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素材・エネルギー本部
マネジング・ディレクター
需給最適化・エネルギートレーディング
&リスクマネジメント担当
小野田 敬
金融・通信・石油業界が経験した規制緩和は、電力・ガスシステム改革により2016年~2017年にかけて実施された小売全面自由化など、電力・ガス業界関係者はその機会の多様化と同時に、経営の不確実性が増大する経営環境を生き抜く、新しい手法を模索する展開に直面しています。
特に、今後の舵取りを担うミドルマネジメント層は、先人の転ばぬ先の杖として、金融ビッグバンで掲げられた3つの改革の三原則(Free、Fair、Global)の要素における得失のエッセンスを、新たな時代の持続的な成長・維持の機会と捉え、先頭にたって、自社の体力に沿った市場化への対応のあり方を模索することになるでしょう。
当時の橋本政権が掲げた金融ビッグバンにおける三原則の大テーマの構成は、以下の通りです。
Free:市場原理が機能する自由な市場
Fair:透明性で信頼できる市場
Global :国際的で時代を先取りする市場に
三原則の詳細については、いろいろな文献があるので本稿では割愛しますが、FreeとFairについては、小売全面自由化を契機として、需給調整機能の高度化やサービスが多様化するニーズを捉える等、その進展は、不確実性の対応力を深めることになります。一方、Globalについては、金融とは異なり、国内市場の開放という位置づけよりは、国際的な機動力と競争力を身につけるべく、大きく舵を切り始めているエネルギー事業者は、試行錯誤を繰り返しながら、着実に歩みを進めています。
今後3年間で、既定路線の枠を一歩踏み出せていないエネルギー事業者と差が歴然となることが予測されます。
これは、電力・ガスの安定供給に向けた発電用燃料や原料として、これまでの枠内の文脈ではなく、保有している資源エネルギー(資産)を市場に付加価値のある商品として活用し、事業出資・オペレーションも視野に含めた資源エネルギーの開発や海外取引所、OTC市場の活用機会の増加等、エネルギーサプライチェーン大の高度化に向けた取り組みが、確実に進展しています。
●リスク管理の高度化が経営に求められる背景(多様化する機会と不確実性への対応力強化)
国内では、先日、東京商品取引所が、来年2018年9月を目途に電力先物を上場することを正式に報道機関に向けて発表しました。加えて、現在のベースロード電源の燃料である液化天然ガス(LNG)、石炭の先物上場も電力先物に劣後して上場する計画で進められています。
先行して電力の先物取引が活性化している欧米各国では、市場活用した電力の現物取引量が総需要の10%を越える段階を境に大きく活性化した経緯もあり、並行して、その市場活用によるデリバティブの展開に対応した法整備や会計制度の国際標準化への対応力を身に着けることが重要となります。
エネルギー事業者にとって、取引所活用価値の更なる飛躍にむけて、電力先物と発電の燃料であるLNGや、石炭の先物取引を組み合わせた天然ガス発電用マージンであるスパークスプレッド、石炭の発電用マージンであるダークスプレッドが確定できる状況になれば、我が国のエネルギートレーディングは大きく進展することになると予測しています。
国内の電力取引(現物)市場であるJEPXもその取引量が段階的に拡大し、現在は、総需要の5%を超え、今後、計画されているクロスビディングを含めると現物の電力取引量で概ね10%以上に拡大します。現物と先物取引の相乗効果による電力市場活性化に向け、国内外取引市場を跨ぐ取引を含めた透明性の高い市場ルールの法整備や、取引所におけるクリアリング機能の充実が求められます。
現段階であっても、市場を活用する事業者側では、事業者におけるキャッシュフローの安定に向けた価格の固定化ニーズは、日々増していると考えられます。変動する価格に的確に対応するリスク管理ポリシーに基づいた組織・プロセス編制やヘッジ会計対応の体制整備面の重要性は更に増しており、当社もその領域のエキスパートが各社のニーズに対応する機会も増えております。
一方で資源エネルギーについては、東日本大震災以降、太陽光等再生可能エネルギーはその需給バランスにおいて、電力各社は、長期の需給計画に基づいて計画された発電計画・燃料計画・設備計画と実態との差分が歪みとして発生することが日常となっています。
太陽光エネルギーの台頭により、結果として火力発電用の長期契約の在庫量が余剰となるポジションを、現場はどのように合理的に解消していくのか。グローバルの時勢を反映した市況の変動に対して、そのポジション解消に向け、シミュレーションを繰り返しながら、PDCAを高速かつ緻密に対応することが求められていると考えられます。
