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2015年、保険業界を占う~デジタル展開後の真の勝者

FSアーキテクト Vol.36:業界外の企業の参入といった脅威に対し、保険会社はデジタル技術を用いて新たなビジネスモデルやサービスを創出することが必要である。

概要

金融サービスグループ
マネジング・ディレクター
保険グループ統括
林 岳郎

逆ざや解消、アベノミクスがもたらした株高・円安トレンドを受け、2014年度の保険各社の業績は一定の結果を得るものと思われる。

しかし、人口減少、保険離れ等、保険業界を取り巻く環境は依然として厳しいうえに、技術革新がもたらすイノベーションにより、もはや業界内でのみ競争優位性を保つのでは足りない状況にさらされており、2015年は強固で新しい経営土台を作れるか否かの分岐点に差し掛かる年になると考えている。

保険各社は、現在進めている「デジタル化」の次のステップである「デジタル展開」後の真の勝者となるために、保有する潤沢な資産・人材をどのように活用するべきなのか。弊社が考える3つの進化に沿って述べていきたい。

デジタル化の進化

保険各社は積極的にデジタル投資を進めている。生保各社においてはシミュレーション・設計・申込、損保各社においては新契約・契約管理・事故対応等で、大半の会社がマルチデバイス化や情報の電子化を完了しており(図表1)、デジタル化の次のステップへ進もうとしている。

【図表1 保険会社のマルチデバイス化や情報の電子化状況】

弊社では、ビジネスデジタル化の発展段階を3つのステージに分類(図表2)しているが、各社ともステージ1の半ばに来ていると考えている。

【図表2 ビジネスデジタル化の発展段階】

また、デジタル化の浸透により、保険に対する顧客ニーズも変化している。弊社調査結果でも、71%の顧客がデジタルチャネルによる商品購入を求めていること、80%の顧客がパーソナライズ化された商品・サービスを求めていること、また、保険料の最適化や個人に合った商品提供を受けるためであれば、保険会社が自分の利用状況・行動に関する情報にアクセスしても良いと思っていることが分かっている。

顧客ニーズの多様化を受けて、保険各社は次のステージへの戦略を模索することになるが、今後は全ての企業が上のステージを狙える時代であり、伝統的企業が新たな価値を創造し、競争優位を築くチャンスになるであろう。

ビジネスモデルの進化

保険各社はどのように独自戦略をもち、上のステージへ進むことができるのか。

キーワードは『カンパニーセントリックからカスタマーセントリックへのシフトチェンジ』である。

これは、より顧客の視点でのライフアドバイザーとしての機能をもち、一方的・受動的なスタンスから、より顧客視点で能動的なスタンスへシフトすることを意味する。

大企業は顧客が最も必要とするアドバイスを提供できる人材・ノウハウ、および情報を保有しているものと思われる。

経営上の最重要事項である顧客保護・満足度達成への注力のみならず、ビジネスモデルをより顧客視点にシフトできる企業こそが、結果ビジネスでの勝者になるものと考える。

この判断・行動様式を実践する保険会社が、ビジネスモデルの進化における勝者となり、上のステージに進むことができるであろう。

商品・サービスの進化

  • 新しい技術の台頭による新たな商品・サービスの進化:
    新しい技術を活用した商品・サービスの展開は、保険会社に限らず全ての企業にも勝利をもたらす一つの機会であると考える。

    Googleドライバーレスカー、ウェアラブル機器の浸透、既にサービス提供が始まっているテレマティクス等、保険ビジネスに影響をおよぼす可能性のある新しい技術の台頭は枚挙にいとまがない。現在の保険商品・サービスの根底を覆す技術革新に対して、勝負を挑む会社こそが、保険ビジネスにおける勢力地図を塗り替える会社になるであろう。

    技術革新がもたらす新たな商品・サービスの今後と併せ、マイナンバー制度の導入、レセプトの有効活用等、常に変化するビジネス環境での勝利に向けて、弊社クライアント経営者の方々からは、新ビジネスの在り方や次に述べる企業間連携の機会に対する問い合わせが絶えない。

  • 企業間提携や連携による新たな商品・サービスの進化:
    既に、アリアンツとBMWの提携、東京海上日動とNTTドコモの提携等、大企業間の提携は拡大している。しかし、直接的にはビジネスシナジーがないと考えられている企業間連携には、まだ十分に手が付けられているとは言い難い。

