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デジタル化の戦略における要諦

FSアーキテクト Vol.35: デジタル化により顧客接点の高度化やオペレーション効率化とコスト削減などが期待できます。デジタル化領域として優先度の高い4つの領域をご紹介します。

金融サービス本部
マネジング・ディレクター
堀江 章子

デジタル化は今日のビジネスにおいて、収益性の向上、成長、競合他社との差別化を実現するための非常に重要な手段となってきている。金融業界に限らず、ハイパフォーマンス企業においては、いかにリッチで魅力的なデジタル・ブランド・エクスペリエンスを顧客に提供できるかが、ビジネスの成功のカギとして認識されている。

2013年の米国での調査によると、証券会社の経営者の多くは、デジタルケイパビリティの高度化を、極めて優先度が高いテーマと考えている。ただし、デジタル化を新しい収益の源泉として必須と捉えている一方で、デジタル化戦略とそれを支えるビジネスケースの策定に課題を抱えているのが現実である。実際に、ビジネスをデジタル化することは、社員との関係、社内プロセス、顧客との関係の在り方の抜本的な見直しを迫られる。

デジタル化に必要なケイパビリティ(例えば、アナリティクス、コラボレーションツール、クラウドコンピューティングなど)を身につけることの価値は、エクスペリエンス向上を通じた顧客満足度の向上、加えて、オペレーションの効率化、コスト削減が実現できることにある。

証券会社が、真にデジタル化を成し遂げた暁には、クライアントとのつながりがより強固となると同時に、ビジネスのやりかたが抜本的に変わると考えられている。

■国内金融機関におけるデジタル化の動向
デジタル化の潮流は国内金融機関においても免れられるものではなく、各社において様々な取り組みが進められている。スマートフォンの普及率が60%を超える中、デジタルマーケティングの強化、既存システムのモバイル端末との連携、営業担当者(RM)にタブレット端末の配布などを行い、営業サポートを強化しているケースなど、枚挙にいとまがない。

さらに、従来からの対面チャネルでの顧客情報、コールセンターやネットなどのダイレクトチャネルの顧客情報に加え、音声やソーシャルデータのような非構造化データを統合する動きも活発である。

顧客との取引・接触に関するあらゆるデジタル情報を集積し、ビックデータとして活用するためのデータウェアハウスを構築し、顧客接点チャネル別、取扱商品別などの組織によらず、顧客を軸に顧客情報を活用できるようになって来ている。その結果、顧客を軸に、様々な分析を行い、適切なタイミングで、適切なチャネルを通じ、最適な商品を提供できるよう、ビックデータを活用した顧客対応を行い、成果をあげている。

このように、デジタル化の有用性は既に国内金融機関でも十分に理解されているものと考える。しかしながら、現状での顧客接点や顧客情報のデジタル化を超えて、企業全体のデジタル化戦略とそれを支えるビジネスケースの策定に課題を抱えているのも事実である。

米国の金融機関300 社への調査(図表1)で明らかになった今後のデジタル化の優先領域を参考に、国内におけるデジタル化の展開について考えたい。

【図表1 証券会社の経営者への投資を増やす領域に関する調査 2013年調査】

■米国の金融機関での今後の取り組み領域

デジタルケイパビリティを高めることでもたらされる価値は、顧客との関係を高度化できるだけでなく、オペレーションの効率化、コスト削減をも実現できることにある。このために、顧客接点に限らずデジタル化の領域として、優先度の高い領域を4つご紹介する。

1.コラボレーションのシームレス化
ソーシャルコラボレーションツールを活用し、顧客とバックオフィスのやりとりをダイレクト化する取り組みがある。当初は、FacebookやTwitterなどのソーシャルメディアをマーケティング目的で活用するのみであったが、今ではSalesforce社のChatterなどのソーシャルコラボレーションツールを既存CRMシステムと連携させ、顧客との迅速かつシームレスなコラボレーションが実現されている。

2.データのベロシティ(速さ)向上
顧客からの様々な要望に応えるために、顧客とのやり取りを時と場合に応じて顧客自らが自由に選択できるようにすることが重要となる。また、より高速な反応モデルを通じて複雑な商品の分析を高度化したり、リスクをリアルタイムに反映したポジション管理が求められる。このような取り組みを推進する企業では、激しく変化するマーケットコンディションに関する情報を迅速に提供することで、顧客の投資判断の高度化につなげている。

3.機能およびデータの統合
例えば、担保管理業務は、伝統的にサイロ化した組織で行われてきた。このためトレーディングデスク、プライムサービス、ファイナンス、信用リスク管理などの部門はそれぞれの機能別のプライオリティがあるため、部門間の連携は限定的というのが通常だ。

しかし、最近の動向として、これらの機能を統合し、収益向上、ファンディングコストの削減、オペレーショナルおよびカウンターパーティリスク削減、調整資本のスリム化、コンプライアンスの向上などを図る考え方が現れた。このような統合の考え方を担保管理に適用した場合、データを集中管理し、情報の合理化やアナリティクスの活用も合わせることで、従来の部門別の重複を前提とした状態から比べると、飛躍的に効率化が図られ、顧客満足の向上にもつながる。

4.リスク分析の高度化
昨今の規制環境を受け、エンドツーエンドで取引のデジタル化を進めることで、取引の透明性を高め、取引に関するライフサイクル全体をモニタリングできるようにすることが求められている。この実現のためには、リファレンスデータが正しく整備され、ポジションデータが容易に参照できることが求められる。同様にクライアントごとの傾向や、取引の実績が常に参照できるような適切なインフラが必要となる。その結果として、顧客のリスクプロファイルをよりよく理解するためのシナリオ分析も円滑にできる。

