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世界経済を牽引するアジア太平洋地域の市場で熾烈な競争が起きている


製造・流通本部
マネジング・ディレクター
赤羽 陽一郎

1980年から2030年の50年間において、世界経済は幾度かのパラダイムシフトを経験し、その主役の座は次のような変遷を辿っています。

まず、「Japan as No.1の時代」とも呼べる1980年から1990年代の第一期では、日本企業全体の時価総額は米国企業全体のそれを大きく凌駕し、日本以外のアジア太平洋地域の企業はまだ成長期に差し掛かっていませんでした。

次に、2000年~2018年の第二期は、「欧米企業が牽引するグローバル・オペレーティングモデルの時代」と言えます。この時期に欧米の多国籍企業(MNCs)が成し遂げたことが、まさに本論考のテーマである『グローバリゼーションパスウェイ』の成長モデルです。

そしてこれから、2019年~2030年の第三期は、「アジア太平洋地域が成長コアの時代」です。この時期はアジア太平洋地域の市場が世界経済の成長を牽引するエンジンとなり、ますます大きな役割を果たしていくことが見込まれています。この第三期における競争に打ち勝つためには、日本企業は、第二期に欧米の多国籍企業(MNCs)が実践した構造改革から多くを学び、自社の構造改革に活かしていくことが不可欠です。これをなくして、第三期の競争における勝者になることはできません。 未来の成長に向けた教訓として、第二期に欧米企業が成し遂げたこと、また日本企業が成し遂げられなかった『グローバリゼーションパスウェイ』について解説します。

(図1)が示す通り、アジア太平洋地域のGDPは2018年以降において、既存の欧米先進国と比べて1.6倍もの成長が見込まれています。つまり、アジア太平洋地域の市場は世界経済の成長コアであり、この市場での勝者が次の20年間の勝者になると言っても過言ではありません。


(図1)

グロ-バりゼ-シヲン3つ波。Click to expand.

「グローバリゼーションの波 第二期」で発生した「逆転劇」

欧米の多国籍企業の中には、2000年前後から今日に至る約20年の間に、こうした環境変化に柔軟に適応しながらグローバリゼーションに成功し、独自のブランド力・製品力で市場から高い評価を受け、時価総額を増大させた企業が存在します。

1989年と2018年における世界の企業の時価総額比較(図2)を見ると、1989年時点では上位50社のうち30社以上が日本企業によって占められていたのが、2018年の最新調査では、上位50社のうち39社が欧米の多国籍企業(MNCs)であり、逆にランキングに登場する日本企業はわずか1社のみです。

ここで誤解してはならないのは、ランキングから姿を消した日本企業の時価総額は、決して下落しているわけではないという点です。(図3)は、世界のトイレタリー・コスメティック業界をリードする欧米のトップ企業3社の時価総額と、同じ業界に属する日本の大手企業3社の時価総額の推移です。ここからもわかる通り、日本企業3社の時価総額も、2000年当初と比べて2倍以上の伸びを示しています。

しかし、世界経済の規模はかつてないほどの爆発的なスピードで拡大を続けており、欧米の時価総額10兆円を上回る企業は1990年代まで輝いていた日本企業をはるかに上回るスピードで成長を続けた結果として逆転劇が発生したのです。

このことは、世界の市場における米国企業の時価総額の推移を示す(図4)からも明らかです。1989年から現在に至るまでに米国企業の時価総額は9.4倍の規模に拡大しているにもかかわらず、日本企業は1.4倍にとどまっており、ほぼ横ばいの状況です。

では、この背景としてそれぞれの国の企業のアクティビティには一体どのような違いがあるのでしょうか。その理由を探るべく、アクセンチュアが実施した独自の調査から明らかになったのが、ビジネスのグローバリゼーションを成功に導くための『グローバリゼーションパスウェイ』です。


(図2)

過去30年間における時価総額の変化。Click to expand.


(図3)

ケース1:トイレタリー・コスメティック業界。Click to expand.


(図4)

世界規模 で見た 時価総額の変化。Click to expand.

