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Gove tech

デジタル時代の自治体イノベーション
【月刊ガバナンス2017年6月号 P94-95より転載】

「デジタル」と「経済」

本稿を執筆中に仏大統領選挙のニュースが大きな関心を呼んでいた。勝利を収めたエマニュエル・マクロン氏は、大統領選挙出馬前まで「経済・産業・デジタル大臣」を務めていた。また、英国でも「文化・デジタル経済担当相」が設置されている。こうした肩書は「経済」のあり方を考える上で、「デジタル」を切り離すことができないという理解が海外で浸透していることを物語るものである。日本政府や自治体でも、今後、経済成長に向けて「デジタル」を冠する役職や部署が増えてくるかもしれない。

本連載においても、前回・前々回とデジタル活用による行政サービスレベルの向上やコスト削減の可能性に言及してきたが、今月は、デジタルの新たな潮流は行政の歳入増加にも繋がることについて触れたい。既に世界の先進的な行政府では、税金の回収効率を高めることにビックデータ・人工知能が活用されているといった事例を過去に紹介したが、デジタルに着目することで国・地域に課税対象となる企業を新たに呼び込んだり、既存の企業の収益を改善したりするアプローチも考えられる。今回は特に企業誘致・創業支援を通じた産業集積の観点から整理したい。

デジタルを呼び込む── For Digital

企業誘致を通じた産業集積において、デジタルの可能性に言及する際、人工知能、IoTなどの新たな技術がビジネスにもたらす影響を考える必要がある。これまでにもGoogle やApple、Amazon、Facebookのような新たな技術・ビジネスモデルを持つ企業が急伸していることは読者の皆様もご存知だろう。

一方、Innosight社の調査によれば、1965 年にS&P500に載る企業はその後の33年間ランキングに残り続けることが期待されていたが、1990年ではその寿命は20年間まで短縮され、また2026 年には14 年間まで落ち込むと予測されている(* 1)。今日のグローバル大企業の平均寿命が短くなる中、誘致にあたって大規模な金銭的なインセンティブを要することも多いグローバル大企業を追いかけることよりも、今後急激に伸びうる産業分野・企業を特定し、青田買いを目指すことが有効な戦略となる。加えて、これらの新たな技術を育てる、新たな技術を持った企業を呼び込むことは、地域に既に集積する産業・企業にとっても、生産性向上の触媒となる効果が期待される。

国内の多くの自治体においても、こうした新たな産業分野に注目し、テクノロジー企業向けのインセンティブを整備・拡充する動きがみられるが、新たな産業分野の誘致にあたっては、従来の企業誘致などで有効だった補助金・税制優遇などのインセンティブ以上の工夫が必要となる場合もある。例えば、FinTech産業の一大集積地とされる英国
ロンドンでは、金融業の監督庁であるFCA(Finan-cial Conduct Authority)が「Regulatory Sandbox
(規制の砂場)」と称して、革新的・破壊的な金融商品・サービス等について、通常の規制を一時的に緩和することで、イノベーションを促進したことが成功要因の一つともいわれている(* 2)。また、フランス政府では「French Tech」の旗印のもと、スタートアップ企業・起業家の誘致、デジタルテクノロジーの発展を狙った、アクセラレータープログラムや特別なビザの提供、資金調達に関するアドバイスの提供などの支援メニューを整備している(*3)。これらの国・自治体はターゲットだけでなく、誘致・育成に向けた支援メニューもターゲットのニーズに沿う形で方向転換を遂げている。

しかしながら、これから伸びる有望な産業、企業を見極めることは困難であり、行政でもデジタルテクノロジーを理解し、業界に強い人材の登用・育成を進めることが不可欠である。海外では民間企業とのコラボレーションや外部の専門家を登用することにより、人材・知見をカバーする例も多い。アクセンチュアでは、ニューヨーク、ロンドン、ダブリン、香港で、FinTech分野におけるスタートアップ企業を支援するアクセラレータープログラム「FinTech Innovation Lab」(* 4)を運営しており、企業の呼び込みを行っているほか、国内外の各自治体に対し、企業育成・誘致における支援対象企業の見極めを支援している。また、国内でも神戸市が企業の育成・呼び込みにおける目利き役として、米国の著名アクセラレーターである500 Startups社と提携するなど、新たな動きがみられる(* 5)

デジタルを活用する── By Digital

行政自身がデジタルを活用することも、産業集積・企業誘致の政策展開を新たな次元へ導くことになる。企業の誘致活動は、営業をしかけるターゲットを特定することから始まるが、新たな企業や技術が次々と生まれ、急速に育っていく今日において、全ての国・地域、業種、事業規模をカバーして営業活動を行うことは現実的でない。そのため、行政でもデジタルを活用して効率化に取り組むことが有効である。

例えば、育成や誘致のターゲットとなる産業、企業の選定にあたって、テクノロジーを活用することで効率的に絞込みを行うことができる。アクセンチュアが企業誘致活動を支援する際、独自に進出済みの企業を分析して特徴点を抽出し、類似した特徴を有する企業を特定した上でピンポイントの営業をしかけることで、効率的な企業の発掘を図っている。また、世界中の企業のIR情報や報道記事などを自動で収集し、アジアや日本に対する投資意欲を示す企業を特定することにも実験的に取り組み始めている。

有望な企業へのピンポイントでの能動的な営業活動に加えて、企業の投資意欲を後押しするためのマーケティングツールも有効である。海外の誘致機関では、いち早くチャットの導入やCRM(Customer Relationship Management)と呼ばれる顧客データベースの活用を進め、企業に対するやり取りの効率化や個別化した情報発信に取り組んでいるケースが見られる。また、民間企業の中には、「チャットボット」と呼ばれる人工知能を活用し
た対話型のユーザーインターフェイスを設け、利用者の要望に応じるサービスを提供している企業も多い。多くの日本の自治体でも、すでにホームページやSNSの活用には取り組んでいるが、まだ情報発信の頻度や質、問い合わせへの対応などで課題を抱えている自治体も多いようだ。

テクノロジーが急速に発展する中、組織や市民のニーズに合わせてテクノロジーの活用を積極的にデザインしていくことがこれまでになく求められている。こうした新たなテクノロジーの活用は、行政府による企業誘致のあり方を新たなステージへ移す可能性を秘めているのではないだろうか。

* 1 Innosight, "Corporate Longevity: Turbulence Ahead for Large Organizations", Executive Briefing,( 2016) https://www.innosight.com/insight/corporate-longevity-turbulenceahead-for-large-organizations/

* 2 経済産業省─ FinTech ビジョン(FinTechの課題と今後の方向性に関する検討会合報告)

* 3 The French Program for International Startups http://www.frenchtechticket.com/

* 4 FinTech Innovation Lab http://www.fintechinnovationlab.com/

* 5 神戸市─ 500 Startups が本格的なアクセラレーションプログラム「500 Kobe Accelerator」を開催する。http://www.city.kobe.lg.jp/information/press/2017/04/20170410041901.html