貧困のない、誰もが活き活きと生きられる社会を実現したい。その想いを形にするべく、グラミン銀行の日本版組織である一般社団法人グラミン日本(以下、グラミン日本)が2018年9月に発足しました。グラミン銀行はバングラデシュで設立され貧困層の自立を支援した功績により、2006年にノーベル平和賞を受賞しています。

アクセンチュアでは、企業市民活動*の一環として、グラミン日本を2018年の立ち上げ期から継続的に支援しています。この対談では、グラミン日本理事長の百野公裕氏とグラミン日本支援プロジェクト統括をしているメンバーが、今年3年目を迎えるグラミン日本のこれまでの活動や今後の展望について話しました。

*アクセンチュアは、事業活動を通じて培った「人材のスキル発揮を高めるノウハウ」を活かし、企業市民活動(以下、コーポレート・シチズンシップ(CC)活動)において全世界で2010年からSkills to Succeed(スキルによる発展)というテーマに取り組んでいます。「2020年までに350万を超える人々に対して、就職や起業に必要なスキル習得のための支援を提供する」という目標を前倒しで達成しました。

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オンライン対談の様子 左:アクセンチュア 大寺 右:グラミン日本 百野理事長

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社会問題を目の当たりにして、グラミン日本との出会い


―グラミン日本に参画したきっかけを教えてください。
百野 グラミン日本と出会ったのは、2017年に知人から紹介されたグラミン日本の立上げイベントに参加したことです。その当時私は両親の13年間の介護経験を通じて、介護貧困に陥る人たちを目の当たりにし、介護に関する問題意識を感じていたところだったので、グラミン日本の思いに、目の覚める思いを感じたことを覚えています。当時は外資系コンサルティングファームで働きながら、プロボノ(分野の専門家が自分のスキルを無償で提供して社会貢献活動を行う事)として参加していましたが、グラミンを知れば知るほど、私の人生を賭けた仕事であるべきだと考え、退路を断ち、グラミン日本に本業として正式に参画することにしました。
大寺 私がアクセンチュアのCC活動を通じてグラミン日本支援のプロジェクトに参画したのは2019年1月からです。本業では公共サービス・医療健康本部に所属していて、これまで社会保障分野のプロジェクトに携わる機会が多くありました。その中で、困難な状況にある人を支援するための社会保障への要求が高まる一方、従来の縦割り行政では支援を受けることが出来ない人がいることや、行政の側もマンパワーの不足などで忸怩たる思いをしている職員の方がたくさんいらっしゃる状況を目にし、支援を必要とする人に適切な支援を届けるためには行政だけではなく企業、NPO、地域が参加・連携して解決していく必要があることを感じていました。そんな時に、グラミン日本を支援するプロジェクトに参画しないかと仲間から声をかけてもらったことがきっかけで、参画することになりました。

 

現状を変える機会が乏しい、貧困への抵抗感が存在する「日本の貧困」とは


―グラミン日本が取り組む日本の貧困問題について教えてください。
百野 日本は先進国である一方で、相対的貧困率は15.7%*と高く、生活保護の捕捉率が低いという課題があります。苦しい状況が分かりやすく、当事者が大きな声を上げている社会課題に対しては、メディアが取り上げ、社会が動くことで政策が打ち出されますが、グラミン日本が取り組む日本の貧困は「相対的貧困」という曖昧な言葉に表れているように、様々な事情で”貧困”に陥っている人たちがいて、貧困と一括りにして解決することは難しい問題です。特に、障がいのある方やひとり親で生活に困窮している人たちの自立に向けた支援が手薄で、「頑張りたいけど何から始めればよいか分からない」「一度苦しい状況になったら抜け出せない」という状況があります。また、貧困状態にあっても、「自分を貧困だと思っていない、思いたくない」という心理的な障壁によって、適切な支援を受けることが出来なかった人たちを見てきました。
*参考:厚生労働省HP 2019国民生活基礎調査の概況


大寺 本業で社会保障分野のプロジェクトに携わっていた際に、生活保護の業務を担当している現場の方が「相談に来た時には、既に抜け出すのが相当厳しい状態に陥ってしまっている」「どこに困っている人がいるのか見つけることが難しい」と言っていたことを覚えています。日本の貧困層は「傍から見ただけでは分からない」という特徴があり、支援者からのリーチが難しい状況があります。

 

