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顧客起点の変革を実現する

~2017年のトレンドとトランスフォーメーション実行におけるチャレンジ

顧客起点の変革が求められるようになっている。こうした中で、企業は事業・サービス・組織をディスラプト(創造的破壊)し変容を遂げるために、どういったことを意識する必要があるのか。本稿ではアクセンチュア・インタラクティブ傘下のFjord(フィヨルド)が発表したトレンドレポート「Fjord Trends 2017」を題材に、顧客起点の変革に向けたキーポイントを解説する。また、アクセンチュア・インタラクティブの取り組み事例をもとに、変革を実行する上での課題とそれに対する有効なアクションを紹介する。

アクセンチュア株式会社
アクセンチュア・インタラクティブ
マネジャー
岩田 恵理子

変革の要となる3つの重要トレンド

「Fjord Trends」は、デザインとイノベーションのコンサルティングを手がけるFjordが、変革には最新トレンドを把握することが重要という考えのもと、2008年以降毎年作成しているトレンドレポートである。「Fjord Trends 2017」では、2017年以降に直面する課題やビジネスの機会に関する重要な8つのトレンドを発表している。8つのトレンドの中で、今回特に取り上げるトレンドは次の3つ。

  • 「EPHEMERAL STORIES(エフェメラルストーリー)」
  • 「SHINY API PEOPLE(人が中心の組織)」
  • 「ME, MYSELF AND AI(AIの感性)」

以下順を追ってこのトレンドのキーワードが意味するものを紐解いていく


EPHEMERAL STORIES(エフェメラルストーリー)
――消費者とともにブランド・ストーリーを作り出す


マーケティングの手法としては、これまで企業が消費者に対し一方的にブランドのストーリーを伝える「Storytelling」が中心だったが、今では消費者も語り手としてブランドのストーリー形成に加わり、共に情報発信しながらブランドを形成していく「Storydoing」の時代に変わりつつある。

その背景には、スマートフォンで誰もがビデオを簡単に撮影し、編集・公開できるようになったことが大きい。「Snapchat」は、投稿ビデオが毎日100億ビューを記録している。だが誰もが映像を発信できるようになった結果、コンテンツ飽和状態となっている。

コンテンツが飽和状態になると、心に突き刺さる力強いストーリーが必要だ。顧客に訴えるために、企業は豪華で派手で高品質なコンテンツを出したがるが、今求められているのはラフで速やかに消費できるコンテンツである。その例が米国のファッションブランドEverlane(エバーレーン)である。同社はSnapchatを利用し、服の制作に関わった人や背景などブランドの舞台裏を見せる未編集のライブ映像を配信している。また、ファンのブロガーに商品の宣伝に協力してもらったり、ブロガーや一般ユーザーが商品をレビューできるページを設け情報を拡散できる仕組みを用意するなど、まさにブランドを消費者とともに作り上げている。こうした取り組みの結果、同社はスタート僅か4年で3倍の成長を遂げた。

このように、企業の“ストーリー”形成に消費者を参加させ、顧客と共にブランドを作っていく時代において、企業にはどんなことが求められているのか。まず1つ目は、マーケティングチームは新たな人材を確保し再編成をすることである。今まではマーケティング部門はコンテンツを作る立場だったが、今後は消費者とともにストーリーを作り、それを編曲していく立場となるため、クリエイターよりも編曲者として動くことが得意な人材(例えばジャーナリストのような人材)を確保することが重要である。2つ目は、消費者とともにブランドが形成・消費されブランドが変化していく中で、消費者のコミュニケーションの在り方の変化を認識し(ライブ映像への傾倒等)、あらゆる接点のコミュニケーションに適用することである。3つ目は、公開コンテンツは一度上げたら終わりではないため、反復テストし管理するチームやインフラを準備することである。


SHINY API PEOPLE(人が中心の組織)
――あくまで人に投資する


2つ目のトレンドは、人が中心の組織作りが重要になるという点。すでに多くの企業では、デザイン思考を促す組織横断のチームを設けているが、実際には変革ができていなかったり、壁にぶつかっている企業が多いのが現状である。単に横断の「組織」を設けるだけでなく、「人を中心に考える柔軟性を持った組織作り」が必要である。

