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トレーディングビジネスにおけるグローバル経営管理の強化

FSアーキテクト Vol.34: 銀行・証券会社におけるトレーディングビジネスを対象として、海外ビジネスを適切にガバナンスする「グローバル経営管理インフラ整備」を主軸に考察します。

金融サービス本部
マネジング・ディレクター
キャピタルマーケット担当
山本 浩史


日本の金融機関においては、日本経済の持ち直しにより、目先の業績を急回復させてきているが、国内のビジネスが成熟する中、新たな成長機会を求めて海外ビジネスを強化していく必要がある。そのためには海外ビジネスを適切にガバナンスするための仕組み、つまりグローバルベースの経営管理の実現が必要である。

また、各国において金融規制の強化が強まる中、ビジネスを営む上で対応不可避な各種規制に対して、的確に対処していくためにも、グローバルベースの経営管理インフラの整備は不可欠である。

本稿では、銀行・証券会社におけるトレーディングビジネスを対象として、「グローバル経営管理インフラ整備」を主軸に考察したい。

■引き続き不透明かつ不安定なグローバルビジネス環境
日本の金融機関においては、アベノミクスによる日本経済の持ち直しにより、目先の業績を急速に回復させてきているが、将来に向けた成長戦略は未だ描き切れていない。世界経済は金融危機から回復しつつあるものの、未だ不透明かつ不安定な状況といえ、外需依存の強い日本経済にとっては大きな不安要素である。そしてそれは日本の金融機関にとっても大きな影響を与える。ヨーロッパ経済は危機から回復基調にはあるものの各ユーロ参加国の構造的な改革はまだ完遂していない。米国も緊急時の量的緩和からの出口戦略を探っている状況にある。また、先進国が経済危機からの回復を探る中、これまで世界経済をリードしてきた新興国経済も、ブラジル、ロシア、インド、中国において、経済成長が減速してきたといわざるを得ない。金融機関においては、世界経済の状況に加えて、各国にて強化される金融規制の影響を受けてビジネスそのものの見直しを迫られている。

日本経済の持ち直しにより目先の業績を回復させてきた日本の金融機関にとっては、今後成熟化する国内経済において、リテール向けビジネス領域で如何に戦い抜くかが重要テーマである。一方、将来の成長機会を求めて海外ビジネスを強化していく必要がある。海外ビジネスにおいてはホールセール・リテール双方の領域にて、ビジネス強化のための取り組みが必要である。

海外ビジネス強化に際しては、海外ビジネスの成長戦略の策定に加えて、策定された戦略を確実に遂行・運営していくための仕組み、つまりグローバル経営管理の仕組みが不可欠である。特に日本の金融機関にとっては海外ビジネスをどのようにガバナンスするかは大きなテーマであり、このテーマは過去において必ずしも成功してきたわけではない。今後、日本の金融機関がグローバルベースのビジネス運営モデルを確立し、適切に運営していくためにも、グローバルベースの経営管理インフラの整備は、重要経営テーマの1つである。

本稿ではグローバルビジネス内で、トレーディングビジネスに絞って論考を進める。

■投資ビジネスにおける10の挑戦
アクセンチュアのグローバルキャピタルマーケットグループでは毎年「トレーディングビジネス(投資銀行ビジネス)の来年度における10の挑戦」という調査を実施している。図表1は2014年の挑戦を取りまとめた結果である。

【図表1 トレーディングビジネスにおける10の挑戦(2014年)- 弊社グローバル調査】

多くの金融機関が「1.ビジネス構造改革の推進」「2.ビジネス運営基盤の強化」「3.成長に向けたポジショニング」の3領域のテーマを2014年の経営課題として掲げている。この内容は日本の金融機関にとっても該当するものと考えている。

3つの課題領域の取り組みに関して簡単に説明すると、まず「1.ビジネス構造改革の推進」とは、ステークホルダーからは収益力の強化、規制当局からは金融規制対応が要求される中、自社の経営・業務運営の方法、すなわち業務運営モデル(オペレーティングモデル)をこれまでの延長ではなく、抜本的に見直す取り組みである。

次に「2.ビジネス運営基盤の強化」とは、ビジネス運営の基盤であるコーポレート機能の内、特にリスク・ファイナンス・コンプライアンスに関連する機能を強化する取り組みである。これは最近の規制強化への対応の色彩が強いテーマである。

そして最後の「3.成長に向けたポジショニング」とは、将来の成長に向けたポジショニングを確立するための取り組みである。マーケットでどのようなポジショニングを確立するかは各社のビジネス戦略によって異なるが、日々進歩する情報技術(IT)を如何に活用するか、またデジタル化が進む社会において、それらをどのように活用し、顧客ニーズを的確かつスピーディにとらえていくかは、ビジネス戦略如何に関係なく、検討が必要なテーマであると考えられている。

本稿では、前述の3つの課題領域のうち、「2.ビジネス運営基盤の強化」関連のテーマとして「グローバル経営管理基盤の強化」を、銀行・証券会社におけるトレーディングビジネスの対象としてもう少し詳しく考察する。

