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デジタルチャネルに求められる新たな役割

FSアーキテクト Vol.34: 銀行の個人顧客における主要なチャネルが支店からデジタルに移りつつあるなか、デジタルチャネルのセールス強化のためのポイントを解説します。

金融サービス本部
シニア・マネジャー
銀行グループ担当
渡瀬 亮平

社会のデジタル化が進展する中で銀行の個人顧客における主要なチャネルは支店からデジタル(主にスマートフォン、タブレット、PC、モバイルなど)に移りつつある。その結果、来店率は低下し貴重なセールスの機会が減少している。

セールス機会の減少を補うためには、デジタルチャネルを収益向上へつなげるセールスの場として活用する必要がある。

デジタルチャネルの「The New Sales Machine」への変革。キーワードは「1.商品をパーソナライズする」「2.バスケットセールスで購入させる」「3.双方向のコミュニケーションを行う」の3つである。

前号においては、デジタル化が進む中での銀行店舗のセールス強化について考察した。今回は、銀行の主たる顔となりつつあるデジタルチャネルの「セールス強化」について論じたい。

■デジタルチャネルにおけるセールス強化の重要性
国内のスマートフォンの普及率は6割に達した。顧客はあらゆるサービスをいつでもどこからでも行えるようになってきている。その結果、銀行における個人顧客の来店率は低下し、貴重なセールスの機会が減少している。

一方、現状のデジタルチャネルは、コスト削減が主たる目的でセールスのための機能はほとんど無い。トランザクション機能が中心のデジタルチャネルを「The New Sales Machine」へ変革させる必要がある。

■セールス強化のための3つのポイント
「The New Sales Machine」への変革には3つの機能を組み込むことが重要である。

  1. 商品をパーソナライズする
  2. バスケットセールスで購入させる
  3. 双方向のコミュニケーションを行う

海外の銀行においてはこの3つの機能により、支店や個人RM(Relationship Management)が行っている営業プロセスをデジタルチャネルで実現している。その3つのポイントと事例について詳しく紹介する(図表1)。

【図表1 デジタルチャネルに求められる新たな役割と果たすべき機能】

1.商品をパーソナライズする

商品の観点でデジタルチャネルを見た場合、多くの金融機関はリアルの店舗と同様の商品を提供している。または差別化したとしても支店より金利を優遇した専用商品を提供している程度に留まっている。

一方で、支店のローカウンターや個人RMが張り付く富裕層や準富裕層には、顧客の資産状況やライフステージに応じて商品の組み合わせや金利を工夫した、パーソナライズされた商品を提供している。このような有効な取り組みを富裕層や準富裕層に留めるのではなく、テクノロジーを活用することでマス層へ広げることはできないだろうか。

具体的には既存顧客の属性や取引履歴/ソーシャル上の行動/嗜好から顧客像を類型化し、一人一人の顧客のニーズにあったパーソナライズされた商品の提供をすることである。一人一人の顧客ニーズにあった商品の分析にあたっては、大量のデータを分析する必要がある。

かつて大量データの分析にあたっては、膨大なマシンパワーと大容量のストレージが必要であった。しかし、近年のCPUそのものの高性能化や並列分散処理の実用化、ストレージ価格の低下やクラウドとの組み合わせにより大量データの分析は充分可能となっている。

従来、統計技術も学術の世界か一部のビジネスでしか利用されていなかった。しかし、データサイエンティストの増加により、あらゆる企業でのデータ分析の活用が可能な下地が整いつつある。また、マシンパワーの向上により機械学習も実用化のレベルに至り、PDCA(Plan Do Check Action)のサイクルを高速に回し予測精度を継続的に向上し続けることが可能となった。

これにより顧客一人一人にあうパーソナライズされた商品を提供し、有効性を確認するPDCAを短い期間で回す環境が整った。

オーストラリアの銀行では、過去の属性や取引履歴データ、顧客のライフステージをベースに、11の顧客セグメントに分けてパーソナライズされた商品を提供している。その結果、セグメントごとにパーソナライズされたWebサイトでは、顧客のライフステージにあった商品の提案を受け取ることが可能となった。Webサイトも音声や動画などビジュアルを多用化することでデジタル世代へより訴求しやすくなっていることも見逃せない。

2.バスケットセールスで購入させる

営業プロセスの観点でデジタルチャネルを見た場合、現状のデジタルチャネルにおいて商品を購入する際、1つの商品を顧客が選択し、規約を読み、金額などの条件を入力し、購入ボタンをクリックすることで完結する。複数の商品を同時に購入する際も同様のプロセスを再度、繰り返す必要がある。

