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January 17, 2019
クラウド人材育成 OJT編 クラウドエンジニア・技術コンサルタントの育成の基本はメーカーの工場にある (前編)
By: 青柳 雅之

クラウド推進事業本部 シニア・マネジャーの青柳雅之と申します。私はAWSやAzure、GCPといった主要なパブリッククラウドを使用したIT Modernization、ビッグデータ分析基盤等の構築やクラウド人材育成を担当しています。

以前の記事、「組織のAWSケイパビリティをカスケード式に拡大する」「クラウド人材育成 組織に拡大したAWSのケイパビリティを短期のリスキリングでAzureのケイパビリティに転換する(1)」では、AWSの技術コンサルタントを育成する方法を紹介しました。今回の記事では、この育成方法の考えのベースとなった、メーカーの工場の働き方を紹介します。

なお、このカスケード式のトレーニングでは、パブリッククラウドの主要サービスに関する説明や受け答えが口頭でできる、他の人に技術を教えられる、技術課題に対してどこを調べればいいかの勘所が得られるといった効果があります。また、未経験からでも3か月のトレーニングが終わると、業務にもスムーズに入れ、おおむね、「AWS SAアソシエート」「Azure 70-533」や「GCP Cloud Architect」などの試験はクリアできる実力+アルファは身についています。

最近、脳科学的なアプローチを学習に適用するという内容の本を読んで、自分が行ってきた育成はこれに適合するのではないかと思いました。このアプローチでは、学習者に大きなストレスはなく、手順を踏めば、新しい知識を得られるようになっています。



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図:カスケード式トレーニングにおける脳科学的アプローチ



「会社とはビジネス価値を出す場」 育成、生産性向上を阻むアンチパターンとは
会社はビジネスの価値を顧客に提供する場です。顧客へ高いアウトプットを提供し続けるためには、社員の育成・成長が必要不可欠です。効率よく社員を育成しつつ、高い生産性でアウトプットを出すための仕組みの1つがカスケード式トレーニングです。もちろん、ハードワークや何も教えずに自ら試行錯誤をさせることで、いずれ高品質なアウトプットを産めるようになるという見方もありますが、社員が成長するまでに多くの時間が費やされます。

まず、この考えが大きくずれていると、育成に対するアプローチが随分と違ってしまいます。では、育成や生産性向上を阻む3つのアンチパターンを見ていきます。


  • ハードワークな伝統を持つ

SV(Supervisor)はほとんどインプットを与えずに、まずはメンバーにアウトプットを書かせ、長時間のレビュー会議を行います。メンバーのSVに対する忖度が外れた場合は、アウトプット作成をやり直すこととなり長時間労働になります。SVはこれを繰り返すことで暗黙的な文化をメンバーに体で覚えさせます。自分たちがそのように育てられたので、メンバーは自分たちの後輩を同様の方法で育成してしまい、いわゆる悪しきハードワークな伝統ができあがります。


  • 自走心を強く要求する

自走できると思われる人や高い技術センスを持つと思われる人のみを採用し、それでも当てが外れて入社後にパフォーマンスが低いと、仕事から外していくケースがあるかと思います。すこし背中を押してあげればパフォーマンスが上がるのにあえて手助けをしないで自分で動けるかどうかを見ます。仕事のやり方は教えません。少数精鋭で成り立つ企業や、大きくて資金の余裕と人気のある企業なら志願者が多いのでこのような社員使い捨ての方法も可能です。このような文化がその後の成長につながった的なことをいう人もいるかもしれないですが、辞める人が多いのであれば、実はこれも人的リソースの無駄遣いです。


  • 管理職になると技術から遠ざかる

年功序列で管理職は管理に専念する仕組みの組織です。このような管理職がリーダーになると、顧客との会話スピードも鈍り、それは技術のわかる社員に聞いてみます、というように持ち帰ります。当然、クラウド業界の最先端の動向を理解しておらず、顧客から「専門家や有識者を連れてこい」と言われてしまいます。もしこのようなリーダーの下に発展途上の技術メンバーがアサインされた場合、リーダーは彼らを育成できないので、彼らの成長も鈍化します(自走できる人なら自分で成長しますが)。また、ハイスキルなエンジニアほど上司には技術センスを求めるので、自分より技術センスのない人が自分の上司にいると、それはエンジニアの流出の原因になります。


今いる人たちをリスキリングで戦力化しましょう。彼らのロイヤリティもスキルもあがります。



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図:人的リソースの無駄遣いの悪循環



これに加え、「Microsoft Teamsを使ったテキストベースの非同期コミュニケーションによる生産性の向上」で述べたように、無駄な会議が多いような会社だと育成も管理も絶望的になります。


