デジタルトランスフォーメーション(DX)があらゆる企業の経営会議で耳にするキーワードになっている昨今。DXの「基盤」として、クラウドはますます企業のITシステムになくてはならない存在となりました。
 
アクセンチュアが「すべてのビジネスがデジタルに」(Every Business Is a Digital Business)を提唱したのは2013年。当時は「そんなことが起こるわけがない」と懐疑的だった企業のエグゼクティブも、この7年の間にすっかり「デジタル化は当たり前」となり、事業を支えるインフラとしてクラウドもすっかり定着しました。
 
「すべてのビジネスがデジタルに」なることを2013年時点で見通していた調査レポート「Accenture Technology Vision(Tech Vision)」は、最新テクノロジートレンドを定義するアクセンチュアの年次発行レポートです。
 
先日発表された最新版「Tech Vision 2020」は「ポスト・デジタル時代を生きる ――企業が「テック・クラッシュ」を乗り切るには」をテーマとしており、今回は前後編に分けて概要をご紹介します。
 
タイトルに含まれる「ポスト・デジタル時代」とは、もはや企業活動や市民生活においてデジタルは完全に日常化し、事業運営や日常生活に浸透していることを意味しています。つまりデジタル化は次の段階へと遷移している、ということです。この状態をアクセンチュアでは「Digital is Everywhere」と表現しています。
 
企業が消費者からの「信頼を失う」――テック・クラッシュ
 
この流れを決定づけたのは新型コロナウイルスでした。Eコマースはすでに誰もが使っていましたが、外出自粛などによってネット通販だけでなく、料理のデリバリーサービス、エンターテインメントなどがより密接にテクノロジーと結びつき、デジタルの利用は日常的な行為となりました。
 
加えて人々の健康志向はさらに強まり、以前は気軽に行えたロードワークやジム通いでのワークアウトがやりづらくなったこともあり、健康管理に寄与するサービスへのニーズは爆発的に増えました。皆さんもご自身の健康管理のためのデバイスやアプリをお使いだと思います。
 
一方で、企業が持っている「データ」はどうでしょうか。データモデルはいまだに「業務中心」で「企業が管理する」という傾向が強いように思います。ですが消費者の側では「自分のデータは自分で管理したい」「生活をもっと快適にするためにデータを活用したい」と考えるようになっています。
 
このように、企業の意識と生活者の考えのギャップが増大しています。このギャップがますます広がった先にあるのは、生活者が「もう企業は信頼できない」と考えることによる破局「テック・クラッシュ」です。その結果、企業は生活者からの「信頼(トラスト)」を喪失してしまうとTech Vision 2020では、ポスト・デジタル時代に発生する事象を予測しています。
 
ビジネスの「核」へのテクノロジーの融合――テクノロジー企業/テクノロジーCEO
 
では企業は、いかにして「テック・クラッシュ」を回避するべきなのでしょうか。Tech Vision 2020では、「顧客中心」を前提として、テクノロジーのあり方を再考するべきだと提唱しています。
 
デジタルが社会の隅々にまで浸透した今、企業は単なる「デジタルを利用する」という立場から脱皮し、「自社のビジネスの核にテクノロジーを融合させる」というステージへ進歩しなければなりません。この「ビジネスの核にテクノロジーが融合している企業」のことをTech Vision 2020では「テクノロジー企業」と名付けています。
 
そうした「テクノロジー企業」を牽引するリーダーが「テクノロジーCEO」です。テクノロジーCEOとは「ビジネスとテクノロジーを企業の核に融合させる考え方、すなわち『テクノロジー思考』ができるCEO」だとTech Vision 2020では定義しています。
 
Tech Vision 2020の「5つのトレンド」
 
企業がポスト・デジタル時代を生き抜くために本質的に必要なことが、この「テクノロジー企業への変革と、経営者がテクノロジーCEOになること」です。Tech Vision 2020では、テクノロジー企業とテクノロジーCEOが取り組むべきことを「5つのトレンド」としてまとめています。
 
トレンド1 体験の中の「私」(The I in Experience)
 
最初のトレンドのテーマは、生活者1人ひとりに合わせた「選択肢の提供」です。カスタマイズやライブ体験へのニーズは高まっている一方で、企業がパーソナライズした広告やフィードに対しては「勝手に送り付けられる」と懐疑的、あるいは倫理的に疑問といった声があります。こうしたユーザー心理を理解し、適切に解消していくことが企業には求められています。
 
