医療・福祉施設向け物資支援マッチングプラットフォーム「Heart Stock(ハートストック)」。コンサルティング会社としてのアクセンチュアの強みを活かし、コロナ禍の医療機関を支援することを目的に立ち上がったプロジェクトを通し実現されたもので、アクセンチュアのコーポレート・シチズンシップ(社会貢献活動)の一環として、日本発祥の国際医療NGOであるジャパンハートと共同で開発、運用を行っています

2020年12月に運用開始したコロナ禍で顕在化した状況を支援する医療・福祉機関向けの通常版に加え、2021年12月からは、災害時に不足しやすい要支援者への物資支援に対応する、災害時対応版もスタート。2022年夏には、台風被害を受けた静岡の高齢者福祉施設に物資を届ける活動を行いました。医療従事者や福祉施設担当者に価値あるサービスとして浸透させていくために、アクセンチュアのこの支援プロジェクトでは、引き続き「Heart Stock」の改良に取り組んでいます。

必要な場所に必要なものを届けるプラットフォームとして、「Heart Stock」は今後の展望も含め、どうあるべきか。今回は、東日本大震災で被災地医療を経験し、小児科の医師として、災害時には特にきめ細かい対応が必要になる乳幼児を網羅する小児科医療に深い知見を持つ、岩手医科大学附属病院の塩畑健先生をお招きし、プロジェクトメンバーと座談会を開催。塩畑先生に「Heart Stock」を使っていただき、サービスに期待することを語ってもらいました。

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塩畑 健

塩畑 健
小児科専門医/岩手医科大学附属病院小児科勤務
2009年、日本大学医学部卒。2011年3月、岩手県立大船渡病院で初期研修中に東日本大震災に遭い、急性期医療に従事。現在は岩手医科大学附属病院小児科に勤務。

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藤田 絵理子
インダストリーX本部 プリンシパル・ディレクター
デジタルトランスフォーメーションを専門に幅広い企業のコンサルティング案件を手がける。「Heart Stock」プロジェクトのリーダーとして立ち上げ時から参画。

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川越 厚人
インダストリーX本部 シニア・アナリスト
東北出身。自身の震災経験から防災に興味を持ち、「Heart Stock」プロジェクトに参画。プロジェクト管理や業務設計、アプリケーション開発、PRなどを担当。

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小川 貴久
ビジネス コンサルティング本部 ストラテジーグループ マネジャー/医師
長野県で総合診療を経験後、整形外科専門医として活躍。ハーバード公衆衛生大学院卒業後、リアルワールドデータベースを用いた研究に従事。塩畑先生とは学生の頃からともに生命哲学を学んでいる。

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物資と情報が届かない。災害時の医療現場で起きていたこと

藤田 塩畑先生は東日本大震災時東北地方にいらっしゃいました。当時の医療現場はどのような状況だったのでしょうか?

塩畑先生 当時、岩手県沿岸部にある大船渡病院に勤めていました。病院自体は、高台にあって被害が少なかったのですが、周辺には壊滅的な被害を受けた場所があり、医療従事者の中にも家が流された人、家族の行方がわからない人がいました。隣接する陸前高田市の病院にいた医師からは、3階の屋上に入院患者と共に避難し、医療従事者が病院内のドアを燃やし、暖をとりながら自衛隊の救助を一晩待った、という話も聞きました。

私自身は発災から2週間ほど急性期医療に従事しました。津波被害が大きく、重症の方が多数運ばれてきたため、発災当日の時点で院内にある人工呼吸器を使いきってしまったことを覚えています。その後は限られた医療資源でできることを行いました。軽症や避難している方の中には、「普段飲んでいる薬が流されてしまい、薬の名前がわからない」という方も多かったです。

当時、日本のみならず、世界中の医療チームが岩手県に駆けつけてくれ、すぐに多くの支援物資が届きました。しかし、空港には人手や物資が次々と集まったそうですが、そこから車で2時間ほどかかる我々の病院に届いたのは、さらに数日経ってから。道路が整備されるまでは孤立した状態でした。

