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行政調達3.0:政策目標達成に向けた新たな委託スキーム

行政機関の政策目標と委託先の業務とを連動させる──。その実現に向けて新たな委託スキーム『行政調達3.0』への移行が求められています。

概要


国や地方自治体などの行政機関は、業務を外部に委託する際に要求仕様をまとめ、委託先にその履行を求めます。また、業務委託を受けた事業者も、行政が定めた要求仕様を忠実に守りながら業務を遂行するのが基本です。

このとき問題になるのが、委託先が要求仕様どおりに業務を遂行しても、肝心の「政策目標」が達成されない場合があることです。

では、なぜそのような事態が生じてしまうのでしょうか──。

大きな要因として考えられるのは、すべての業務委託について、建物や道路のような「モノ」を「成果物」とする場合と同じスキームを適用しているケースが少なくないことです。

「モノ」が最終的な成果物である場合、行政機関が定めた要求仕様を委託先が厳格に守るだけで政策上の目標は達成されると言えます。

ところが、地域経済の活性化や産業振興・投資促進といった事業では、業務委託のゴールが「モノ」を得ることではなく、政策目標の達成に向けた「成果」を得ることとなります。したがって、この種の事業で業務委託を進める際には、委託先に「どのような業務を遂行させるか」ではなく、「政策目標に従った成果をどう上げさせるか」が重要となります。

そこで求められるのが、委託スキームを「業務実行型」から「成果連動型」の『行政調達3.0』へと変化させることです。この新たなスキームの採用によって、行政機関は外部の優れたスキルやノウハウを政策目標の達成へとスムーズに結びつけ、財政支出のリターンを最大化することが可能になります。

実のところ、日本の行政機関の間ではこれまで「成果連動型」の業務委託契約が可能であること自体があまり知られていませんでした。また、「成果連動型」での委託契約には委託先への支払いが予算をオーバーしてしまう、あるいはショートしてしまう可能性があるとの認識から、行政機関での採用がなかなか進まなかったという側面もあります。

しかし今日では、財政支出の「実効果」に対するアカウンタビリティの確保に向けて、「成果連動型」の委託スキームを取り入れようとする動きが活発化しつつあるのです。

「業務実行型」スキームの課題

日本の行政機関における業務委託のスキームの多くは「業務実行型」です。「業務実行型」は、日本の行政機関が従来から採用してきたスキームです。

これを『スキーム1.0』とした場合、次の段階の『スキーム2.0』は、「目標達成型」(詳しくは後述)となり、それをさらに進化させた『スキーム3.0(行政調達3.0)』が「成果連動型」(詳しくは後述)と位置づけることができます(下図参照)。

上の図にも示したとおり、『スキーム1.0』──つまり、「業務実行型」は、委託先に要求仕様に沿った業務を遂行させ、その業務が完遂された時点であらかじめ決められた報酬を支払うスキームです。

このスキームは、「納品成果物の完全性」を担保するうえでは有効であり、その点で、建物や道路の建設・敷設など公共インフラの整備事業に適していると言えます。

とりわけ、公共インフラの整備事業では、これまでの経験から「何に対して、いくらかければ、どういった品質のモノが出来上がるか」の十分な理解が、発注側の行政機関にあります。そのため、適切な要求仕様を策定することができますし、支出の妥当性も見極められます。

ところが、地域経済の活性化や産業振興・投資促進といった事業の場合、行政機関側で「何を以て成果とすべきか」、「その成果を得るために委託先に何をさせるべきか」、さらには、「そのためにはいくらかけるのが妥当か」の判断がつかないことが往々にしてあります。

海外企業誘致の「業務実行型」スキーム

ここで、近年多くの行政機関が取り組んでいる海外企業誘致の実働部分を外部に委託するケースを想定してみましょう。海外企業誘致においては、市場調査やビジネスマッチング等の支援提供を通じ、海外企業の日本での拠点開設や事業展開の意思決定を後押しすることが必要となります。

日本の行政機関は、海外の事情や企業の特性に必ずしも精通しているわけではありません。その点で、海外事情に精通し、かつ、企業誘致の実働経験が豊富な外部リソースに業務を委託するのは妥当な判断と言えます。

ただし、行政機関の海外企業に対する理解、あるいは海外企業誘致の経験が浅ければ、当然、政策目標を達成するために「どの程度の費用をかけて委託先に何をさせるべきか」を判断することが困難となり、適切な要求仕様を策定することが難しくなります。

そのため、「要求仕様どおりの業務を完遂したときに報酬を支払う」という「業務実行型」スキームを採用すると、委託先に遂行させる業務と政策目標とのかい離、あるいは、支出額と実質的な成果とのかい離が生じがちとなります。

海外企業誘致の事業では、「特定企業に対する日本進出の提案書」や「有望企業の調査・リスト化」を外部に委託するケースが間々見受けられます。

これらは、「業務実行型」スキームを企業誘致事業に適用した例と言えますが、これらのみでは海外企業誘致の最終的なゴールである、誘致ターゲット企業の日本進出決定や日本でのビジネスの開始には繋がりません。