一方で、支店のローカウンターや個人RMの外交時では複数の商品の提案を同時に行い、商品を組み合わせることでもう1つの商品の金利を下げるなど、まとめて購入することを促しているのが現状である。銀行以外のAmazonや楽天市場等のショッピングサイトでは、複数の商品を「バスケット」に入れて、最後に一括購入するプロセスが当たり前となっている。この考え方を銀行のデジタルチャネルに適用したのが「バスケットセールス」である。具体的には、商品ごとに選択/条件入力/購入というプロセスから、ショッピングサイトのようなバスケットの機能を導入し、顧客は購入したい商品を選択し最後に一括購入するプロセスへ変更する。

これにより顧客は商品ごとに同じようなデータを入力する煩雑さから解放される。一方、銀行は顧客が商品をバスケットに入れた際に、協調フィルタリングのようなレコメンデーション機能を活用して、クロスセルの機会を増やすことが可能となる(図表2)。

【図表2 デジタルチャネルでの営業プロセスの変革「2.バスケットセールスで購入させる」】

米国の地方銀行においてはバスケットセールスによるワンクリックショッピングの機能をWebチャネルに導入した。

さらにWebチャネルのKPI(Key Performance Indicator)を商品の「申込数」から「1回あたりの同時申込数」に変更し、申し込みプロセスのデザインもWebの行動履歴の分析やA/Bテスト(A/Bスプリットランテスト)の活用、顧客からのヒアリングなど分析的なアプローチを多用し構築した。その結果として50%の成約率の向上と、従来の8倍のクロスセルを実現している。

3.双方向のコミュニケーションを行う

現状の支店のローカウンターや個人RMの営業プロセスにおいては、顧客に商品を説明し、顧客のニーズを把握するなどの双方向のコミュニケーションを通じて成約にまで至る。

一方、現状のデジタルチャネルでは、コミュニケーションは一方方向からに限られている。すなわち、銀行が一方的に商品を提供し、顧客も一方的に商品を選択している。そのため、顧客は商品についての疑問や、他の商品と迷うことがあった場合、自ら比較検討を行わねばならない。

支店や個人RMの双方向でのコミュニケーションであれば、その場での説明や、顧客の迷いに対しても丁寧に対応し「最後のひと押し」の言葉を投げかけることで成約に至るケースも多い。この事実を踏まえると、デジタルチャネルであっても双方向のコミュニケーションが有効なのではないだろうか。

例えば、顧客のデジタルチャネルでの行動をリアルタイムでとらえ、迷っているような行動の兆候が見られる場合は能動的に銀行側からチャットや電話でアクションを起こし「最後のひと押し」を顧客へ投げかけるのである。

しかし、全ての顧客のデジタルチャネルの動きを有人で監視することは非現実的であるため、デジタルの力を活用し、顧客の行動をリアルタイムでとらえる仕組みを構築し、予めルールを定義する必要がある(例えば、3つの商品の画面を3回以上遷移している等)。その兆候を検知した場合のみ、銀行から能動的にアクションを起こすことで、効率的な顧客へのアプローチが可能となる。

昨今のマシンパワーの向上やストレージの価格低下により、顧客のデジタルチャネルでの行動履歴をリアルタイムでトラック・蓄積することは充分可能である。実例として、オーストラリアの銀行ではWebチャネルで顧客の行動をリアルタイムでトラックしている。そして、予め定義した兆候を検知した際は、銀行側から能動的にチャットで話しかける仕組みを構築した。その結果、話しかけた顧客の25% が商品の購入にまで至っている。これは収益拡大に取り組んでいる邦銀にとっても魅力的な数字と言えるであろう。

デジタルチャネルを「The New Sales Machine」へ変革させるためには、一方通行ではない双方向のコミュニケーションが有効であることを実証した例であるといえる。

■総括
これまでのデジタルチャネルはコスト削減を目的としたトランザクションの場としての位置づけであったが、顧客がデジタル化して支店への来店率が減少する現状においては、セールスの場としての役割が重要となる。

基本的な考え方は支店や個人RMが行っている営業プロセスをデジタルの力を活用してデジタルチャネルにも組み込むことだと考える。「商品をパーソナライズする」「バスケットセールス購入させる」「双方向のコミュニケーションを行う」の3つを取り込むことで、デジタルチャネルをセールスの場へと変革することが可能と考える。

弊社は「すべてのビジネスがデジタルになる」と宣言し、テクノロジーがあらゆる業界、業種、企業に対し新たなチャンスをもたらすと考えている。デジタルチャネルにおいても顧客とのコミュニケーションの充実化を図り、ニーズに柔軟に対応し、クロスセルを加速する銀行が競争力を強めていくことは疑う余地がない。(FSアーキテクト Vol.34 / 2014年夏号)