また、発災直後は避難所が混乱していて、「どこに避難所ができたのか」「どの避難所にどのような物資がどのくらい必要か」を把握できない状況でした。そのため、避難所によっては食べ物が余っているところ、少ないところが出てしまうなど、物資と情報のタイムラグが大きかったです。


現場の医師から見た「Heart Stock」の価値、課題とは

藤田 貴重なお話をありがとうございます。アクセンチュアでは、コーポレート・シチズンシップ(社会貢献活動)の一環として、医療・福祉施設と物資を届けたい人をマッチングするプラットフォーム「Heart Stock」プロジェクトを進めています。通常版と災害時対応版があり、現場の医師の視点からご意見をいただければと思います。

川越 「Heart Stock」通常版では、寄付をしたい企業がスマホのアプリ上で物資を出品します。このときに商品名、写真のほか、個数、サイズ、製造販売証など、なるべく詳細の情報を入力してもらいます。医療・福祉機関は、必要とする物資を見つけ、リクエストボタンを押すことで物資支援を要請します。このリクエストがアプリ上で寄付企業の担当者へ通知され、要請を受け入れる場合は承認ボタンを押すことでマッチングが成立し、登録している住所に物資が届く流れです。

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Heart Stock request

利用者は、出品も、必要な物資のリクエストも、スマホアプリ上で。

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塩畑先生 今までなかったとても良いサービスだと思います。写真があると内容がわかりやすいですし、アプリで簡単に操作できる点も助かります。

このサービスを利用する場合、主に事務スタッフが登録やリクエストをすると思いますが、医師や看護師でないと、必要かどうかの判断が難しいケースもあります。その点、写真付きで詳細の情報が載っていることで、事務スタッフが医師に情報共有や確認を取りやすいのではないでしょうか。

藤田 物資を出品し、登録する側で、なるべく詳しい情報を載せたほうが良さそうですね。寄付を受けた医療・福祉機関の方からは、「サイズや個数が選べるのがいい」という声もいただいています。

川越 次に、災害時対応版について紹介します。災害時は、サプライチェーンが混乱し、特に高齢者や乳幼児などの要配慮者へのケアが課題になります。災害時対応版では、乳幼児用、高齢者用の支援物資をパッケージにまとめ、ジャパンハートの倉庫に備蓄し、発災直後の急性期に支援を求める医療・福祉施設に対し、迅速に届ける仕組みを構築しています。

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ハートストック 災害版

災害時対応版ハートストックの仕組み

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塩畑先生 すばらしい仕組みですよね。災害時は、特にレアな疾患を持っている人や寝たきりの人にケアが行き届かず、災害弱者になってしまうことがあります。小児科の例で言えば、病気を抱えていて特殊なミルクしか飲めない子どもたちもいます。サービスを運用する際に、弱い立場の人のことまで意識してもらえると、より良いサービスになると思います。

藤田 支援物資の中身については、どんな印象をもたれますか?

塩畑先生 発災後すぐは、食べ物の確保が難しいと思うので、非常食や飲料水がパッケージに入っているのはいいと思います。ガスや水が使えない可能性もあるので、ミルクを飲んでいる子に向けては、粉末よりは液体ミルクのほうがいいかもしれません。あとは、乳幼児、高齢者問わず、オムツをしている人は在庫がなくなると大変なので、避難所や福祉施設などに届ける仕組みがあるといいですよね。

また、発災直後は携帯電話の充電ができず、情報を得られないことがあるので、太陽光発電できる充電器や、手回し充電ラジオがあると役立ちそうです。災害時は、ラジオで避難所状況などのローカルな情報が流れることがあります。ライフラインが復旧するまでの間、生き延びるために必要なものが、支援物資として届くと心強いと思います。

