アクセンチュアでは、障がいのある方の雇用を拡大し、多様な個性を発揮できる働きやすい職場づくりに積極的に取り組んでいます。障がいのある社員が個人の成長と働く仲間や社会への貢献が感じられる環境を目指しています。
現在は全国各地のオフィスやセンターで障がいのある社員が、アクセンチュアのビジネス全体を支える幅広い業務を担っており、2017年より首都圏各所に立ち上げたアクセンチュアサテライトではデータ入力、各種分析、リサーチ業務など管理系業務を担っています。アクセンチュアサテライトの中で、精神障がい・発達障がいのある社員が勤務するサテライトオフィスでは、アクセンチュアの社会貢献活動の一つである「障がい者就労支援」のプロジェクトメンバーもオペレーションの構築などに携わっています。今回はその推進リーダーと、このプロジェクトでご協働いただいた専門行動療法士および臨床心理士である奥田健次先生に、アクセンチュアの障がい者就労支援と、奥田先生が進めるインクルーシブ小学校の設立について話を聞きました。

*対談はオンラインで実施しました。

奥田 健次先生
専門行動療法士 臨床心理士
一般社団法人日本行動分析学会 理事
日本子ども健康科学会 理事
学校法人西軽井沢学園創立者・理事長。発達につまずきのある子とその家族への指導のために、全国各地からの支援要請に応えている。日本で初めて行動分析学に基づくコーチングアカデミーを創立。

中村 健太郎
ビジネス コンサルティング本部
ストラテジーグループ
インダストリーコンサルティング日本統括
マネジング・ディレクター

 

応用行動分析学を用いて、社会へ参加する「環境」を生み出す

―アクセンチュアが精神・発達障がい者の就労支援に取り組むようになった背景と、奥田先生との出会いについて教えてください。

中村 きっかけとなったのは、2011年の東日本大震災の時です。日本全体が大混乱に陥り、被災地への物資の搬入が滞る状況の中、コンサルタントが介入することでサプライチェーンが整理され多くの人が助けられると思いつつも、支援できない経験がありました。この経験から、経済価値に結びつきにくい社会意義の高い活動・社会課題は他にもたくさんあるだろうと感じ、それらをコンサルタントがどうしたら解くことができるかに興味が出て、いろいろ取り組んできました。その一つが障がい者の就労支援です。
社会モデルで見ると、障がいは環境の不備によってもたらされます。バリアフリーであれば、例えば車いすを利用する方も働くことができますが、精神障がい、発達障がいのある方が働く環境はまだまだ整っていないのが日本の現状です。一方で、海外に目を向けると、発達障がいのある方が高いパフォーマンスを発揮している事例があります。
そこで、精神・発達障がいのある方が、より活躍でき働きやすい環境を整えるため、サテライトオフィスの立ち上げを進めてきました。
働く人たちが本来のパフォーマンスを発揮し、その取組みを発信することで、日本全体のムーブメントにしていきたいと考えました。
ただ、実際にやってみたら非常に大変なんですよね。いくつか改善はできましたが、パフォーマンスをどうしても大きく上げられなかった。暗中模索の中で、奥田先生のことを知ったんです。高い効果を挙げられていることはもちろん、データに基づく設計の手法がコンサルに近しいアプローチをされていました。「必ずアクセンチュアの取り組みにヒットする」と確信して、ご支援いただくことになりました。
 
奥田先生 「社会の在り方が障がいを作り出している」と言うのはまさにその通りで、ハンディキャップ(社会的不利)は、個人が持っているものではなく、結果として個人に生じた社会的・文化的な因子です。
WHO(世界保健機関)は、障がいの概念を「心身機能・身体構造」「活動」「参加」の3つの要素で定義しています。この「参加」のありようで重要な発想は、障がいのある方自身(個人因子)に不具合があるとするのではなく、社会側(環境因子)に不具合があるとする発想です。未成熟な社会であれば「障がいのある人がリハビリを受けて技能向上を実現すべきだ(それが難しければ社会参加が難しいだろう)」という個人因子由来の見方をしてしまうでしょう。一方で成熟した社会の成員であれば「障がいのある人を取り巻く環境側こそ『てこ入れ』をして環境調整を実現するのが当然だ(それが難しければ悪いのは社会環境そのものだ)」という、環境因子由来の考えに同意するはずです。アクセンチュアという大企業が、障がいのある方が「参加」できる仕組みづくりに取り組むことにはとても大きな意義があります。私個人には解決や促進のためのアイデアはたくさんありますが、ビジネスや仕組み化にはチャレンジがある。正直、私にとって苦手な部門で避けていた部分です。アクセンチュアの力で、私が生み出すアイデアを実装し、多くの人がより健康的に参加できる仕組みにしていただきたいと思い、協働をお引き受けすることにしました。

