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保険業務におけるアナリティクスの活用

FSアーキテクト Vol.33:保険会社におけるアナリティクス活用についてのアクセンチュアの論考。海外先進企業の活用状況・事例を紹介するとともに国内での活用に向けた課題を検討します。

金融サービス本部
マネジング・ディレクター
経営コンサルティング担当
原 仁志

原

金融緩和による資産効果を通じ逆ザヤが解消して一息という保険会社が多いが、これまで保険会社が直面してきた人口減少、国内経済成長の鈍化という構造的な課題に大きな変化はない。

国内生損保は様々なしがらみにより、これまでの成長マーケットを前提としたビジネスモデルからの転換に苦労してきたが、海外ではデジタルを活用したビジネスモデルの変革に積極的に取組む企業が増えている。国内生損保においても、競争の激化する成熟マーケット下での勝ち残りへ向けて、アナリティクスを活用したビジネスモデルへの転換は不可避だと考える。特に企業がリーチできる情報が爆発的に増加している中では、他社の動向を伺って様子見をするのではなく、先手を打ってアナリティクスの活用に取り組んでいく必要がある。

本稿では、海外先進企業におけるデジタル、特にアナリティクスの保険業務への活用状況・事例を紹介するとともに、国内生損保のアナリティクスの活用へ向けた課題に触れる。

多岐にわたるアナリティクス活用領域
マーケットが成熟して競争が激化する厳しい環境下でも、アナリティクスを活用することで、収益の拡大やリスクの最適化につなげることは可能である。特に、多種多様な大量のデータを保有する保険会社において、アナリティクスの活用領域は非常に多岐にわたる。(図表1)

図表1 保険業におけるアナリティクスの活用領域(画像をクリックすると拡大画像が開きます)

【図表1 保険業におけるアナリティクスの活用領域(画像をクリックすると拡大画像が開きます)】

  1. 収入保険料の拡大
    収入保険料の拡大に向けて、新商品・サービスの開発、新規顧客の獲得、顧客ライフサイクルマネジメント、営業職員・代理店の営業高度化の領域でアナリティクスの活用が期待できる。例えば、新規顧客の獲得ではアナリティクスを活用した顧客セグメンテーションの高度化、キャンペーン企画・管理の高度化、チャネルの最適化といった取組みが可能である。

  2. 事業費の削減
    事業費の削減に向けて、不正請求の防止、プロセスの最適化、ディストリビューションの最適化、オペレーションの効率化等に活用できる。例えば、プロセスの最適化では担当アジャスターの最適化、クレームセグメンテーションの高度化、ワークフローの高度化といった取組みが可能である。

  3. リスクの最適化
    リスクの最適化に寄与する活用領域としては、クレーム・プライシング、規制・コンプライアンス、アンダーライティング、損失予測がある。例えば、クレーム・プライシングの領域では、クレーム予測精度の向上、プライシングの適正化といった取組みが可能である。

アナリティクスを活用して収益拡大を図るグローバル先進企業
弊社グローバルチームが実施した調査(グローバル主要生損保30社が対象。2013年実施)によると、アナリティクスの活用が非常に進んでいることが読み取れる。

特に、新商品・サービスの開発、新規顧客の獲得・リテンションといった収入保険料の拡大につながる業務領域へのアナリティクスの活用割合が約80%と非常に高い。さらに、具体的なビジネス成果につながっていると答えている会社が約70%弱と高く、試行錯誤しながらアナリティクスを活用している段階から一歩進み、既に具体的に成果を創出している段階に来ていると考えられる。(図表2)

図表2 アナリティクスの活用状況(画像をクリックすると拡大画像が開きます)

【図表2 アナリティクスの活用状況(画像をクリックすると拡大画像が開きます)】

また80%の会社が、Chief Data Officerを設置していると回答しており、各部門での取組みを超え、全社的な戦略の一環としてアナリティクスの活用に取り組んでいることが分かる。

次に、弊社でのプロジェクト事例を中心にアナリティクスの具体的な活用事例を見ていきたい。

アナリティクスの活用事例

  • 欧系A社:クロスセル・アップセル
    グローバルにビジネスを展開している欧系A社では、グループ内に生損保の複数ブランドを抱えていたが、顧客情報の分断により、生損保の垣根を越えたクロスセルが限定的で、グループシナジーを十分に発揮できていなかった。

    そこで、弊社のアセットであるCAR(Customer Analytic Record)を用い、分析しやすい形で顧客情報を一元的に保持できる仕組みを構築した。そのうえで、顧客の嗜好や行動様式をもとにクラスター分析を行い、キャンペーンの実施方法を見直した。

    その結果、キャンペーンの実施リードタイムを半減させ、分析結果に基づき25のキャンペーンを実施することで、1年半後にはクロスセル率が12%増加した。

  • 欧系B社:リテンションの強化
    グローバルにビジネスを展開している欧系B社では、解約率の高さに課題を抱えていた。

    この課題に対応するため、弊社と共同プロジェクトを立ち上げた。まず、解約リスクを定量的に把握するために必要な顧客データの整備を行った。その後、それぞれの顧客から将来的にどれだけの収益が見込まれるのかという「顧客生涯価値(Life Time Value)」を算出し、解約を防止すべき顧客の優先順位づけを行った。その上で、顧客セグメントごとに、どのような新規提案をすれば解約を予防できるかという「解約予測に基づく提案モデル」を策定した。

