オペレーションズ本部 ITSMアドバイザリー プラクティス シニア・マネジャーの加藤明と申します。私はサービス管理を軸とした組織変革、運用モデル設計、プロセス、ツール導入のコンサルティングおよびインフラストラクチャーアウトソーシングの移行リードを担当しております。

前回は「デジタル時代のサービス管理アプローチ~VeriSM™の概要~」の中でVeriSM™の概要をお伝えしましたが、今回はVeriSM™の特徴的な考え方であるManagement Meshの活用方法についてご紹介します。なお、VeriSM™は概念的なアプローチが中心となっているため、より理解を深めるという目的のため事例をベースにご説明いたします。

  • Management Meshとは
    Management Meshとは、柔軟に製品やサービスを提供するためのVeriSM™独特のコンセプトです。大きく4つの要素「環境」「リソース」「エマージングテクノロジー(New IT)」「マネジメントプラクティス」があり、それらを組み合わせることにより柔軟なサービス提供を実現することが可能となります。

    ただあくまでコンセプトなので、この説明だけではどう活用すればよいかイメージが掴みづらいと思います。今回はある企業がクラウドサービスを組織に導入する事例をもとにManagement Meshの利用方法をご紹介したいと思います。なお、今回ご紹介する活用方法が VeriSM™で定義されているわけではなく、あくまで1つの活用方法としてご認識頂けますと幸いです。
    では最初に簡単にではありますが、事例企業の特徴(概要)を記載したいと思います。
  • 事例:クラウド導入する企業の概要
    A社は大手上場企業で誰もが知る有名企業です。グローバルでも日本の代表的な企業と認知されていますが、昨今別業態から参入したディスラプターの出現により、本業の業績悪化、マーケットシェア縮小傾向にあります。経営陣からはNew ITを使ったビジネス価値向上と徹底的なコスト削減(コスト最適化)を求められており、その施策の1つとして、クラウドサービスをプラットフォームとして導入することを検討しています。
  • Management Meshで検討要素を整理する
    導入計画を立案するにあたっては、まず検討項目を洗い出す必要があります。その際に、Management Meshのコンセプトを活用してみたいと思います。まず最初に、自社製品またはサービスの特徴をManagement Meshの4要素「環境」「リソース」「エマージングテクノロジー(New IT)」「マネジメントプラクティス」で整理します。次に、クラウドサービスというエマージングテクノロジー(NewIT)を導入することを考えた時に、どの要素が検討必須なのか整理してその導入方針を定義します。最後に、それぞれの導入方針に従って具体的にどう導入していくのかを詳細レベルで定義および計画化します。(本来は、その前にガバナンスやIT戦略、サービスマネジメントの原則を定義する必要がありますが今回はすでに存在する前提として割愛します)
  • Management Meshの構築
    実際にManagement Meshの作成例を以下に示します。非常にコンセプチュアルな概念のためわかりづらい部分はあるのですが、この事例企業では青色でハイライトした部分を特に重点的な検討項目として実行計画に盛り込んでいます。Management Meshを活用することの価値の1つは、多面的な視点で検討が実施できる点です。IT部門が中心となったクラウドサービスの導入検討という話になると、どうしても技術的な要素が中心となってしまいがちですが、Management Meshを使うことでそれ以外の要素についても整理することが可能です。
    では実際にどんな検討ポイントがあがったのか主要な論点のみご紹介いたします(技術面の検討は割愛)。
  • ガバナンス面:保守的文化をのりこえるためのコミュニケーション戦略
    クラウドサービスの利用が初めてということもあり、経営陣及び現場担当者も導入に懐疑的なスタンスのため、「誰に対して、何を、どのタイミングで適切にコミュニケーションしていくのか」を丁寧に整理します。特に内部統制やセキュリティ面については、監査部門およびセキュリティ部門と密にコミュニケーションを取ることでクラウドサービスに対する正しい理解を促し導入に協力してもらえる体制を確立します。その際重要となるのは、現状のポリシーをクラウドサービスにそのまま適用するのではなく、クラウドサービスの特性を生かした形でどう最適化が図れるかを関係者と議論することです。場合によっては、サービスマネジメント原則に該当するようなセキュリティやリスクに対する原則を変更することも必要です。
  • 人・組織面:クラウドサービス導入・運用を見据えた体制及びスキル
    クラウドサービスについて組織として必要なケイパビリティを備えていない状況のため、実行計画の中では特に導入後の運用を誰が担うのか、アウトソーシング方針(外注 or 内製化)を整理したうえでクラウド専門組織の立ち上げ、トレーニング計画等を策定します。本事例のようにクラウドサービスでコスト削減を実現しようとする場合、運用の中でリソース状況などを分析し、コスト最適化を図っていくことが肝となるため運用体制をどう組成するかは非常に重要な論点となります。
  • マネジメント面:サービスマネジメント(ITIL)を軸とした管理面の考慮点
    クラウドサービスは1つのサービス形態のため、本質的にはサービス管理の仕組みを大きく変更する必要はありません。しかしながら、クラウドサービスを利用することによって新たに考慮しなければならない(もしくは変更が必要な)要素は複数あるため、それらの取り扱いについて導入方針を定義したうえで、各プロセスレベルでの検討が必要となります。以下に論点を一部ご紹介したいと思います。
  • 財務管理
    ◦  随時変動するクラウド利用費を考慮したIT投資計画(固定/変動、バッファあり/なし、最適化あり/なし)
    ◦ クラウドサービス利用料見積もりの実施方法(クラウド見積もりツールの使用等)
    ◦ 課金ポリシー、課金情報取得方法(部署毎、サービス毎)
  • デザインコーディネーション
    ◦ クラウドサービス利用ガイドライン、リファレンスアーキテクチャの策定および定期的な更新
  • セキュリティ管理
    ◦ クラウド環境におけるセキュリティポリシーの策定及び更新
  • サービスレベル管理
    ◦ クラウドサービス環境の標準サービスレベル定義
    ◦ クラウドサービスのサービスレベルと顧客が求めるサービスレベルのギャップすり合わせ
  • キャパシティ管理
    ◦ クラウドリソースを最適化するプロセスとの連携(需要管理、財務管理との連携部分が中心)
    ◦ マスタイメージやリソース管理・分析の方法
  • ITサービス継続性管理
    サービスレベル別(RTO/RPO)の災害復旧方式、リファレンスアーキテクチャの詳細化
  • サプライヤ管理
    ◦ ソーシング戦略に従ったクラウドサービスプロバイダの評価、選定
  • 変更、リリース&展開管理
    ◦ クラウドサービス側での自動更新の扱い方
    ◦ クラウドサービス起因の変更に対する対応方針を定義
  • インシデント・問題管理
    ◦ クラウド起因のインシデントに対する対応方針(運用ベンダで復旧不可)を定義
  • 要求実現管理
    ◦ クラウドリソースの払い出し、作業依頼対応等の扱いを定義
  • イベント管理
    ◦ クラウド環境の監視の設計及びガイドラインの更新

今回は、Management Meshの活用方法について事例ベースでご紹介いたしました。VeriSM™では具体的な活用方法は定義されていないため、活用方法について正解も不正解もありません。本事例も1つの活用方法として参考にして頂きながら、皆様なりのオーダーメイドされた活用方法でVeriSM™のコンセプトを適用していただければと思っています。


【参考】

加藤 明

シニア・マネジャー

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