OJTによる育成の基本は、メーカーの工場にある
最初に勤務した会社は、日本のメーカー系の情報子会社の人たちが作った社員5人の小さい会社でした。この会社は、その情報子会社の仕事をしており、社内の設計、開発手続きはその子会社と同等でした。入社後、金融機関向けの勘定系システムの開発でC++を使ったオブジェクト指向設計を行うことになりました。最初に先輩社員が、我々が作成すべき設計書やプログラムのサンプルをパターン毎に1つ作ってくれました。そして、作業指示書という、我々がすべき作業をStep by Stepで書いた紙をくれました。我々は作業指示書を見ながら、サンプルとは少しずつ異なるアウトプットを作成していくのです。プログラムに不具合があれば先輩がレビューをしてくれました。C++もオブジェクト指向設計も未経験でしたが、サンプルと作業指示書で仕事がスムーズに行えました。このような経験を入社直後に経験し、半年後には同様の仕事であれば少ない指示で作業ができるようになっていました。

1年後に私は別の外資系企業に転職してしまいましたが、転職した先の外資系企業では、若手を育成するという考えは一切なく、多くの新卒が数年で辞めていったのを目にしました。モチベーションの高い入社直後の3か月から半年が勝負なわけですが、そこで上記のようなアンチパターンに遭遇してしまったり、スキルに応じた適切な仕事やトレーニングを与えられないと長期にパフォーマンスが低迷してしまう可能性があります。後年、自動車メーカーのプロジェクトに入っているときに、カウンターパートのF室長が私に言いました。「短期しか在籍しない期間工でも高級車を作れるのは適切な指導やマニュアルがあるからだ」 。 おそらくこのマニュアルというのは、作業指示書のことでしょう。すべてがそうではないと思いますが、私はこの言葉を聞き、最初の会社の指導に通じるものがある、これがメーカーの工場の思想か、と思いました。

たしかに入社したばかりの期間工の方に作業のやり方を教えずに車は作れません。経験が浅いクラウドの技術コンサルタントも同じで、たいしてやり方を教えないのによいアウトプットが出てくるわけがないのです。


最初に答えを教える 基本をマスターしたら自走する
繰り返しになりますが、会社はビジネスの価値を出す場であり、高い生産性を維持するためには、効率よく社員を育成・成長させる必要があります。誰もストレスのある環境で働きたくもないでしょう。また、そのストレスがないと自分が成長しないのでしょうか。普通の精神状態の時ほどモチベーションがあがり高い品質のアウトプットを出せ、プライベートにもよい影響を与えます。

なるべく短時間で仕事を覚えて品質の高いアウトプットを出してもらうには、最初に手順、つまり答えを教えてそれをなぞってもらうのが良いです。試行錯誤をする、自走をする、は基本を覚えてから実施してもらうのがよいでしょう。最初に試行錯誤をさせて伸び悩むと新入社員はモチベーションをなくします。答えを教えてもらえるという安心感のもと、基本的な領域については次々と技術をマスターしてもらいます。

難関大学に合格した人が使う方法として、「問題を見てわからなければ、すぐに回答を見る」がよく紹介されます。最初はこれを行うことで早期に理解度を深めます。基本的な問題についてはそこで頭脳を使うのをやめてなるべく効率よく物事をマスターする、本当に時間をかけて頭を使うのは応用問題のみ、というようにしないと時間不足になります。最初からじっくり考えさせたほうが本人のためになる、は本当でしょうか。受験に失敗しても思考力が育ったから良しとする、と言えるでしょうか。要領よく合格したほうがいいですよね。そして、結果だけ見ると合格したほうが知識も思考力もあるとみなされます。また、会社の仕事は生産性を問われますので、試行錯誤に時間を使うことは許されなくなってきています。



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図:最初に答えを教えたほうが成長が早い



カスケード式トレーニングのように、Comfortableな環境で技術用語も基本的な仕事のやり方を覚えたら、初めて自分の中で創意工夫の気持ちが出てきていろいろなことを試そうとするのです。応用問題への意欲も増します。つまり、自走します。使い古された内容ですが、これはマズローの欲求5段階説にも通じるものがあります。この5段階は下から順番に実現されます。特に未経験から何かを始める場合は、会社がこのような段階を用意することも重要でしょう。カスケード式トレーニングはこれを意識しています。


欲求5段階 説明 育成の内容
自己実現欲求 あるべき自分になりたい
という欲求
自分の立てた目標を実現できる。プロジェクト参加時に自分で創意工夫、提案ができる。新技術を活用したソリューションを提案できる。
承認欲求 他人から認められたい
という欲求
カスケード式トレーニングを修了した、資格を取得した、という段階で、プロジェクトで普通に働ける能力がある、とみなされる。
仕事ができる能力があるのでreusableなアセットを作成し、同僚に感謝される充実感。
社会的欲求 会社の同僚や知人などから
受け入れられたい欲求
未経験で会社に入って放置されずに、カスケード式トレーニングに呼んでもらえるという安心感。集団に所属する、仲間がいるという安心感。
安全欲求 病気や事故にあわないことに対する欲求 満たされていると仮定。
生理的欲求 食事や睡眠など、人間が生命を維持するための欲求 満たされていると仮定。

表:マズローの欲求5段階説と育成の関係


私がここで紹介した方法が完全にうまくいくかと言えばそうではないと思いますが、いつまでも社外にいるであろう、完成した人材を探し求めるよりも、既存社員を育成したほうが、新しいことを学べるという点で既存社員のモチベーションが向上するといったメリットもあります。

後編では、実際のOJTについて記載したいと思います。

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