そのような状況下において、中東で継続する地政学リスクを考慮したリスク分散の選択肢を確保する北米・豪州への投資開発やその権益や契約の柔軟化、価格で有利なシェールガスや瀝青炭の活用、欧米のエネルギー事業者とのパートナーシップによる新たなビジネス能力の獲得等、エネルギーサプライチェーン大での高度化にむけて、戦い方が大きく変わってきています。
パリ協定の排出ガス課題に対して、資源エネルギーの主役となるLNGの独自指標を目指す日本、シンガポール政府のHUB化に向けた動き、またシンガポールや北米において、これまでの位置づけと異なる事業所開設等、エネルギー事業各社は、市場化に向けた対応(トレーディング・リスク管理機能の高度化)を進めています。
電力・ガス・石油元売のエネルギー事業者では、商品群・サービスの従来の枠を超えた総合エネルギー事業者として新たなビジネスモデル・勝ちパターンの模索が始まっています。
従来の国内エネルギー市場の成長は大きく見込めないため、保有する資源エネルギー、設備などの保有資産の付加価値・そのリスクをポートフォリオ管理型により区別し、ポートフォリオの最適に向け、時価評価・EaR・VaR、そのリスク管理業務を支援するテクノロジーの活用により、その不確実性の質と量の内容の違いを時価ベースで具体的に数字として理解した上で、市況と向き合いながら戦い方を変えていくこと(ゲームチェンジ¬=市況・デマンドに応じた最経済なビジネスモデルの追求)が重要です。
不確実性が高まる新たな時代を生き抜くための経営手法として、従来の思考の延長では、過去に多くの金融機関が淘汰されたように限界があり、これから市場化が進み、不確実性の高い時代のリスクフローに一定の目途をつけることは出来ないと考えます。会社大で部門横断の取り組みとしてだけでなく、専門的な知見をすでに保有する他業界の知見を取り入れたチームを組成し、大事な第一歩を踏み出すことが重要になります。
規制緩和前と比べ、エネルギー事業者は、収入、支出、そのキャッシュフローともに、その揺らぎが大きな(固定しにくい、計画とは常に差異がある)リスクフローの状態が継続します。その不確実性の影響が増幅する経営環境の中では、経営トップ、ミドルマネジメントの合理的な判断に資する合理的なリスク管理能力のプラクティスを組織化し、昇華する必要があり、特定の部門の対応というレベルで済ませてはなりません。
●リスク管理を組織化するために取り組むこと-トレーディング戦略・ヘッジ戦略の検討
リスク管理の高度化への取り組みを始めるにあたり、自社のリスク管理手法の実用レベルや活用している具体的な指標、リスクの種類やその計量手法について、他社をベンチマークしながら、自社のアセットポジションとそのリスク管理レベルを冷静に時価で把握・評価することからその活動を始めてください。
その上で、管理リスクポリシーを新たに設定するため、市場リスク、信用リスク、オペレーションリスクの3つの大分類を縦軸に、バリューチェーンを横軸に配置し、対象となるリスクを2つの特徴に色分けを実施しましょう。
・確率化できるリスク =リスクを含む価値(ポートフォリオの資産価値)のモデル化を目指す
・確率化が難しいリスク =ストレステストでシナリオ分析を悲観的シナリオで自社の抵抗力を評価する
自社が抱えるリスクを「確率化できるリスク」と「確率化が難しいリスク」という2つの特徴に分類・詳細化します。
それに伴い、自社の体力やスキルに沿った形で、自社単独の事業可能性、他社と連携した事業可能性をアセスメントすることにより、参入可能な市場や自社のビジネススキームをどのように変革し、適合していくことが最良のシナリオなのか。経営にとっては、スピード感をもってこれを見極めていくことが、新たな時代の市場競争力の源泉そのものを明らかにすることになり、グローバル化=高い透明性と多様化する市場化する経営環境に適合する早道になると考えます。
その他、具体的な実施アプローチについては、後述する資料を参考に検討を進めて頂きたいですが、金融業界でも元々この領域は、証券会社にノウハウがあり、決して、銀行が先行していたわけではありませんでした。
この高度なリスクマネジメント力は、外部機関からの登用や行内の人材育成を最優先事項として取り組んできた実践の積み上げの上に成り立っています。
市場化された世界に対しては、自社の体力・ノウハウに沿ったポートフォリオ管理により収益を図るビジネスモデルが新たな時代のあり方のひとつであり、計量化、数理モデル、ストレステストを活用したリスクマネジメントは、市場化した世界を生き抜くための経営のエッセンスであり、重要な経営基盤そのものになります。
エネルギーのメジャープレイヤーをグローバルで支える体制(東京、ヒューストン、カルガリー、ロンドン、シンガポール、ドバイ)があり、戦略・組織・プロセス設計・ETRMパッケージ導入、効率的なグローバルオペレーションを導くバックオフィスBPOサービスをクライアントに展開し、業界随一の実績を誇ります。