成功した多国籍企業の成長モデルに共通する6つのパスウェイ

各業界において時価総額が高い企業を対象にアクセンチュアが実施した調査からは、彼らに共通する以下の6つのフォーカス領域と進め方(=パスウェイ)が明らかになりました。


<実例1>:6つのパスウェイで成功を収めるユニリーバ社

この6つのパスウェイの実践を通じて成功を収めた一例として、時価総額の比較でもご紹介したトイレタリー・コスメティック業界の世界的大手であるユニリーバ社の取り組みを見てみましょう。

同社は、もともと典型的なブランド・ドリブンなビジネススタイルの企業です。現在に至る本格的な成長軌道がスタートした1960年代の当初から、セールス&マーケティングの領域に集中的に資本を投下し、ブランド価値の向上に取り組んできました。

しかしながら、同社の成長の源泉はそれだけではありません。成長の各段階、ビジネスの規模に応じて、6つのパスウェイを適宜選択しながら、グローバルビジネスにおける持続的な成長基盤を維持・拡大し続けています(図5)。各パスウェイにおける取り組みをご紹介します。


セールス&マーケティング

まず同社が1960年代から1980年代にかけて注力したのが、セールス&マーケティングです。自国の市場において一定の成功を収めた後は、ビジネスの舞台をヨーロッパの他の地域にも拡大しました。また、原材料の鮮度にこだわった商品ポートフォリオの強化によって、ブランド価値の向上にも取り組み、2000年以降は新興市場にも進出しています。


R&D(研究開発)

商品ポートフォリオの強化と並行して取り組んだのがR&Dです。1980年代にR&Dの機能をいったんはグローバルで統一しましたが、2000年以降の新興市場のビジネスでは、地域のニーズに応えることが不可欠な成功要因という判断から、R&Dの一定の裁量を地域に委譲する戦略も採用しています。


サプライチェーン

1970年代から1980年代にかけて、強力なサプライチェーンネットワークが業界の主要な差別化要因となり、同社もこの時期に自国以外の地域において、製造ネットワーク強化に着手しました。また、1990年代に登場したテクノロジーによってサプライチェーン機能が飛躍的に向上したため、同社は再び調達などのサプライチェーンの集中管理に取り組みました。


IT

現在もグローバリゼーションの取り組みに注力する同社にとって、最終かつ最新の課題となっているのがITです。1990年代にERPを使ったITアーキテクチャの統合、機能の集中管理などをスタートさせました。現在その取り組みはEコマースやデジタルマーケティング、データアナリティクスなどを駆使した、他のパスウェイと密接に関連したものへと進化し、拡がりをみせています。


(図5)

グローバリゼーションパスウェイ:Unilever。Click to expand.


<実例2>:先進的なR&Dを起点に企業価値の向上を実現したロレアル社

6つのパスウェイを持続的な成長につなげている、もう1つの成功例をご紹介します。コスメティック業界の大手として知られるロレアル社です。高品質かつ高級志向の商品展開でヘアケア、スキンケア、パーソナルケア市場に注力してきた同社の成長は、創業当初から現在に至るまで、独自のR&Dが大きな原動力となっています。
このコアコンピタンスを生かして、同社は各時代において以下のようなマーケティング施策の実践のほか、製品開発、製造、流通戦略といった主要な施策の権限を適宜ローカルに分散し、6つのパスウェイの相乗効果を高めながら、大きな成功を収めています(図6)。


1980年代

印刷媒体とラジオをより効果的に活用しながら、製品ポートフォリオの拡大にも注力。この時期に、国外市場(特にアメリカと自国周辺の西ヨーロッパ諸国)への進出も果たしました。


1984~2000年

テレビ、ラジオ、印刷物、イベントなど、主要メディアに投資しながら、ヨーロッパ、アメリカ、さらに新しい市場(主に日本、中国、ブラジル)で自社のブランドポートフォリオを確立しました。


2001年~現在

デジタルメディアのアーリーアダプターの1社として、あらゆるチャネルを活用してグローバルでブランドポートフォリオを確立するとともに、必要に応じてローカル(特に日本、中国、ブラジル、インド、等)でのマーケティングキャンペーンも実施しています。


(図6)

グローバリゼーションパスウェイ:L'Oréal。Click to expand.


この2社の例にとどまらず、2000年代にグローバリゼーションによって時価総額を増加させた多国籍企業は例外なく、6つのパスウェイにおける施策を確実に成果に転換しています。したがって、6つのパスウェイを示すフレームワークは『グローバリゼーションパスウェイ』と名付けることができるでしょう。

『グローバリゼーションパスウェイ』の特徴とポイント

① 相乗効果と律速要因:6つのパスウェイを進めることで、企業価値の主要な指標である時価総額は数倍、数十倍に増加します。逆に、どれか1つでも決定的に遅れていれば(例えば、セールス&マーケティングだけは先行しても、ファイナンスが決定的に遅れているなど)、それが全体の律速要因となり、企業価値の成長を阻害してしまいます。

 

