次世代教育・
産官学民連携機構
設立支援プロジェクト
座談会


谷山 大三郎 氏

谷山 大三郎 氏

一般社団法人 次世代教育・産官学民連携機構 理事
NPO法人企業教育研究会
ストップイットジャパン株式会社 代表取締役
千葉大学教育学部附属教員養成開発センター特別研究員
千葉大学教育学部非常勤講師

藤井 篤之

藤井 篤之

アクセンチュア
戦略コンサルティング本部
シニア・マネジャー
コーポレート・シチズンシップ・ジャパン
次世代グローバル人材育成チーム・リード

村重 慎一郎

村重 慎一郎

アクセンチュア
デジタルコンサルティング本部
シニア・マネジャー

多数の企業のリソースやNPOのネットワーク
相互乗り入れで効果的な教育プログラムを実現

谷山 大三郎氏(以下、谷山氏) : このたびアクセンチュアの協力も得ながら立ち上げを進めてきた一般社団法人 次世代教育・産官学民連携機構(以下、本機構)が設立されました。本機構は、広域的な人材育成の変革を目標にした組織です。これまでさまざまな企業や非営利団体、教育機関、研究機関などがバラバラに取り組んで来た次世代人材を育成するプログラムへのアクセスの一元化と体系化、そして科学的分析などを行います。これから本格的なスタートですね。

藤井 篤之(以下、藤井) : アクセンチュアはこれまでSkills to Succeed(スキルによる発展)というテーマでスキル育成を支援する数多くのプログラムを提供してきました。谷山さんの参画なさっているNPO法人企業教育研究会とも協働して、いくつもの学校で活動をさせていただいていますね。学校関係者の方々から好評を得たことで、こういった取り組みの規模を拡大し、より多くの学校に、継続的に、広域的なプログラムとして提供したいと考えるようになりました。3年ほど前から企業教育研究会さんとこのようなアイデアを膨らませてきていましたので、いよいよ、という感じがします。

一般的に、企業が社会貢献活動の文脈で実施する教育プログラムは、特定のNPOなどの団体を通じて、限られた学校に対して提供されるケースがほとんどです。つまり企業・NPO・学校が「1対1対1」という関係になっていました。しかし、優れた教育プログラムを効果的に広域展開するには「多対多」という関係性へと変革する必要があります。

本機構が“プラットフォーム”として機能すれば、リソースや教育プログラムを柔軟かつ自由に組み合わせできるようになります。また、各企業が提供するプログラムの実施においても、人的・物的なリソースが相互乗り入れ可能になるなど、共創的な「多対多」の連携を全国規模で実現できると考えています。

谷山氏 : おっしゃる通りです。各学校と事業者は、それぞれ独自のネットワークを構築しています。そのため、学校の先生が、学校外の企業や団体が提供するプログラムを自身のネットワーク外で探そうと思っても、プログラムを提供する企業や団体がそれぞれ個別に情報を発信しているため、なかなか探し出すことが難しい状況にあると考えます。

藤井 : 企業の側も、プログラムを提供したくても学校とのリレーションがあまりなかったり、教育プログラムをゼロから開発するのは大変だったり、という課題がありました。

村重 慎一郎(以下、村重) : 個人単位でも課題はありますね。地元の発展に個人としてスキルや時間の提供、寄付などで貢献したいと思っても、その手段が整備されていなかったりして……。

谷山氏 : そうですね。そういった課題を解決するために、本機構を設立することで、あらゆる立場の人や組織をつなぎ「紹介しあう」「機会を提供しあう」といったマッチングの場所にしていきたいと考えています。

先進的なPBLの実施と地方創生への期待

藤井 : 私たちが学校の中で実施する授業の内容にしても、企業教育研究会さんと共同開発した「ゆら社長のジレンマ」という、中学生の生徒自らが考えて経営課題の意思決定を疑似体験するものや、グローバルに活躍できる学生を育てるもの、イノベーション創出を目標としたSTEM教育を行うもの、など多岐にわたりますが、今後は他の企業・非営利団体のプログラムも含めた多様なプログラムを組合せ、総合的なプログラムも実現できたらと感じていました。

また、「課題解決型学習(Problem Based Learning:PBL)」を教育現場に導入し、「自ら問いを設定し、自分たちで答えを導き出す思考力」を身につけてもらうことが大切だと考えています。これまでの算数や国語といった教科学習も、PBLの考えを取り入れた形式に変えていったらよいのでは。今後の日本社会では、こういった次世代教育が求められていくと考えています。

