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ビジネスの前提が変わる製造業のデジタル化

すべての産業を襲うデジタル化の波により新しいゲームのルールがつくられつつあります。デジタル化をビジネスチャンスに変えるための戦略策定のポイントとは?

デジタルディスラプターが変えるゲームのルール
従来の延長上では戦略を立てられない時代

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中村健太郎


戦略コンサルティング本部
マネジング・ディレクター
中村健太郎

ウーバーやエアビーアンドビーなどの名を持ち出すまでもなく、デジタル世界ではイノベーターが次々に勃興しグローバル市場での存在感を高め、またそのスピードは加速化しています。こうしたデジタルディスラプターはゲームのルールを変え、既存の大企業にも大きな影響を与えようとしています。

ビジネス環境が激変する中、既存の大企業は守勢に立たされているように見えます。一方、反転攻勢の機会をうかがって、着々と準備を進めている企業もあります。環境変化・デジタルを自社にとってどのように位置付けたとしても、企業が勝ち抜くためにはデジタル化の本質をとらえ、自社の強みを生かした確かな戦略が求められます。デジタル時代にふさわしい戦略を、従来の延長上で発想することはできません。デジタルという大規模な潮流を乗りこなすために、企業にはどのような戦略が求められるでしょうか。

経営の高速化: 市場浸透のスピ一 ド化
経営の高速化: 市場浸透のスピ一 ド化

一点突破型のスタートアップに対して
大企業がスケールで負けるという逆説

まず、デジタル化がもたらした競争環境の変化について考えてみましょう。

経営の高速化: 飛躍型企業の脅威
経営の高速化: 飛躍型企業の脅威

冒頭に触れた2社をはじめ、「ユニコーン」と呼ばれる企業価値1000億円以上のスタートアップ企業が続々と生まれています。その多くはビジネスモデルを進化させながら、これまで市場で大きな存在感を発揮していた企業との競争を繰り広げています。否応なく、新しい舞台での競争に向き合わざるをえない企業は少なくありません。

例えば、新たな競争環境に直面する大手製造業を考えてみましょう。日本には、年商数兆円規模のコングロマリットが多く、こうした製造業においては、多岐にわたる領域で事業を展開している一方、1つのビジネスユニットの事業規模は数百億円程度というケースが多く見られます。

日本企業を全体的に見たとき、数百億円規模の事業は決して小規模なものではありません。数十億円規模の事業部も多く存在し、それらの事業は、当該事業の規模に見合った投資を行っています。

一方のユニコーン企業は一点突破型で攻めてきます。ベンチャーキャピタルなどから集めた1000億円超の資金の大半を1つのビジネスに投入し、優位なポジションの獲得やシェアの拡大を図っています。また、ユニコーン企業に資金を供給した投資家は、必ずしも短期的な収益のみを追うわけではなく、未来の価値を勘案した株価を念頭に投資を判断するため、時には会社のリソースをマーケットでのシェア確保に投下するような意志決定を支持・後押しします。

大手製造業の投資額全体を見れば、ユニコーン企業に拮抗しているかもしれません。しかし、特定の事業、特定の商品グループを見れば、投下リソースの観点で劣勢にたたされます。逆説的ですが、大企業がスタートアップ企業に規模で負けるという状況が生まれています。

これらの大規模な投資能力を持ったユニコーン企業と対峙するためには、全社視点での資金調達から投資方針、自社のポジショニングなどを含め、戦略全体の見直しが求められます。

“スケール”の意味合いとバリューチェーンの定義

ユニコーン企業との対比を考えたとき、これまでの戦略策定の前提が変わりつつあることに注意することが必要です。重要なポイントは物理的な資産を収益に変換しにくくなった一方で、デジタル化の進展により外部との取引に伴うコストが劇的に低下したことです。

まず、物理的な資産と収益の関係です。例えば、ウーバーは1300億円ほどの資産を有していますが、その企業価値は6.5兆円に達します。一方、大規模な自動車メーカーは数兆円の物理的な資産を活用して、同程度の企業価値を実現しています。デジタル時代を迎えて、物理的な資産を多く持つことによって、高い収益を創造するというゲームのルールは大きく変わりました。

次に、外部とのコミュニケーションや取引に要するコストの変化です。一般に、バリューチェーンの構造は外部との取引コストと機能を内部で保有する時に内部で発生するコストで決定されるといわれます。前者、つまり取引先の発掘や契約、効果のモニタリングなどにかかわるコストが後者より大きい場合、企業はその機能を内部に抱えようとするでしょう。垂直統合型のビジネスモデルは、外部との取引コストの高い分野において競争力を発揮します。逆に、外部取引と比較して内部で発生するコストのほうが大きい機能については、企業内の組織やグループ企業に委ねるのではなく、外部とのアライアンスを選択したほうが有利になります。これら2つの関係より大企業による垂直統合や大企業同士のアライアンスが進んでおりました。

