適な徴収手段の意思決定支援(Next BestAction)や簡易なプロセスの自動化

▷不正検知:社会保障の不正受給や税金の申告漏れなどの不正や誤りのリスク検知

▷安全確保:空港やイベント会場等での動画や画像の解析によるセキュリティ向上

組織パフォーマンスを向上するアナリティクス

従来のIT 化は、主に紙の手続きを電子化して業務を効率化することに主眼を置いていたと言えるが、アナリティクスは効率化のみならず、コンプライアンスの向上や利用者の満足度の向上などに直接寄与するテクノロジーであると言える。例えば、カナダのソーシャルサービス提供機関では、アナリティクスを活用して利用者の不正利用の可能性を示唆するリスクモデルを構築し、不正調査の投資対効果を400%改善させた(*1)。

シンガポールのSafe City Program では、F1や大晦日などの大規模イベントでのセキュリティの向上を目指して動画解析の実証検証を行った。シミュレーションモデルや機械学習、テキスト分析などの手法を組み合わせて、リアルタイムに群衆の行動を予測した。分析データを基にスタッフの管理やインシデントへの対応、そして組織間連携を効率化させ、結果、85%以上の精度で群衆の行動や人数の把握と、対応が必要な対象物の検出を行い、リアルタイムでの異常検出と適切な対応の判断支援を可能とした(*2)。

英国内国関税庁(HMRC)では、徴収率の向上に向けてアナリティクスを活用している。組織内外の20 システムからデータを集約して納税者の情報を分析し、滞納事案に対する最適な徴収の手順および手段を示唆する分析システムを導入した。これにより、滞納されている関税のうち30 億ポンドの追加徴収を目指している。また、HMRC ではさらに滞納者に対して滞納による不利益等を積極的に通知して、滞納自体の回避を図るなど、効果的な対応方法を分析し実行することで、徴収率を20%向上できると見通している(*3)。

国内でも本格化する取り組み

国内でも業務の効率化・高度化に向けて、アナリティクスを活用した取り組みが始まっている。

国税庁では、業務のスマート化に本格的に取り組み始め、今年6月にビッグデータやAI、統計的手法(=アナリティクス)等の先進的なテクノロジー活用の将来像を示した(*4)。例えば、納税者ごとに税務調査の必要度を判定し、最適な接触方法や必要な調査項目についても、的確に把握できるようにすることを目指す。

また、納税者個人の納付能力を判定し、過去の接触や滞納処分の状況等も加味しながら、優先着手事案の選定や最適な接触方法の判断を行う。さらには滞納整理方針がシステム上に的確に提示されるなど、滞納者の徴収業務の効率化・高度化を目指している。

なお、税務におけるアナリティクス活用の考え方については、2016 年5月号の本連載「税務×デジタル・テクノロジー」をご参照いただきたい。

また、佐賀県では、救急患者の受け入れ困難事例や搬送時間の長期化という課題にアナリティクスを活用した。救急隊や病院、県などがそれぞれ持っているデータを「99 さがネット」システムに統合し、それをさらに分析することで、救急搬送プロセスの高度化に取り組んでいる。

小さく始めて大きく育てる

ビッグデータ・アナリティクスに取り組む上でのポイントについていくつか押さえておきたい。

まずは、データ分析の目的・ゴールや業務上解決したい課題をしっかりと明確にすることが何よりも重要である。データや分析ソフトありきで何かできないか、というアプローチではうまくいかないことが多い。目指す成果を具体化して効果を評価できるようにすることが分析の第一歩である。

また、業務上の課題はあるがデータがないからできないという声を聞くことがある。しかし、データをゼロから収集しようとすると時間がかかり、いつまでたっても効果につながらないケースが多い。そのため、まずは既存のデータをもとに、投資対効果を見ながら段階的にデータも拡張していくアプローチが有効である。

また、データ分析には、データサイエンティストと呼ばれる分析の専門家のスキルが不可欠であり、また、分析した結果を実際に業務やサービスに適用するためには、現場を巻き込んだ業務改革も求められることから、まずは必要なスキルを持った外部の専門家と協業しながら小さく始めることが効果的だ。少しでも効果を示すことができたら、取り組みを広げ、また組織内でデータ分析に関する人材を育成していくことが成功の秘訣といえるだろう。


*1 Accenture: Getting Help to the People Who Need It Most:Using Analytics to Deliver Human Services Benefits
https://www.accenture.com/us-en/Pages/insight-analytics-challenging-status-quo-human-services-summary

*2 Accenture: Singapore Government - Safe City Test Bed
https://www.accenture.com/lv-en/success-singapore-government-safe-city-test-bed

*3 Capgemini: BigData and Predictive Analytics Help HMRC Process Debt Payments More Quickly
https://www.capgemini.com/resource-file-access/resource/pdf/ss_hmrc_adept.pdf

*4 国税庁 税務行政の将来像~スマート化を目指して~
https://www.nta.go.jp/kohyo/press/press/2017/syouraizou/index.htm