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事務・システム構造変革のアプローチ

FSアーキテクト Vol.34: 業務プロセスの改善・高度化が急務であるなか、事務・システム構造改革の一手として、BPMS/BRMSの活用方法と、活用にあたっての要点について考察します。

金融サービス本部
シニア・マネジャー
保険グループ担当
石河 賢

保険業界を取り巻く環境は、国内市場の飽和・顧客ニーズの多様化・対応チャネルの拡大など、依然として厳しいが、数十年にわたって構築してきた事務・システムが次なる成長の足かせとなりつつある。

海外では、BPMS(Business Process Management Suite)/BRMS(Business Rule Management System)を活用することにより、過去の資産を活用しながら、商品開発期間の短縮化や、査定・損害/保険金業務に代表される事務品質・事務効率の向上などを実現し始めており、国内保険会社が学ぶところも多くあると考える。

本稿では、事務・システム構造改革の一手として、BPMS/BRMSの活用業務・活用方法と、活用にあたっての要点について考察したい。

■事務・システム構造改革の必要性
保険業界を取り巻く環境はますます厳しくなっている。国内人口の減少、少子高齢化の急速な進展の結果、国内市場は飽和、加えて保険加入率も減少している。また、顧客の嗜好・行動の多様化により、従来のプロダクトアウト・画一的な営業はすでに限界を迎えており、対応チャネルの拡大、きめ細かな顧客ニーズへの対応などが急務である。一方、市況の好転により、保険会社の財務状況は好調であり、従来に比べ投資意欲が旺盛になり始めている。

しかし、大半の保険会社が数十年メインフレーム上に構築してきた事務・システムの資産がブラックボックス化され、結果的に事務・システムの変革の大きな足かせになっているケースが多い。本来、保持している資産のスケールメリットを活かしやすい業界といわれているが、「過去の遺産」を保持していることがマイナスに働いてしまっている。

■BPMS/BRMSの活用
事務・システムにおいて次なる成長を生み出す主なポイントは、従来から大きく変わっておらず、商品開発の早期化、新契約・査定事務の簡素化・早期化、顧客・代理店のロイヤリティ向上、損害・保険金支払業務の品質向上、事務効率化などである。

それらを支援するソリューションとして、海外ではBPMS/BRMSの活用が目立つようになってきている(図表1)。BPMSとは、業務プロセスの継続的な改善・高度化を支援するツールであり、弊社では標準的に以下の機能を保持している統合パッケージと定義している。

  • 業務プロセスのモデル化・モデル分析・シミュレーションを行うBPA(Business Process Analysis)機能

  • 処理の自動化、ワークフロー、EAI(Enterprise Application Integration)等を支援するBPE(Business Process Execution)機能

  • ビジネスの活動状況を可視化し、改善点の分析を行うBAM(Business Activity Monitoring)機能

  • 前述のシステムの開発生産性を向上させる開発アーキテクチャ

【図表1 BPMS/BRMS 活用方法】

一方、BRMSは、各種業務規程・事務/商品規定・ビジネス戦略などの各種チェック・意思決定・計算等のロジックをシステムから独立して管理・実行するために、ルール開発機能・ルール管理機能・ルール実行機能を提供するソフトウェアである。

BPMS/BRMSの活用を最大化するメリットは以下の通りである。

  • 業務機能・システム機能の再利用性を高められることによる開発生産性の向上

  • 業務ルール・プロセスの可視化による、標準プロセスの見極め、自動化の推進および業務変更時の影響の可視化

  • SOAの考え方に基づき、プロセスと業務機能の関係を疎結合にすることで、業務変更の影響を局所化

■保険業界におけるBPMS/BRMSの活用ソリューション

保険業界においてBPMSの活用範囲は広く、活用事例は多い(図表2)。

  • 顧客接点を管理するための、SOA(Service Oriented Architecture)の考え方を用いた顧客サービスプラットフォーム

  • 継続的な高度化およびSTP(Straight Through Processing)の推進が求められる、査定業務・損害/保険金業務への活用

  • 顧客接点向上のために期待が高まるコールセンター/コンタクトセンターシステムへの活用

また、BRMSの顕著な活用方法としては、以下が挙げられる。

  • 保険商品の定義・各種規定・算出ロジックを実装することで、商品定義の管理・設計を可能とするプロダクトファクトリ

  • 代理店・募集人に対して、代理店戦略・営業戦略の高度化を可能とする手数料エンジン

  • 各種業務のチェック・意思決定エンジン

  • 商品のおすすめ等を行うリコメンデーションエンジン

【図表2 BPMS/BRMS 活用事例】

■BPMS/BRMSの活用事例

海外の活用例をいくつか紹介する。

  • 米国大手・中堅保険会社

    プロダクトファクトリの導入

    州ごとの商品差異への対応と、商品開発スピードの向上を目的として、BRMSを拡張した弊社のDuck Creek Ratingを導入。商品定義の共通化等を図ることにより、商品構造が可視化され、結果、商品開発期間が最大50%程度まで短縮された。