村重 : そうですね。私は東日本大震災からの復興支援の一環としてアクセンチュア福島イノベーションセンターの立ち上げに関わり、過疎化や高齢化といった問題を身近に感じています。さまざまな立場にある若者が、地域の社会課題を自分事として捉え、解決のために行動していくことが重要です。特に地方においては、地域創生のためにも、本機構の取り組みでPBLをベースにした次世代教育が地方にもスケールアウトしていくのは非常によいことだと考えています。

アクセンチュアの「本気度」が
教育現場の先生方の「思い」と一致した

谷山氏 : 本機構の本格的な発足に先駆けて、私たちの構想の効果検証を行う場として3つのパターンの学校の協力が実現しています。

人口減少という課題を抱え、過疎化しつつある東北地方の学校が1校。郊外型として千葉県の学校が2校。課題探究学習に中学校から高校まで取り組む学校として東京に1校。計4校のモデル校で、まずは本機構の取り組みをスタートします。

選定されたモデル校に対して、本機構に加盟する企業から提供される複数の教育プログラムを通常の授業へ1年間にわたって取り入れていただく予定です。企業と連携した年間カリキュラムを構築し、単に複数のプログラムを詰め込んだパッケージを作るのではなく、目的や組み合わせによる効果を考えながら作っていきます。

村重 : 各地域の状況や学校の先生方の思いは多様です。全国に広げるための基盤を作り上げつつ、各地域の特色に合わせた取り組みをすることが重要と考えています。

藤井 : モデル校でのプログラム導入にあたっては、企業教育研究会さんがこれまで構築してきた、学校現場や教育行政の方々との信頼関係が発揮された形です。

谷山氏 : もちろんリレーションも効果があったと思いますが、それだけではありません。アクセンチュアの「本気度」が先生方に伝わったからです。

教育現場は子どもたちの将来に大きな影響をおよぼす場ですから、その責任は重大です。モデル校となった学校の先生方やその自治体の教育委員会の方々は、教育をより良いものにしたいという強い思いを持っています。その思想と、アクセンチュアの情熱が合致したことで、モデル校としての実施を引き受けてくださいました。

社会人は子どもたちへ「生きた知恵」を届けられる

谷山氏 : 企業教育研究会のビジョンは「誰もが教育に貢献できる社会にしよう」というものです。子どもたちは社会の大人たちとの接点があまり多くありません。接する機会があれば、世の中にはいろいろな仕事があり、キラキラ輝いて仕事をしている大人がいるんだ、と憧れを持ったり、勉強へのモチベーションが高まったりします。世の中の仕組みを知ることで、どのような勉強が必要なのかイメージがふくらみますよね。

村重 : 私は以前、福島大学の三浦浩喜先生と「OECD東北スクール」というプロジェクトに取り組む機会があり、そこで教育が社会に開かれる瞬間を体験しました。
OECD東北スクールはアクセンチュア以外にも複数の企業がそれぞれ役割をもってプロジェクトに参画していたので、生徒は継続的に一定数の社会人と接する機会がありました。そうすると、生徒が答えのない問いに直面した時に、その内容ごとに誰に聞いたらよいか考え、積極的に大人とコミュニケーションをとるようになったのです。また、その活動に参加していた先生が「自分は社会科の教員であるが、企業で働いている人と生徒、教員が一緒にプロジェクトを進めることを通じて、自分自身が実際の社会について学ぶことが多かった」とおっしゃっていたことも印象的でした。

藤井 : 学校の先生が自身の専門外となってしまうような質問でも、来校した「その道の専門家たち」ならばスラスラと答えられますね。

谷山氏 : はい。子どもにとって、社会の大人たちは「生きた知恵」を授けてくれる存在です。アクセンチュアの授業でも、子どもたちがとても活発に発言する場面を何度も目の当たりにしました。

村重 : 企業としてこのような教育プログラムに参加することは、その社員にとっても得るものが多いのです。普段の業務と同じ話し方をしたら小学生には全然伝わらなかったりする。他者への伝え方を考える場であったり、子どもたちからエネルギーをもらったり。本機構に参加する企業が増えるということは、こういったよい経験をする大人たちが増えるということにもつながります。