ステップ2の重要性:6つのパスウェイには(図5・6・7)の横軸が示すステップ1「海外展開の開始」、ステップ2「絞込み・統一化」という段階があります。ステップ1で拡大した後、一旦ステップ2で絞り込みを行わないと、その後の発展がありません。


グローバルリーダー:成功している多国籍企業は、10年、20年かけてこのステップを踏む中で、グローバルリーダーを育成しています。グローバルリーダーが不足する日本企業にとっては、このパスウェイを辿ることがグローバルリーダー育成の道です。


多様な成長パターン:企業や業界によって、パスウェイを辿るパターンが存在し、それは多種多様です。例えば、消費財の会社はセールス&マーケティングのパスウェイが全体を牽引するでしょう。製造業の会社は、SCMのパスウェイが全体を牽引するでしょう。しかし、6つのパスウェイの要素は普遍です。


(図7)

グロ-バりゼ-シヨンパスウエイ。Click to expand.


『グローバリゼーションパスウェイ(Globalization Pathways)』
セールス&マーケティング

グローバリゼーションの初期段階では、世界各地における支店、営業所の開設を通じたブランドの認知向上からスタートし、その後はブランドの統一やデジタルマーケティングに注力していきます。


R&D(研究開発)

初期段階ではローカル市場に最適化されていたR&Dが次第に統一され、グローバルR&Dセンターの設立によって、商品やサービスのベースが確立されます。


サプライチェーン

現地工場の買収、製造子会社の設立に注力する初期段階を経て、より高度なガバナンスを目的としたグローバルサプライチェーンの構築に着手します。


ファイナンス

ローカル単位で独自に行われていた財務管理が、本社で一元的に管理するセントラルファイナンスへ移行します。ERPの導入などで財務機能の統合を図るケースも多くみられます。


組織・人材

国単位で独立していた人事機能が統合され、グローバルの拠点を横断したスキル管理、より高度なタレントマネジメントに移行していきます。


IT

地域単位のITの個別最適は排除され、共通のプラットフォームを活用したプロセス管理が実現。近年は多くの企業がクラウド環境への移行に取り組んでいます。


(図8)

グロ-バりゼ-シヨンパスウエイ。Click to expand.

日本企業の次の最重要課題は「ステップ2」

成功した多国籍企業(MNCs)の成長の過程を詳細に分析した今回の調査からは、今後、日本企業がグローバリゼーションに乗り出し、時価総額を高める上での課題が見えてきます。
まず、総じて日本企業は6つのパスウェイ全体において、自社が置かれている現在地点を認識できていないケースが多いようです。例えば、「海外には既にいくつもの支店がある」「世界の主要拠点で工場を展開している」「高度なサプライチェーンネットワークの整備はすでに完了している」という自負の一方、これらの成熟度(ステップ)を精査してみると、ステップ1、またはステップ2の段階で足踏みをしているケースがほとんどです。
また、グローバルビジネスを前提とした商品ポートフォリオの見直しなども、日本企業が苦手とするところです。R&Dの強化や製造子会社を買収した結果、日本企業の商品バリエーションは増える傾向があり、サプライチェーンをますます複雑化するこうしたビジネスは、デジタルディスラプターの登場によって、いとも簡単に淘汰されてしまいます。
こうしたことは、ファイナンス、組織・人材、ITといった6つのパスウェイの他の領域でも見られる傾向で、ZBB(Zero Based Budgeting)、ZBS(Zero Based Sourcing)といったアプローチによるコスト削減、またGBS(Global Business Service)の概念に基づくファイナンスの統合などが浸透しない背景には、数十年前から変わっていない日本企業の旧態依然とした土壌があります。
いまこそ日本企業は、6つのパスウェイにおける自社の現在地点を再認識し、持ち前のコアコンピタンスに照らしたグローバリゼーションへの最短ルートを見出さなければなりません。そうすることで、これまで培ってきた経営資産の価値を最大限に活かした日本企業の再生の道が開かれるはずです。


今後注力すべき課題は明白です。グローバリゼーションの第二期に欧米企業が成し遂げた『グローバリゼーションパスウェイ』の構造改革に学び、キャッチアップすることです。欧米の多国籍企業が、15年から20年かけて成し遂げた構造改革から学び、さらに最新のデジタルテクノロジーを活用することで、日本企業は5年で欧米多国籍企業にキャッチアップすることが可能です。
必要なのは、実際に行動することだけなのです。


アクセンチュアでは、グローバルビジネスにおける新たな成長の道筋を模索する日本企業に向けて、6つのパスウェイにおける自社の成熟段階を見極めるための『_FORM_方法論』を用いたアセスメントサービスをご提供しています。

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