こうした組織作りに成功した一例として、米国のソフトウェア企業のIntuitがある。同社では、例えば、エンジニアがマーケティングのアイデアを思いついた際、これまでは伝える場がなかったが、個人が思いついたアイデアを投稿できる「Brainstorm」というツールを開発し、アイデアの創出とそのブラッシュアップを促進した。様々なメソッド・テクニックを生み出し、より変革アイデアを生み出し活用しやすい環境にすることで、同社は、2016年には12%の成長を遂げている。

また、自動車メーカーのFordでは、誰もが階級に関係なくアイデアを生み出せる環境を構築している。アイデアに価値があると会社が認識した場合、プロトタイプを自由に作れるワークショップスタジオへのアクセス権を提供するなどしている。これによって同社は、2012年~2015年の3年間で特許数が3倍になったという。

顧客体験を向上させるには従業員体験の向上が必要となる。だからテクノロジーやサービスに投資する前に従業員のスキルアップに投資すべきなのである。そこには、より柔軟なワークフローの構築や、新たなアイデアを共有して変革を加速させるためのコラボレーションツールの導入も有効だ。もちろん、こうしたことを全組織的に実施するには、やはり経営陣のコミットメントが必要である。


ME, MYSELF AND AI(AIの感性)
――企業の価値観と合致するAIの人格(ペルソナ)を形成する


最後に紹介したいのは、AIについてのトレンドである。多くの企業が今、消費者との会話を通じて顧客体験を向上できるという考えからチャットボットを導入しているが、今後は各々のブランド特有の価値観に基づいて会話ができる高度な感情的知能を備え持ったAIが必要になってくる。企業の価値観と合致するAIの人格(ペルソナ)を考えてサービスを検討・デザインすることが重要なのである。AIを企業の価値観を代弁する1人の人として捉え、どういった感情的知能を持つべきか、そのひととなりを明確に定義するべきである。

また、人間らしいAIが出てくると、ユーザーは話している相手がAIか人かわからなくなる場合もある。だから企業はAIであることをユーザーが理解できるよう、透明性を保つよう努めるべきである。また、ユーザーとのコミュニケーションで誤解が生じないよう、チャットボットであれば絵文字や写真、音声であれば声のトーンに工夫を凝らすなどの設計も重要だ。

顧客起点の変革に向けた4つのステップ

では、実際に顧客起点の変革を実行するにあたり、具体的にどのような課題と対策があるのか。具体的な取り組みとして、アクセンチュア・インタラクティブでは、「Design × Consulting」のアプローチにて顧客起点の変革に取り組んでいるが、このアプローチには4つのステップがある。「DISCOVER(チャンスを見つける)」、「DESCRIBE(コンセプトを描く)」、「DESIGN(息を吹き込む)」、そして「ROADMAP(道筋を描く)」の4つだ。

DISCOVER(チャンスを見つける)


このステップでは、顧客と実際に会ってインタビューしたり、顧客になりきって現場を訪問・体験し、人間の生活や感情、商品やサービスの価値を洞察していく。

この段階でよくある課題が、気がつくと企業目線のサービスになっていることがあるという点だ。インタビューで顧客の感情を捉えたはずなのに、気がつくと顧客が欲しがっていないサービスになっていることがよくあるというのだ。

これに対しては、顧客インタビューの際、思い込みによる質問をしていないか、回答を鵜呑みにしていないか考えるべきだ。例えば健康食品を扱う会社が新しい商品・サービスを生み出す際に、インタビューで『あなたにとって健康は重要だと思いますか?』と聞けば誰もが『はい』と答えはするだろう。だが、すべての人が健康食品や健康に関するサービスを買うとは限らない。なぜなら、人には限られた時間・お金があり、他よりも優先してまで健康を重要視しているとは限らないからだ。

インタビューでは、各々の顧客の“本質的欲求”(行動を突き動かす日々の欲求や人生で達成したいこと)を洞察して導き出し、その欲求に紐づくサービスを生み出すことが重要である。質問もその本質的欲求を導き出す質問にするべきである。本当にその人が人生で達成したいことや行動を突き動かす欲求に関連した商品・サービスでなければ、人はなかなか購入・利用までに至らない。例えば、女性がキレイになりたいという本質的な欲求がある場合、それに紐付けたアイデアで、美を全面に出した健康食品・サービス(“美は内面から”)を出すなど、本質的欲求に紐付けた商品・サービスを出していく必要がある。