グラミン日本の設立から2年、グラミン日本の支援が受益者に届き始めた


―グラミン日本での活動の中で印象的だったことを教えてください。
百野 グラミン日本の設立当初は、無担保で融資する代わりに5人組の互助グループを作るグラミン銀行のモデルをまずは受け入れてもらうことを優先させてしまい、本当に支援が必要な人にグラミン銀行の支援を届けることが上手くいかない状況が続いていました。シングルマザーを支援するNPO等と連携する中で、グラミン日本の支援を必要とする受益者の方と出会い、昨年は7名の方がグラミン日本の支援を受けて起業や自立への一歩を踏み出し始めました。グラミン日本の受益者の方から言われた「グラミン日本と出会えてよかった、ありがとう」という言葉は心に残っています。昨年、受益者の声をまとめたストーリーブックが出来上がったときは、この2年間の成果への達成感を覚えました。受益者の方たちが、自分たちの経験を通じてより多くの人にグラミン日本の支援を知って欲しいと感じてくれて、ストーリーブックの作成やYouTube動画への出演に協力してくれたことも嬉しかったです。
大寺 私もストーリーブックを読んだときは、グラミン日本が受益者の人生に変化をもたらしたことや自立への一歩を踏み出す後押しができたことを実感し、感動したことを覚えています。設立当初は解散してしまう5人組がいて、「グラミン日本として何を大事にするべきなのか」「グラミン日本の存在価値は何か」とグラミン日本の支援の方向性について考える時期もありました。試行錯誤を経て、グラミン日本はお金を無担保で融資するだけではなく、金融教育や起業・就労に必要な知識・スキルを身につけるワークショップを提供し、受益者がスキルアップして自立するモデルが出来上がってきたと思います。

 

社会課題の解決が企業のビジネスの中核に(Responsible Business)


―グラミン日本と企業の連携について教えてください。
百野 グラミン銀行を日本に展開する際に、グラミン銀行創設者のムハマド・ユヌスさんから「日本では大企業のリソースを社会課題に振り向けてもらえるよう、働きかけて欲しい」と言われたことから、グラミン日本は企業がグラミン日本の活動に参加することを積極的に促しています。格差が広がり次から次へと問題が起きていく中で、行政やNPOだけでは解決できない問題に対して、企業を巻き込んで支援の輪を広げていくことが多様化・複雑化した問題解決のために必要だと感じています。グラミン日本にとって支援企業は日々の事業運営において欠かせない存在です。受益者がスキルアップして自立するモデルづくりやグラミン日本の支援を知ってもらう仕組み作りに各企業の専門性が活かされています。昨年アクセンチュアが開発したグラミン診断LINEチャットボットもアクセンチュアの豊富なAI導入の実績を基にすることでクイックに展開することができました。また、アクセンチュアが積極的に行っているプロボノ支援は企業側にも非常に重要だと感じています。どのような企業も結局はそこで働く“人”が動かしていて、プロボノで社会課題の解決に取り組むことを通じて「現状を変えていきたい、社会全体で問題を解決していきたい」という想いを持つ人がビジネスセクターに増え、企業を変えていく原動力となり、社会を動かすことに繋がると感じています。ですので、個々の“人”にどんなに小さなことでも構わないのでアクションしてもらいたいと考えています。例えば、この対談記事を読んで興味を持っていただいたら、日本の貧困問題について詳しく調べてみたり、グラミン日本のFacebookページをフォローしてもらったり、どんなに小さなアクションでもこれらがその先の変化をもたらすきっかけになるはずです。

大寺 社会課題の解決に対する企業の考え方は、従来、CSR(企業の社会的責任)やESG(環境、社会、ガバナンス)という考え方ではどちらかという利益の獲得を前提とするビジネスとは区別されていましたが、昨今、こうした考え方から、社会課題の解決をビジネスの中核として捉え社会貢献と自社の利益の両立を目指していく“Responsible Business”という考え方に発展してきているのが世界的な潮流です。2019年8月にアクセンチュアを含む米国の主要企業で構成される「ビジネス・ラウンドテーブル」が株主資本主義との決別とステークホルダー資本主義への転換を宣言したことはニュースでも取り上げられましたが、アクセンチュアとしてもこうした考え方を実践し、リードしていきたいと考えています。こうした文脈からも、グラミン日本をはじめとする受益者に直接支援を届ける団体とアクセンチュア社員のコラボレーションがCC活動を通じて生まれることは、アクセンチュアのビジネスにおいてもますますその価値が高まってきていると感じています。また、我々と同じようにグラミン日本の活動に様々な企業が参画しプロジェクトを動かしていることからも、日本の社会においても企業が社会課題の解決に取り組むことの位置づけが進化していることを実感しています。

