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Gove tech

デジタル時代の自治体イノベーション
【月刊ガバナンス 2017年4月号 P96-97より転載】
2年目にあたって

2016年4月号から開始したこの連載も、今回から2 年目に入ることとなった。昨年度1 年間は、政府・自治体(Government)× デジタルテクノロジーに焦点を当て、税務、雇用、ヘルスケアといった各領域でのテクノロジーの活用について紹介してきた。今年度は連載テーマである「GovTech」をさらに広範に捉え、行政サービス向上のヒントにつながるような民間の事例なども交えながら読者の皆さんと一緒に考えてみたい。 そこで今回はまず、行政がいわばオーケストラの指揮者となり、従来の行政サービスの枠組みを超え、デジタルの活用や民間との協働によって市民により良いサービスを提供していく「プラットフォームとしての行政のあり方」の可能性について語りたい。

GOVERNMENT AS A PLATFORM

AppleからUberに至るまで、昨今デジタル技術を活用して業界に変革の波を起こしてきた企業のビジネスモデルに多くみられる特徴は、プラットフォームを構築してデータを集め、そのデータを活用するという点である。また、そのデータは、企業自身で収集しているものに限らず、一般消費者による提供や外部のパートナー企業との協働によって、データ量も種類も飛躍的に増え続けている。そして、そのデータを活用したサービスを一般消費者や外部パートナー企業が利用することで、直接的な売り上げと共に、将来に向けたビジネスの価値を創造しているともいえる。

これを公共サービスについて当てはめてみるとどうなるのか。アクセンチュアが日本を含む11か国で行った調査によると、公共サービスに関わるマネジメント層の89%がプラットフォームベースのビジネスモデルを採用することが重要だと考えている(* 1)。また、アメリカで行われた調査では市民の70%以上が行政のデジタルサービスに、民間企業と同じかそれ以上の期待を持っているとの結果も出ている(* 2)。しかしながら、国内の多くの場合において行政機関がデジタル技術の変化のペースについていけずにいるのが実態ではないか。

昨今ヨーロッパにおいて大きなテーマとなっている難民対応を例として挙げたい。難民が直面する問題は極めて多面的かつ複雑であり、行政に適切な対応の検討が求められる中、市民が主導してデジタル技術を活用し、従来では公共サービスとされていた領域について、行政に成り代わってサービスを提供する行動を起こした。ボランティア組織がオンラインの大学を作って教育を提供し、避難所を提供するために市民がソーシャルメディアを活用した。NPO団体であるRefugees Welcomeのように、デジタルプラットフォームを使用して民泊スタイルの住宅サービスを提供するために設立された団体もある(*3)。このように、デジタル技術は、従来からある公共サービスについても、行政と企業、市民社会の間の役割分担を曖昧にし、必ずしもそのすべてを行政が直接提供しなくても、技術やエネルギーを持った主体者と協働することで、スピード感を持った対応を可能としている。今後これらの動きがさらに進化し、個々のデジタルサービスから統合的なデジタルとリアル(実際の窓口などでのサービス)を融合させた、真に国民、市民にとって便利なサービスを目指し、行政ならではの新しい役割を過不足なく担っていけるかが問われてくる。

市民生活向上をファシリテートする
プラットフォーマーへ

行政と民間企業が連携した成功例と言える事例も存在する。米国内国歳入庁(IRS)は、E - Fileプログラムを通じて、確定給与所得の下で納税者に無料のオンライン税務補助と電子ファイルオプションを提供している(*4)が、これらのシステムは、IRS自らが開発したものではなく、いくつかの民間企業によって開発された既存のアプリケーションを認定し、ツールをIRS.govを通じてアクセス可能とする形式をとっている。このような取り組みは、アプリケーション自体を開発するための時間とリソースを必要としなくなるだけではなく、民間企業に強く存在する、よりよいサービスを提供するというインセンティブを活用することで、結果的に国民、市民に高いサービスを提供することにつながっている。

日本国内においても、福島県会津若松市では、市の持つ様々なデータを「Data4Citizen」というプラットフォーム上に集約し、様々なプレーヤーにその利用を促すことで住民サービスの向上につなげる取り組みを行っている(*5)。例えば、バスや除雪車の稼働状況データがリアルタイムで市民に提供されていたり、公用車のセンサー情報(急ブレーキなど)と警察の人身事故発生箇所情報とを組み合わせて分析することで、「潜在的な事故発生ポイント」の検出につなげている。また、スマートメーターによって家庭での電力利用量を可視化し、それを地域内での比較を行うことで、市民の行動変革を促し、電力消費量の削減につなげるなどサービスは多岐に渡る。特筆すべきは、これらのサービスは、自治体がすべて一方的に提供しているのではなく、民間企業や参加する市民自らもサービスやデータを提供する形で進められており、まさにプラットフォームモデルとして機能している点である。民間企業は、このプラットフォームですでに提供されている機能や蓄積されたデータを活用することで自らが提供するサービスそのものに開発を集中することが出来るため、時間とリソースが短縮され、よりよいサービス構築につなげることが出来る。

また、IT専科大学として国内最大規模の会津大学と連携し、人材育成の一環として学生にこれらの実データに触れるコースを実施し、卒業後の地元での就職につなげる試みとするなど、従来はコストセンターとして捉えられていた公共サービスの提供が、地域経済の発展に向けた取り組みとして行われていることも付け加えたい。

近年わずか数年の間にテクノロジーが飛躍的に進化したことで、一定レベルのテクノロジーを利用することそのものは行政にとっても決して手の届かない難しい話ではないともいえる。むしろ世界のデジタル化が進めば進むほど、行政のもつ窓口などの対面接点や従来より築き上げてきた信頼感は他者が持たない貴重な財産となり、市民や民間企業が共に成長したいと感じるプラットフォーマーとなりえるという見方をすることも出来る。

行政が、行政らしいデジタル時代のプラットフォームの役割を果たそうとするためには、デジタル技術のみならず、対面接点も含めた運用モデル、業務プロセス、スキルと文化、ステークホルダーとの関係など、様々な側面に変化が必要となる。これらにチャレンジする決断をし、民間企業や市民をはじめとしたステークホルダーとの連携を始めた時から、市民生活向上をファシリテートするプラットフォーマーとしての役割はスタートする。

* 1 アクセンチュア Government as a Platform: Coming soon to a government near you, 2016, www.accenture.com/t20160831T013223__w__/us-en/_acnmedia/PDF-62/Accenture-Government-Platform-POV.pdf
* 2 アクセンチュア Digital Government: Your Digital Citizens are Ready,Willing … and Waiting,2016, www.accenture.com/us-en/insightdigital-government-digital-citizensready-willing-waiting
* 3  Refugees Welcome  www.refugees-welcome.net/
* 4  IRS E-File Options for Individuals www.irs.gov/filing/e-fileoptions
* 5  会津若松市 Data4Citizen www.data4citizen.jp/