    解約を予測し、先手を打つ形で乗り換え商品を提案することで、件数ベースで40%もの解約・失効防止という成果をあげている。

  • 欧系C社:テレマティクスの活用による引受判断高度化
    欧系C社では、若者の自動車保険加入率の低下という課題を抱えており、高額な保険料がその主たる要因として考えられていた。

    そこで、テレマティクスを活用した自動車保険を開発・販売し、PAYD(Pay As You Drive: 走行距離連動型)、PHYD(Pay How You Drive: 運転行動連動型)を実現し、大幅な保険料削減につなげることに成功した。

    また、この商品では3ヶ月ごとの走行履歴をもとに保険料が見直され、無事故の場合には毎年割引が実施されている。さらには、運転状況を評価しWeb経由でドライバーに情報提供することで、安全運転の啓蒙活動にもつなげている。

  • 米系D社:不正請求検知の高度化
    グローバルにビジネスを展開している米系D社では、医療保険の過剰請求・不正請求に課題を抱えていた。保険金支払額が膨らむことに加え、保険金請求の精査に伴う事務負荷が高まり、さらに支払いまでのリードタイムが長期化していた。

    この課題に対応するため、弊社が特許を保有している保険金請求の不正請求検知モデル(Claims Analytics Record)をカスタマイズし、予測モデルを策定した。また、専門の調査チームを立ち上げ、検知モデルにより高リスクと識別された請求事案にフォーカスしてメリハリあるチェックを行うという支払態勢を構築した。

    その結果、99%の不正請求が12パターンに集約されることを突き止め、検知のパターン化に成功し、不正支払の抑制、保険金支払までのリードタイム短縮を実現した。

アナリティクスの活用へ向けたチャレンジ
これまで紹介してきたように、保険業務へのアナリティクスの活用余地は非常に大きく、グローバルに展開している保険会社では導入にとどまらず、効果創出までつなげている。翻って日本の保険会社をみた場合に、目に見える成果を出せているケースは稀であり、理由として次の3つの典型的な「壁」が存在していると考える。

  • 壁(1) データ制約
    保険会社各社では契約単位で顧客情報が管理されていたり、業務横断で顧客情報が共有されていなかったりと、社内の顧客情報が散在・断片的に存在しており、契約者・被保険者を「顧客」として捉えることを難しくしている。顧客に関するタイムリーかつ有益な情報が代理店や営業職員のところに埋没しているケースも多く、保険会社として、データ活用の妨げとなっている。

  • 壁(2) ケイパビリティ
    アナリティクスを活用するには「保険業務に関する深い知見」、「問題意識(仮説)」、「分析するスキル」を有した人材が必要になるが、社内でこのようなマルチなエース人材を見つける事は非常に困難なケースが多い。また、例え存在してもすでに社内の重要業務を任されており、新しいプロジェクトへのアサインは難航する。

  • 壁(3) サイロ型の組織
    アナリティクスを目に見える成果につなげるには、部門横断でデータを共有・分析し、部門横断的のアクションが求められるイニシアチブが切り出されることも多い。しかし多くの保険会社では業務単位で組織が存在するため、組織横断でのデータ共有、意思決定、検討推進等に難航する。

解決への糸口としてのオペレーティングモデルの考え方
データ制約については、実績あるアセットを活用することで一定は解消可能であるが、社内に必要な体制を敷くことはハードルが高い。体制の整備方法としては、3パターンに大別することができる。(図表3)

図表3 アナリティクス活用に必要な社内体制の考え方(画像をクリックすると拡大画像が開きます)

【図表3 アナリティクス活用に必要な社内体制の考え方(画像をクリックすると拡大画像が開きます)】

「プロジェクト横断型」では、まず分析専門のプロジェクトチームを立ち上げる。分析業務は各部門にて担うが、ツールやノウハウ共有、人材育成等の部門横断機能はプロジェクトチームが担う。一方、「セントラル型」では、社内に専門の部署を立ち上げ、アナリティクス人材を集約し、ユーザ部門から請け負う形で分析業務を担う。一番実現難易度が高い「分散・自律型」では、各部門にアナリティクス人材を配置し、それぞれの部署が独自に分析業務から人材育成までの全ての業務を担っている。

社内に十分なケイパビリティが備わっていない場合は、外部の協力会社の力を利用しつつ、「プロジェクト横断型」から段階的に体制を構築していくことが望ましいと考える。

米系E社では社内にケイパビリティが備わっていないという課題を抱えていたが、競合他社に対抗するため、短期間で体制を整備する必要があった。E社では「プロジェクト横断型」を採用し、弊社とアナリティクスベンダーを含んだ3社による共同分析チームを立ち上げ、社内の分析業務を一手に担う態勢を構築した。

共同分析チームが各部門に配置しているアナリスト(分析担当)と連携しながら分析業務を行うことで、ノウハウの蓄積・共有による人材育成と、効果の即時創出という両立が実現できている。

まとめ
デジタル化が進む中で、アナリティクスの活用は飽和マーケットにおかれた国内生損保の勝ち残りの必須要件であることは間違いない。海外で積極的にアナリティクスを活用している企業では収入保険料の拡大、リスクの適正化、事業費の削減と多岐にわたる業務領域で効果を創出している。他者に先んじ競争優位を確保するためにも一刻も早い取組みが求められる。

しかしながら、保険業務へのアナリティクスの活用へ向けては、データの整備、分析ケイパビリティの獲得、意思決定の在り方といった様々な課題があり、これら課題への対応がアナリティクスの活用の成否を分かつ。 本稿で紹介した取組み例は国内生損保会社におけるアナリティクス活用の参考になると考える。

(FSアーキテクト Vol.33 / 2014年春号)

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