クラウドCoEとクラウド設計・利用ガイドライン
2020/08/20
2020/08/20
テクノロジーコンサルティング本部 Dataグループ シニア・マネジャー兼Accenture Google Cloud Business Group ソリューションアーキテクトの青柳雅之です。私はデータやアナリティクスの領域を中心にAWS/Azure/GCPといった各パブリッククラウドにおける業務に従事しています。
筆者はGCP、Azure、AWSについてクラウド設計・利用ガイドラインを整備してきました。このようなガイドラインは特段珍しいものではなく、パブリッククラウド上のシステムの設計、開発、運用に関わる会社であればほぼ整備していると思われます。今回のブログでは、以前のブログでも言及したガイドラインの策定プロセスに加え、育成面やクラウドCoEとの関係も併せて解説します。
■クラウド設計・利用ガイドラインとは何か
クラウド設計・利用ガイドラインは、実際にアプリケーションを構築する際に、アーキテクチャ、設計書、手順書などを作成する際に参考にするガイドラインです。パブリッククラウドのサービスは技術の進化が早いため、工数をかけて可能な限り内容を詰め込んだ教科書的な文書を作成するよりは、必ず考慮しなければならない事項に絞った利用ガイドの作成を推奨します。
ガイドラインの詳細度・分量は、ガイドラインを利用する利用者のスキルレベルに依存します。利用者のスキルが高ければ、ガイドラインは薄く、スキルが低ければガイドラインは分厚くなります。そのため、クラウドの設計をすべてガイドラインに依存するのではなく、まずはメンバーのスキルを高めることに力点を置くことを推奨します。学習のために基本事項を多く含むとクラウドサービスの変更時に利用ガイドの修正工数が増えます。また、管理画面のUIも頻繁に変わるため、画面ショットは記載する必要はありません。
図:ガイドラインの利用者のスキルとガイドラインの分量の関係
システムを構築するプロセスの観点から、主要なガイドラインの項目を示します。
図:ガイドラインの主要な目次と開発プロセス
■ガイドラインの作成プロセス
ガイドラインは、以下の内容から構成されます。すべて公開ドキュメントからベースを作成していますが、そこに社内の知見などを入れています。すべての項目を入れることはありません。絶対に見逃してはならないものを取捨選択しています。
■我々はどのように3つのクラウドのガイドラインを整備してきたか
数年前からAWSのガイドラインを整備してきました。これは当初、AWSの需要が多かったからです。そのあと、Azure、GCPとAWSのガイドラインをベースに作成してきました。ガイドラインは項目を最小限に抑えたものをベースとして使います。お客様に提供するときはディスカッションを行い、お客様のユースケースに応じて項目の追加、修正、削除を行います。
■ガイドライン作成は育成プロセスの一つの側面
ガイドライン作成はアセットという意味合いもありますが、メンバーの育成にも一役買っています。
中途採用者の多くはクラウドの経験者ではありますが、そうではないメンバーもいますし、他部署からの異動者、新卒社員については必ずしもクラウドの知識が十分にあるわけではありません。クラウドの経験がほとんどない場合、このブログでもたびたび紹介させていただいているカスケード式トレーニングへの参加を推奨しています。
カスケード式トレーニングを終えたレベルのメンバーは、ハンズオン(もくもく会)に参加したり、資格取得を行うことに並行して、ガイドラインの作成プロセスにも参加を推奨しています。
■クラウドCoEとガイドライン
クラウドCoEでガイドラインを整備します。以前のブログでも書きましたが、筆者が考えるCoEとは、組織内で最先端の技術を用いて実プロジェクトで成果を出し、そのプロセスやアセットを組織内で共有するチームです。CoEは技術力のないチームをサポートする役割ではありません。CoEのこの考えは、クラウド以外の領域にも適用できます。もともとは初めて新しい技術を組織に導入する際にどのように行えばいいのか?という命題から出発しています。
以下、私がCoEを組成するコンサルティングをお客様先で実施した際の事例となります。
図:メンバーを入れ替えて組織の技術力を引き上げるクラウドCoE
図:クラウドCoEのロール
図:クラウドCoEを活用した開発者のクラウドケイパビリティの向上
■ガイドラインは社内でも他部署に共有しないことを推奨
多くの組織にとって、ガイドラインはクラウドの知見のない多くのチームを助けるためのものとして扱われており、一部の人が作成して広く社内に展開されているかと思います。しかし私はあえて無条件に共有・展開を行わないことを推奨します。クラウドベンダーが提供する技術ドキュメントの原典にあたり、読みつくしてガイドラインを作成・更新する過程で技術力が高まります。ガイドラインを扱う部署にとって、この機会は必須です。もし広く共有するなら、ガイドラインの更新を義務付けるべきですし、利用者には一定の資格を求めてもいいでしょう。
■参考資料
クラウドCoEとクラウドEA