  • 欧州大手銀行

    リコメンデーションエンジンの導入

    クロスセルの強化を目的として、セールス・マーケティング用のデータウェアハウス、分析基盤、およびBRMSを拡張したリコメンデーション基盤を導入。インバウンドコールに対するリコメンデーションからスタートし、段階的にアウトバウンド・他チャネルへ展開。結果、クロスセルの提案受託率が飛躍的に向上し、サービスイン後4ヶ月で投資コストを回収。また、キャンペーン実行のための準備作業が飛躍的に効率化され、最短1日でキャンペーン準備が完了できるようになった。

  • 米国大手保険会社

    カスタマエクスペリエンスサービスプラットフォームにBPMSを導入

    Webセルフサービス、電話セルフサービス、コールセンター、バックオフィス業務の統合プラットフォームとしてBPMSを活用し、顧客満足度を向上させるための基盤を整備。また合わせて、顧客満足度向上のため、 -顧客満足度の分析・施策を識別 -システム/事務プロセスの変更 -施策効果の測定 を、ビジネス・ITが一体となり迅速かつ継続的に実行可能になった。

  • 米国大手保険会社

    高額医療費保険の査定業務標準化にBPMSを導入

    高額医療費保険の査定業務は、マニュアル作業が多く作業が属人化した結果、エラーの発生リスクが高く、査定期間が長期化しており、また査定状況も不透明な状態であった。この状況を改善するため、BPMSを活用し、モデルベースで査定業務の標準化を行いながら、事務自動化領域とサービスレベル向上余地を識別し、査定システムを開発。これにより、査定状況の可視化、査定期間の短縮、作業品質の向上を実現した。

  • 北米大手保険会社

    米国・中南米・英国の損害システム標準化にBPMSを導入

    書類を中心とした損害業務であったため、非効率な事務が常態化していたが、BPMSを導入と合わせて、3ヶ国のプロセスを標準化することにより、事務を効率化。結果として、事故受付の電話応対時間の30%削減に成功した。

■事務・システム改革の成功の要諦

BPMS/BRMSの導入に際しては、従来のシステム開発方法とは異なった開発アプローチを採用したほうが、効果を最大化しやすいと考える(図表3)。

【図表3 BPMS/BRMS 活用における開発手法の変化と成功の要諦】

  1. 継続的な付加価値の追求
    BAMによる業務状況の可視化は、施策による効果の把握と、次の改善点の把握のために大きく役立つ。それゆえ、ビジネス部門内が改善するべきKPI(Key Performance Indicator)を定義し、KPIを改善させるためのPDCA(Plan Do Check Action)プロセスを定義、実行できる組織を構築する必要がある。

  2. 迅速な意思決定のためのガバナンスモデルの整備
    現行機能全てのマイグレーションを前提とした事務・システム構造改革の取り組みが多いが、この前提には疑問を感じる。売り止め商品に関する処理などの、ビジネス効果が限定的な領域については、現状維持の判断が賢明な場合も多い。その判断のためにも、投資対効果を把握できる仕組みを整備したうえで、迅速な意思決定を可能とするガバナンスモデルを整備することが必要である。

  3. ビジネス部門・IT部門一体のチーム構築
    ビジネスの継続的な高度化には、ビジネスが提供する価値をIT部門が深く理解すると同時に、ビジネス部門がシステムの制約を理解したうえで、提供できるビジネスの価値の最大化を考えることも必要である。そのためには、ビジネス・IT相互の状況を把握するため、要員の役割の変更や体制の見直し、必要に応じて要員のケイパビリティの育成が必須である。また、場合によっては組織の壁が、一体となったチーム構築の阻害要因になりうるため、ビジネス部門内にITチームを作るような取り組みも効果的である。

  4. 標準業務・標準プロセスの維持・拡張と、例外業務・発生頻度極小業務の可視化・局所化
    業務品質向上のため、従来は業務機能を網羅的に洗い出し、それを可能な限りシステム化することが一般的だった。結果として、一部の例外業務や発生頻度が低い業務機能が、システム全体の複雑さを助長させているケースがある。ビジネス価値向上のためには、現行の商品体系のシンプル化・見直し、提供サービスの廃止など含めた業務の見直しも必要である。そのためには、標準的な業務プロセスを見極めるためのガイドラインと、それと平仄をとったシステム構造とシステムデザインのガイドライン、テクノロジー標準の整備が肝要である。

■総括
従来はシステム化をすることで、コスト削減、リスク低減などビジネス効果の向上を図ることが可能であった。しかし、変化が激しい今日、その変化に対応した舵取りが求められる。このような状況下では大きな投資で抜本的に事務・システムを見直すアプローチよりも、効果が見込める領域を見極め、必要最小限の投資を繰り返し、ビジネス効果を積み重ねるような機動的アプローチの方が適切である。BPMS/BRMSはこのアプローチを実現するための基盤となるもので、事務・システムの構造改革の打ち手として導入の検討をお勧めしたい。変化に対応できるものだけが成長していけることを忘れてはならない。(FSアーキテクト Vol.34 / 2014年夏号)


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