    保険各社が注力すべきポイントは、さまざまな企業とサービスを結び付けるエコシステム(データを企業全体、ひいては各企業のパートナーに容易にそして有益に循環させることができるシステム)にあると考えており、考え方次第でそのすそ野は広がるものと思われる。

    電力会社やガス会社との提携は無いか?通信業が保有している情報を最大限活用する提携はないか?クレジットカード会社の情報にリーチし、これまでにないリード生成ができないのか?等、保険各社が検討すべき企業間連携の切り口は幅広い。

    位置情報を活用し事故を防ぐサービス、ウェアラブル・グーグルグラス等を活用し契約者の病気を防ぐサービス、ライフライン利用率を活用した契約者確認サービス等、これらは結果、付加保険料を下げ、サービスも充実するなど顧客満足につながるだけではなく、保険会社もメリットを享受できる。

    次の保険ビジネスを創出する企業が新たに表れる可能性は十分にありえる。今、保険各社は保険ビジネスにおける現在の位置を他に奪われるか、現状を維持・拡大できるかの分岐点に立っていると考えている。

  • 各進化がもたらす企業の復権
    日本ではシリコンバレーのような大規模ベンチャーによる新たなビジネスの台頭は難しく、日本版のベンチャーは大企業の関与を避けて通れないと考えている。これまでに述べた3つの進化を経て、大企業は復権と次世代企業としての勝者(図表3)となる。

【図表3 “Big is the Next Big Thing” デジタル化の進展は企業の復権をもたらす】

イノベーションによって競争のルールが瞬時に変わることを、弊社は「ビッグバン型破壊」と呼んでおり、今日ではほぼすべての業界がデジタル化のメリットを享受している一方、弊社が呼ぶ「ビッグバン型破壊」を被る可能性にもさらされている。

破壊的変化を最も被りやすいのは、情報を基盤としたサービスを扱い、それらをデジタルで提供できる業界だ。その典型が保険業界である。

弊社の推計によると、今後1年間で最大4000億ドルの保険料が、業界内で移転する。弊社が世界各国で行ったアンケートでは、3分の2以上の顧客が、保険会社以外から保険商品を購入することを検討すると答えた。そして23%が、グーグルやアマゾンといったオンラインサービスのプロバイダーからの購入を検討すると答えた。

業界外の企業は既にこの傾向に対応しており、デジタルを通じて保険を扱う実験を行っている。中国の2大インターネット企業、テンセントとアリババは最近、中国平安保険と組んで保険商品をオンラインで販売すると発表した。グーグルは2011年、保険商品比較サイトのビートザットクオート・ドットコム(BeatThatQuart.com)を買収し、イギリスとドイツ、フランスで保険商品の価格比較サイトを立ち上げた。

もちろん、市場調査と販売力だけで保険会社になれるわけではない。また、新規参入企業には規制という高い障壁があり、特に自己資本に関する要件は厳しい。加えて、他社が複製しにくい重要な「ハード」資産もある。保険金の支払いを支える大規模な投資ポートフォリオや、複雑なバックオフィスのシステム、専門知識などだ。

しかしこうした資産も、変化する顧客の需要に合わせて保険会社がデジタル面での能力を開発しなければ、価値を失うだろう。他業界のサービス提供者と同様に保険会社も、単なる商品販売から「価値ある体験」の提供へと戦略を移行させる必要がある。

既述の通り、多くの企業は、「デジタル化」を既に進めている。すなわち、デジタル技術を用いて自社の効率化を図り、顧客へのサービスを向上させている。

次のステップとなるのは「デジタル展開」、つまりデジタル技術を用いて、新たなビジネスモデルや製品・サービスを創造することだ。それは従来の事業の枠を超えるものであってもいい。既存の大企業は、デジタル技術がチャンスとなることを認識し、的確にデジタル展開を行うことにより、生き残る可能性を手にできる。そしてみずからが破壊者となって、自社が創造した新しい環境で繁栄することさえ可能になる

まとめ

各社の状況により、各テーマの優先順位は変わる点、またグローバル展開や、リスクマネジメント、働き方の進化、ダイバシティー等その他取組むべきテーマは他にもあるものと理解しているが、本稿であげた3つのテーマは経営テーマとして不可避であると考えている。今回は紙面の都合上、各テーマに対する具体的な事例や進め方について、記載できなかったが、今後、各社の方々と議論を深めていければと考えている。(FSアーキテクト Vol.36 / 2015年冬号)


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