 

COVID-19、格差の拡大…日本の貧困問題の解決を目指すグラミン日本のこれから


―アクセンチュアとグラミン日本の今後の取り組みについて教えてください。
大寺 昨年から始まったCOVID-19の影響は、オンライン化を加速させ、グラミン日本のワークショップに遠隔から参加することが出来たり、貧困問題等社会課題への世の中の関心が高まったことにより、ボランティアやクラウドファンディングでの寄付を通じてグラミン日本を支援してくれる方が増えたり、グラミンにとって2020年は転換点だったと思います。アクセンチュアの活動としては、これまで取り組んできたグラミン日本の受益者に対するスキル獲得支援や、積極的に出向き対象者に支援を届ける「アウトリーチ拡大」に向けたコンテンツを継続してより良いものにしていきたいのと、こうしたノウハウをグラミン日本モデルとして他団体・企業に展開していく構想を進めていきたいと思っています。グラミン日本のスローガンであるFast Alone, Far Together!(早く行きたいならひとりで行け、遠くへ行きたいならみんなで行こう)という言葉の通り、グラミン日本が沢山の人々を巻き込み、支援の輪を広げていけるようアクセンチュアとしても取り組んでいきます。

―グラミン日本の今後の展望について教えてください
百野 昨年は、経済的自立に向けた起業・金融教育のオンライントレーニングを作成し、受益者の方の経済的自立を支援する仕組みが整いました。また、グラミン日本の支援を受けてステップアップへの歩みを始めた受益者の声を集めた「ストーリーブック」と「挑戦者の声(YouTube動画)」が完成したことや、クラウドファンディングを通じて受益者と支援者両方にグラミン日本の認知を高める土台を築くことが出来ました。創設3年目を迎える今年は、これまで培った日本でのマイクロファイナンスや互助グループ形成の知見をベースに、支援企業とのネットワークも活用し就労・起業に向けたモチベーション・スキル形成から金融教育、就労先の開拓・就労定着まで一気通貫の支援策を展開していく予定です。その為には、まずはグラミン日本の組織体制の強化が必要です。学生や社会人など様々な方にグラミン日本の活動に参加してもらえるようにボランティアの受け入れを拡大し、グラミン日本の支援を一人でも多くの方に届けていきたいと思います。

対談者プロフィール

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大寺 伸

アクセンチュア株式会社
公共サービス・医療健康本部
マネジング・ディレクター
アクセンチュア入社後、中央省庁、自治体、公益団体などの業務変革やIT刷新、大規模トランスフォーメーションプロジェクトに多く従事。2019年よりアクセンチュアの企業市民活動の一環でグラミン日本のプロジェクトに携わる。

百野 公裕

一般社団法人グラミン日本
理事長

米国公認会計士。外資系コンサルティングファーム PwC、 プロティビティ(旧アーサーアンダーセン)マネジング・ディレクターを経て、2018年9月にグラミン日本理事/COO、2019年10月に理事長/CEOに就任。

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グラミン診断LINEチャットボット


グラミン診断LINEチャットボットは、チャットボットでのやり取りを通じて、その人のチームでの活躍タイプを診断し、グラミン日本の特徴である5人組の仕組みや起業に少しでも興味を持ってもらい、起業ワークショップ参加を促すためのサービスです。
ぜひ、今回の取り組みをまだ知らない方、グラミン日本の支援を必要とする方に届くように『グラミン診断』の拡散をお願いします。

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『グラミン診断』スクリーンショット

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アクセンチュアが提供するチャットボット


LINEチャットボット『グラミン診断』はLINE、Watson、Amazon Web Serviceを組み合わせた基盤で、アクセンチュアが提供するAI-HUBプラットフォームを用いて、開発・構築されました。
AI-HUBプラットフォームは、グローバルでの豊富なAI導入実績を基に、日本独自の要件を加えて構築したAI活用プラットフォームです。
複数のAIや、LINEを始めとした複数のユーザインタフェースへ連携するアダプタ機能、学習データ管理機能などを持ち、企業へのAI導入を早期に実現します。コンタクトセンターや対面窓口を始めとした顧客接点や、企業内での利用など複数の用途・あらゆる業界で既に多数の導入実績があります。

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AI HUBプラットフォーム(動画)

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岩橋 美希

テクノロジーコンサルティング本部 クラウドアプリケーションコンサルタント

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