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プロジェクトメンバーと塩畑先生で、ハートサイン・ポーズ。必要な物資と共に想いも届くように。

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藤田 参考になるご意見どうもありがとうございます。支援物資は倉庫で保管されているため、液体ミルクについては、保存期間の観点から現状では難しい部分がありますが、今後保管方法含め、検討していきたいと思います。

災害時は、医療従事者の方も体力面、メンタル面で厳しい状況だと思います。コロナ禍で、医療従事者に支援物資を送った際に、「化粧品や、日用品などを受け取ることができて、メンタルケアに繋がった」というような声をいただいたのですが、医療従事者向けの支援についてはどう思いますか?

塩畑先生 いただけるのであれば、どんなものでも嬉しいと思います。例えば、コロナ禍の初期の頃は、マスクが足りずに2〜3日使い回さなくてはいけないこともよくありました。そういうときにマスクが届いたら、医療スタッフらは非常に喜んだと思います。

藤田 アドバイスをありがとうございます。「Heart Stock」で提供している物資は、すべて企業からの寄付品で、物資の配布には、地元のボランティアの方が携わってくれています。多くの方の善意で成り立っているというのが、「Heat Stock」の特長であり、良さであると感じています。


必要な場所に必要なものを、スピーディーに届けるために

藤田 「Heart Stock」に今後期待することは何ですか?

塩畑先生 ニーズがあるところに物資が届く、というのがこのサービスのいいところですよね。東日本大震災の初期の頃、私のいた病院は地域の中でも大きな病院でしたので、当初は物資が不足しがちでしたが、しばらくすると、今度は物によっては過剰になってしまいました。一方で、避難所等にいる方々には必要な物資が届かないというケースもあると聞きました。混乱している災害時だからこそ、供給のムラがなく、必要とする人のもとに、物資が迅速に届くことが重要です。そのための仕組みを、ぜひ今後も運営していただけたらと思います。

適切に物資が届くためには、適切に寄付のリクエストをすることも必要です。災害時に、一番忙しくなるのは事務スタッフなので、バタバタしている中でも、アプリ操作がしやすく、スピーディーに入力や確認ができる仕組みになっていると、便利だと思います。

藤田 今後、「Heart Stock」をより多くの医療・福祉関係の方に利用していただくためには、どんな工夫が必要でしょうか?

塩畑先生 医療機関は、「EMIS(イーミス)」という広域災害救急医療情報システムで連携し、災害時に病院の被災状況などを共有する仕組みがあります。緊急時には、多くの病院が「EMIS」を活用するので、そこにもし「Heart Stock」が連動していると、病院側としては非常に助かると思います。

また、医療機関の場合、災害時は災害対策本部が立ち上がり、トップダウンで指揮をとることが多いです。そのため、主に操作する事務スタッフのリーダーだけでなく、災害時にリーダーとなるスタッフも「Heart Stock」を知っているといいですよね。

医療従事者に認知を広めるという点では、各都道府県に災害時の医療コーディネーターがいるので、そうした方に、まずは相談すると、県内の病院に一気に情報が広まっていく可能性があります。

藤田 現在「Heart Stock」の拠点を富山と佐賀に置いています。

塩畑先生 岩手、宮城、福島は、災害医療に対する意識が高いので、必要性を強く感じる人が多いと思います。あとは、南海トラフが予想されるエリアの自治体も災害医療に対する危機感が高いです。

災害が起こった地域は、発災後一時的に何もできない状況になるので、被害が予想されている地域から少し離れていて、いざというときに迅速に駆けつけられる場所に拠点があるといいと思います。

藤田 ありがとうございます。アクセンチュアとしても、自治体や企業とも連携し、「Heart Stock」がさらにうまく機能する仕組みづくりを続けるとともに、より多くの医療・福祉施設の関係者に、サービスを知っていただけるよう、今後も取り組んでいきたいと思います。

 

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