スキーム2.0──「目標達成型」の効果と課題

先に示した図からも分かるとおり、「業務実行型」を一段ステップアップさせたのが、『スキーム2.0』──つまり、「目標達成型」の委託スキームです。

これは、発注側(行政機関)の目標値に従って受注側が業務の詳細内容を決め、それを完遂することで発注側から報酬を得るというスキームです。

海外企業誘致を例に挙げれば、「日本への誘致を決めた企業数」などがこのスキームでの目標数となり、受注側がその目標数を達成したときにのみ発注側(行政機関)から「所定の報酬」が支払われることになります。

このスキームによって、発注側の目標と受注側の業務との連動性は高まります。発注側は委託する業務内容を細かく定める必要はなく、基本的には「達成したい成果(例えば誘致したい企業数など)」だけを要求仕様に盛り込めば済むようになります。受注側にとっても、目標達成と直結した業務のみを選択し実施すれば良く、成果創出と関係の薄い業務に対し工数や経費をかける必要がなくなります。

ただし、受注側はあらかじめ決められた目標数を完全に達成しないと──業務遂行にかかった経費は支払われたとしても──報酬が得られません。つまり、契約条項で定められた誘致企業目標数が40社ならば、たとえ39社の「日本進出の確約」を取り付けたとしても「目標未達」として報酬が得られないわけです。これは受注側にとってかなりの負担・リスクと言えます。ですから、このスキームを採用した場合、入札に二の足を踏む企業が増え、適切な委託先を探し当てる難度が増すという問題があります。

スキーム3.0──「成果連動型」の効果

スキーム2.0が内包する問題を解決する有効な手だてが、「成果連動型」の『スキーム3.0』──つまり『行政調達3.0』の採用です。

先の図に示したとおり、このスキームは、委託先の「目標達成度合い」に応じて報酬が支払われるスキームです。海外企業誘致で言えば、1社の日本進出の確約を取り付けるたびに所定の報酬(インセンティブ)が支払われる」といった格好になります。これはある意味で、1つの成果に対する単価を決めて契約を交わす「単価契約」ベースのスキームとも言えます。

こうしたスキームの利点の一つは、成果を上げれば上げるほど報酬が上積みされるため、受注側の目標達成意欲が高まることです。また、政策目標の達成に向けた成果と支出との連動性も高まり、支出に無駄がなくなります。

加えて、「成果連動型」のスキームでは、発注側が成果として認めた場合にのみ報酬が支払われるため、受注側には成果に対するアカウンタビリティが要求されます。そうしたことから、発注側は支出額に対するアカウンタビリティをしっかりと確保することが可能になるのです。

もちろん、行政機関の予算には上限があるため、成果の上積みにも制限がかかります。また、「成果連動型」では委託先の成果によって支出が上下します。そのため、実際の支出が、あらかじめ確保した予算を下回ってしまう可能性があり、「固定予算の完全消化」を追求すると「成果連動型」の採用が難しくなるという側面もあります。

それでも、委託先の業務と成果との連動性や財政支出に対するアカウンタビリティが確保される意義は行政機関にとって小さくありません。そのため日本の行政機関の間でも、「成果連動型」のスキームを採用しようという動きが活発化しつつあります。例えば、海外観光客誘致といった事業でも「成果連動型」スキームが採用されるケースがすでに出始めています。

また、アクセンチュアでは過去10年間にわたり、日本の行政機関から海外企業誘致の業務を支援し、その中で行政機関の実利を最大化すべく委託スキームを変化させてきました。その軌跡も、ちょうど「業務実行型」から「成果連動型」へのステップアップの流れをたどっています。2013年には東京都と海外企業誘致事業に関する業務委託契約を結び、以降3年連続で当該業務を受託していますが、この契約にも「成果連動型」のスキームが採用され、都の政策目標の達成に大きく貢献しています。

成果連動型スキームを成功に導くために

「成果連動型」のスキームは行政機関のすべての事業に有効とは限りません。この委託スキームを成功に導くうえでは、いくつかの条件をクリアーする必要があります。

以下は、それらの条件を「チェックリスト」として、まとめたものです。

このチェックリストにあるとおり、「成果連動型」のスキームを採用する際には、達成したい政策目標を明確に定義し、その目標達成に向けた成果指標を定量的に明確化・数値化しておくことが大切です。

また、具体的な政策目標が掲げられている場合でも、そもそも「成果連動型」スキームの適用が可能かどうかの検討を重ねる必要があるでしょう。さらに、業務の委託先が当該事業・業務に関して豊富な経験や知見、そして遂行の能力を有しているか否かも重要なポイントです。

こうした条件がクリアーできるならば、「成果連動型」スキームは行政機関の規模を問わず有効です。また、このスキームは海外企業誘致や観光客誘致にとどまらず、定住促進など幅広い事業で効力を発揮しうるものです。

現在、日本のすべての行政機関が限られた予算の中で、費用対効果の高い政策投資を求められています。そう考えれば、財政支出を抑えつつ、外部リソースを最大限に活用できる「成果連動型」スキームの採用が、今後さらに活発化するのは確実と言えるでしょう。