November 29, 2019
デジタルは“共感の再発明”にどう貢献するか?
NPOの資金調達の仕組み「ファンドレイジング」とテクノロジー
By: 山口 将由

皆さんこんにちは。デジタルコンサルティング本部の山口です。普段は様々な業界のクライアントでデジタル変革プロジェクトを支援しています。

アクセンチュアが企業市民活動として行っている活動の一つにソーシャルベンチャーへの支援があります。ソーシャルベンチャーは、経済合理性からは目を向けられることの少ないテーマに対して事業性の両立もねらう点で非常にイノベーティブな存在であり、アクセンチュアとしても是非とも応援していきたいと考えています。

そんな中でも多方面から注目を集める新進気鋭のソーシャルベンチャーとして、難民の若者たちの活躍機会の創造を手がけるNPO法人WELgeeさんがいます。これまではWELgeeさんと一緒にアクセンチュア社内で難民に関するワークショップを行ったりしてきました。そのご縁があって、2019年9月14日、「ファンドレイジング・日本」というイベントにWELgee 代表理事の渡部カンコロンゴ清花さんと、アクセンチュアで同じくデジタルコンサルティング本部に所属する佐藤守さんと一緒に登壇しました。このブログではその様子をお伝えします。


「ファンドレイジング・日本」は日本ファンドレイジング協会が主催する世界4大ファンドレイジング大会の1つ。2019年9月14日から2日間にわたり、東京の駒澤大学を会場として開催されました。


NPO支援の一形態「ファンドレイジング」とは?

地球上の様々な場所で活動している民間非営利団体(NPO)が活動資金を調達する方法としては事業収入のほか、寄付や助成金の利用といった手段が一般的です。ファンドレイジング(Fundraising)はそれらの総称(あるいは狭義に寄付金のみを指す場合もあります)として、近年ひろく知られつつあるキーワードです。

「Skills to Succeed」のコンセプトのもと、様々な社会課題解決のための企業市民活動を展開しているアクセンチュアにとっても、ファンドレイジングは関心あるテーマの1つです。


難民とともに課題解決に挑む

まず登壇したWELgeeの渡部さんは、日本と世界を取り巻く難民の状況について説明し、これから真に必要とされるべきこととして「価値転換」を提案しました。

その価値転換とは、①難民とは助けてあげるべき存在なのか、②取り組みは「彼らのために行う」のか「彼らと一緒に行う」のか、③専門家だけが課題解決のステークホルダーなのか、を問うものです。

「現在、難民となっている方々も、大半は母国で何らかの専門家や、職業人としてスキルを持って仕事をしていた方々です。WELgeeでは、一般の人々が難民支援に携われることを広くアピールしつつ、難民のキャリアパス構築の支援を手がけています。だからこそ提唱するのは、難民に“ついて”話すのではなく、難民と“ともに”話そうという価値観です」(渡部さん)


難民とともに話そう――WELgee 代表理事の渡部さん


渡部さんがそのような課題を感じた背景として、日本では難民申請が認定される割合はわずか0.1%。あるスリランカからの難民は日本で12年待ち、ようやく認定されたそうです。こうした状況を解決すべく、これまで多くの専門家が働きかけてきましたが、状況は好転していません。

この先100年にどんな社会を作りたいのかを想像してほしい。渡部さんはそう聴衆へ訴えかけます。

「森の生態系のような社会を実現したい。それは、何が欠けてもいけないものです。新しい価値を生み出しつつ、壊れた箇所は修復しながら続いていくような未来でありたいと考えています」と渡部さんは語り、「アクセンチュアのような大手企業に勤める方々がビジョンを持っていることを嬉しく思います。一緒に新しい価値転換や化学変化を起こしていきたいです」とスピーチを締めくくりました。


テクノロジーで変わるファンドレイジングのあり方

続いて登壇したアクセンチュアの佐藤さんは、テクノロジーの進化がNPO領域にどのような影響を与えるかという観点で、海外での事例を交えながら話しました。


ファンドレイジングとテクノロジーの関係――アクセンチュア佐藤さん


「クラウドソーシングやクラウドファンディングなどのプラットフォームが登場し、寄付しやすい環境が実現しました。データを蓄積・分析する技術も格段に進歩したほか、アプリなどによって『寄付したい人』と『寄付を受けたい人や組織』のマッチングも容易になりました」(佐藤さん)

その一例がアメリカの赤十字が提供しているアプリで、献血したい人と献血会場をマッチングし、最適な時間や場所を提案するというものです。また、自分の献血がどのように役立ったか確認することもできます。

ロンドンのスタートアップ企業が開発したVRゲームでは、ゲーム内の空間を歩き回っていると「水が出ない井戸」や「教科書がない学校」が登場します。寄付をすると、画面の中では「水が出る」「教科書が届く」といったフィードバックがすぐに得られる仕組みを提供しています。寄付から実際の効果が出るまでのタイムラグを解消することで、寄付の効果に「実感を持ちやすくしよう」という施策です。