そのために必要なアプローチは「提供」から「共創」への転換です。ポイントは、顧客を受け身の消費者から「能動的参加者」へと変化させる“アドベンチャー”をサービスに組み込むこと。オプションを巧みに示し、顧客自身を意思決定に巻き込むことで、顧客は自然にアウトプットを提供します。
 
そうしたサービス/プロダクトにおけるキーワードが「没入感」です。ARやVRといったXRとAIがこのトレンドを支援し、クラウドや5Gがインフラとして機能します。トレンド1では次のような事例が紹介されています。
 
●トレンド 1の事例
・Netflix「Black Mirror」:視聴者と創り上げるマルチエンディングドラマ
<https://www.netflix.com/jp/title/80988062>
<https://www.cnet.com/news/netflix-black-mirror-bandersnatch-guide-to-endings-and-easter-eggs-most-hidden/>
・Tinder「Swipe Night」:ストーリーへの共感とコト共有で新たな繋がりを実現する
<https://www.nytimes.com/2019/09/20/style/tinder-swipenight-scripted-show.html>
・THE.FIT:メニューパーソナライゼーションエンジン
<https://thespoon.tech/how-the-fit-uses-ai-to-better-meet-your-dietary-needs-at-the-restaurant/>
・マクドナルド:従業員を巻き込んで顧客体験を共創
<https://www.wsj.com/articles/mcdonalds-strategy-to-transform-mobile-ordering-11557760396>
・Tasting Collective:トップシェフによる定額制ダイニングクラブを米国中心に展開
<https://www.tastingcollective.com/blog/2020/contemporary-indian-dinner-event>
・サザンオールスターズ、BTS、山下達郎などのアーティスト:デジタル前提のライブ体験として、オンラインの体験提供を開始
<https://www.itmedia.co.jp/news/articles/2007/08/news048.html>
・Bond Touch / Hey:タッチを仮想化し、離れていてもお互いを感じられる体験を共有
<https://www.bond-touch.com/>

 
トレンド2 AIと私(AI and Me)
 
トレンド2は、人間とAIの協働によるビジネスの「再創造」にフォーカスしています。アクセンチュアの調査では、経営者の79%が人間とAIの協働が不可欠だと回答している一方で、AIとの協働の仕組みを準備している企業は23%に留まっています。今後、AIと人間の「相互理解」を前提とした働き方が加速するでしょう。
 
いうなれば、「AIの就業規則はあるか」ということです。たとえばBOSCHでは、2025年までに全製品にAIを搭載するとしつつ、「AIの意思決定を人間の監視下に置く」という方針も明示しています。これは「AIの意思決定プロセスを必ず説明可能なものとする」と言い換えられます。これが一種の「AIの就業規則」です。
 
人間とAIが刺激し合うことで、人間だけのワークスタイルでは実現できなかった新たな価値の創造が可能な時代となりました。アクセンチュアではAIとの協働を「企業文化」として定着させようと試みています。アクセンチュア ジャパンが独自に開始した「Robot for Everyone」の取り組みでは、Automationのスキル習得の機会を提供すべく、RPAのライセンスを社員に配布しています。
 
●トレンド 2の事例
・BOSCH:AIの意思決定を人間の監視下に置き、説明可能性を担保する方針を明示
<https://www.bosch.co.jp/press/group-2002-01/>
・Google(BERT):文脈を理解できる自然言語処理技術をオープン化。より人間に寄り添うAIへ
<https://ai.googleblog.com/2018/11/open-sourcing-bert-state-of-art-pre.html>
・VOLKSWAGEN×AUTODESK:AIと人間のコラボによって革新的デザインを創出
<https://www.autodesk.co.jp/press-releases/2019-08-06>
・アクセンチュア:AIとの協働を文化へ。Robotが横にいてくれることが当たり前の企業文化づくりを目指す

今回のクラウド・ダイアリーズは、Tech Vision 2020のテーマとトレンド1〜2をご紹介しました。次回掲載の後半ではトレンド3〜5の内容と共に、「テクノロジー企業/テクンロジーCEO」になるためのアプローチを紹介します。

関 良太

テクノロジー コンサルティング本部 シニア・マネジャー 兼 AABG (Accenture AWS Business Group) Japan Go-to-Market Lead


戸松 祐樹

テクノロジー コンサルティング本部 マネジャー

ニュースレター
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