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Gove tech

デジタル時代の自治体イノベーション

【月刊ガバナンス 2017年8月号 P94-95より転載】

A I は何を変えるのか

人工知能(AI)が、産業革命以来かつてないインパクトでビジネスを変えつつある。

アクセンチュアの調査(*1)によると、AI が、人間と機械との新たな関係性を生み出し、2035年には日本における労働生産性が34%向上、国内総生産(GDP)にほぼ相当する粗付加価値(GVA)の成長率がAIを活用しなかった場合と比べて3倍以上になると予測されている。

また、公共サービス領域ではAIを活用した場合の2035 年のGVA成長率は、従来予想に比べて2.5倍以上になる可能性があると予測している(*2)。ここ数十年の生産性の低迷や労働力不足といった問題に対し、AI技術の成熟は強力な打開策になりうるだろう。

今日、国内外の公共サービス領域においても市民の問い合わせ対応から、審査・判断業務の自動化まで、幅広い場面でAI活用の議論がはじまっている。AI活用にあたってまず重要なのは、AIを使って何をするのか、どのような価値を生み出したいのかを明らかにし、それらの目的に応じた最適なAI 技術を見極めることである。

本稿では、公共サービス領域において、AI を用いることでどのような価値を創出しうるのか、その可能性と実現に向けて行政機関が取り組むべき要所を取り上げたい。

A I をあらゆる公共シーンに

AIが公共サービスにおいて創出しうる価値について行政機関の内と外の2つの側面から考えたい。

内側の創出価値としては、行政機関に従事する職員等の潜在力を引き出し、付加価値を高めることにある。AIや機械学習など先進技術の導入によって仕事の自動化が進めば、職員は定型的で反復的な作業から解放され、市民のニーズに寄り添った、より創造的な作業に集中するができるようになる。

日本を含む9か国の行政機関で行われた調査によると(*3)、回答した行政職員の約8割が、「デジタル技術を導入し、特定の反復作業の自動化を図れば、市民のニーズに直結するような仕事に注力できるようになるため、仕事の満足度が高まり、職員の定着が促進される」と答えている。

外側の価値創出とは、AIという新しいサービスチャネルを通じて、行政と市民との新しい関係を構築することで、公共サービス全体の価値を広げることである。

例えばロンドン市内の区役所においては、仮想の窓口対応者(バーチャル・エージェント)を設置し、住民からの相談・申請に対応している。またオーストラリア国税庁においてもAIを活用したチャットサービスを通じ24時間いつでもどこでも納税者の問い合わせに対応している。

日本の国や自治体においてもチャットサービスを用いた問い合わせ対応等のAI実証は進んでおり、「いつでも利用できる」「対応が速い」といった点で利用者の利便性も高まっている。自然な言葉でAIと会話を進めれば、手続きや申請まで完了できるようになるなど、行政職員および市民と公共サービスの新しい関わり方をAIが実現していくだろう。

目的に合ったA I 技術を見極めよ

AIというと自然言語処理、機械学習などを駆使し、人間の質問に何でも回答できるような万能なAIを想像しがちであるが、このようないわゆる「高度なAI」で実際に効果を得るためには、多くの時間と投資をかけた学習や組織・業務変革を行わなければならない。海外の先進企業などでは、いわゆる「ライトなAI」と言われるような、ルールや条件に基づいて業務の自動化や簡易的な判断を行うロボティクス オートメーション(Robotic Process Automation:RPA)の検討・導入が活発である。そのほかにも、ビックデータのアナリティクスなども含め、目的に応じた適切なAI技術の見極めが重要である。

RPAを用いた条件判断や入力プロセスの自動化は、すでに多くの民間企業で活用が進んでいるが、公共サービス領域もその例外ではなく、海外ではイギリスの歳入関税庁(*4)等をはじめとする導入が徐々に始まっている。

A I 人材の確保には協業を前提とした風土改革を

AIの活用にはスマートマシンの強化、数学、データサイエンス、神経科学、行動心理学、言語学など幅広い分野の専門知識を組み合わせることが必要である。組織内や従来の外部調達の枠組みでこのようなスキルを確保することはもはや難しい。

先の各国の行政機関に行った調査(*3)においても、行政機関の多くが「先進技術を活用したプロジェクトを実行するには、既存の職員の再教育に多額の投資が必要」と答えている。先進的な技術スキルと公共機関/市民ニーズに関する知識をあわせ持つ職員の確保は、さらに厳しい。

行政のリーダーは、変化に適応していくために、既存の人材の再教育を最優先課題として推進するとともに、外部人材の新たな雇用の仕組み、例えば大学などとの連携を強化して優れた人材の供給体制や高い専門性を持つフリーランスを活用する柔軟な環境も必要であろう。民間や外部からの人材との協業を前提としたイノベーション戦略と組織風土の改革が求められる。

データの集約と統合を

AI は膨大な量のデータを必要とする。現在行政機関で使用されているデータのほとんどは、複雑であり構造化や統一化がなされていないのが現状だ。これらの課題を解消するためには、既存システムのデータを集約し、それらのデータが統合するポイントにAIを組み込むことで、高度なサービスを作り出せるようにする必要がある。

AIを活用した価値を生み出すには、行政機関が技術、データ、人材を解放し、専門性を持った様々なプレーヤーと連携しながら、自らAIエコシステムを形成していくことが求められる。また、今後公共サービス領域においてAIをはじめとした最新デジタル技術の活用が進んでも、“ひと”(=市民や職員)を中心としたサービス提供のあり方が重要である。

テクノロジーに“ひと”が合わせるのではなく、“ひと”を中心に学習、適応、機能していくテクノロジーが世の中を支えていくのである。


* 1 アクセンチュア:人工知能はいかに経済成長をもたらすのか https://www.accenture.com/jp-ja/insight-artificial-intelligence-future-growth

* 2 アクセンチュア:How AI Boosts Industry Profits and Innovation https://www.accenture.com/us-en/insight-ai-industry-growth

* 3 アクセンチュア:機械学習や人工知能(AI)など デジタル技術の導入は、行政機関の人材獲得に不可欠 https://www.accenture.com/jp-ja/company-news-releases-20170224

* 4 Gov.UK: Robotics and people make a great combination... https://hmrcdigital.blog.gov.uk/2016/09/22/robotics-andpeople-make-a-great-combination/