谷山氏 : ぜひ多くの企業に参加してほしいと思います。一方で課題としてあるのは、校外と連携した授業や教科書の範囲を飛び越えてしまう授業は、公教育の現場ではハードルが高いということです。私たちが提唱する次世代教育の導入にあたっては、教育指導要領で決まっている学習内容を尊重しつつ実践する必要があります。その点において、プログラムと現場とのマッチングや調整は課題だと認識しています。

学校も企業も参画しやすい環境の整備を目指す
アナリティクスを取り入れた効果測定の実現

藤井 : 学校の先生方はとにかくお忙しい。新しい取り組みを検討するにも、まず情報や問い合わせ先を探す手間が……ということもあるかもしれません。そういった時に本機構が活用されれば、さまざまなリソースにアクセスすることが容易になりますね。

村重 : そうですね。現場の先生方や教育行政の方々にとって、あらゆるハードルを克服して変化を受け入れることは大きなチャレンジです。その時、実績や教育の成果をわかりやすく示すことが後押しになると思うのです。私たちが提唱している次世代教育で身につけてほしい課題解決力や発想力といった姿勢、能力は、従来型のテストの点数では成長が測りにくいものです。

先ほどお話ししたOECD東北スクールのプロジェクトでは、私の本業であるアナリティクスのスキルを活かして、生徒・先生からのアンケート、および生徒たちが書きためたエピソードや体験談・感想文を分析し、生徒1人ひとりがどのような成長を遂げたか、好奇心などの目標指標がどのように変化したのかを分析しました。

そうして得られた定性データ分析と定量データ分析を組み合わせることで、先生方にも見えにくかった生徒たちの「考え」や「成長」を可視化することができました。

ポイントは、先生方と議論を深めていき、「このプログラムを通じて、生徒たちのどのような力を伸ばしたいのか」を事前に定めることでした。企業におけるKPIのような目標を設定し、その測定にはどのような評価方法が適切か、ビジネスでの知見を応用して取り組みました。

藤井 : 本機構の活動を通して、これからは「プログラムを受けた生徒」がその後、どのように成長し、どのような大人(社会人)として活躍していくかをタイムラインで捉えることも視野に入れています。インパクト評価が確立している取り組みはまだないのではないでしょうか。

理念を形に
教育現場の「黒子」として取り組んでいく

谷山氏 : 想いを形にする力や、実現可能性を整理し、将来も見通して具体的な提案にするところは、本機構の設立にあたってアクセンチュアに大変助けられました。アクセンチュアには社会貢献活動を社員の業務として推進する制度があると知った時には、本気で社会をより良い方向へかえようとしている企業がいるのだと大変心強く思いました。

藤井 : アクセンチュアが本業のコンサルティング業務で培った、立場の異なる会社をまとめたり構想を作り上げたりする力を社会貢献の分野でも活用できてうれしく思います。

一企業が新たな教育プログラムを考案したり、教育委員会に働きかけたりするのはハードルが高い場合もあるので、企業教育研究会さんのように教育に精通している団体との連携が本機構を通じて容易になることは、他の多くの企業にとっても参入障壁を下げる効果が期待できます。こういった民間、行政、教育機関などの枠を超えた連携が本機構の特徴ですよね。

谷山氏 : そうですね。その上で大切なことは、本機構はあくまで黒子役であり、教育の主役は子どもたちと先生方だということです。子どもたちに何が必要か、日々真剣に、真摯に考えている先生方をお手伝いする。たくさんの試行錯誤を重ねるでしょうけれど、時間をかけて、丁寧にこのプラットフォームの運用をしていきたいと思っています。まずは2024年頃から始まる中央教育審議会への働きかけが大きなマイルストンですね。

藤井 : はい。次の教育指導要領の改定に向けて、次世代教育に関する提言ができるように実績をつくり、効果を分析していきたいですね。本機構の活動を通して日本の教育の一部に変化が起きたら、子どもたちの教育を一部でも変えるきっかけになったら、と思います。小中高校に通う子供たちは年間約1200万人。非常に大きなミッションだと思っています。

そして、こういった新しい教育の在り方や効果測定のアプローチは海外でも応用できるものだと考えています。ゆくゆくはアクセンチュアの海外の拠点を通じて、海外でもこの仕組みを展開できたらいいですね。