「このように共感を醸成しながら、決済までの動線を可視化している点でテクノロジーによる課題解決の可能性を感じます。ファンドレイジングのいろいろな場面でテクノロジーが活用できますが、ファンドレイザーやNPO団体からの一方通行のコミュニケーションでなく、消費者側からの気付きや共感がより直接的に還元され、課題支援できるケースが今後もっと生まれていくのではないでしょうか」(佐藤さん)


拡大していくソーシャルセクター

佐藤さんに続き、私は「ビジネスセクターから見た未来の支援者」というテーマでプレゼンテーションを行いました。


ビジネスセクターから見たファンドレイジングの意義――アクセンチュア山口


ビジネスでお客様と対話していると、イノベーション実現のための多様性がますます重要になっていると強く感じます。その観点で私はソーシャルセクターに注目してきました。ビジネスでは「お金の出し手」と「受益者」が明確に一致(=クライアント)していますが、ソーシャルセクターでは必ずしも一致せず経済的に比較的フリーハンドに近いので、「お金の出し手」以外の多様な価値観も受容できる、イノベーションが起こりやすい土壌があると言えます。

ソーシャルセクターはこれからも拡大・伸長していくと考えています。企業や個人のミッションとしてだけでなく、支援スタイルにも変革が必要な時期にきているのです。日本中で進んでいる働き方改革によって、ビジネスパーソンに多くの「可処分時間」が生まれていますが、企業はまだその有意義な使い途について社員に提案できていません。その中で、Time Giving、Money Giving、Skill Givingという3つの支援の形があることをお話ししました。

時間とスキルを提供するボランティア活動は、ビジネスのサンドボックス(トライアルの場)として機能しますし、参加する社員にとってはスキルアップの場にもなります。NPO等のソーシャル側は通常であれば高単価なスキルの無償提供を受けられるので、Win-Winの関係が成り立ちます。このように、プロボノには大きな経済的価値があります。WELgeeさんは、寄付金や助成金のようなカウントしやすい経済的価値だけでなく、そうしたプロボノの価値に早くから気づかれていた団体だと思います。

こうしたドナーピラミッドにSkill Givingを加えて経済的価値として捉えることで、未来の支援者の共感や協創を生む布石になることを説明しました。


【パネルディスカッション】
NPO運営の課題とファンドレイザーへの期待

講演の後半はパネルディスカッションとして、渡部さん、佐藤さん、私の3名で討論を行いました。「NPO・専門家集団と当事者との間の壁は何か?」をテーマとして、NPO運営の課題がシェアされました。


パネルディスカッション


渡部さんはまず、「ヒト・モノ・カネの観点は、一般的な企業運営もNPOも同じですが、NPOは資金調達の面でハードルがあります。NPOも多様な資金調達は可能ではありますが、特に初期にプログラム開発等のための投資を受けることができないのはデメリットではあります。一方でメリットとなるのは、NPOではビジョンに共感した方々が活動に携わってくれることがあり、ヒトを集めやすい点です」と述べます。「当初は支援を受けていた当事者も、生活が安定すると寄付者やメンターなど『提供する側』への転換が起きます。しかし、専門家と一般の人との間には壁が生じやすいと感じています」(渡部さん)

佐藤さんは「壁を取り除くには、一般の人々がどれだけ課題を自分ゴト化できるかが本質的に重要だと思います」と前置きし、「専門家集団がエネルギッシュに取り組むほど、周囲は『入りにくさ』を感じる場合があります。広く理解が進むには双方の間に壁を生じさせない工夫が重要でしょう」と話しました。

渡部さんは「取り組みの理解者が増えるほど、難民1人ひとりが持っている潜在的なスキルなど個人に着目する方向へシフトしていきます」と話し、難民というレッテルを貼られてしまったことでスキルを生かす機会を得られなくなってしまった方々を支援したいというパッションを持つ人が増えていると説明します。「つまり、当初の『かわいそう』といった同情から離れ、より『個と個の人間関係』や、人としてのスキルや能力の話へと進んでいくのです」(渡部さん)


ファシリテーションをさせていただきました


私が「100年後のファンドレイザーに期待することは?」とテーマを投げかけると、渡部さんは「センセーショナルなインパクトに頼り『かわいそう』の順位付けによる『競争状態』を加熱させていくのではなく、本質的な社会的インパクトを見極めていくことを期待しています」と語りました。

渡部さんは、とかく昨今は同情や哀れみを生むようなイメージが先行したブランディングになりがちなことに警鐘を鳴らしつつ、本質的な取り組みやエコシステム(生態系)の構築といった長期的な施策が重要であることを訴求しました。


Q&Aセッションも実施


また、現在はテクノロジーの活用によって「誰がどのような支援をしているのか」を可視化できるなどのメリットが得られる時代です。佐藤さんは「NPO団体のソーシャルインパクトが可視化されることで、ファンドレイザーに直接的かつ新しい寄付基準を提案できます。そうした点でも、テクノロジーが貢献できることは幅広いと考えています」と締めくくりました。

今回のイベントでは、朝一番の時間帯であったにもかかわらず、多くの方に会場にお越しいただき、難民問題やファンドレイジングとテクノロジーの関係に関心を持つ方が多いことを実感しました。この講演を通して、こういった内容に少しでも関心が高まり、共感や支援の輪が広がっていくと嬉しく思います。


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