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2015年、証券業界を占う~トップライン拡大と規制対応

FSアーキテクト Vol.36:証券業界はトップライン拡大に向けた投資が本格化している一方、世界的に規制強化が推進され、対応コスト・労力も大きな負担になってきている。

概要

金融サービス本部
統括本部長 兼 証券・資本市場グループ統括
中野 将志

証券業界は世界的な金融危機から脱し、また日本においてはアベノミクスにより証券市場も活況であり、トップライン拡大に向けた投資が本格化している。一方で、金融危機からの教訓をもとに世界的に規制強化が推進されており、金融機関の対応コスト・労力も大きな負担になってきている。

グローバル市場系ビジネス領域という範囲でとらえた場合、メガバンクや大手証券会社では分散したオペレーション体制を再編し、営業力の強化・規制負荷の最適化・コスト効率の最適化を得ようとするために、3つのトレンドが顕著になるであろう。

また、リテールビジネス領域においては、顧客との距離をより縮めるためにアナリティクスの活用がますます重要になってきている。直感と経験に基づく営業から科学的な営業への移行と共に、経営管理基盤の構築がなされ、機動的なビジネスジャッジの実現が期待されている。

本稿ではまず証券会社・投資銀行への投資に関するアンケート結果や規制対応の状況について記載したうえで、グローバル市場系ビジネス領域およびリテールビジネス領域の今後について述べていきたい。

昨今の業界動向

  • トップラインに貢献する投資拡大 弊社が実施した、証券会社・投資銀行(海外含む)へのアンケート調査結果からは、コストコントロールのための投資よりも、トップライン拡大に向けた投資への意欲が非常に高まっている事が伺える。将来の投資に対しては、さらにその傾向が顕著になっている。(図表1)

その投資先は、幅広い商品・サービスを展開するというよりも、コアビジネス(収益ビジネス*1)をしっかり定義し、そこで競争力をつけようとする姿勢が見てとれる。また、新興市場や新規ビジネスにおいては、先駆者としてのビジネス展開ができるならば積極投資し、他社を追従する立場になる場合は投資を抑制しようとしているようだ。全体的なトップライン拡大を狙うのではなく、対象を絞りつつ勝つ算段を明確にしてから投資を実行する方針のようだ。(図表2)
*1:ここでいうコアビジネスとは、標準的な市場環境で安定的に収益を出すことが期待されるビジネス(商品軸、顧客軸など)のことである。

【図表2 ビジネス成長(画像をクリックすると拡大画像が開きます)】

弊社が実施したアンケートをまとめると以下の3点が挙げられる。

  • 今後数年でトップライン拡大に向けた投資は拡大する

  • 投資対象はコアビジネスもしくは先駆者ビジネスに絞る

  • それ以外の領域は投資抑制のみならず簡素化・縮小も辞さない

  • 戦略的規制対応

各地域や国で実施されている規制強化に関しては、各証券会社・投資銀行で重要な経営課題となっている。この規制対応に対するコスト負担、人的負担は各社にとって重いものになってきた。(図表3

【図表3 コンプライアンス・リスク管理に対する支出割合(収益対比)画像をクリックすると拡大画像が開きます】

昨今のグローバル規制を見た場合、その基本的な考え方は、各社のビジネス内容に応じたリスク対応を求めるものであり、この考え方がスタンダードになっていくと思われる。すなわち、短期的視点もしくは個別対応でこれを凌ぐのではなく、恒常的に規制強化が続くと考えて対応する必要がある。

例えば、担保管理などは、規制強化の中で「トレードサポート」の位置づけから「コア業務機能」としての位置づけへと変わっている。これにより、必要最低限の対応として、サイロ型に分断された担保情報を横断的に把握できる仕組みの整備が必要不可欠となる。このように、規制強化の流れの中で業務の位置づけも変わりつつある。

上記を踏まえると、規制対応に関しては以下の2点を踏まえた経営判断が求められるだろう。

  • 規制対応の経営負担は増加しており、中期的な視点でこれを軽減する必要がある

  • 中長期的視点でのビジネスモデルをベースとし、オペレーティングモデル(業務・システム)のあり方を規制負荷の軽減という観点でも検討する必要がある

このような動向を踏まえた上で、グローバル市場系ビジネス領域とリテールビジネス領域におけるそれぞれの動向を述べていきたい。

グローバル市場系ビジネス領域における3つのトレンド

証券会社、投資銀行は、トップラインの拡大余地もあり、投資余力もある中、規制強化が進展しコスト負担・人的負担が高まるという、資源配分が悩ましい状況にある。また、中長期視点を持った対応をしなければ、今後のビジネス展開や経営的負担が大きく左右される可能性が高い。

こういった中、2015年は3つのトレンドがあらわれてくると思われる。

  • トレンド1. コア業務とノンコア業務の切り分け 多くのプレイヤーがこれまで、オフショアリング、アウトソーシング、内部シェアードサービス等の取組みを実施してきており、コスト効率化の取組みは限界に達しつつある。

  • また、金融規制強化の流れの中、規制対応のためのデータ整備に多大な負荷がかかることが予想されている。一方、トップライン拡大に向けてコア業務に人的資源を集中投下する必要がある。

    このようなビジネス環境の中、各社はコア業務とノンコア業務の切り分けを鮮明にし、そのオペレーティングモデルを大きく変革する可能性がある。その最も大胆なモデルが、ノンコア業務に対する「ユーティリティサービス」の活用である。(図表4)