デジタルの出現により、外部との取引コストは限りなくゼロに近づきました。外部との取引コストの低下は、本質的な環境変化を引き起こしております。例えば、新規サプライヤーの発掘、既存サプライヤーの技術指導などに、大手製造業はこれまで多大な労力を費やしてきました。いまでは、はるかに低コストで優良なビジネスパートナーを見出し、ビジネスを開始することができます。大きな企業がバリューチェーン全体を保有するのではなく、特定のビジネスプロセスに特化した企業及び個人同士がエコシステムを構築していく。このような変化を重大なものとして受け止めるならば、デジタル化以前に確立した組織構造、バリューチェーンの構造を根本的に見直し、外部を活用し、スケールとスピードを担保しつつ、自社の収益を最大化する新しいビジネスエコシステムを構築することが求められます。

長年続けてきたスケールのマネジメント、バリューチェーンの維持に伴うコストのマネジメントが、デジタル時代に陳腐化しているかもしれない。特に大企業は、そんな危機意識を持つべきではないでしょうか。

ユーザーの消費は変化している
シフトするプロフィットプールに注目する

以上、既存の大企業が向き合う厳しいビジネス環境について述べました。あえて刺激的な表現を使えば、慣れ親しんできたビジネスの前提そのものが崩壊しつつあるのです。

既存企業にとっては大きな脅威です。しかし、見方を変えればチャンスにすることも可能です。チャンスをつかみ、企業を成長軌道に乗せるためには、どのような戦略が求められるでしょうか。2つのポイントを指摘したいと思います。

第1に、プロフィットプールの変化に注目することです。音楽業界を例にとると、CDの売上は低下傾向をたどっていますが、音楽配信サービスの普及などにより、1人が音楽を聴く時間は伸びています。また、ライブ市場は急拡大しています。「音楽を聴きたい」という消費者の欲求がなくなったわけではなく、音楽という分野の中で消費の対象が変わったということです。

プロフィットプールのシフトは、他の様々な分野にも見られます。自動車業界ではディーラーのマージンが減少する一方、アフターサービスを担う事業者の収益は安定しています。将来的にライドシェアが拡大すれば、自動車1台当たりの稼働率は高まり、アフターサービスの需要増が予想されます。自動車メーカーとしても、狙うべきプロフィットプールを見直す必要があるでしょう。

プロフィットプールの移行先、あるいは新たに立ち上がりつつある市場を見極め、そこに投資を集中させること。そんな戦略の策定と実行が多くの企業に求められています。

顧客接点の再構築を含めて
大企業ならではの強みを見直し、生かす

第2のポイントは、自社の強みを最大限に生かことです。

時代の変化を追い風にし、しかも自社の強みを最大限に生かせるような戦略とはどのようなものでしょうか。

先ほど物理的な資産が収益を生みにくくなったと述べましたが、保有する資産を捨ててゼロから再スタートを切ることはできません。ならば、厳しい環境の中でのアセットの生かし方を考えなければなりません。

自動車産業において、カギを握るのは、「顧客接点」です。既存メーカーにとって、ライドシェアの台頭は大きな脅威と考えられます。しかし、少し俯瞰してみれば違った景色が見えてきます。ウーバーの登録ドライバー数は約200万人です。これに対して、世界トップクラスの自動車メーカーは年間1000万台の新車を販売し、おそらくその何倍にもなる顧客と直接コミュニケーションを交わしています。これが、営々とビジネスを積み重ねる中で育てたアセットの力です。国内外に広がる顧客層との接点も、そこに含まれます。

仮に、1000万台規模のメーカー2社が手を組んだとします。販売時にインセンティブを提示して「ライドシェアのドライバーになりませんか」と勧誘すれば、何割かのドライバーが登録してくれるでしょう。2社の新車購入者のうち5割が登録すれば1000万人、3割が登録すれば600万人です。巨大自動車メーカーが本気になれば、わずか1年で、ウーバーをはるかに上回る登録ドライバーを獲得できるはず。少し現実離れした考えですが、「顧客接点」に着目し、自社の強みを評価するといろいろな可能性が見えてくると思われます。

他の産業においても、大企業は活用可能なアセットを豊富に有しています。それを最大限に生かす戦略的な一手が求められています。

部門横断的な戦略づくりに
経営者のリーダーシップは不可欠

戦略策定に当たっての2つのポイントとして、プロフィットプールの変化とアセットの活用について説明しました。こうした戦略を具体化するに当たっては、経営者のリーダーシップは欠かせません。デジタル化が進行する世界において一定の存在感を確保するためには、部門ごとの対応では不十分であり、全社的、あるいは部門横断的な戦略づくり、実行体制が欠かせません。

デジタルディスラプターが、既存のルールを壊し市場に参入する中、新しい技術を活用して、どのようなビジネス価値を創出するのか? 自社のどのプロセスをどのように変えるのか、コスト構造をどのように再構築するのか? こうしたテーマについて、経営トップを含むリーダーシップチームはゼロベースで考え、新しい技術を前提に戦略を練り直す必要があります。

全社の方向性を決定するレバーを握っているのは、経営者にほかならないのです。

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