日本企業が「テック・クラッシュ」を乗り越えるには? ポスト・デジタル時代の最新トレンド (Accenture Tech Vision 2020) を解説【後編】
2020/09/28
2020/09/28
今回のクラウド・ダイアリーズでは、2回にわけてアクセンチュアの年次調査レポート「Accenture Technology Vision」の最新2020年版(Tech Vision 2020)の内容を紹介します。
前回(前編)ではTech Vision 2020のテーマである「ポスト・デジタル時代」と「テック・クラッシュ」についてと、ビジネスの核にテクノロジーが融合している企業「テクノロジー企業」、それを率いるCEOのあり方「テクノロジーCEO」がどのような姿であるかを紹介しました。
後編ではトレンド3〜5、そして「テクノロジー企業/テクノロジーCEO」になるための考え方をまとめます。
トレンド3 スマート・シングスのジレンマ(The Dilemma of Smart Things)
クラウドでは、各社が次々と機能拡張や新機能追加を行なっていることを皆さんもご承知だと思います。スマートフォンに代表される「スマートプロダクト」も、ユーザーの利用と並行してメーカーによる機能開発が継続し、定期的にアップデートが行われています。これらの「スマート」なプロダクトには、いわゆる「最終完成形」が存在せず、製品は「永遠のベータ版である」といえます。
インターネットに接続されていることを前提としている「スマート・シングス」はアップデートが容易で、ユーザーのニーズの変化に柔軟に対応できる反面、ビジネスの負荷は増大し続けています。この「ジレンマ」が企業に重くのしかかってきます。また、プライバシー保護の観点でデータを外部に出さずにエッジデバイスで処理することでセキュリティを担保する技術も利用が拡大しています。
「スマート・シングスのジレンマ」では、製品体験を軸にした顧客と企業の信頼関係をいかに作るかが重要であることを説いています。一方で、スマート・シングスの特徴を巧みに取り入れたビジネスモデルを構築している企業もすでに登場しており、「顧客体験」に真剣に取り組むことが今後の成功要因であることが重要であるとしています。
●トレンド 3の事例
Sonos:スマートスピーカーの更新終了において、買い替えプログラムで対応
<https://techcrunch.com/2020/01/22/your-sonos-system-will-stop-receiving-updates-if-you-have-an-old-device/>
Apple:OSアップデートによる性能低下が訴訟問題にまで発展
<https://www.nikkei.com/article/DGXMZO56305370T00C20A3000000/>
Google:スマートホームデバイスの管理アプリの統廃合にユーザーが反発
<https://rp.kddi-research.jp/blog/dan/archives/17454>
iRobot(Roomba):成長するロボット掃除機のサブスクリプション化を実施
<https://netatopi.jp/article/1189211.html>
SimCam:自律型AIが画像を処理し、データを外部に持ち出さないホームセキュリティカメラ
<https://venturebeat.com/2019/10/03/simcam-raises-8-million-for-an-ai-powered-offline-home-security-camera/>
MELLODY:ブロックチェーンに基づいてデータを安全に共有する創薬研究コンソーシアム
<https://www.janssen.com/emea/new-research-consortium-seeks-accelerate-drug-discovery-using-machine-learning-unlock-maximum>
トレンド4 解き放たれるロボット(Robots in The Wild)
このトレンドは、ロボットが市街地をはじめとして、活動領域を拡大していることがテーマとなります。社内配送にロボットを利用したり、拠点間の輸送にドローンを使ったりといったことが一般化しつつあります。
ロボットがこうした「物理空間」へ解き放たれるだけでなく、エコシステムの中での活動もより広がることをこのトレンドでは示唆しています。ロボットも「継続的なテストと更新」を必要とするものであり、1回作って100%期待通りに動作することはまずありません。実際にロボットを現場へ解き放つことで、スピードが出なかったり、センサーが不十分だったりといった実態が初めてわかるケースも多いのです
ロボットの改善点をすばやくキャッチし、反映していくうえで必要な要素も「トラスト」です。つまり、ロボットはエコシステムの中で「共に育てていくべきもの」なのです。企業間や事業部間、エコシステムと人間の間のトラストもまた重要です。感染症対策として人間の動きが制限さている今こそ、ロボットとの最適な協働が重要になっています。