【図表4 コストカーブ(例:エクイティ取引)画像をクリックすると拡大画像が開きます】

ここ数年、業界全体の効率化推進のために、ユーティリティサービス(共同利用サービス)が出現してきた。ユーティリティサービスは、他の業界では成功してきたモデルである。海外の投資銀行では既に活用事例がみられる。例えば、エクイティトレードのコストカーブをとってみると、上位5 社に入らないプレイヤーについては、この業界で生き残っていくためにユーティリティサービスなどを活用してコスト競争力を高めることが有力な打ち手であることが示唆される。これにより人的資源をしっかり確保する事が重要である。

日本金融機関においては、海外ビジネスにおいて活用する可能性が最も高いと考えられる

  • トレンド2. 拠点、エンティティ間での統合プラットフォーム

  • ビジネス展開上の社内ステークホルダーはトップラインの拡大、規制対応に向けたそれぞれの考えを持っている。

    • 顧客に向き合っている営業担当は、顧客のニーズにそった商品をスピーディに提供する事が重要で、成果がきちんと評価されるなら、どのエンティティの商品かは関係ない

    • 一方で経営から見た場合、規制・税制負荷が軽減できるエンティティ・拠点でブッキングしたい

    • 業務・ITの観点からは、可能な限り投資と労力を極小化すると共に、ビジネス展開のスピード向上に貢献したい

    • 規制対応の観点に立つと、より中央集権的な管理が求められており、共通プラットフォーム化する領域を切り出したい。また各種規制対応を極小化したい

      これらを踏まえた場合、金融グループ内での顧客基盤、業務・IT 資産を有効活用する事で、ビジネス展開のスピードを向上し、業務・IT 負荷を軽減できる可能性が高い。

      これまでの日本の金融機関は、支店もしくは拠点主義でありサイロ的に業務・システムが構築されてきた。その結果、IT 基盤も多様であり、業務もシステム化されている拠点もあればオペレーションリスクが高い状態で行われている拠点もある。こういった状態でグローバル規制対応をしていくことは中期的に見た場合、非常に困難である。こういった観点からも、拠点もしくはエンティティ横断でのプラットフォーム化が必要になってくるだろう。

  • トレンド3. パッケージソリューションの活用

    ITに関して、カスタムメイドが主流の大手金融機関においても、パッケージソリューションの活用も本格化すると考えられる。これまでのパッケージソリューションの多くは、「どの金融機関でも使われる機能のみが実装されている」というものだった。しかし近年ではパッケージソリューションを導入する金融機関が増えたことで、パッケージベンダと金融機関との対話が進み、必要となる機能を先取りして実装するまでに至る。グローバル規制に関してもその範疇に入る。

    各国のローカル規制に関しては、パッケージ外で構築し連携するケースが多いものの、時間を買うという点と共通プラットフォームという点の2つの観点で、パッケージソリューションを活用する機会は増えると考えられる。

    上記、グローバル市場系ビジネス領域においては、国内外拠点またグループ内での大胆なトランスフォーメーションが本格化する年になるだろう。

リテールビジネス領域のアナリティクス活用とCMOの確立

技術の進展に伴い、ビジネスに有効活用できるデータは増加してきている。これらのデータを活用し分析する事で顧客対応に必要なインサイト(示唆)を導き出す取組みが、リテールビジネス領域を中心に進展すると考えられる。ただし、様々なデータをかき集め、分析基盤に取込めばインサイトが生まれるわけではない。データを意味ある情報にするためには、どういった観点で分析すべきかを考え抜かなくてはならない。

例えば、証券会社にとって優良顧客とは収益をもたらしてくれる顧客と定義されているケースが多い。収益をもたらしてくれた顧客の特徴を分析し、その特徴と類似する潜在顧客を見出し、アクションをとる。一見正しそうだが、これがなかなか成果が出て来ない。

一方、顧客にとっていい証券会社とはどんな会社であろうか。顧客にとっていい証券会社であれば継続して取引をしたいはずだ。単純化して言えば、顧客にとっていい証券会社とは、過去に儲けさせてくれた証券会社である。実は多くのケースで、過去に儲けている顧客だが、証券会社にとっての手数料収入が大きくないため、営業強化対象となっていない顧客が多くいる。このような顧客に営業活動を行い、過去の成功経験を想起してもらい次なる金融商品の販売につなげる、といった取組みで成果を出している企業もある。

つまり、アナリティクスはシステム技術が話題として先行しがちだが、やはり分析の切り口あってこそ成果を出せる。(図表5)

【図表5 顧客分析 – 顧客/証券会社の収益相関に基づく分類(画像をクリックすると拡大画像が開きます)】

2015年は、分析の観点を持ち、システム技術にも精通した真のCMO(マーケティング責任者)が日本証券業界にも必要であろう。CMOはマーケティングに関する業務・システムの双方の責任・権限を持つポジションである。長らく業務とシステムは分離したガバナンスで運営されてきた。アナリティクスを架け橋に、その2つが融合され、スピード感あるビジネス展開が期待される。

まとめ

経済環境が大きく変わる中、各証券会社・投資銀行はトップラインの拡大に向け、投資意欲を高めている。その一方で、世界的な規制強化に対応するためには業務及びITの構造改革が必要であり、コスト負担や人的負担の増大が資源配分に影響を及ぼす可能性を否定できない状況にある。

このコスト負担や人的負担の高まりによる影響を抑制しながらトップラインを拡大するためにも、外的要因に左右されにくいビジネス基盤の構築を推進する必要があろう。

証券会社・投資銀行における2015年は今後のビジネス拡大のターニングポイントとなる1年になるのではなかろうか。(FSアーキテクト Vol.36 / 2015年冬号)

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