―実際に奥田先生からどのようなアドバイスをいただいたのですか。

中村 2019年に立ち上げたサテライトオフィスは精神・発達障がいのある社員専門のオフィスで、現在、2カ所設けられています。テクノロジーを活用して、精神・発達障がいのある社員がパフォーマンスを発揮できる環境づくりの試行錯誤を続けています。
奥田先生からは、大きく2つのアドバイスをいただきました。1つは、「当事者は必ず正しく、環境が悪い」ということ、もう1つは「行動に徹底的に注目する」ことです。
具体的には、「個人の作業を正しく測ること」「パフォーマンスに対してインセンティブ(ポイント)を付与すること」の2つの設計を盛り込みました。業務単位ごとに作業時間を測定するツールを用いて、個人ごとに作業時間や入力回数、ミス数などのデータを取得。そして、業務の難易度とボリュームで業務のレベルを決定し、取得した作業時間などのデータと照らし合わせることでパフォーマンスを評価します。パフォーマンスに応じた経験値をゲームのゲージのように表示し、一定のレベルまで貯めるとポイントが受け取れる仕組みです。さながらゲームのようなUIにしているのは、仕事に対して“やりたい”という内発的な動機を生むためです。
個人の作業を数値で可視化し、インセンティブ付与の仕組みをどう設計するかが、就労支援の一番の障壁でした。この部分に奥田先生の応用行動分析学の考え方がぴたりとはまりました。メンバーのインタビューでも明らかにモチベーションが上がり、社員数も拡大しています。

奥田先生 最初にこのプロジェクトの目的について説明を受けた時に、「自閉スペクトラム、発達障がいの『障がい特性』」というスライドがあったんですが、「その考えをまず捨てましょう」というところからスタートしました。
これまでさまざまな団体とタッグを組んできましたが、この考えを捨てることができない自治体、企業が実はほとんどなんです。統計で考える、平均を取るといった方法では必ず抜け落ちてしまう人が出てきます。「うまくいかない人はいるけど全体的にはOK」という結果になりかねません。「障がい特性に配慮して」というのは親切そうに聞こえて、実は個人個人を無視した方法になりがちなのです。たった1、2回のミーティング以降、「障がい特性」という言葉が使われなくなり、一人ひとりの行動とデータに焦点を当てるようになった。アクセンチュアのこのプロジェクトメンバーにとってそれが当たり前になったのが、私にとって驚きでした。アクセンチュアのような莫大な社員数をもつ大企業が、障がいのある社員の個々の特性やつまずきをモニタリングし、個々への「合理的配慮」を検討するような取り組みが早くも実現しつつあるんです。すべての社員のパフォーマンスをモニタリングするなんて、面倒くさそうで手間がかかりそうに思われますよね?そこはオートマチックに集計されるシステムを当初から開発してきました。たった1年目の取り組みで、これだけの変革と成果を生み出せたことに感激しています。

―今後、この仕組みをさらに広げていくためのハードルは。

中村 1つは、障がいのある方が取り組む作業をどう作っていくか。アクセンチュア内の多種多様な業務を、個々人ができる形に切り出し、マネジメントしていく環境が必要です。もう1つは、アクセンチュアのコンサルタントがいなくても回っていく仕組みを作ること。通常のビジネスであれば差別化ポイントになりますが、私たちのミッションはこれを全国へと広げていくこと。「アクセンチュアだからできる」のではなく、標準化、パッケージ化していく必要があります。