DESCRIBE(コンセプトを描く)


次はDESCRIBEだ。これは、感情や思考に基づいてアイデア創出する段階だ。顧客になりきって、顧客行動の一連の流れに沿ったアイデアを出し、コンセプトを作成する。アイデアワークショップなどを開くのがこの段階である。

この段階でよくある課題は、生み出した顧客体験が浸透しないことだ。アイデアを生み出してカスタマージャーニーを作成した後、他部署と共有し理解を求めるが、反応も薄く浸透させるのが困難なことがある。

ここで重要なのは、一連のアクティビティに「どれだけ他部署を巻き込めるか」ということだ。サービスデザインは“共創”のアプローチであるため、結論だけ伝えるのではなく、他部署も検討段階から巻き込み、過程を一緒に創り出すべきである。よって、ワークショップなども多くの部署・レベルの人を巻き込むことが大切である。ある日本のクライアントでは、各チーム6人x6チームで様々な部署(事業企画部、経営企画部、営業企画部、情報システム部など)から参加者を集めてワークショップのチームを形成した。また現場だけではなく、部長級にも参加してもらい、取締役・常務執行役員もオブザーバーとして参加。またワークショップも複数回実施し、ワークショップでの発言は毎回異なるメンバーにする、宿題を出すなど、主体性をもって関わってもらった。


DESIGN(息を吹き込む)


DESIGNの段階では、アイデアを具現化し評価する。絵やアプリのモックアップなどプロトタイプに落とし、顧客の評価や反応から修正を繰り返すのだ。

よくある課題として、新しいサービスを生み出してもマネジメントを納得させることが難しいという点がある。新しいアイデアを描いて具現化し、マネジメントに説明しても、リスクを懸念して承認に至らないケースは少なくはない。

こうした状況下で重要なのは「小さくても、とにかく始めること」だ。まずは、ベータ版などサービスのプロトタイプを作り、100人等少人数の顧客に絞ってリリースをする。その場合、限られた範囲でのリリースとなるため影響・リスクは少ない。そして、その顧客の実際のポジティブな反応をマネジメントに見せて納得させることである。顧客の実際のポジティブな反応があれば何よりマネジメントへの説得材料となる。仮にネガティブな反応があるならば、すぐに改善していけばよい。また、サービスコンセプトをストーリー立ててビデオ化するなど、ビジュアルやオーディオの力を借りて感情的なコンテンツでマネジメントに訴えかけることも効果的だ。


ROADMAP(道筋を描く)


最後のステップROADMAPは、実現に向けた計画だ。アイデアを実現するためロードマップを作成し、マイルストーンに向けて準備をするのがこの段階である。

顧客体験に関連するプロジェクトによくある疑問として、顧客視点だけで進められるかという点がある。顧客視点でものごとを考え進めるといっても、マネジメントの承認を得るにはROIを示す必要もあり、顧客体験プロジェクトの進め方がよくわからないという悩みをよく聞く。

サービスデザインは顧客視点と同時にビジネス視点も重要である。したがって、こうした課題については、顧客視点でのアイデアを創出した後、ビジネス視点で競合に勝てるか、自社の方向性と一致しているかを見てサービスアイデアの優先度を決める。どんなに優れたサービスアイデアであっても、すでに競合がやっていたり自社のポジショニングが取れないと意味がない。更に、テクノロジーなどの実現性を考えるといきなりできるアイデアでなかったりするため、ロードマップを描くことが大切である。

またこの後続での課題も存在する。顧客体験を作り出しても継続できるとは限らず、むしろ一度作り出しても、後続フェーズでは単なる紙ペラになってしまうことが多い。そこで、顧客体験を生み出した部署やチームが門番となり、鑑となるジャーニーに沿って企画から実行、運用まで一気通貫で見守ることが重要になる。

顧客体験の向上は当然一筋縄ではいかない。しかし、ここまでに述べたように、テクノロジーや人や組織の在り方、そして業務を見直すことで、どの企業も変革を起こすチャンスを秘めている。

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