■グローバル経営管理の構成要素
図表2はトレーディングビジネスにおけるグローバル横串運営に向けた経営管理の検討要素を整理したものである。

【図表2 トレーディングビジネスにおけるグローバル横串運営に向けた経営管理の検討要素】

グローバル経営管理を整備していく際には、「1.組織運営モデル(オペレーティングモデル)の定義」、「2.経営管理/業績管理指標(KPI等)の準備」、「3.経営管理インフラ(システム等)の整備」の3つの要素に関して、それぞれの要素間の整合性を確保した上で、経営管理の仕組みを構築していく必要がある。

経営管理の仕組みといった場合、会計システム(財務会計・管理会計)やリスク管理システムといった経営管理のためのシステムインフラ整備をイメージされる方も多いと思うが、本質的には前述の3つの要素全てを検討する必要がある。まずは将来の成長戦略を踏まえた組織全体の業務運営モデルを定義し、その組織運営をモニタリングするための各種業績管理指標(KPI - Key Performance Indicator)等を定義した上で、その指標および指標の元となる各種データを収集・分析するためのインフラを整備する。この経営管理インフラを通じてトップマネジメントやミドルマネジメントが必要とする情報(データ)が提供されることになる。

なお、経営管理に必要となるデータの整備に際しては、やみくもにデータ収集するのではなく、次の3つの要件を明確にした上でデータ整備のインフラを構築することが重要である。

  • 1つ目は組織運営モデルの管理単位・階層・権限に照らし合わせて、どのような指標を、どのような単位・切り口で見るべきかを決めることである。単位・切り口は経営層レベル、部門レベル、部署レベルによって異なる。また昨今は社内組織の切り口に加えて、顧客別・チャネル別といった切り口の指標が重要視されてきている。なおここで定義される各種指標・必要データは内部向けに提供されるものだけではなく、外部の規制当局向けに提供されるものも含まれる。

  • 2つ目は各種指標から、それらの内容を詳細にブレークダウンできることである。通常、指標は何かしらの結果を示すものであって、その結果となった要因分析ができて、はじめて必要なアクションを打つことができ、データとしての重要性が高まる。従ってモニタリングしている指標から、どの顧客、どの商品、最終的にはどの契約・取引がその要因となっているか、遡ることが可能である必要がある。

  • 3つ目は収集するデータに関して適切な鮮度を定義することである。理想的なことをいえば、リアルタイムで全てのデータが収集されていることが望ましいが、インフラの整備・維持・運用のための費用対効果も考慮して、データ種類ごとに適切な鮮度を定義することが必要である。また鮮度と密接に関わる議論としてのデータの正確性がある。財務諸表向けのデータに関しては正確性を担保する必要があるため鮮度は低くても問題ない。一方リアルタイムマーケティング等の指標は必ずしも精緻な数値を求められないものの、鮮度は極めて高いものが要求される。

■経営管理インフラの整備・運営はビジネス・IT一体が不可欠
最後に、経営管理インフラ整備・運営を成功させるための要因を2点挙げさせていただく。1点目は全社レベルの全体システムアーキテクチャから取り組みの姿を描くことである。2点目は経営管理インフラの整備および運営・維持はビジネス・IT一体で推進することである。

銀行・証券会社のトレーディングビジネスのシステムインフラは歴史的にマーケットに対する対応スピードを優先させてきた結果、商品・業務単位に個別最適化されたシステム構成となっていることがほとんどである。昨今はコスト削減、各種規制対応をきっかけにアプリケーション(データを含む)全体を最適化させるためのロードマップを作成し、取り組みを推進している金融機関が増えている。経営管理インフラの整備に際しても、全体最適の観点が重要であり、図表3のように全体アプリケーションアーキテクチャを定義し、その方針に基づいて各アプリケーションシステムを整備していくことが重要である。なお、システムインフラ整備の投資には通常、費用対効果を見極めることが不可欠であるが、経営管理インフラの整備を管理目的のインフラ整備コストとしてとらえるのではなく、将来の成長戦略実現のための基盤整備投資としてとらえることも重要である。

【図表3 トレーディングビジネスのアプリケーションアーキテクチャ例】

また、経営管理インフラの整備に際しては、このインフラで取り扱うデータを如何に管理するかが重要である。インフラ整備・データマネジメントというとIT部門が推進役と考える方々も多いが、IT部門はデータを整備するためのシステムインフラを構築する役割であって、システムにインプットされるビジネスデータそのものは、ビジネス部門が責任をもつべきである。従って、実際のインフラ整備やインフラの維持・運用に際してはビジネス部門が一定の責任を有することがインフラ整備およびインフラの運営の成功要因の1つとなる。

国内金融機関においては、現在、規制対応を目的として各種データ整備の取り組みを推進している金融機関も多いが、このデータ整備の取り組みをグローバルビジネスを支えるためのデータインフラの整備、そしてグローバルベースの運営モデルを支えるグローバル経営管理インフラとして整備ができるかによって、将来のグローバルビジネスにおける競争を左右すると思われる。つまり、今後の海外ビジネスにおける成長に向けては、グローバルベースの組織運営モデル、経営管理モデルといった基盤が整備され、それらを確実に運用できるかが、マーケットでの勝負を決める要素の1つになるであろう。(FSアーキテクト Vol.34 / 2014年夏号)