経済学者のクラウス・シュワブが言うように、「新しい世界では、大きな魚が小さな魚を食べるのではなく、速い魚が遅い魚を食べることになる」と考えられます。*5これからの時代をリードする最良のポジションを獲得するためには、企業は常に新しい世界に目を向けながら、次のようなビジネス基盤を構築して、デジタルプラットフォームの価値を最大限に生かしていかなければなりません。
グローバルな思考と組織の多様化:企業は世界のダイナミクスと新たな機会のホットスポットを、これからも注視し続ける必要があります。そのためにはローカルチームの業務環境の強化と、本社機能の一層の多様化を同時に図らなければなりません。パナソニックは数年前に上級経営幹部のひとりをインドに異動し、インド事業の梃入れを実施しました。現在、インド事業はパナソニック・グローバルの中でも最も急速な成長を遂げています。
デジタル戦略:経営主導のデジタル戦略をバリューチェーン全体に導入し、製品のデジタルプラットフォームを構築して、顧客やエコシステムとつながらなければならないのは、IT企業にとどまらず、すべての企業の最優先の経営課題です。たとえば、テスラは自動車にソフトウェアプラットフォームを搭載することで、車の製造から販売、アフターサービスに至るライフサイクル全体の一元管理を実践しています。万一の不具合が発生した場合にも、同社はリコールではなく、ソフトウェアパッチの適用を遠隔操作で行うことで、より迅速かつ低コストな修理対応を実現しています。また、ソニーは次世代TVをAndroidプラットフォームに導入しているほか、多機能プリンターメーカー各社も製品の設置を遠隔で管理しています。
コアコンピタンスの多様な活用:新しいテクノロジーの誕生に伴って、新たな産業や製品/サービスを創出する機会が生まれている現在、企業は自社製品の新たな活用方法を体系的に評価し、あるいはコアコンピタンスを生かして、新しい市場を形成していく必要があります。たとえば、デジタル映像企業はコアコンピタンスである動画をIoT向けのセンサーとして用いることによって、分析ベースのサービスを提供したり、農業用ドローンや小売企業の倉庫管理、一般家庭向けの児童監視システムなどに動画を活用したりすることが可能です。
贅肉のない組織:ロボティクス・プロセス・オートメーション(RPA)や機械学習、人工知能(AI)は、大幅な時間短縮を促して、タスクの最適化や不要タスクの廃止などを実現し、経営効率を飛躍的に高めます。ある大手自動車メーカーはRPAを活用することで、送り状作成業務にかかる時間を90%以上も削減しました。このように企業は積極的に組織の贅肉をそぎ落とし、競争優位性を高めていく必要があります。
イノベーションの加速:ヨーロッパのある大手家電メーカーはスタートアップとの協働を通じて、次世代歯ブラシを開発しました。クラウドに接続して、磨き残し、磨くときの圧力、唾液の化学組成といった歯磨き習慣に関する情報を収集し、歯科健康保険会社にデータを送ることができる歯ブラシです。AIや機械学習、認知分析といったテクノロジーは、イノベーションの領域に変革をもたらしつつあります。こうしたスタートアップとの連携が、イノベーションをますます加速する大きな鍵を握ることになるでしょう。
企業の社会的責任(CSR):機械が人に取って代わる脅威が日々高まり、現在の雇用のいずれ喪失することは、もはや自明の理と言えます。それだけに、企業はこれまで以上に社会全体に貢献することで、地域社会に利益を還元し、高い企業ブランドを維持するためのより一層努力を行っていく必要があります。
*1: Why the Global 1% and the Asian Middle Class Have Gained the Most from Globalization (2016.5.13)
https://hbr.org/2016/05/why-the-global-1-and-the-asian-middle-class-have-gained-the-most-from-globalization (最終閲覧日2017.07.21)
*2: An Agenda for the Future of Global Business(2017.227)
https://hbr.org/2017/02/an-agenda-for-the-future-of-global-business (最終閲覧日2017.07.21)
*3: Patanjali biggest disruptive force in FMCG space, says report (2017.1.1)
http://www.livemint.com/Companies/19OMOB8SdCTvhSWE8wxLTJ/Patanjali-biggest-disruptive-force-in-FMCG-space-says-repor.html (最終閲覧日2017.07.21)
*4: Chinese firms shipped 51% smartphones to India in March quarter: IDC report (2017.5.17)
https://www.idc.com/tracker/showproductinfo.jsp?prod_id=103 /_(最終閲覧日2017.07.21)
*5: http://www.azquotes.com/quote/1237221 (最終閲覧日2017.07.21)