世界的なデジタル化への動きが加速する今日、消費者と販売店、そして消費財メーカーに横たわる境界線はあいまいになりつつあります。この状況は、デジタル化社会に適応するために大胆な再編成を進める消費財メーカーにとって大きなチャンスである一方、対応を誤った企業は業績悪化のリスクに直面することを意味します。ビジネスがグローバルに拡大する中で持続的成長を実現するには、小手先のデジタル化対応ではない大胆なオペレーティング・モデルの変革が求められているのです。
例えばナイロビや南京、そしてニューヨークなど、いまや世界のあらゆる場所で消費者はデジタル化社会の利便性を享受しています。私たちは毎日通勤途中にオンライン上で日用品を購入し、話題の書籍、音楽・映画をダウンロードしています。そしてEコマースで購入した商品については、ソーシャルネットワーク上でツイートしたり、ブログでシェアするなど、自ら情報発信を行う機会も増えています。この「いつでも、どこでも」購入したいというニーズの高まり、そして消費者が宣伝者となる新たな市場形成の形は、モバイル化、ソーシャル化、クラウド化といったITの進化が大きく影響しています。
加速するデジタル化の対応に追われる消費財メーカー
業界のビジネスモデルが、ここまでのスピードで変化した前例はありません。インターネットはアメリカでの誕生以来、わずか7年で“マス”のメディアへと変貌を遂げました。かつてない画期的なイノベーションです。デジタル化はユビキタスを実現し、年齢、国や地域、経済発展状況などあらゆる壁を撤廃しています。例えば、ケニアはモバイルバンキング普及率で世界をリードし、韓国は世界一のブロードバンドネットワークを誇っています。また日本では消費者の60%がモバイル経由でネットに接続しています。
一般的に、新たなトレンドを取り入れることを得意とする消費財メーカーは、このようなデジタル社会の到来に遅れをとることなく、戦略的に対応しようと懸命です。当然、消費財メーカー、特に小売業界では、デジタル技術を活用した様々な施策に取り組んできました。英国大手スーパーのテスコでは、韓国の地下鉄駅構内にバーチャル店舗を作り、QRコードをスキャンすれば買い物ができるようにしています。ブラジルの雑誌「Luiza」は、フェイスブック上でのオンライン店舗出店を支援し、受注から入出金管理を代行しています。
デジタルを味方にし、グローバル市場を勝ち抜く
しかし、多くの消費財メーカーのこれまでの取り組みは、デジタル革命に対する戦略的対応とは言い難く、従来のアナログ型ビジネスにデジタル機能を付加したに過ぎません。今後の持続的成長を目指すには、消費者を主体とする包括的なアプローチが必要不可欠です。
この必要性に拍車をかけているのが、市場のグローバル化です。これまで、消費財メーカーが重視してきた先進国市場の消費者は、高齢化により健康志向が強まる中、景気低迷の影響を受け、安さ重視の傾向が強まっています。一方で新興市場は成長を続け、2015年には少なくとも10億人の中間層が誕生すると言われています。彼らの需要を満たすためには、新たに「1500万店舗が必要」との試算もあり、壮大な計画が各地域で進んでいます。しかし、新たに出現する消費者も極端な低価格指向であることは、あまり認識されていません。消費財業界では新興国を含めたグローバル展開を迫られると同時に、低価格志向をカバーする広範囲な市場展開を余儀なくされています。端的に言えば、デジタル技術の活用こそが将来の市場競争を生き抜く唯一の方法なのです。
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