●トレンド4の事例
・ザンビア共和国:血液検体をドローンで空輸。地上交通が未発達地域における医療サービスの品質向上
<https://www.aviationwire.jp/archives/183483>
・京セラコミュニケーションシステム、千葉県船橋市立西図書館:ドローンが図書館の書架点検作業を代行。カメラで背表紙を読み取り、蔵書点検作業を効率化
<https://www.itmedia.co.jp/news/articles/2003/12/news103.html>
・東京工業大学などの研究者グループ:DNAオリガミを応用し、人工細胞の微小カプセル開発に成功
<https://www.titech.ac.jp/news/2019/045134.html>
・中部電力、ソフトバンク、Boston Dynamics:設備保全業務へのロボット導入の実証実験を実施
<https://robotstart.info/2020/03/06/spot-chubu.html>
・日本郵便、Drone Future Aviation:配送ロボットによる社内便配送を実験
<https://lnews.jp/2020/03/m0303405.html>
・グッドタイム リビング、Aeolus:介護ロボットの国内実証実験
<https://www.nikkei.com/article/DGXLRSP511388_V00C19A6000000/>
・トヨタ自動車(Woven City):あらゆるモノやサービスをつなぐコネクテッド・シティを設置し、様々な実証実験を実施する構想
<https://global.toyota/jp/newsroom/corporate/31170943.html>
・日本航空ビルヂング(羽田空港、Haneda Robotics Lab):ロボットによって空港内業務の効率化を実現する実証実験を推進
<https://tokyo-haneda.com/hanedaroboticslab/>
トレンド5 イノベーションのDNA(Innovation DNA)
Tech Vision 2020最後のトレンドのテーマは「継続的なイノベーション」をいかにして生み出すか、そのための「エンジン」は何かということです。ポスト・デジタル時代においては、テクノロジーを特定の業務で利用するだけでは不十分で、「自社のDNA」へテクノロジーやサイエンスを組み込むことがポイントです。
Tech Vision 2020では「自社のDNAにテクノロジーを組み込む」ために3つのアプローチを事例付きで紹介しています。アプローチ①「自社のテクノロジーの成果を他社にも展開し、『遍在化』させる」、②「サイエンスの進歩を取り込み、業界に破壊的インパクトを与える」、③「DARQ(分散型台帳技術、AI、XR(ARやVRなど)、量子コンピューター)を自社の基盤に組み込む」。
●トレンド5の事例
・Starbucks × Brightloom :自社のノウハウをライセンス化して次世代型レストランのモデル「ゴースト・レストラン2.0」を共創(①の事例)
<https://thebridge.jp/2019/08/starbucks-partnership-brightloom-aws-for-restaurants>
・ナノセルロースヴィークル・プロジェクト:ナノテクノロジーによる高機能素材を実現させ、同素材を用いたコンセプトカーを製作。さらに環境保全にも貢献(②の事例)
<https://www.nikkei.com/article/DGXKZO55594560T10C20A2X12000/>
・ウォルマート・カナダ:ブロックチェーンを用いて世界最大級の産業用ブロックチェーンソリューションを構築。これによって輸送や支払いネットワークを効率化(③の事例)
<https://japan.cnet.com/release/30398995/>
「テクノロジー企業」への変化を支えるクラウド
さて、以上のようにTech Vision 2020に掲載された5つのトレンドを見てきました。ではトレンド 5で紹介した「イノベーションのDNA」を企業に組み込むのは一体誰なのでしょうか。それは前編でご紹介した「テクノロジーCEO」です。
テクノロジーCEOは、ビジネスの核にテクノロジーを融合させて考える「テクノロジー思考」ができるCEOです。テクノロジーCEOが率いるテクノロジー企業は、顧客の体験を再考することで、最終的に「テック・クラッシュ」を乗り切り、ポスト・デジタル時代のビジネス環境においても新しい価値を創出し続けることができます。
Tech Vision 2020は以上のようにテクノロジーとビジネスのこれからの関係性を描いています。クラウドはこうした取り組みの基盤として、「イノベーションDNAのビジネスへの組み込み」と「DX推進」に貢献します。
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