■今後にむけて~テクノロジー/インフラストラクチャー面でのポイント
新たにデジタル化されたビジネスプロセスや環境の変化に柔軟なビジネスモデルへと転換を図る上で、顧客の期待に応えるための情報・システムの刷新が進む。同時に、新たなデジタル時代のブランドを確立するため、デジタル化した環境に適応したインフラやコラボレーションツールへの新たな投資が必要となる。(図表2)

    1.アナリティクス
    従来のように部門ごとにサイロ化した状態から、データのオーナーシップを顧客を軸に統合し、顧客単位で情報を扱うソリューションを導入する流れにある。その結果、顧客、商品、市場に対し、新たな見識をもち、ビジネス面での成果を挙げることが可能になってきている。

    アナリティクスを活用し、社内のオペレーショナルな要求と顧客理解を結びつけることで、クロスセルを推進し、顧客のリテンション、プライスの最適化などにつなげることが可能である。結果として、顧客が投資に必要な情報を目的に応じて取得できるようになる。同様に、証券会社にとっても顧客を収益性に応じて管理でき、会社そのもののサービスの競争力強化につながる。

    2.モビリティ
    2016年までに、ネットにつながっている端末の数は、現在の90億デバイスから60%伸びると言われている。現在、顧客の期待は大きく変化しており、証券会社へのアクセスは、いつでも、どこでも、思うままにできることが求められている。このため、顧客担当者が常に適切な情報を適切なタイミングで提供できることが求められる。このため、RMが顧客情報をレプリケートして対応する従来のやり方では十分とはいえず、顧客の嗜好やビヘイビアにあわせ、よりパーソナライズした情報を常に保持し、いつでも提供できることが求められる。

    モビリティはリアルタイムで顧客の投資ニーズへの期待値に応え、顧客のサービスレベルの向上を図るだけでなく、サービスコストの削減(ヘルプデスク、登録プロセスなどの認証の電子化など)にもつながる。最終的に顧客へのサービス向上と質の転換を図るものとなる。

    3.ネットワーキングおよびクラウドコンピューティング
    海外の証券会社では既にサーバベースのコラボレーションサービスや、クラウドを活用した投資家や、顧客へのサービス提供に対して、これまでも積極的であった。ただし、これまでは特定の業務領域の顧客に対し、クラウドサービスを提供してきたが、次のステップとしては、マルチマーケットでの執行や受発注を第3者の仕組みを使って統合する動きが始まっている。ビックデータをクラウド環境の中でも活用し、顧客が欲しい情報が整理統合されていないこれまでの姿から、顧客別にパーソナライズしたプライシングやリスク分析ができるように進化させることで、インフラ面での変革を通じ、顧客サービスの向上につながる。

    4.セキュリティ
    昨今の顧客情報流出事故等にあるように、データセキュリティは顧客サービスを維持するうえで重要度を増している。特にアナリティクスを活用したセキュリティインシデントの捕捉や、インシデントへの対応は非常に重要になっていく。セキュリティソリューションを統合し、新しいセキュリティアーキテクチャを活用することで、リスクが顕在化する前に検知できるようになる必要がある。これによりハッカーからの攻撃や、セキュリティ違反からも、効果的に会社や顧客を防御することが可能となる。会社および顧客を防御するため、このテクノロジーの進化に、常に適応していくことが求められる。

    ■今後の展開
    デジタル化することでありとあらゆるデータが蓄積されるようになるが、これまでに見てきた通り、デジタル化を推進するためには、データを適切に活用し、顧客が真に求める情報を提供できるようにすることが重要であると考えられる。今後の展開を予測するにあたり、デジタル化の進展におけるデータ活用のステージを整理したい。(図表3)

    【図表3 顧客データ統合・活用の3段階】

    ステージ1:基本の整備
    現段階で、顧客のニーズに応えるべくあらゆる顧客情報を統合する流れは加速している。DWH(Data WareHouse)構築の取り組みについては、弊社でも野村證券、スルガ銀行にてご支援を行ってきている。

    ステージ2:外部情報の活用
    潜在顧客を取り込むために、社内に保有する顧客情報に加え、外部情報を活用する流れがはじまっている。パブリックDMP(Data Management Platform)の活用もこの流れと位置づけられ、今後、顧客の理解をより深めるため、外部の様々な情報を活用しつつ、より顧客ニーズに合った活動につなげる。

    ステージ3:顧客に有用な情報の統合
    顧客データ活用のあり方を突き詰めれば、現在のBIツールのように営業担当者が自ら検索するのではなく、業務の流れに応じて、顧客に必要なデータが表示され、分析結果に基づき求められるアクションがレコメンドされる。そうなれば、現在のようなCRM やBI のような機能単位のアプリケーション編成ではなく、業務プロセスに応じて、必要な画面とデータが適宜表示されるようなダッシュボード化が進む。

    結果的に顧客ニーズや、多様な投資目的に応じて必要な情報連携が円滑にできるような環境となる。

    将来的には、デジタル化を通じて、顧客の多様なニーズに柔軟に対応できる環境を整備することで、顧客と企業の関係がより密になる。そのためにも、貴社におけるデジタル化の将来像を描くことは長期的な顧客との関係のために重要となる。(FSアーキテクト Vol.35 / 2014年秋号)

    (関連リンク)