奥田先生 同じようなことは私も言われますね。「奥田先生だからできる」と。もちろん、私の場合は「誰もがさじを投げたような事例」、たとえば強度行動障害などの困難な事例についても解決してきたので、そういった側面は確かにあります。そこは楽器の演奏にも技術に差があるのと同じでしょう。「科学」と「技術」を混同している人が思ったよりも多いので、ちょっと困るのですが(苦笑)。ただ、行動分析学を科学という側面でみれば同じ方法を使えば誰でもできることは間違いありません。しかし、そこにはよりよいデザイン、つまり、関係者全員のQOL(クオリティ オブ ライフ)が高まるようなプランの提案−を描けるかというセンスや、それを実現する技術が必要です。残念ながらこの領域では技術の差が大きすぎるので課題だと思っています。技術の差すら認識できない専門家も少なくない(苦笑)。こうしたデザインの設計や技術を、私は隠すことなくどなたにでも公開しているので、世の中で提供されるサービスの質が少しでも高くなり、多くの人に広げていくことができればな、と思います。ここは、きっとアクセンチュアの得意部門ですよね。今回の協働で、行動の計測とその因果分析をスコア化できるようになったこと、さらには「モチベーション」が高まる仕掛けの設計と運用は、ある種の「発明」と言って良いと思います。現在は「ライト版」を目指すようなことも検討しています。アプリケーションでも細かな所まで手が届く「プロ版」と、標準的な機能がおおむね備わった「ライト版」がありますよね。普及モデルの開発も必要だということです。「アクセンチュアモデル」を、ぜひ皆さんの力で社会に広めていってください。

インクルーシブ小学校は、人と社会の未来を照らす道標

―新たに奥田先生とアクセンチュアが協働で取り組んでいく「インクルーシブ小学校」の設立計画について教えてください。

奥田先生 インクルーシブ小学校は、障がいのある子どももない子どももともに学び、多様性のある教育環境を提供することで、共生・共創を当たり前なものとする人材育成を目指す小学校です。2023年4月の開校を目標としています。
世の中の学校法人の多くが、「個性を豊かに」と言う看板を掲げながらも、受験という知的水準を唯一の物差しとする手法で選別している。そのアンチテーゼでもあります。画一的ではない、一人ひとりの物差しで個性を伸ばし、自分の強みを発揮していく。それは本人のみならず、家族や周りの人にとっても、希望になるのではないでしょうか。

中村 アクセンチュアのサテライトオフィスの仕組みを取り入れたインクルーシブ小学校で、より早期から自分の個性を伸ばすことで、将来の仕事の選択肢が広げられると考えています。

―アクセンチュアとして、インクルーシブ小学校にどのような価値を発揮できるのでしょうか。

中村 まず、ステークホルダー・マネジメントです。場所や教材、児童の確保、運営体制の検討、資金調達の方法など、全体の事業企画やプロジェクトマネジメントはアクセンチュアの得意分野です。また、画期的な小学校を訴求するブランディングコミュニケーションの手法についてもDroga5と共に進めており、テクノロジーとクリエイティブの面からも力を発揮できそうです。

奥田先生 教材の開発でもぜひ力をお借りしたいですね。現代の日本の教育行政は、子どもたちのうち8割が教えたことをできれば、「それでよし」「よい方法である」としているそうです。「2割の子どもはどうなるんですか?」と私は問いたい。いや、たとえ100人中95人の子どもができたとしても、残りの5人の子どものことが私は気になって仕方がない。「およそ皆ができているじゃん」という発想にも一緒にメスを入れていきたいですね。
 ぜひこの対談をご覧になった皆さんにも、一緒に学校づくり、共生社会づくりに関わってくれる仲間になっていただけたら嬉しいです。

中村 そうですね。大げさかもしれませんが、民主主義、資本主義が大きな曲がり角を迎えている今、その先に何が来るのかはまだ定まっていません。インクルーシブ小学校は、その1つの道標になる取組みだと思っています。未だかつて誰もやっておらず、かつ関係する多くの方に意義を感じていただける稀有な仕事だと思います。多くの会社、多くの方々と一緒に取り組んでいきたいです。

▼アクセンチュアのコーポレート・シチズンシップの取り組みはこちらから。

千代崎 透我

ビジネス コンサルティング本部 人材・組織プラクティス マネジャー

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